Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/02/07
Update

映画『がんになる前に知っておくこと』感想と内容解説。がんを恐れず向き合う|だからドキュメンタリー映画は面白い6

  • Writer :
  • 松平光冬

あなたは、「がん」という病気について、どれだけ知っていますか?

『だからドキュメンタリー映画は面白い』第6回は、2019年2月2日から新宿K’s cinemaほかで全国順次公開中の、『がんになる前に知っておくこと』を紹介。

今や日本人の2人に1人がなると言われる「がん」をテーマに、がんの基礎知識や、がんとの向き合い方などについて掘り下げます。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『がんになる前に知っておくこと』の作品情報


(C)2018 uehara-shouten

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
三宅流

【キャスト】
鳴神綾香、若尾文彦、勝俣範之、山内英子、唐澤久美子、有賀悦子、大野智、近藤まゆみ、橋本久美子、山口ひとみ、土井卓子、秋山正子、岩城典子、塩崎良子、岸田徹、鈴木美穂

【作品概要】

「乳がんの疑いあり」と診断された経験を持つ女優の鳴神綾香が、がん治療を専門とする医師や医療従事者、またはがん経験者といった15名にインタビューを敢行。

彼女を通して、がんについての正しい知識やさまざまな治療法、心身のケアといった事柄を提示していきます。

『躍る旅人 能楽師・津村禮次郎の肖像』(2015)などを手がけた三宅流が監督、撮影、編集をこなし、およそ3年もの歳月を要して完成させました。

映画『がんになる前に知っておくこと』のあらすじ


(C)2018 uehara-shouten

女優として舞台やドラマ、CMに出演しつつ、ピアノ演奏家としても活動する鳴神綾香。

彼女はかつて、「乳がんの疑いあり」と診断された経験を持ちます。

結果的に良性だったものの、鳴神は、それまで自分ががんについてよく知らなかったことに気づきます。

そこで、改めて「自分ががんになる前に、がんに関する知識を得よう」と、医療関係者や、がんを患ったことのある、いわゆる“がんサバイバー”といった15名に話を聞くことに。

彼らの話を通して、がんについての正しい知識や、がん治療にはどのようなものがあるのか、または、がんを患った上でどう向き合っていくか、などを学んでいきます。

スポンサーリンク

がんについての基本知識や理解度を高める映画


(C)2018 uehara-shouten

まず強調しておくこととして、本作『がんになる前に知っておくこと』は、これまでの連載で取り上げてきたドキュメンタリー映画とは、少々毛色が違います。

例えば、現代のがん治療について何らかの問題提起をしたり、一人のがん患者の壮絶な闘病模様に密着する…といったセンセーショナルな内容ではありません。

本作は、知っていそうで知らない「がん」という病気について、がん治療を専門とする医療従事者やがんサバイバー本人、または彼らを支えるソーシャルワーカーたちへのインタビューで構成。

彼らの証言を通して、がんの基本的な知識を得たり、理解を深めてもらうといった意図で製作された、教育・記録映画としての要素が高い作品となっています。

がんと“共存”していくための15の証言


(C)2018 uehara-shouten

本作でインタビューを受けている15名は、それぞれの立場からがんについて語ります。

「『がん=死』なのか」、「がん治療にはどういった施術法があるのか」、「がん治療の目的は」などなど、多岐にわたるテーマについて掘り下げていきます。

さらに、全国にはがんについての無料相談を受けられる「がん支援相談センター」があり、そこでは患者のみならず、匿名でも対応してくれる―といった、知っておいて損はしない情報も開示してくれます。

数ある証言の中で、印象的なのをここで一つ挙げるとすれば、「21世紀はがんと共存する時代」でしょうか。

多くの人が抱いているであろう「がん=死」というイメージは、医療面においては、今から30年ぐらい前のものでしかない。

医療技術も進化した現在は、「がんと上手く共存していく」という認識で治療に臨んでほしい、としています。

スポンサーリンク

情報の取捨選択、見極めこそ重要


(C)2018 uehara-shouten

一方で本作は、「こうすればがんにならない」、「これを食べるとがんになりやすい」といった、がん予防に関する情報は一切出てきません。

インタビューを受けている数名の証言者も指摘していますが、我々にとって重要なのは、がん情報を「見極める力」。

書籍やメディアのみならず、インターネットからでも簡単に情報が収集できる現代。

しかし、いざがんについて調べようとすると、情報がありすぎてどれを信じていいか分からなくなるでしょう。

「これを食べてがんを治した」といった書籍なども散見しますが、がんの治療効果は個人差があるため、それらすべてを鵜呑みにするのは適切ではないと言います。

つまり、医療従事者や国立がんセンターといった、適切な人物や施設から正確ながん情報を得つつ、その他の雑多な情報も含め、正確か否かの「見極める力」を身に付ける必要があるのです。

