連載コラム「インディーズ映画発見伝」第21回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第21回目では、内田伸輝監督の映画『かざあな』をご紹介いたします。
脚本はなく、プロットを途中まで書いて強行的に撮影し、完成までに4年半の月日をかけた力作。
男女のどろどろの恋愛模様を生々しく重苦しく描きます。
映画『かざあな』の作品情報
【公開】
2011年(日本映画)
【監督・脚本】
内田伸輝
【キャスト】
鍋山晋一、秋桜子、山内洋子、赤穂真文
【作品概要】
監督を務めた内田伸輝監督は、ドキュメンタリー映画『えてがみ』(2002)でデビュー。
初長編映画となった『かざあな』時は、第8回TAMA NEW WAVEコンペティションでグランプリ・女優賞、ひろしま映像展2008グランプリ・企画脚本賞・演技賞 三部門受賞、PFFアワード2008審査員特別賞受賞など数々の賞を受賞し、バンクーバー国際映画祭コンペティション部門他で正式上映されました。
監督最新作は『女たち』(2021)。その他の監督作に『ふゆの獣』(2011)、『僕らの亡命』(2017)などがあります。
出演者には、『えてがみ』(2002)にも出演した鍋山晋一や『卍』(2006)の秋桜子、『俺たちの世界』(2009)の赤穂真文などが顔を揃えます。
映画『かざあな』のあらすじ
ナベ(鍋山晋一)は、美術の学校で出会ったミカちゃん(秋桜子)とヨウちゃん(山内洋子)と卒業後も仲良く出かけていました。
3人で過ごすうちにナベはミカちゃんのことが好きになり、気持ちを伝えますがミカちゃんは友達以上の関係を望みませんでした。
自分が選ばれなかったことにショックを受けたヨウちゃんはミカちゃんに嫉妬し、ナベと関係を持ち付き合うことになってしまいます。
どろどろの男女の肉体と言葉が交錯し、感情がぶつかり合っていきます……。
映画『かざあな』の感想と評価
ミカちゃんに恋しながらも、その思いは叶わず、ヨウちゃんと行きずりのまま付き合ってしまうナベは、次第に自身の衝動を悔やみ、ヨウちゃんと付き合うことに煩わしさを感じ始めてしまいます。
3人の友達関係を壊したくないと思うミカちゃん、自分が選ばれなかったと感じ、選ばれたいと思うヨウちゃん。
ヨウちゃんと別れたナベは再びミカちゃんに思いを伝えますが、自分勝手だと言われてしまいます。ミカちゃんの予想外の反応にナベは呆然とします。
しかしそのミカちゃんが付き合っていたのはナベの友達でした……ナベは絶望し、感情を爆発させてしまいます。
脚本はなく、途中までのプロットで撮影を敢行した本作は、監督自身もどう終わるのか分からないラストであったと言うほど、演技とむき出しの感情が合わさった生々しさが観客を惹きつけます。
本作は全編を通してカメラで男女の恋愛を追っているかのように映し、時折インタビューをしているかのように、それぞれの登場人物の生の声が語られます。
ドラマでありながら、ドキュメンタリーのような現実味が、登場人物たちが役をこえてむき出しの感情をぶつけ合う独特の世界観を作り上げます。
内田伸輝監督は本作以降の『ふゆの獣』(2011)などでも、即興の芝居にこだわり、男女のむき出しの感情をスクリーンにおさめることを重視しています。
他愛もない日常、恋愛のもつれ、感情のぶつかり合い、フィクションと生身の人間の感情が交錯して一つの映画を作り上げている、それが内田伸輝監督作品の面白さなのです。
まとめ
男女のどろどろの恋愛をカメラで追っているかのように映しだし、日々の他愛もない会話や生々しくぶつかり合う感情を映しとった映画『かざあな』。
恋した相手に振り向いて欲しい、恋は人を自分勝手にさせる……、そのようなどろどろした人々のむき出しの感情を、生身の感覚で感じられるような生々しさ。それは、即興の演技にこだわり、ドキュメンタリーのように男女の恋愛模様を映し出す内田伸輝監督独自の演出によるものでしょう。
脚本はなく、途中までのプロットで撮影を敢行し、完成までに4年半の月日をかけた本作の生々しく、ありありと伝わってくる感情はどこか普遍的であり、人の感情の移ろいをも感じさせる力作です。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第22回は、高橋伸彰監督の『夏の夜の花』を紹介します。
次回もお楽しみに!