連載コラム「インディーズ映画発見伝」第14回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第14回目では、吉田浩太監督の映画『お姉ちゃん、弟といく』をご紹介いたします。
ユニークなキャラクターで引っ張りだこの江口のりこが主演を務め、青春エロティック映画に定評のある吉田浩太監督のデビュー作。
映画『お姉ちゃん、弟といく』の作品情報
【公開】
2006年(日本映画)
【監督、脚本】
吉田浩太
【キャスト】
江口のりこ、中村邦晃、菜葉菜、森本73子(声の出演)
【作品概要】
『愛の病』(2018)、『好きでもないくせに』(2016)、『スキマスキ』(2015)など青春エロティック映画に定評のある吉田浩太監督のデビュー作『お姉ちゃん、弟といく』。本作は2008年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞受賞、2006年C02フィルム・エキシビジョン主演女優賞受賞しました。また、2006年ドイツ・ニッポンコネクション日本映画3位にも選出されました。
主演を務めた江口のりこは映画『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』(2002)でデビューし、『月とチェリー』(2004)で初主演を務めました。独特の存在感で様々なドラマ・映画に出演。吉田浩太監督とはデビュー作の『お姉ちゃん、弟といく』ほか、『ユリ子のアロマ』(2010)にも出演しました。
弟役には『夜が終わる場所』(2012)の中村邦晃、同居人の沙希役には『モルエラニの霧の中』(2021)の菜葉菜が出演。
映画『お姉ちゃん、弟といく』のあらすじ
森下なお(江口のりこ)は、女友達の梅野沙希(菜葉菜)とアパートをシェアして暮らしています。
なおの25歳の誕生日、母親から電話があり、弟・康太郎(中村邦晃)が訪ねてきていないかと聞かれます。来ていないと答えたなおでしたが、その後康太郎が訪ねてきます。
康太郎が泊まることになり、寝静まった夜、なおは康太郎がなおのパンツに顔をあて匂いを嗅いでいるところを目撃します。なおはその様子を見て自身も欲情するのでした。
次の日、3人で出かけることになり、なおはスカートを履き康太郎に見せつけます。ボーリング場でなおはこっそりパンツを脱ぎ、康太郎のカバンに入れます。そして何食わぬ顔でボーリングを続けます。揺れるスカートはいつ見えてもおかしくなく、弟を誘う姉と弟の欲望の向かう先は…
映画『お姉ちゃん、弟といく』感想と評価
姉弟の近親相姦、同性愛など様々な題材を取り上げ、主演の江口のりこさんの独特の色気や画面から匂い立つ性と欲望が印象的な映画『お姉ちゃん、弟といく』。
吉田浩太監督のデビュー作でもある本作は、妄想と欲望、危険な関係をすれすれのところでとどめて直接的な描写をしません。また、音楽やカメラワークでコミカルさを演出しています。危険な関係に対するハラハラチとコミカルな選出が映画全体に緩急をつけ、観客が楽しめる見やすい映画となっています。
深夜、パンツに顔をうずめ匂いを嗅ぐ康太郎の姿、パンツを脱ぎボウリングをして弟を誘うなお。世間的に彼らの行動は“変態”と捉えられ、不快に感じる人もいるでしょう。しかしその変態性をあえて描いているのです。
監督2作目となった『ユリ子のアロマ』(2010)でも、17歳の男子高校生徹也(染谷将太)の汗の匂いに惹かれてしまうアロマセラピストのユリ子を江口のりこが演じています。誰にも理解されない“変態性”を描き、肯定する姿勢は『お姉ちゃん、弟といく』に通ずるものがあるように感じます。
しかし、その“変態性”は劇中においても理解されることはなく、『お姉ちゃん、弟といく』でも「変態!」と叫ぶ場面が描かれています。自身の変態性を理解しながらもおさえることの出来ない、自分でもどうすればわからないどうしようもなさも印象的です。
まとめ
江口のりこ主演の青春異色ドラマ『お姉ちゃん、弟といく』。
本作で監督デビューした吉田浩太監督は、『お姉ちゃん、弟といく』以降、様々なフェティシズムや性の有り様を題材に映画を撮っています。人々に理解されない変態性を扱い、人間のどうしようもなさも肯定する姿勢は観客にとっても見やすい映画になっています。
また、デビューしてまもない江口のりこさんの画面から匂い立つような欲望と艶かしさが印象的であり、江口のりこさんの演技も必見です。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第15回は、うえだ城下町映画祭 第18回 自主制作映画コンテスト ノミネート作品から渡邉高章監督の『別れるということ』を紹介します。
次回もお楽しみに!