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Entry 2021/03/22
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『姉姉妹妹』あらすじ感想評価とレビュー解説。ベトナム映画が大阪アジアンでABC賞受賞の快挙!|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録7

  • Writer :
  • 西川ちょり

第16回大阪アジアン映画祭「ABCテレビ賞」受賞作『姉姉妹妹』

2021年3月14日(日)、第16回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。

グランプリと観客賞をダブル受賞した橫浜聡子監督の『いとみち』をはじめ、2021年もアジア各国の素晴らしい作品の数々に出逢うことができました。

今回ご紹介するのは、「ニューアクション! サウスイースト」部門で上映され、「ABCテレビ賞」を受賞したベトナム映画『姉姉妹妹』です。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら

映画『姉姉妹妹』の作品情報

【日本公開】
2021年(ベトナム映画)

【原題】
Sister Sister [Chi Chi Em Em]

【監督】
キャシー・ウエン

【キャスト】
タイン・ハン、チー・プー、ライン・タイン

【作品概要】
ベトナムのトップ俳優として知られるキャシー・ウエンの初めての監督作。3人の男女の愛憎が複雑にからむサスペンススリラー。

2019年、ベトナムで最大のヒット作となり、ベトナムでの興行収入は300万ドルに達しました。

キャシー・ウエン監督のプロフィール

カリフォルニア州サンノゼ生まれのベトナム系アメリカ人。カリフォルニア大学アーバイン校で映画研究と経済学の学位を取得。卒業後、ドリームワークス、ワーナーブラザース、ハッピーマディソンプロダクションなどハリウッドのスタジオで働く一方、映画やテレビにも出演。

2009年からベトナムで俳優としてのキャリアを開始し、『Passport to Love』(2009)や『How to Fight in Six Inch Heels』(2013)といった作品でベトナムのスター女優の地位を築く。その他の作品に『パパとムスメの7日間』(OAFF2019)がある。

2019年、本作で監督デビュー。その年、ベトナムで最大のヒット作となり、作品自体も高い評価を得た。

映画『姉姉妹妹』のあらすじ

ラジオパーソナリティであるキムは、エンパイア不動産会社の経営者を父に持ち、ハンサムで優しい夫フイと共に豪邸に住まいし、何不自由ない暮しをしていました。

キムがパーソナリティーを務めるラジオ番組「真夜中の告白」は、キムが様々な人々から寄せられる悩みに耳を傾け励ますという人気番組です。

このところ、番組に毎日のように電話をかけてくる女性がいました。女性はニーという名前の妊婦で、DVの夫から逃れるため、家を飛び出していました。キムは彼女のことをとても気にかけていました。

その夜も、ニーから電話がかかって来ましたが、電話の向こうから、男と激しく争う音とニーの悲鳴が聞こえ、スタッフが慌てて警察へ通報しました。

病院で治療を受けたニーをキムは家に連れ帰りました。夫と家政婦は始めからニーを嫌い、早く出ていかせるようにキムに詰め寄りますが、キムはニーを留まらせます。

愛し合っていた夫婦の間に徐々に亀裂が生まれ、人間関係が複雑に蠢き始めます。

映画『姉姉妹妹』の感想と評価


(C)MUSE FILMS

キム(タイン・ハン)とフイ(ライン・タイン)というリッチで仲睦まじい理想的な夫婦の住まいに突然パオ・ニー(チー・プー)という20代の訳あり女性が入り込んできます。彼女は弱々しく見えますが、見目麗しく、魅惑的で、これで何も起こらないわけがありません。

ニーを毛嫌いする家政婦は不可解な事故で入院を余儀なくされ、ニーがその後釜におさまります。その不穏な展開は、ポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』や、『パラサイト』に多大な影響を与えたといわれるキム・ギヨン監督の『下女』(1960)などを想起させます。

