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Entry 2019/11/10
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映画『ファストフード店の住人たち』あらすじと感想レビュー。アーロン・クォックの新たな一面を描く|TIFF2019リポート13

  • Writer :
  • 桂伸也

第32回東京国際映画祭・アジアの未来『ファストフード店の住人たち』

2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されました。


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この映画祭の「アジアの未来」部門は、これまでの製作履歴が長編3本目までの新鋭監督によるアジア地区の作品を対象としたもので、「作品賞」と「国際交流基金アジアセンター特別賞」(監督賞に相当)を目指して競い合います。

その一本として29日、香港の新鋭ウォン・シンファン監督による映画『ファストフード店の住人たち』が上映されました。

会場には来日ゲストとしてシンファン監督とともにメインキャストのアーロン・クォック、ミリアム・ヨンも登壇し、映画上映後には来場者に向けたQ&Aもおこなわれました。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

映画『ファストフード店の住人たち』の作品情報

【上映】
2019年(香港映画)

【英題】
i’m livin’ it

【監督】
ウォン・シンファン

【キャスト】
アーロン・クォック、ミリアム・ヨン、アレックス・マン、ニナ・パウ、チョン・タッミン、チャー・リウ、ゼノ・クー、キャシ-・ウー、ノラ・ミャオ

【作品概要】

さまざまな事情でホームレスとなり毎日を苦しみもがく人々が、香港の街で夜になると寝床を求めて集まる24時間営業のファストフード店を舞台に、互いに寄り添い生きていく姿を描きます。

監督を務めたウォン・シンファンは、本作で監督デビューを果たしました。

メインキャストとして、落ちぶれた投資家・ポック役をアーロン・クォック、ポックの存在を常に気にしている酒場の歌手ジェーン役をミリアム・ヨンが担当。他にもブルース・リー作品のミューズ、ノラ・ミャオが、ポックの義母役で出演しています。

ウォン・シンファン監督、アーロン・クォック、ミリアム・ヨンのプロフィール


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ウォン・シンファン(写真右)

1969年生まれ、香港出身。96年に映画協会に入り、『ブラック・マスク』『ヒーロー・ネバー・ダイ』『アクシデント』など、約30作品の映画でアソシエート・ディレクターとして携わっていきます。

そして2019年に、本作にて監督デビューを果たしました。

アーロン・クォック(写真中央)

1965年生まれ、香港出身。ダンサーとしてデビュー後、CMの出演で大ブレイク。以後『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』『西遊記』シリーズなど数々の映画に出演、以後香港を代表する歌手・俳優として活躍を続けています。

第31回東京国際映画祭では、彼が出演する映画『プロジェクト・グーテンベルク』が出展、2020年2月にはタイトルを『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』として日本公開が予定されています。

ミリアム・ヨン(写真左)

1974年生まれ、香港出身。女優・歌手として幅広い活動を展開、代表作の一つ『恋の紫煙』シリーズは東京国際映画祭でも上映。作品は数々の映画賞でノミネートや受賞を果たしています。

また映画だけでなくドラマでも数々の作品に出演、コンスタントな活動を続けています。

映画『ファストフード店の住人たち』のあらすじ


(c)Entertaining Power Co. Limited, Media Asia Film Production Limited ALL RIGHTS RESERVED

香港のとある街にある、24時間営業のファストフード店。ここでは夜になると、寝床を持たない貧しい人々が肩を寄せ合うように集まり、ひと時の安らぎの時間を得ていました。

その「住人」たちの一人、ポックはかつて強気の投資を次々と成功させ、時代の風雲児として名をはせた人物。しかし今は落ちぶれ、あるビルで清掃夫として働いていました。

そんな彼は「住人」たちからも一目置かれる存在。何かあればポックは必ず力になってくれる、と仲間の中では絶大な信頼を寄せられ、大きな支えとなっていました。

彼を中心に、貧しいながらも希望を持って生きる「住人」たち。今日もその救いを求めて、みんなはファストフード店に、そしてポックのもとに集まるのでした。

映画『ファストフード店の住人たち』の感想と評価


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例えば日本社会の現状と比較して考えた場合、この映画で要所に描かれている香港の社会事情は、興味深いところも多々発見されます。

