連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第64回
ドイツのR15+指定のサスペンス・コメディ映画『アーミー・オブ・シーブス』が、2021年10月29日(金)にNetflixで配信。
本作は、マティアス・シュヴァイクホファーが主演・監督を務めた、2021年製作のドイツのR15+指定のサスペンス・コメディ映画です。
謎の女性にスカウトされた銀行員ディーターが、欧州を股にかけて伝説の金庫3つを狙う強盗一味に加担する姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
Netflix映画『アーミー・オブ・デッド』(2021)の前日譚となる、映画『アーミー・オブ・シーブス』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『アーミー・オブ・シーブス』の作品情報
【配信】
2021年(ドイツ映画)
【脚本】
シェイ・ハッテン
【監督】
マティアス・シュヴァイクホファー
【キャスト】
マティアス・シュヴァイクホファー、ナタリー・エマニュエル、ルビー・O・フィー、スチュアート・マーティン、ガズ・カーン、ジョナタン・コエン、中井ノエミ、アンドレアス・“ノヴィ”・ノヴァク、クリスティアン・シュタイアー、ダン・ブラッドフォード、トーニャ・グレイヴス、トレント・ギャレット
【作品概要】
『レッド・バロン』(2011)や『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021)、『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』(2021)などに出演している、マティアス・シュヴァイクホファーが主演・監督を務めたドイツのサスペンス・コメディ作品。
映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021)の前日譚となる作品でもあります。ただし、15歳未満の鑑賞は推奨されていませんのでご注意ください。
主演のマティアス・シュヴァイクホファーと共演するのは、「ワイルド・スピード」シリーズや『メイズ・ランナー 最期の迷宮』(2018)のナタリー・エマニュエルです。
映画『アーミー・オブ・シーブス』のあらすじとネタバレ
昔々、ドイツ・ミュンヘンの街外れに、古いレンガ造りの建物がありました。そこは、ある腕のいい錠前職人の工房でした。
その蒸米職人の名は、ハンス・ワーグナー。彼は家族を愛する働き者で、地域のリーダーでした。愛する妻と子供が亡くなるまでは………。
深い悲しみの中で、ハンスは傑作を生み出しました。それは、4つの金庫です。それぞれの金庫は、リアルド・ワーグナーの大作『ニーベルングの指輪』を構成する4つのオペラに捧げられていました。
その4つの金庫の名は、「ラインゴルト」「ヴァルキリー(別名ワルキューレ)」「ジークフリート」、そして最後が「ゲッターデメルング(神々の黄昏)」です。
ハンスにとって、金庫はパズルでした。パズルを解くことができるのは、金庫に隠された秘密を知るに値する者だけです。
伝説によれば、金庫を無理矢理こじ開けようとすると、中身が炎に包まれ、二度と開かなくなったといいます。
ハンスは金庫の製作をやめませんでした。もう1つ、金庫が必要だと考えたからです。
そのもう1つの金庫は、ハンスの生涯の集大成。彼の苦しみや悲しみの全てを、永遠に封じ込めるものでした。
人々は、ハンスを自作の墓から解放しようとしましたが、そんな簡単に開くような金庫ではありませんでした。
ハンスは自作の墓とした金庫の中で、静かに息を引き取りました。金庫は誰にも開けられることがないまま、ハンスの亡骸と共に海に沈められました。
「ラインゴルト」「ワルキューレ」「ジークフリート」は今も使われているという噂がありますが、どこにあるのかは錠前師の世界における大いなる謎でした。「神々の黄昏」は、そんな噂さえ聞こえてきません。
世界中がアメリカ・ネバダ州ラスベガスで起きたゾンビ騒ぎに目を奪われている中、ドイツ・ポツダムに暮らす銀行員セバスティアンは、このハンスの話が大好きなオタクであり、錠前師として腕を磨いていました。
退屈な日常を送っていたある日、セバスティアンがハンスの話をした動画に、ある1通のコメントが届きます。
「腕試ししたい?ドイツ・ベルリンのライプツィヒ通りの橋の上に夜8時。合言葉は“神々の黄昏”」
セバスティアンは初めて自分の動画を見てくれただけでなく、初めてコメントをくれた誰かに大喜びし、勤務終わりにその場所へ向かいました。
夜8時。ライプツィヒ通りに到着したセバスティアンは、近くにいた男に合言葉を伝えると、男はある場所へ案内してくれました。
それはセバスティアンと同じ、凄腕の錠前師が腕試しを行うコンテスト会場でした。
