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『グッバイ、ドン・グリーズ』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。花江夏樹×梶裕貴×村瀬歩が声で紡ぐ「ひと夏の冒険」

  • Writer :
  • 糸魚川悟

『宇宙よりも遠い場所』いしづかあつこ監督が贈る、
ひと夏の冒険の物語。

時をかける少女』(2006)や『サマーウォーズ』(2009)など、アニメ映画といえば不思議と夏を題材とした作品を思い浮かべてしまいます。

夏の風景が青春とともに描かれる「夏アニメ」の数々は、夏以外でも、そして大人になってからでも楽しめるひとつのジャンルといえます。

今回は話題となったテレビアニメをいくつも手がけた、いしづかあつこがオリジナル脚本で製作した夏アニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

アニメ『グッバイ、ドン・グリーズ!』の作品情報


(C)Goodbye,DonGlees Partners

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
いしづかあつこ

【脚本】
いしづかあつこ

【キャスト】
花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩、花澤香菜、田村淳、指原莉乃

【作品概要】
テレビアニメ『宇宙よりも遠い場所』を手がけたいしづかあつこが、自身のオリジナル脚本を劇場映画化した作品。

アニメ『鬼滅の刃』で主人公の竈門炭治郎を演じた花江夏樹や、アニメ『進撃の巨人』で主人公のエレンを演じた梶裕貴が声優として参加したことで話題となりました。

アニメ『グッバイ、ドン・グリーズ!』のあらすじとネタバレ


(C)Goodbye,DonGlees Partners

夜、高校生の鴨川朗真(ロウマ)と御手洗北斗(トト)は自転車で山を越えた先にある空港を目指していました。

鉄道すら走っていない山道を猛スピードで下るロウマは自転車から転倒してしまいますが、その先に見える空港に2人は強い想いを抱きます。

時間は遡り高校1年生の夏休み、田舎町で両親の畑仕事を手伝うロウマは幼い頃から周囲に馴染むことができず、高校でも孤立していました。

夏休みに入り、東京の高校に進学した親友トトが地元に戻ります。

2人は小学生の頃から自分たちを「ドン・グリーズ」と名づけ山奥のテントで作った秘密基地の中で時間を過ごしており、今年の夏休みも同じように過ごす予定でしたが、今年は町に突然現れた同年代の佐久間雫(ドロップ)も加わり賑やかなものになります。

夏祭りの日、町中の同年代の若者は隣町の花火大会へと赴くのが常ではありましたが、3人は町の商店で買った花火の打ち上げを計画。

ロウマは花火を空撮するために全財産を使いドローンを購入し、隣町の花火大会と同じ時間に花火を打ち上げようとします。

しかし、湿気った花火は火がつくことがなく、さらにドローンは制御不能となりどこかに行ってしまいました。

その日の夜、町の近くの山で大規模な山火事が発生し、ロウマはクラスのチャットグループやSNS上で自分たちが山火事の放火犯に仕立て上げられていることを知ります。

トトは東京の高校で医者になるために勉強に励んでおり無実の罪を被ることに恐怖を覚え、ロウマはただただ自分に向けられた悪意に怯みます。

ですが、ドロップはドローンの映像に自分たちが映っていれば無実の証明になると言い、ロウマがアプリで突き止めた1日以上かかる山奥へとドローンを回収しに向かおうと誘います。

無謀な計画にトトは反対しますがロウマが乗り気になったことで、トトも仕方なく計画に乗ることにしました。

家族に嘘をつき家を抜け出したロウマとトトはドロップと合流し山道を進みます。

ドロップは「最期の旅」と言い道を先導しますが、計画していた山道は山火事の影響で全面通行止めとなっていました。

別日に行くことを提案するトトでしたが、ドロップが「諦めたくない」と勝手に計画にない山道へ入り、その先でクマに遭遇。

何とかクマから逃げ延びた3人でしたが、スマホが圏外になったこともあり現在位置を完全に見失ってしまいます。

歩きながらトトはロウマが一眼レフカメラを持ってきていることに気づきます。

中学生の課外活動の日、ロウマは一眼レフを持っていったことから同級生であり町中で憧れの存在である浦安千穂里(チボリ)から話しかけられ、写真家を夢見る彼女に写真を撮ってもらいます。

それ以降、彼女を想っていたロウマでしたがチボリが親の都合でアイルランドへと移住。

中学生の最後の日、トトはアイルランドに住むチボリの電話番号を手に入れロウマに強制的に電話をさせますが、電話が通話状態になった段階でロウマは電話を切ってしまい、それ以降カメラを取り出すことがありませんでした。

山の中で滝を見つけたドロップは、過去に自分が住んでいたアイスランドの大きな渓谷を旅した話をロウマとトトに話します。

虹がかかり黄金色に輝く滝のある渓谷にある電話ボックスの電話に出ると、自分の探している「宝物」が分かる、と言う言い伝えを実行し、自身の「宝物」を見つけたとドロップは話しますが、トトは「ファンタジー」だと言い張り興味を持ちませんでした。

ドロップの先導で長く歩き夜になりますが同じ滝のある位置に戻ってきてしまい、痺れを切らしたトトとドロップは喧嘩となり、仲裁したロウマに「ドン・グリーズ」なんてダサいと言った事でロウマは傷つきその場を離れてしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『グッバイ、ドン・グリーズ!』のネタバレ・結末の記載がございます。『グッバイ、ドン・グリーズ!』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)Goodbye,DonGlees Partners

