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映画『ぼくの名前はズッキーニ』ネタバレあらすじと感想考察。ストップモーションアニメで描く孤独な子供たちの愛と友情

  • Writer :
  • からさわゆみこ

アニメ映画『ぼくの名前はズッキーニ』は、クロード・バラス監督初の長編作品。

映画『ぼくの名前はズッキーニ』のキャラクターのキャスティングは、アマチュアの俳優をオーディションして決定。

主役のズッキーニの声はガスパール・シュラター、ズッキーニを優しく見守るレイモンの声は俳優ミシェル・ヴュイエルモーズが担当しています。

バラス監督はこの作品を、1960年のフランス映画『大人は判ってくれない』を意識して手掛け、虐げられた子供たちに「わかってくれる大人もいるよ」と伝えようと、パペットによるストップモーションアニメーションで制作。

54体の人形と60のセットを使い、8カ月以上の撮影とコンピューター処理などの編集にさらに8カ月を費やし、結果的に完成までに2年という時間を要し、50人以上のアニメーターや職人の努力の結実した作品です。

映画『ぼくの名前はズッキーニ』の作品情報

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

【公開】
2016年(スイス・フランス合作映画)

【監督】
クロード・バラス

【脚本】
セリーヌ・シアマ

【原題】
Ma vie de Courgette

【原作】
ジル・パリス作『Ma vie de Courgette』

【キャスト】
ガスパール・シュラター、シクスティーヌ・ミュラ、ミシェル・ヴュイエルモーズ、ポーラン・ジャクー、ラウル・リベラ

【作品概要】
『ぼくの名前はズッキーニ』のキャラクターのキャスティングは、アマチュアの俳優をオーディションして決定したほか、ズッキーニを優しく見守るレイモンの声を担当するミシェル・ヴュイエルモーズは、フランス映画『天国でまた会おう』(2019)『愛して飲んで歌って』(2015)などに出演している俳優です。

脚本家のセリーヌ・シアマは、デビュー作の『水の中のつぼみ』(2008)がカンヌ国際映画祭 ある視点部門にて、ルイ・デリュック新人賞を受賞した後、映画『トム・ボーイ』(2011)の監督も手掛けています。

本作はフランスのセザール賞で、最優秀長編アニメーション賞を受賞したほかに、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭では、クリスタル賞及び観客賞を受賞。また、第89回アカデミー賞で長編アニメーション部門、第74回ゴールデングローブ賞で最優秀長編アニメーション映画賞にそれぞれノミネートされました。

映画『ぼくの名前はズッキーニ』のあらすじとネタバレ

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

粗末なアパートの屋根裏部屋でいつも一人遊びをしているイカールは、母親から“ズッキーニ”と呼ばれている9歳の少年です。

ズッキーニは凧にヒーローとメンドリを描いて、窓から外に向けて揚げています。ズッキーニの部屋にはたくさんのビールの空き缶が散らかり、壁にもヒーローとメンドリの絵が描かれています。

屋根裏部屋の下ではズッキーニの母親がテレビを見ています。ズッキーニはその姿を少し開いたドアの隙間から、黙ってジッと見つめています。

ズッキーニは声をかけたそうに立っていましたが、部屋のあちこちに転がった、母親の飲んだビールの空き缶を拾いはじめました。

それを屋根裏部屋に持って行き、高く積み上げる遊びをするズッキーニ。しかし、一番高いところに缶を置こうとして、乗っていたイスのバランスが崩れて、缶の塔を倒してしまいます。

缶は階下に転がり落ちてしまい、けたたましい音に母親は苛立ち、激しくズッキーニの名を呼びます。

その怒り声に怯えるズッキーニは謝るのが精一杯です。しかし、母親は「ビンタをまた食らいたいのかい。覚悟をおし!」と言って、屋根裏部屋の階段を上ってきます。

母親の頭が屋根裏の入口から見えると、ズッキーニは慌ててドアを閉めてしまいました。その拍子に母親は階段から転げ落ち、不運にもそのまま死んでしまいました。

ズッキーニは警察署に保護され、警官のレイモンから母や父の事を聞かれます。

「ママはビールばかり飲んでいたけど、作るポテトは美味しかったし、たまに笑っていた。パパはメンドリ(若い娘)が好きだから一緒にいる」

こう言うと、ヒーローとメンドリの絵を描いた凧をレイモンに見せます。レイモンは凧の絵を見ながら言います。

「君はこれから同じような境遇の……両親のいない子達と一緒に暮らすんだ」

ズッキーニは「ママはいるよ」と言います。レイモンが「ママは出かけたんだよ。イカール」となだめると「“ズッキーニ”だよ!」と、母親からの呼び方に訂正しました。

レイモンは優しく親切な警官でした。ズッキーニを孤児施設まで連れて行く時には車内から「凧を上げてもいいぞ」と言って、スピードをあげてくれたりするのです。

以下、『ぼくの名前はズッキーニ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ぼくの名前はズッキーニ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