実際、キムとフイの豪邸の内装は青っぽさを基調としたクールな色彩で構成され、『パラサイト』のそれを思い出させます。しかし、さりげなく置かれた調度品やアールデコ調デザインの階段の手すりなどが、ベトナム独自の典雅な魅力を醸し出しています。

物語自体、韓国映画のみならず、ハリウッドやヨーロッパなどで製作されてきた既存の「夫婦間(家族間)サスペンス映画」のイメージを強く響かせながらも、予想を遥かに超えた重厚で複雑な世界へと観客を導いていきます。とりわけ、パワフルに加速していく終盤の展開は一瞬たりとも目が離せません。

キムは頻繁に「秘密の暴露」というゲームを話し相手に持ちかけます。親密である証として、まずキムが告白し、相手にもそれを促します。

こうしたゲームは時に不安を誘い、トラブルの基になりがちですが、ここにはキムの裏返しの心理が潜んでいるのです。

誰かに全てを告白し、理解してほしいという強く激しい思いと、それは決して敵わないという絶望にも似た諦めの気持ちがせめぎ合っています。このキムの秘密が作品の大きなキーとなります。

そもそもニーを家に連れてくることになったのも、キムがパーソナリティーを務める悩み相談のラジオ番組にニーが電話をかけてきたのがきっかけですが、最も誰かに相談したいと願っているのが実はキム自身だということに彼女は気づいていません。

キムは、傷ついたニーを手当てするために家に連れ帰りますが、フイはニーの具合がよくなり次第追い出すようにと迫ります。しかしキムはフイの言葉に耳をかさず、ニーを住まわせ続けます。

誰が誰を愛し、誰が誰を傷つけ、誰が誰を裏切るのか!? キムのみならず、フィやニーの秘密も浮かび上がり、「愛憎」「富と名誉」「欺瞞」といった心理をテーマに、3人の関係は複雑に、激しく絡まっていきます。

オープニングからエンディングまで、ひねりを利かせた脚本は実によく練られており、文句なしに楽しめる極上のサスペンス映画に仕上がっています。

まとめ

名人芸的な脚本と共に、俳優たちの素晴らしさが際立ちます。各々のキャラクターが抱える内なる葛藤が、物語の基盤をなしています。

キムを演じたタイン・ハンはモデルとしても著名なベトナムの人気女優で、大阪アジアン映画祭では『レディ・アサシン 美人計』(2013/OAFF2016)、『超人X.』(2015/OAFF2016)でお馴染みです。キムという複雑な役どころを、大胆かつ繊細に表現しています。

また、小悪魔的なニーを演じたのは、ポップスターとしても活躍しているチー・プー。女優としてはアイドル的な役割を演じることが多かったのですが、今回、これまでとはまったく違った役柄に挑戦し人々を驚かすと共に、演技力も高く評価されました。

フイ役のライン・タインは、モデルとしても知られ、また多数のミュージックビデオに出演しています。映画俳優としてのキャリアはまだ浅いのですが、『こんなにも君が好きで -goodbye mother-』(2019/チン・ディン・レ・ミン/Rakuten TVで2021年1月15日から配信)でゲイの男性を演じて注目を浴び、『姉姉妹妹』で見せた演技が高く評価され、今、最もホットな若手俳優として期待されています。

監督のキャシー・ウエンは、ベトナムの権威ある映画賞で、最優秀助演女優賞、最優秀主演女優賞を受賞している実力派女優で、本作で監督デビューを果たしました。

ベトナムでは映画における性描写や暴力描写、国家を揶揄する内容のものに厳しい検閲が行われていましたが、昨今、新しい作り手の台頭により、徐々に変化が起きつつあります。

その最前線にあげられるのが本作で、C18(18禁)に指定されてはいるものの、エロチックな描写に大掛かりな介入はなかったと言います。

今後、より多様な作品がベトナム映画から生まれてくることを期待してやみません。

『姉姉妹妹』は本年度のABC賞に選ばれましたので、来年、2022年の1月ごろ、朝日放送テレビ(関西圏のみ)で放映されます。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら





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