欠けていたピースを埋める劇場版6作目
テレビドラマ「踊る大捜査線」シリーズを手掛けた本広克行が、ダークすぎる展開で話題になったアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄をストーリーライターに起用したアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』。
犯罪を実行しかねない心理状態を数値化し「犯罪係数」が一定値を越えた人間を確保もしくは処分する未来を描いたこのシリーズは、映画が5本にアニメシリーズが3期作られるほどの人気シリーズとなりました。
そして『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』(2020)から3年越しの2023年、劇場版第6作の公開が開始。
今回は『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』(2023)を、ネタバレあらすじ含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【監督】
塩谷直義
【脚本】
深見真、冲方丁
【キャスト】
花澤香菜、関智一、野島健児、伊藤静、沢城みゆき、佐倉綾音、櫻井孝宏、東地宏樹、山路和弘、榊原良子、日高のり子、梶裕貴、中村悠一、清水理沙
【作品概要】
2012年に放送されたアニメシリーズ「PSYCHO-PASS サイコパス」から続く、6作目となる劇場版作品。
初期から監督を務めシリーズを支えてきた塩谷直義が引き続き監督を務め、SF小説家としての顔とアニメ脚本家としての顔を持つ冲方丁が脚本として参加しました。
映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』のあらすじとネタバレ
公海上の船が武装集団による襲撃を受け、とある人物の護衛にあたっていた外務省の構成員たちは次々と殺害されていきます。
狡噛慎也は花城フレデリカの命令で護衛対象を守るために船に降り立ちますが、対象は既に殺害されていました。
東京、”シビュラシステム”による絶対的な統治の下での”法律”の必要性を問う会議に出席する厚生省公安局統括監視官の常守朱は、人間社会における”法律”の必要性を訴えますが、既に法律の廃止に動き出していた政治家たちは聞く耳を持とうとしませんでした。
そんな中、船舶内での大量殺人事件の報告を受けた常守は彼女に興味を持った厚生省大臣官房統計本部長の慎導篤志と共に現場へと向かいます。
現場は厚生省に根回しをした外務省海外調整局行動課の花城と花城の上司である矢吹によって捜査権を奪われていましたが、現場を追い出された監視官の霜月美佳や執行官の宜野座たちは今回の事件のメインとなる被害者が慎導が誘致したミリシア・ストロンスカヤ博士であることを突き止めていました。
ミリシアは”ストロンスカヤ文書”と呼ばれる”シビュラシステム”が国内外に与える影響をシミュレーションしたデータを所持しており、犯人たちの狙いがそのデータであることが判明。
ミリシアと最後に連絡を取った人物であり常守とも親交のある元大学教授の雑賀譲二を訪ねた常守は、ミリシアが最後に”ストロンスカヤ文書”を出島にある私書箱に預けたことを知ります。
捜査は外務省との合同捜査となり、出島へと向かうメンバーの中に外務省海外調整局行動課の所属となった狡噛が現れ、「二度と自分や常守に近づかない」という約束を反故にされた宜野座は激怒しますが、一方で常守は冷めた目で狡噛を見つめていました。
移動の最中に花城は今回の犯人グループが”ピースブレイカー”と呼ばれる元外務省の海外実働部隊の成れの果ての武装集団であり、温厚だったはずの外務省職員・砺波告善が指揮していると常守たちに共有。
出島に着いた夜、久しぶりに再会した雑賀から「いずれ常守は道を踏み外したお前を執行(殺害)する」と言われた狡噛は常守に連絡を取ります。
事件の話をし終えた段階で狡噛は連絡を切り、常守は”あの日(アニメシリーズ1期)”の謝罪を狡噛から聞けなかったことに落胆します。
翌日、常守は雑賀と執行官の宜野座と須郷、花城は狡噛を連れて私書箱へと向かいますが、花城は矢吹の命令で雑賀の行動を”ピースブレイカー”に流しており、常守たちは”ピースブレイカー”の襲撃を受けます。
矢吹は”ピースブレイカー”を返り討ちにする算段でいましたが、”ピースブレイカー”の兵士たちは”犯罪係数”の高い相手にだけ発砲できる”ドミネーター”によるスキャンを免れるだけでなく、狡噛が頭部を撃ち抜いても死ぬことがなく圧倒されていきます。