セバスティアンは、瞬時に金庫の錠前の構造を理解し、全ての金庫を開錠。他の7人の挑戦者を負かし、チャンピオンに輝きました。
大歓声にわく会場で、セバスティアンは自分に笑いかけてくれた女性を見かけます。
翌朝。セバスティアンは出勤前に、いつも通うカフェで、いつも注文するコーヒーとバナナマフィンを買い、いつも通り1人でそれを店内で食べようとしていました。
そんなセバスティアンに、1人の女性が声をかけます。それは、昨夜見かけた謎の女性でした。
女性の名はグウェンドリン。彼女は裕福な家庭で育ちましたが、6歳の時からスリをやり始め、今や国際指名手配されている泥棒です。
グウェンドリンが所属する国際的な強盗団は、ハンスが作った伝説の金庫3つへの強盗を計画しており、グウェンドリンはその金庫について詳しいセバスティアンに目をつけました。
コンテスト会場に呼び出し、セバスティアンの実力を確かめたグウェンドリンは、計画のために必要な錠前師としてスカウトします。
そう話すグウェンドリンの話を聞いて、セバスティアンは協力したい気持ちはやまやまですが、伝説の金庫を破るのは不可能だと訴え、断ろうとしました。
ですが、セバスティアンはグウェンドリンが放った、「味気ない人生を変えるチャンス」という言葉に強く惹かれ、スカウトを引き受けることにしました。
翌日。グウェンドリンたち強盗団がいる隠れ家を訪れるセバスティアン。グウェンドリンは彼を歓迎し、強盗団のメンバーを紹介します。
1人目は情報収集と作戦担当を務める、天才ハッカーのコリーナ・ドミンゲス。2人目は逃走車両のドライバーを務める、ドリフトの達人ロルフ。
そして最後の1人、強盗団のリーダーを務めるのは実在するアクションヒーロー、ブラッド・ケイジです。
想定していたよりも人数が少ない強盗団に、驚くセバスティアン。そんな彼に、グウェンドリンたちは今回の強盗計画について説明します。
コリーナが3年がかりで情報収集した結果、3つの金庫がある場所とそれぞれの金庫の構造を調べ上げました。
「ラインゴルト」があるのは、フランス・パリの小さな信用組合。ダイヤルの組み合わせは4億1376万3345通りあり、3つの金庫の中では一番簡単なものです。
「ワルキューレ」があるのは、チェコ・プラハの警備が厳重な銀行。ダイヤルの組み合わせは2065億4134万6623通りあり、「ラインゴルト」より高い、約4000万ドル相当の金が眠っているといわれています。
「ジークフリート」があるのは、スイス・サンモリッツのカジノ。ダイヤルの組み合わせは72兆6346億2336万3873通りあり、噂によれば金庫の中には、1億ドルもの大金が眠っているといわれていました。
この3つの金庫を所有しているのは、悪名高き大金持ちのブライ・タナカ。彼は今、ゾンビが発生し始めたアメリカ・ラスベガスにいました。
ラスベガスで起きたゾンビ騒ぎを受け、タナカは96時間以内に3つの金庫をスイス・ジュネーヴに運び、破壊しようとしていました。
つまり、ジュネーヴに運び込まれるまでの4日間、伝説の金庫を破り、中にある金を手に入れるのはこれが最後のチャンスなのです。
強盗計画を聞いた後、セバスティアンはグウェンドリンたちと一緒に一番簡単な金庫、「ラインゴルト」の金庫を破り、中にある金を強盗しに行きました。
まず初めに、セバスティアンが信用組合のトイレの個室に入り、グウェンドリンが来るのを待ちます。
グウェンドリンは貸金庫に用があると言い、事前に偽名で借りた貸金庫へ案内させ、女性行員が離れた隙に、セバスティアンと合流。
グウェンドリンが入る前に警備員からすった鍵を使い、2人は金庫室に繋がるエレベーターに乗り、金庫室へ向かいます。
グウェンドリンが見張りをし、セバスティアンが「ラインゴルト」を開錠。その間、コリーナが女性行員を受付に呼び戻すという算段でした。
「ラインゴルト」を実際に目にした感動しつつ、ダイヤルの中の音を聞きながら、慎重に3つのダイヤルを回していった結果、セバスティアンは「ラインゴルト」の開錠に成功。
急いで高額の紙幣だけを鞄に詰め込み、セバスティアンたちはブラッドが女性行員を引きつけている間に、信用組合から脱出。ロルフが運転する車に戻り、全員で大金を持って撤収しました。
グウェンドリンたちの「ラインゴルト」への強盗を受け、フランス・リヨンにあるインターポール本部の捜査官ドラクロワと、彼の部下ビアトリクスたちが、彼らの逮捕に乗り出します。
というのも、ドラクロワたちは以前、グウェンドリンたちの仲間である錠前師を逮捕し、そのまま全員逮捕する寸前まで追い詰めたことがありました。
しかし、ブラッドにドラクロワは尻を撃たれ、その隙に彼らを取り逃してしまったのです。
誰よりもブラッドたち逮捕に燃えるドラクロワ。彼はブラッドたちが、伝説の金庫を狙い、強盗しようとしていることまで見抜いていました。
そんなことなど知る由もないセバスティアンは、ようやくブラッドたちに仲間として認められ、「ラインゴルト」を破った祝宴をあげていました。
