映画『ストレージマン』は2023年5月20日(土)より、池袋シネマ・ロサ他にて全国順次公開!
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022・国内コンペティション部門にて観客賞(短編部門)を受賞した、萬野達郎監督による映画『ストレージマン』。
新型コロナウイルスの感染拡大により派遣切りに遭った主人公が、職も家族も家も失った果てに行き着いた「トランクルーム生活」の顛末と、その先に見つけた希望を描き出します。
プロデューサーも務めた連下浩隆が主人公の男・森下を演じ、主人公の妻・晶子と彼女に瓜二つな女性・由美子の“一人二役”を瀬戸かほが演じた本作。
2023年5月20日(土)より池袋シネマ・ロサ他にて全国順次公開される映画『ストレージマン』の魅力を紹介いたします。
【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら
映画『ストレージマン』の作品情報
【日本公開】
2023年公開(日本映画)
【英題】
Storage Man
【脚本・監督】
萬野達郎
【プロデューサー】
連下浩隆
【キャスト】
連下浩隆、瀬戸かほ、渡辺裕之、矢崎広、渡部直也、米本学仁、古坂大魔王
【作品概要】
本作で主演を務めた連下浩隆はプロデューサーとしても参加。全く異なる性格のキャラクターを一人二役で挑戦している瀬戸かほや、ベテランの渡辺裕之らが脇を固めます。
経済情報メディア「NewsPicks」やNHKワールドの経済番組で演出を担当してきた萬野監督の手腕が光る本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022・国内コンペティション部門の観客賞(短編部門)を受賞。
福岡インディペンデント映画祭2022ではグランプリに輝き、その後もロサンゼルス・アジア映画祭にて作品賞と主演男優賞にノミネート、北九州最大の映画フェス「Rising Sun International Film Festival」で入選、カナダ・スクリーン・アワード認定の映画祭「Silver Wave Film Festival」にて最優秀外国作品賞を受賞し、国内外問わず高い評価を受けています。
萬野達郎監督プロフィール
大阪府出身の映画監督。映像ディレクター。
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校映画制作学科を卒業し、市川海老蔵の映像作品やカナダ建国150周年記念番組などを演出。
映画監督をした『Motherhood』(2019)は、国内外で20以上の映画祭に入選。Action On Film International Film Festivalの最優秀外国作品賞をはじめ、数々の映画祭の賞を受賞しました。
映画『ストレージマン』のあらすじ
自動車工場の派遣社員として働く森下は、妻・晶子と娘・桜の3人暮らし。社宅に住み、娘の誕生日を家族で祝うなど、慎ましくも幸せに暮らしていました。
しかし森下は、コロナショックで派遣切りに遭ってしまい失業。同じ頃に晶子もパート職を失い、将来に不安を抱いたことで夫婦は口論になります。
晶子に対して苛立ち、手を上げてしまう森下。それが原因で晶子の両親に離婚を要求された結果、晶子は桜を連れて実家に戻ることとなり、会社からも社宅の立ち退きを迫られます。
荷物を手に途方に暮れていた時、目についたのはトランクルーム。トランクルームは荷物を預ける狭い部屋ですが、雨風もしのげ、鍵もちゃんと施錠できます。
誘惑に負けた森下は、トランクルームでこっそりと生活を始めます……。
映画『ストレージマン』の感想と評価
「物品の保管」を用途目的とするトランクルームに、人間が住む。その行為は、一部の「滞在型トランクルーム」を除けば、管理業者との契約違反という理由から“違法”であることは紛れもない事実です。
しかし法律の問題以上に、トランクルーム生活の最も過酷な点は、トランクルームが「人間が住むことを想定していない部屋」であることではないでしょうか。
1畳半〜2畳程度という狭く息が詰まりそうになるトランクルームの中で寝るには、他の荷物の置き場所の関係上、どうしても体を丸めるしかない。エアコン設備も基本的にはないため、時には死にかねない暑さや寒さに苦しめられる。
そして「人間がいることを知られてはならない」「そのためにも、他人と遭遇してはならない」という都合上、常に続く精神の緊張から真の憩いなどは決して得られないし、別のトランクルームに“自分と同じ人間”が住んでいたとしても、“人付き合い”によって孤独を癒すこともできない……。
肉体面でも、精神面でも“人間の生活”ができない部屋……「他人と遭遇してはならない」という緊張が延々と続く中で、買い物など日常生活の一部としての外出も憚られ、他人との対面での人付き合いもできず、ただ“居る”ことしかできない部屋。
そんな「部屋であって部屋でない部屋」は、トランクルーム生活に至った森下のみならず、2020年とそれ以降のコロナショックを生きた誰もが“そこ”に住んだ経験があるはずです。
「“人間の生活”ができない部屋は、どんな家にも現れる」……そう痛感させられた記憶を、誰もが持っていたはずなのに、人々は少しずつ、けれども確実に忘れようとしている。
映画『ストレージマン』は、かつてコロナショックによって生まれた「“人間の生活”ができない部屋」の意味を、そして何よりも、「“人間の生活”ができない部屋」が決して「コロナショックならではの産物」ではなく、「いつ・どこにでも人々の前に現れ得る部屋」であることを切に伝えるのです。
まとめ
「ポスト・コロナ」という言葉の通り、2020年とそれ以降のコロナショックによって、映画鑑賞のスタイルを含め、人々の生活様式は大きく変化しました。
それでも人々が「“対面”の人付き合い」を手放さなかったのは、やはりコロナショックの中で誰もが「“人間の生活”ができない部屋」の不安と恐怖を経験したからであり、その不安や恐怖を思い出したくないからこそ、人々は記憶から部屋のことを忘れようとするのかもしれません。
しかし『ストレージマン』は、「忘れる」という行為を拒みます。
それは、先述の「“人間の生活”ができない部屋」がコロナショックの起こった当時だけでなく、「いつ・どこにでも人々の前に現れ得る部屋」であると伝えるため……だけではありません。
「絶望を経験するからこそ、人間はその果てにある希望も見出せる」「しかし、絶望そのものを忘れてしまったら、その果てに見出せたはずの希望も失わる」「その結果、誰もが忘れてしまったがゆえに、誰もが解決することのできない絶望だけが残ってしまう」……。
そうした忘失の悲劇を避けるためにも、『ストレージマン』はかつてコロナショックで生まれた「“人間の生活”ができない部屋」という絶望とその先にある希望、そして「絶望を忘れない」という意志を、映画を観る人々の元へ届けようとするのです。
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