世界の真相が明らかになるシリーズ最終章
1983年に設立され『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』などの作品に携わり、3DCGの分野で世界を相手に存在感を見せてきた制作会社「ポリゴン・ピクチュアズ」。
そんな「ポリゴン・ピクチュアズ」の設立40周年記念作品と銘打たれ、製作されたのがテレビアニメ『大雪海のカイナ』です。
2023年の1月に放映され、独特の世界観と容赦のない展開が話題となった『大雪海のカイナ』ですが、同年10月には劇場版が公開されました。
今回はシリーズの完結編となる映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
安藤裕章
【脚本】
村井さだゆき、山田哲弥
【声のキャスト】
細谷佳正、高橋李依、村瀬歩、坂本真綾、小西克幸、杉田智和、堀内賢雄、大原さやか、熊谷健太郎、諸星すみれ、花江夏樹
【作品概要】
「BLAME!」や「シドニアの騎士」と言った著作で世界的な人気を誇る漫画家・弐瓶勉が原作を務めたメディアミックスシリーズの劇場版作品。
アニメ映画「亜人」シリーズを手がけた安藤裕章が監督を務め、同じく「亜人」シリーズで海斗の声を演じた細谷佳正が主人公カイナの声を担当しました。
映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』のあらすじとネタバレ
地表を覆った「大雪海」から逃れ、各地にそびえ立ち人々に水を授ける「賢者」たちの残した巨樹「軌道樹」に「天膜」を張り生活する人類。しかし徐々に各地の軌道樹は枯れ始め、人々は残った水を奪い合い戦争を繰り返していました。
軌道樹の上で育ったカイナはアトランド王国の王女リリハと出会い、アトランドを守るため侵略国家バルギアとの戦争に参戦し、巨大なロボット型の古代兵器「建設者」を所持していた「樹皮削り」と呼ばれる兵器で撃破し、バルギアの最高指導者ハンダーギルは死亡。
カイナの功績によって勝利を収めたアトランドは、不必要な交戦を望まないバルギアの士官アメロテの降伏を受け入れ、バルギアの国民を保護します。
しかしアトランドの貯水も残りわずかであり、豊富な水を提供するとされる「大軌道樹」を目指してリリハやカイナ、アトランドの親衛隊長オリノガ、リリハの弟ヤオナ、アメロテとその副官ンガポージたちは賢者の残した地図を信じ航海を始めました。
軌道樹はこの世界を作り出した賢者が授けたものであり、大軌道樹はきっとこの窮地を救ってくれると信じるリリハとカイナでしたが、元バルギアの兵士たちは不満を募らせ反乱を計画。
航海の途中、雪海が壁のようにそり立っている海域に突入した一行、船に取り付けられた「浮遊棒」によって船が沈むことはありませんでしたが、あまりの傾斜に船の設備が破壊され元バルギアの兵士たちも窮地に陥ります。
かつて敵同士として、アメロテと戦いを繰り広げたオリノガが率先して元バルギアの兵士を救ったことで、一同は一丸となり壁を突破。大軌道樹も間近となった時、雪海の中から破壊したはずの建設者が現れ船を襲撃してきます。
カイナはふたたび樹皮削りを使っての破壊を目論みますが、建設者の攻撃によってカイナとリリハは雪海に落ち、リリハは貨物に服が引っかかったカイナを救うために樹皮削りを利用し、遥か深くへとつながる雪海の底へと樹皮削りを落としてしまいました。
カイナとリリハは何とか漂流する船の残骸に捕まることで助かりますが、船に残ったアメロテたちは建設者を操っていた人間たちに生け捕りにされてしまいます。
漂流するカイナとリリハは、船の残骸をイカダのように操ることで数日をかけて大軌道樹を見つけ、アメロテたちが連れ去られたと思われる大軌道樹の麓に建つ巨大な街へとたどり着きます。
街には1機でアトランドを危機に追いやった建設者が大量に配備されており、「地上」と呼ばれる雪海の下にある地から、大軌道樹が吸い上げた大量の水もありました。
プラナトと呼ばれるこの国の巨大な城の前に、最高指導者のビョウザンが現れます。一般国民を奴隷のような扱いを受ける「労働者」と彼らに命令を下す「御官民」に分け、国家総出で大軌道樹との敵対するために「権限者の服」を手にすることを宣言。
