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『とおいらいめい』感想解説と考察評価。SFディストピア映画のテーマを瀬戸内のロケ地撮影にて“地球最後の日に生きる家族の姿”|2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集7

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペティション部門 大橋隆行監督作品『とおいらいめい』

2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。

第19回目を迎えた2022年度は3年ぶりにスクリーン上映が復活。同時にオンライン配信も行われ、7月27日(水)に、無事その幕を閉じました。

今回ご紹介するのは、国際コンペティション部門にノミネートされた 大橋隆行監督作品『とおいらいめい』です。

【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら

映画『とおいらいめい』の作品情報


(C)ルネシネマ

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
大橋隆行

【出演】
髙石あかり、吹越ともみ、田中美晴、ミネオショウ、大須みづほ、藤田健彦、しゅはまはるみ

大橋隆行監督のプロフィール

1984年7月22日生まれ、神奈川県出身。2013年に製作した短編映画『押し入れ女の幸福』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014の短編部門グランプリを受賞したほか、国内映画祭にて多数入賞を果たす。2018年には池袋シネマ・ロサにて2週に渡り監督作『さくらになる』(17)ほかを公開。

ロケーションとSF的世界観に強いこだわりを持ち、“美しい自然”と“小さな人間”を対比して描くことを得意とする。

【作品概要】
地球の終焉を間近に迎えるという時期に、長らく別々に暮らしていた三姉妹が父の死をきっかけに集いぎこちなくも家族として暮らす中で、本当の家族の意味を追っていくドラマ。

監督はSF的世界観に定評のある大橋隆行。さらに撮影にて監督作『あらののはて』が2020年の本映画祭国内コンペティション長編部門で上映された長谷川朋史が参加しています。

主人公・音役を舞台『鬼滅の刃』で禰豆子役を演じ話題となった髙石あかりが担当、高石とともにメインキャストとなる音の二人の姉役を 吹越ともみ、田中美晴ら若手実力派が演じています。

映画『とおいらいめい』のあらすじ


(C)ルネシネマ

彗星の衝突によって人類の滅亡が数カ月後に迫った2020年の地球。

長女・絢音と次女・花音、その後生まれた異母妹の音は、父の死をきっかけに生まれ故郷の瀬戸内に集い、初めて三人で生活することを決心します。

三人は初めての共同生活に戸惑いを覚え、なかなかお互いに踏み込めすれ違いを続けていきながらも、目前に迫る世界の終わりに向けて、徐々に本当の家族になっていきます…。

映画『とおいらいめい』の感想と評価


(C)ルネシネマ

本作は「地球の終わり」というSFディストピア的テーマの中で、変わらぬ日常を展開させることで普遍的なものを描いています。

本作は2004年に舞台作品として上演された物語を原作とした作品ですが、セリフがメインとなりがちな舞台原作という前提に対しできるだけ生活のリアリティーを感じさせる構成としているところは、高く評価できます。

「地球の終わり」を意識させる要素として、人々が生き残りをめぐり争っていることを想起させるエピソードも中には存在しますが、それは全体的にはメインキャラクターである三姉妹の関係を浮き彫りにするための隠し味的な存在感に留めて作られています。

物語では大きな惨事を前に、日常のさまざまな出来事、事件が展開していきますが、総じて見るとどれも人間にありがちな感情の変化を表しているようであり、その結末とも相まって「大きな出来事を目の前に、人は変わるようで変わらない」という結末が見え、「地球の終わり」という極端な発端が、やけに普遍的なイメージに見えてきます。

今回撮影が行われた瀬戸内の、どこか寂れた田舎町の雰囲気と「地球の終わり」というテーマとの一見ユニークな対比も自然で、ロケーション選びにも定評のある大橋監督ならではの映像感を深く味わえるものといえます。

特にポスターイメージにもありますが、クライマックスで三姉妹が言葉にて戯れるシーンは、強烈な映像のインパクトを感じられるところです。

その美しさはまさに高精細のDシネマ、デジタルシネマで観覧できる利点を存分に生かしたもので、独特の世界観を作り出して物語に深い奥行きを与えています。

まとめ


(C)ルネシネマ

また役者として特筆すべきは、やはり主演を務めた高石あかりの存在感が挙げられます。

二人の姉役の吹越ともみ、田中美晴の役柄は物語の展開に合わせてさまざまな感情の変化、起伏が見えるのに対し、高石が演じる三女・音は、どこか二人の姉に対して遠慮し、物語中ではほとんど感情の変化を見せません。

しかし、クライマックスに姉妹がさまざまな出来事の後にお互い衝突するシーンでは、まるで音がそれまで抑えていた感情を一気に吐き出したかのような迫真の表情を見せます。

実はこの表情こそが物語の大きなポイント、つまり「三姉妹が本当の家族になれるか」というポイントにつながる重要な要素であり、高石がその決定的な表情を見せたことで、物語はしっかりと向かうべき着地点にたどり着き、物語の真のテーマを深く想起させるものとなっています。

それは強く見る側の感情を揺さぶるものでもあり、役者としての技量の高さを感じさせるものでもあります。

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