その一方で登場人物たちそれぞれの人間的なつながりは、国の違いは関係なく多くの人が共感することでしょう。

メインとして登場する人物は、場末の酒場で働くジェーンを除くとほぼみんなファストフード店の住人がメインキャラクターとなります。

境遇に恵まれず、自身の家を持つこともできない人たち。あるいは事情でこの場を離れられない人。ある人は自分の境遇を呪い、言い訳をしながら生きていきますが、また別の人は逃げずに、あくまで自分の運命に向き合おうとする。

そんな構図がこの作品ではシンプルに描かれています。それはおそらく全世界で貧困に苦しんでいる人々がみな出くわしている状況と共通しているものがあるようです。この映画では、まさしくその点にスポットを当てたことで、映画自体のメッセージが明確になっています。

物語、そしてそこに描かれる人々のつながりにも強く惹かれますが、改めて貧困という社会の大きな問題について、観た人がさまざまなことを考えられる作品であります。

そしてそのメッセージをより強固なものにしているのは、深い思いやりを持った主人公・ポックを演じたアーロン・クォックをはじめとした俳優陣全員の、真に迫った演技力に他なりません。

特殊な技法などがあるわけではありませんが、強く心揺さぶられる作品であります。

上映後のウォン・シンファン監督、アーロン・クォック、ミリアム・ヨン Q&A

29日の上演時にはウォン・シンファン監督、アーロン・クォック、ミリアム・ヨンが登壇。上演前に登場し舞台挨拶をおこない、上演後には、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。

さらに終演後には、アーロン自身の計らいでサイン会がおこなわれるなど、非常にサービス精神旺盛なところを見せており、集まった彼のファンら約200人が彼にサインを求めました。


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──今回の撮影で、アーロンさんとミリアムさんはお互いや監督、スタッフに対してどのような印象を得られましたか?

アーロン・クォック(以下、アーロン):ミリアムさんは非常に頭がいい女優であるという印象を受けました。

実はこの映画撮影時に、ミリアムさんは他のドラマの仕事を並行しておこなっていたんです。全く違う役柄のお仕事を他でやって、こちら側ではこのような非常に難しい役を演じておられました。

二つの全く違う役柄を同時期におこなうというのは非常に難しく、切り替えをうまくやらないとできないのですが、ミリアルさんはそれを見事にやり切られました。

またミリアムさんに限らず、チームワークという面は撮影に対して非常に大きな助けになりました。さらにウォン監督は、今回が長編初監督作品とはいえ才能を発揮され簡単に撮れるシーンでも、複雑なシーンでも一つ一つ的確に演出をおこなっていただきました。

ミリアム・ヨン(以下、ミリアム):
自分としては、この映画に参加できたことは自分としても非常に嬉しく思いました。また演じるにあたりウォン監督とアーロンさんが私のことを信用してくださったことが、非常に嬉しかったです。

先程アーロンさんが言われましたが、今回は同時期に別の作品も撮っていて、そちらでは「非常に幸せな奥さん」の役だったんです(笑)、弟もいて家族があって、という。

それに対してこの作品では逆に非常に孤独で、寂しい役柄。でもだからこそ逆に今回この作品に挑戦することは、自分の殻を一つ破れるチャンスだったと思いました。

また改めてこのアーロンさんとファン監督に出会えたことは、自分にとって非常にラッキーだったと思います。是非皆さんもこの作品を気に入っていただけると嬉しいです。


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──監督デビュー作で香港の大スターを起用した感想はいかがでしたか?