ビョウザンの横にはアメロテが付き従っており、御官民に隠れていることを気づかれたカイナとリリハはアメロテによって囚われ、カイナは地下に送られリリハはビョウザンの前に引きずり出されます。
プラナトは12人の「長老」によって運営されていた賢者が初めて作った国とされており、世界を作った賢者たちの残した大量の資料が残されていました。
ビョウザンはその資料を研究し続け、雪海を作り出しているのは大軌道樹そのものであると言う結論に至っており、大軌道樹を切り倒すことで雪海を世界から取り除けると考えていました。
巨大な大軌道樹を切り倒すためには大量の建設者を動かす必要がありますが、建設者に大軌道樹の切断を命じるためには、賢者の残した権限者の服が必要不可欠でした。
権限者の服を手に入れるため、「ひかり」と呼ばれる軌道樹の精霊を見ることができるリリハを仲間に加えようとするビョウザンでしたが、彼の非道な振る舞いにリリハは拒否の姿勢を示し、離れに幽閉されます。
ビョウザンに付き従うことで元バルギアの兵士たちの自由を手にしていたアメロテは、人類を救うためにビョウザンの言動を信じてはいましたが、一方でリリハのこの後の選択にも注視していました。
その頃、地下へっと送られたカイナは「始まりの地」と呼ばれる洞窟で強制労働に従事させられていました。
映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』の感想と評価
炸裂する弐瓶勉の世界観
「ポリゴン・ピクチュアズ」はこれまでに『BLAME!』(2017)や『シドニアの騎士 第九惑星戦役』など、弐瓶勉の代表作といえる漫画作品を3DCGアニメ化してきました。
そんな関係浅からぬ両者がメディアミックス作品として始動させた『大雪海のカイナ』は、弐瓶勉としては珍しい純粋なファンタジー作品として幕が切られます。
しかしアニメシリーズの終盤、「東亜重工」という弐瓶勉作品に登場する企業名をその名に刻む巨大ロボット「建設者」が登場すると、物語は弐瓶勉定番の“SF作品”としての様相を見せ始めました。
弐瓶勉作品では定番の武器「重力子放射線射出装置」のような「樹皮削り」をはじめ、「シャキサク」という咀嚼音でファンに知られる『BLAME!』や『人形の国』に登場する固形食料も登場する本作。
ファンなら感激すること間違いなしの弐瓶勉の世界観が炸裂した劇場版作品でした。
劇場版にして完結編作品
アニメやドラマの劇場版作品はさらなる続編を匂わせるような形であったり、“最後の作品”として描きながらも数年後に続編が作られることが多く、「本当に最後なの?」という疑問を覚えることがあります。
『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』はそんな心配が杞憂になるほど、続編が作られるような余地すら残さずに完結します。
人が生活できない「大雪海」の存在、そんな大雪海に覆われた世界で人に水を与える「軌道樹」、世界を作り出したとされる「賢者」の伝説、そして一部の人間にだけ見える精霊「ひかり」の存在。
「ファンタジー作品だから」といえば片付いてしまいそうな設定の数々にしっかりと意味を与え、崩壊する世界を救う物語を展開する本作は、『プロメア』(2019)のようなSF作品が好きであり、『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(2021)のようにしっかりと完結する物語が観たい人にオススメです。
まとめ
弐瓶勉の世界観を全力で表現してきた「ポリゴン・ピクチュアズ」だからこそ描ける、ポストアポカリプスとファンタジーの融合アニメ『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』。
物語展開の意外性と完結する物語に感動を覚える本作は、冒険ファンタジー映画としてもSF映画としても楽しめる、全アニメ好きにオススメできる高クオリティな3DCGアニメ映画でした。