兵士たちは雑賀が開けた私書箱に”ストロンスカヤ文書”が入っていなかったことを知ると雑賀を建物から突き落とし、常守は落ちかけた雑賀を掴みますが雑賀は「正義を俯瞰すること」を常守に伝えると落下し死亡。
狡噛は”ピースブレイカー”の甲斐と交戦しますが、甲斐は狡噛を殺せるチャンスがあったにも関わらず、その場を去って行きました。
雑賀の死に悲嘆に暮れる常守、一方で現場からは矢吹が姿を消しており、”ピースブレイカー”によって拉致されたことが分かります。
甲斐の残した言葉と彼のナイフに括りつけられた馬の毛から、”ピースブレイカー”のアジトが阿蘇であることを見抜いた狡噛と常守は、”ドミネーター”が使えないことから「違法武器の所持」を名目に銃火器での強制執行を厚生省公安局長の禾生壌宗の指示のもとに強行。
既に砺波はアジトから姿を消していましたが、甲斐が生きていた矢吹を連れて狡噛と宜野座の前に現れ、自身が慎導の命によって”ピースブレイカー”に潜入していた潜入捜査官の煇・ワシリー・イグナトフであると名乗り保護を求めます。
矢吹によって保護された煇は砺波が”ジェネラル”と呼ばれる黒幕の手先に過ぎないことや、砺波は部下の頭にマイクロチップを埋め込み、チップを遠隔操作して犯罪行動をすることで兵士たちの”犯罪係数”を低く保っていると話します。
砺波の目的が世界各国で起きる紛争を数値化した”紛争係数”を正確に測る”ストロンスカヤ文書”のデータを持ちうることで紛争を巻き起こすことにあると狡噛に語り、煇はデータを守るためにミリシアを殺害したと自白。
データは煇の脳内チップにインストールされていましたが、砺波は矢吹のチップを操り殺害後、煇に埋め込んだチップで煇を遠隔操作しデータを奪おうと画策していました。
映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』の感想と評価
状況が一変した2期と3期の間を埋める物語
1期と2期の主人公かつ公安局の監視官として「伝説」とまで呼ばれた常守朱でしたが、3期が始まると「人殺し」と呼ばれ突然拘留中の身となっていました。
常守の下で執行官を務めていたはずの宜野座伸元や須郷徹平も、3期では公安局所属ではなく外務省所属となっており、公安局と政治的な対立姿勢を見せることとなります。
1期でのもう一人の主人公であると同時に、海外への逃亡犯となった狡噛慎也も外務省所属として日本に帰国しており、多くの鑑賞者が状況の一変に戸惑いを隠せませんでした。
狡噛や須郷の外務省所属は映画『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』3部作で匂わされていたものの、常守の拘留は理由も含め謎のままの状況が続いていましたが、本作『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』で欠けていたピースが埋まります。
本作では3期の主人公となる慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフと常守の関係性も明らかになっており、ファンが待望していた劇場版作品となっていました。
“間違えないシステム”と”間違える人”の共存
感情を持つ人間は時に論理性や合理性に反する行動を取り、その結果取り返しのつかない自体を招いてしまうことがあります。
精神的・肉体的な疲労によって招かれる「ヒューマンエラー」も人間ならではのミスであり、この手のミスは完全な設計を持った”システム”では起こりえません。
AI技術の進歩によっていずれ多くの仕事がAIに奪われるとされる未来の時代に、最終的に「人間」が必要とされる部分はどの部分になるのでしょうか。
本作では絶対的な平和を実現可能な”シビュラシステム”によって、人の作り上げた”法律”の存在が危ぶまれている時代を舞台に、技術の進歩の先にある大きな選択を鑑賞者に投げかけていました。
まとめ
殺人犯となった常守、父親を失った灼、灼の父親によって殺害された炯の兄。
3期で謎のまま終わった要素の多くが語られる『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』はシリーズの歴史をひも解き、それぞれの物語が終局に向かうと考えられる今後の展開のために必見の作品。
これまでの作品のさまざまな要素が取り入れられていた本作は、プロジェクトの始動から10周年を記念する作品として物語のつながりを感じる熱い作品でした。