ウォン・シンファン監督(以下、ウォン):自分の中では、映画の現場、自分が監督やディレクションをする映画の現場に来た場合は、彼らは俳優であり、スーパースターではありません。

だから彼らにはスーパースターとして来てもらうのではなく、俳優として現場に来てもらいました。そして私自身も、自分の演出やプランに沿って演技をしてもらう俳優だという意識で向き合い、映画を撮りました。

──ファストフード店という設定もユニークですが、アーロンさんは今回の役柄に対して、どのように向き合い撮影に臨みましたか?またこのファストフード店という設定にどのような印象を持たれましたか?

アーロン:この映画の脚本を読んだときにまずインターネットなどで調べたのですが、実際にこういう店が24時間のファストフード店でホームレスの方、いわゆる「M店難民」(※M:某有名ファストフード店名の頭文字)と呼ばれる方々がいるということを知りました。

そしてまた彼らに取材もして普段どんな生活をしているのか、何を考えているのか、将来どうする気なのか、そういったものを含めて全部を、今回自分が演じるために情報として自分の中に入れ込んで役作りに役立てようと考えました。

また日本でも似た形で生きているホームレスの方がいることも知りました。ただ日本ではいわゆるネットカフェと呼ばれるところで生活をしてらっしゃる方がいるということですよね。

ただこの映画の中で大事なのは、ファストフード店というのは単なるロケーションであって、この映画で描きたいのは人の愛、人と人との愛を伝えたいんだ、ということなんです。


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──ミリアムさんはいかがでしょう?

ミリアム:自分にとってファーストフードとは、子供のころの記憶です。ファストフード店に行って楽しい思いをした、フライドポテトやハンバーガーを食べた、そんなことが楽しみだった記憶があります。

今でも自分の子供を連れてそんなところに行っては、子供の楽しみを探してあげている。それが自分にとってファーストフード店の自分の記憶と意義なんです。

この映画に出演して感じたこととは、この店の中に住む人たちのことなんです。いろんな人生がありいろんな人がいると思います。またいろんな苦しく辛いことや困難なこともいっぱいあると思いますが、それを家族に言えない状態というのもこの難民たちの特徴であると思うんです。

自分として皆さんに知ってもらいたいのは、家族ともっとコミュニケーションをとるということ。家族と仲良くすることこそがとても大事なことなんだということを、分かってほしいと思うんです。

どんな状況にあれ、家族という存在が一番信頼できて愛し合える人たちですし、そんな人たちと愛を共有することが大事だと思うんです。

──この作品のタイトルには、どのような思いがあるのでしょうか?

ウォン:英題のタイトル「I’m livin’ it 」には二つの意味があります。一つは「ここに住んでいる」もう一つは「ここに生きている」ということ。この二つの意味があってこのタイトルをつけました。

一方で香港のタイトル「麥路人」ですが、「麥」というのはみんなが大好きで楽しいこと、ファストフード店のことを示しています。また「路」という字には、口がいっぱいあります。つまり「食べ物も含めてここにある」というイメージです。この二つのことを考えました。


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まとめ


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作品のタイトル「I’m livin’ it 」は、日本国内でも有名な某ファストフード店のキャッチコピーをもじったようで、非常にユニークであります。一方で東京国際映画祭のスタッフは、このタイトルをどう日本語にしようかと非常に悩んだというエピソードもあったそうです。

そんな思わずニヤッとしてしまいそうなタイトルですが、ラストでは残念ながら誰しもが幸せになるという結末にはなりません。しかし、だからこそこの映画のメッセージは観る人の心の奥深くに訴えかける力を持っています。

主演を務めたアーロン自身は、自分からオファーに対して手を挙げただけにその迫真の演技を見せています。そしてこれまでの作品では見られることのない彼の姿も見られ、その点は作品の中でも大きな見どころといえるでしょう。

2020年にはアーロン出演の『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』の日本公開が控えていますが、これに続いて本作も日本公開を期待したところであります。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

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