そんな中、仲睦まじい姿を見せるグウェンドリンとブラッド。彼女を目で追っていたセバスティアンは、突如2人が喧嘩しているのを目撃し、彼女が心配になり声をかけます。
グウェンドリンはそんなセバスティアンに、自分とブラッドは、強盗団結成前からの付き合いである腐れ縁であり、恋人であること。
ブラッドの本名はアレクシス・ブロスキーニで、彼が「ブラッド・ケイジ」と名乗っているのは、ヒーローに憧れ故にアメリカ人の名前をつけたいと思い立ち、ブラッド・ピットとニコラス・ケイジの間に生まれたイケてる子供としてつけたということを話しました。
その話の後、セバスティアンとグウェンドリンは、互いの過去を語り合い、芽生え始めた友情を育んでいきました。
セバスティアンは幼い頃、周囲と馴染めず、自分の世界にこもり、金庫破りの腕を磨いていました。
その中で、セバスティアンは金庫破りとしての情熱を形にするべく、「ルドウィック・ディーター」という金庫破りの名人であり、探検家でもある男を主人公にした自作の漫画を描いていました。
対してグウェンドリンは、貧しい人々から金を盗むような儲け方をする両親と折り合いが悪かったのもあり、もっとワクワクするような人生を送りたいとずっと思っていました。盗みはその手段でした。
19歳の頃にアレクシスに出会い、グウェンドリンは彼と彼の仲間に絆を感じました。そして、グウェンドリンは「この人生で、何か偉大なことを1つでも出来たら」と感じるようになったのです。
「家族みたいにベッタリ一緒にいる仲間(ブラッドたちのこと)は大事だけど、正直に言うと、たまには自分だけの道に進んでみたい」
「噂によると、ラスベガスには“神々の黄昏”があるらしい。そこに行ってみたい」
映画『アーミー・オブ・シーブス』の感想と評価
セバスティアンの華麗なる金庫破り
ハンス・ワーグナーが作った伝説の金庫の話が大好きなセバスティアンは、幼少期から錠前師としての腕を磨いていました。
今まで錠前師としての腕前を披露する場がなく、銀行員として退屈な日常を送っていたセバスティアンでしたが、国際指名手配されている泥棒グウェンドリンとの出会いによって、人生が大きく変化します。
セバスティアンにとって初めて銀行強盗するのが、伝説の金庫「ラインゴルト」「ワルキューレ」「ジークフリート」だったからです。
銀行強盗することへの抵抗や罪悪感に苛まれ、パニック状態に陥ったり、伝説の金庫を前にしてオタク全開で『ニーベリングの指輪』を語りだしたりするセバスティアンは、とても面白くて笑えます。
そんなおっちょこちょいの一面とは裏腹に、セバスティアンが瞬時に錠前の構造を理解し、瞬く間に金庫を開錠させていく姿はどれも素晴らしく、画面越しに彼を称賛したくなるほど感服させられるものばかりです。
強盗団を追い続けるインターポールの捜査官たち
ドラクロワたちフランス・リヨンにあるインターポール本部の捜査官たちは以前、グウェンドリンたち強盗団を全員逮捕しようとしていました。
ところが、全員逮捕まであと一歩のところで、ブラッドにドラクロワが撃たれて失敗。幸い、ドラクロワはズボンの尻ポケットに酒のボトルを入れていたため、大事には至りませんでした。
そんなことがあったからこそ、俄然やる気満々のドラクロワ。そんな彼に振り回されるベアトリスたち部下の姿や、入る銀行を間違えてしまう彼のドジな一面は、思わずクスッと笑ってしまうほど微笑ましいです。
ドラクロワたちがグウェンドリンたちに迫ってくることへのスリリングな描写に、終始ここで捕まってしまわないかと冷や冷やさせられます。
まとめ
ハンス・ワーグナーと彼が作った伝説の金庫が大好きな錠前師セバスティアンが、謎の女性と出会って退屈な日常を抜け出し、錠前師として伝説の金庫破りに挑んでいく、ドイツのサスペンス・コメディ作品でした。
伝説の金庫へのロマンを感じるセバスティアンとグウェンドリンは、その情熱に差はありますが必然と惹かれ合い、恋に落ちました。
ようやく2人が結ばれたかと思いきや、ドラクロワに強盗団全員逮捕されてしまう展開は、予想外過ぎて衝撃を受けます。
離れ離れになってしまいましたが、セバスティアンたちは「いつか必ず、2人で“神々の黄昏”を探しに行く」という約束を胸に、再会の日を待ちました。
物語の終盤、スコットたちの仲間になったセバスティアンが、果たしてその約束を守れたかどうかは、映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』でお確かめください。
そして、『アーミー・オブ・ザ・デッド』と『アーミー・オブ・シーブズ』の続編が製作が決まりました。続編ではどんな物語が描かれるのか考察するのも楽しいです。
錠前師と泥棒の恋と、錠前師の華麗な金庫破りが見られる、笑いあり涙ありのサスペンス・コメディ映画が観たい人に、とてもオススメな作品となっています。