連載コラム「インディーズ映画発見伝」第8回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第8回目では、内田伸輝監督の映画『ふゆの獣』をご紹介いたします。
脚本は作られずプロットとキーとなるセルフのみで、4人の男女が即興芝居でリアルな涙、葛藤、怒りをぶつけ合います。長回しで撮影された男女のむき出しの感情は暴力的でありながら、どこか美しく焼きつけられます。
本作は、第11回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞し、内田伸輝監督の長編2作目の映画となります。
映画『ふゆの獣』の作品情報
【公開】
2011年(日本映画)
【監督】
内田伸輝
【キャスト】
加藤めぐみ、佐藤博行、高木公介、前川桃子
【作品概要】
監督を務める内田伸輝はドキュメンタリー映画『えてがみ』(2002)で初監督を務め、PFFアワード2003審査員特別賞、香港国際映画祭スペシャルメンションを受賞。
続く、初長編映画『かざあな』(2007)は、第8回TAMA NEW WAVEグランプリをはじめ、国内の映画祭で数多くの賞を受賞し、国内だけでなくバンクーバー国際映画祭コンペティション部門に正式招待されました。
『僕らの亡命』(2017)などの作品に続き、『女たち』が2021年6月1日(火)に公開予定です。
映画『ふゆの獣』のあらすじ
ユカコは同じ職場のシゲヒサと付き合っています。しかし、シゲヒサの浮気を疑い不安になり駅の地下道で座り込みます。
座り込んだユカコに声をかけ介抱したのは同僚のノボルでした。
ノボルはアルバイトのサエコに恋心を抱き思いを伝えますが、サエコからノボルのことを同僚以上には思っていないと断られてしまいます。
ノボルは自身の恋の悩みをユウコに打ち明けます。
一方サエコはシゲヒサに思いを寄せ、シゲヒサとサエコは密会を重ねていました。
ある日、4人の男女は同じ部屋で顔を合わせることとなってしまい…
映画『ふゆの獣』感想と評価
本作で描かれているのは求めても求めても得られない愛です。
ユウコはシゲヒサが浮気しているかもしれないと思いつつも、その現実を受け入れたくないとどこかで思い、自分が心配性なだけだと思い込もうとしています。
しかし拭えない不安や、浮気の形跡は見えないようにしていても目にとまってしまいます。
電話が鳴っても出ようとしないシゲヒサ、剥がれたネイル、口紅のついた空き瓶…それらを目にしてもユウコはシゲヒサと別れたくない一心で何も言えず、一人で抱え込みます。
ノボルは自分が気兼ねなく話せるサエコに思いを寄せ、サエコも自分に気を許しているから自分に気があるはずだとどこかで思っていますが、サエコにとってノボルは仲の良い同僚でしかありません。
ノボルが思いを寄せるサエコも、シゲヒサに思いを寄せていますが、自分が浮気相手であることを分かっています。
浮気をしている当のシゲヒサは、男は浮気をするもので女性は一人だけではないと思っています。
それぞれの状況を映し出し、4人で対面してから描かれる剥き出しの感情のぶつかり合いは、即興の演技だからこそ必死に愛を求め、それでいて傷つきたくないという人間の生々しさがありありと伝わってきます。
感情がぶつかり合う破滅的な瞬間は暴力的でありながら、人間本来の姿を映し出します。
手に入らなくても、どんなに愚かでも、愛を求めようと必死になり、ぶつかり合う彼らの姿はどこか美しく感じられます。
まとめ
4人の男女が即興芝居で演じ、愛を求めぶつかり合う剥き出しの感情を映し出した映画『ふゆの獣』。
内田伸輝監督の感性で、鮮やかに描き出した暴力的でありながらも生身の人間の愛を求め合う姿はどこか美しくもあり、観客を惹きつけます。
誰もが他者の愛を求め、孤独を埋めようとするその気持ちは醜くもあり美しいと伝えてくれます。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第9回は、荻颯太郎監督の『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』。
何不自由ない高校生活を送っていた主人公ですが、幼馴染の佐々本琴音がしばらく学校を休むと担任から伝えられ、それを聞いた主人公は…
青春、恋愛、シリアス、サスペンス、ヒューマンドラマ、様々なジャンルの要素を詰め込んだエンタテインメント映画です。
次回もお楽しみに!