がんと向き合う“指針”となる一作

本作プロデューサーの上原拓治氏は、義理の妹をがんで早くに亡くしています。

氏は、それまで「自分にはがんは無縁」と思い込んでいて、それゆえにがんについて無関心だったことが、本作製作のきっかけとなったと語ります。

かく言う筆者も、何の根拠もなしに「自分にはがんは無縁」と思っていた時期がありました。

しかし今から18年ほど前に、頑丈を絵に描いたような健康体だった実父に、食道がんが見つかります。

それでも最初の手術がすぐ終わったこともあり、「元々健康だったから、がんも大したことなかったのかも」と、どこかで楽観視していた面がありました。

ところが、父のがん細胞は完全には消えていなかったようで、がんはやがてリンパ腺に転移していき、みるみるうちに悪化。

結局、がんが見つかって1年ちょっとで、父は還らぬ人となりました。

そこでようやく「がんが身近な病気である」と認識し、こんなことなら自分ももっとがんに関心を持った上で、父と接しておけば良かったと悔やんだものです。

今や日本人の2人に1人がなると言われるほど、身近な病気になっているがん。

「備えあれば憂いなし」ではありませんが、誰もががんにかかる可能性がある以上、本作はがんと向き合っていく上での指針になるのは間違いありません。


(C)2018 uehara-shouten

映画には、アクション、コメディ、ラブロマンス、ホラーなどなど様々なジャンルがあります。

人によっては苦手なジャンルもあるかと思いますが、なかでもドキュメンタリーは、よほどその企画・製作意図に興味を示さない限り、鑑賞欲が起こりにくいジャンルといえます。

ドキュメンタリー映画に関するコラム連載をしている筆者ですが、もしかしたら父親ががんにならずに現在でも存命だったら、本作を観ようとは思わなかったかもしれません。

しかし、1日でも長く有意義な人生を送りたいと考えるなら、死因の一つであるがんについて関心を持ってもいいはず。

後悔の念に駆られない意味でも、この『がんになる前に知っておくこと』は、観ないよりは観た方が良いドキュメンタリー映画だと断言します。

がんについてより理解度が上がる劇場パンフレットも必読

最後に、本作の劇場用パンフレットにも触れておきましょう。

まるで小冊子なみの厚さがあるパンフレットには、本編での15名に行ったインタビューも完全採録されています。

さらには、本編ではカットされた証言や補足情報も掲載。

個人的に一番知りたかったのに本編では触れられていなかったがん情報も、パンフレットを読んだことで得ることが出来ました。

数あるがん関連の書籍と比較しても、資料的価値のある一冊です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

【大阪アジアン映画祭インタビュー】暉峻創三プログラミング・ディレクターに聴くアジア作品の現在|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録7 

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第7回 いよいよ開幕した第14回大阪アジアン映画祭。 2019年はアジアの17の国と地域から51作品が集まり、プログラムにはスリランカや香港の有名監督の最 …

連載コラム

『ゴジラ対ヘドラ』カルト映画として再評価される内容と解説。坂野義光が監督デビュー作品に秘めた真意とは|邦画特撮大全25

連載コラム「邦画特撮大全」第25章 先月11月はゴジラの誕生月という事で、ゴジラシリーズを特集しました。 しかしたった4回の連載で「ゴジラ」シリーズの魅力を語り尽くすことは出来ません。そのため今月12 …

連載コラム

映画『アメリカン・アニマルズ』あらすじと感想。実話の強盗事件を本人も登場させて描く青春サスペンス|銀幕の月光遊戯 31

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第31回 何かが起こる日を俺たちは待っていた! 大学図書館が所蔵する時価12億円を超えるヴィンテージ本を狙った、 普通の大学生が起こした普通じゃない強盗事件を描く『アメリカ …

連載コラム

映画『キュクロプス』感想と内容解説。大庭功睦監督が描く「情報が錯綜する現代」で信じるべき“本質”とは|サスペンスの神様の鼓動17

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回ご紹介する作品は、2019年5月3日から公開される、 …

連載コラム

ネタバレ感想『トラウマゲーム 恐怖体験アトラクション』西村喜廣が参加のハイテンションホラーを解説|未体験ゾーンの映画たち2019見破録14

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第14回 ヒューマントラストシネマ渋谷で絶賛開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。ジャンルと国籍を問わない貴重な映画計58本が …

映画『天気の子』特集
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
映画『ある船頭の話』2019年9月13日(金) 新宿武蔵野館他 全国公開
【望月歩×文晟豪インタビュー】映画『五億円のじんせい』の公開に思いを馳せる
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【阿部はりか監督インタビュー】映画『暁闇』若さが抱える孤独さに共に“孤独”でありたい
【エリック・クー監督インタビュー】斎藤工との友情の映画制作とアジア発の若き映画作家たちの育成に努めたい
映画『凪待ち』2019年6月28日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開【主演:香取慎吾/監督:白石和彌】
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
FILMINK
国内ドラマ情報サイトDRAMAP