ドロップと2人になったトトは東京の進学校に入学してから、田舎町で優等生であったはずの自分がちっぽけな存在であったことを自覚してしまい焦っていたと告白。

しかし、そんな自分でも親友で優等生だと思ってくれるロウマを裏切れないと言い、トトは流星群を見つけ戻ってきたロウマとドロップと仲直りをします。

3人が夜を明かした場所がネットが繋がる場所であり現在地を特定した3人は、圏外でも現在位置を特定できるアプリをインストールし、翌朝ドローンの発信地へと向かいます。

道中でロウマとトトはドロップがこの旅を諦めない理由に「最期」や「世界の終わり」と言う言葉を使うことに気づき、ドロップが治療困難な病を抱えていることを察します。

しかし、2人の心配とは裏腹にドロップは道を独走し「先についた人にコーラを奢る」賭けを宣言しキックスクーターでかけて行きました。

目的地周辺にいち早くついたドロップでしたが、道の先は水没し完全に行き止まりとなっており、心の折れたドロップは自分の旅に2人を巻き込んだことを謝罪。

巻き込まれたわけじゃないと謝罪に怒ったロウマはドロップとトトを連れ戻ることにしますが、立ち止まった先に迂回路を見つけ、その先で探していたドローンを見つけました。

帰り道は一本道であり、迷うことさえなければ1日もかからない旅だったと思い返すロウマでしたが不思議と満たされた気分となります。

ドローンの映像には無実の証明となる映像は残されていませんでしたが、ドロップにコーラを奢る2人は奇跡的に隣町の花火大会を空撮していたドローンの映像に驚き、再会を心に秘めそれぞれの日常に戻ります。

夏休みが終わり学校が始まるといつしか町の人間は山火事のことを忘れ、旅の影響で海外のチボリとの交流を始めたロウマはドロップと連絡が取れなくなったことを心配に思います。

冬が近づきトトからドロップが病気で死亡したと言う連絡を受けたロウマは泣き崩れ、ロウマを心配し駆けつけたトトと一緒に「ドン・グリーズ」のテントを燃やします。

2人はテントの中で「ありがとう」と書かれた手紙とドロップから2人に向けて奢られたコーラを見つけました。

意気消沈するロウマはコーラを飲むとコーラのペットボトルに絵が書いてあることに気づきます。

トトのペットボトルの絵と合わせるとそれがアイスランドのある位置を指していることが分かり、それがドロップからの「宝物」の地図であると知りました。

2人はその日以降準備を重ね、準備の整ったある日の夜、自転車で空港を目指します。

長旅を終えアイスランドに着き、ドロップの書いた曖昧な地図が示す場所にある滝をテントに泊まりながら片っ端から尋ねるロウマとトト。

諦めずに探し続けた2人は渓谷の奥でドロップの言っていた虹がかかり黄金色に輝く滝を見つけ、その壮大さに感動します。

すると背後から電話の音が鳴り響き、その場所にある電話ボックスを見つけ走り寄ります。

間一髪で電話を取ることが出来ずにショックを受ける2人でしたが、ロウマとトトはそれぞれあることに気づきます。

トトは電話ボックスにあった「宝物:15歳の最後の旅を見届けてくれる友人」と書かれたコーラのラベルを見つけ、ロウマはこの電話ボックスの電話番号を見つけます。

電話ボックスの電話番号は「アイルランド」に住むチボリの電話番号と1字違いであり、中学生の最後の日にトトがチボリにかけたはずの電話は間違ってこの電話ボックスに繋がり、その電話を人生最期の「宝物」を探すドロップが取っていたのでした。

2人は勘違いの生んだ奇跡に感動し、世界は自分の行動でいつでも見下ろすことの出来るものなのだと、晴れやかな顔で山から世界を見渡しました。

アニメ『グッバイ、ドン・グリーズ!』の感想と評価


(C)Goodbye,DonGlees Partners

忘れられないひと夏の冒険を描いた青春夏アニメ

親の仕事や自分自身の性格にコンプレックスを抱える少年ロウマ。

ロウマはそんな日々に鬱屈としながらも現状を打開しようとはせず、東京に進学した親友のトトが戻る夏休みを楽しみにただ毎日を過ごしています。

そんなロウマがトトや、新たに町に現れた謎の少年ドロップと共にひょんなことから山奥へと冒険に向かう本作。

世界は想像もつかないほど広く、その大きさに飲み込まれるほどでありながらも、宇宙というスケールから見ると地球はとてもちっぽけなものです。

自分で作り出した世界を一歩出ることで自分を縛り付けていた檻から解放される、と言うメッセージが夏と青春の要素から伝わって来る作品でした。

巧みな脚本によって生み出される奇跡の物語


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とことん前向きで決して諦めない謎の少年ドロップ。

本作はドロップの出自もなぜ日本の田舎に居るのかも明かされないまま物語が展開し、3人は喧嘩や己のコンプレックスと向き合いながら道を進んでいきます。

そして旅の終わりとドロップの隠していたことが明らかになった時、脚本に隠された秀逸な伏線によって壮大な奇跡の物語が完成します。

3人の旅の行方とドロップがアイスランドの地で体験したという電話ボックスの物語。

3人の人生がひとつに重なっていくラストは涙なしには観ることのできない必見の作品でした。

まとめ


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大人になってから鑑賞する「夏アニメ」は、子供時代に感じた夏の雰囲気を楽しめる「ノスタルジー」を感じることが出来、そこが人気の所以でもあります。

本作はそんな「ノスタルジー」の要素をしっかりと取り入れつつも、大人になっても大事にしたい力強いメッセージが込められていました。

親友たちと歩むひと夏の冒険と、彼等の人生が生んだ奇跡の物語に涙すること間違いなしの映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』は大人から子供まで全ての人に観ていただきたい作品です。



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