ズッキーニは孤児施設の「フォンティーヌ園」に来ました。園長のパピーノ先生も優しそうな人です。

園にはレイモンが説明した通り事情は異なりながらも、両親のいない子供たちが暮らしていました。

ズッキーニは入所して早々に、リーダー格の少年シモンから「イモ」と言われ、からかわれます。そしてランチタイムに彼はズッキーニに、しつこく園に来た理由を聞くのです。

シモンは施設を“ムショ”と呼び、言葉遣いも粗暴です。黒人の女の子ベアトリスは正義感の強い優しい子で、乱暴なことを言うシモンを注意します。

そして、シモンが新入りを乱暴な言葉でののしり始めると、左目を髪の毛で隠すアリスは必ず、落ち着きなくフォークで食器を叩き始めます。

ズッキーニの初日は孤独感と先行きの不安で始まりました。そして、翌朝になるとシモンが、ズッキーニの凧を勝手に持ち出して庭で揚げていました。

それを見て怒ったズッキーニはシモンにとびかかります。ズッキーニは自分よりも背の高いシモンを倒し、腕を締め上げるくらいにケンカが強い子でした。

シモンとズッキーニはパピーナ先生から園長室に呼び出されケンカの理由を聞かれます。シモンは嘘をつきますが、ズッキーニは反発せずに「ママのところに帰りたい」とだけ訴えるのでした。

パピーナ先生から「ママはお空でしょ?ここは楽しいわ。本当よ」と、なだめられ、園長室を出ました。

廊下にいたシモンは「イモ野郎」と呼びますが、ズッキーニは無視します。すると次にシモンは「ズッキーニ」と名前で呼ぶと、ズッキーニは振り向きシモンは苦笑いしました。

シモンは自分が施設に来た理由を、両親が薬物中毒だからと話します。そして、他の子の理由も説明しはじめます。

ベアトリスは母親が強制送還されてしまい、ジュジュブは母親が精神病で、アメッドの父親は強盗で投獄され、アリスは父親から性的虐待をされ保護されました。

みんなの事情を聞いたズッキーニは「ぼくはママを殺したからかな。わざとではないけど」と告白します。

シモンは驚きもせず冷静に「皆同じさ。誰からも愛されていない」と、つぶやくのでした。

ズッキーニは施設でのことを絵日記にしていました。それを面会に来たレイモンに見せて驚かせます。

そして、ズッキーニは言います。「ここは楽しいよ。でも、いつか来なくなるんでしょ?」と。

レイモンは「義務でも仕事でもなく、ズッキーニのことが好きで会いに来ている」と言いました。

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

そこに新しい女の子が若い女性に連れて来られます。ズッキーニはその子のことが気になり部屋まで見にいくと、ロッカーに隠れるよう手招きし、その中で「私はカミーユ」と自己紹介をしました。

その晩の夕食の時、シモンはカミーユに来た理由を聞きます。カミーユは賢い子でシモンをボスだと理解し、来た理由を冗談でかわします。

カミーユの優しい雰囲気は園の子たちを和ませ、すぐに人気者になったのです。

カミーユのことが気になるズッキーニは、来た理由が知りたいと思い、シモンと一緒に園長室へ深夜に忍び込み、カミーユの資料を読んでしまいました。

ある日、園の一泊レクリエーションで、雪遊び旅行をしに雪山まで出掛けました。

その晩、ズッキーニはカミーユの誕生日プレゼントを渡します。誕生日は過ぎていましたが、3カ月前にはまだ知り合っていなかったから、これが最初の誕生日と言います。

ズッキーニは正直に書類を見たとカミーユに話します。カミーユの母親の浮気が原因で父親が母を銃殺し、自分は自殺したのでした。

その後、叔母と暮していたけれど結局、施設に連れて来られたと言います。カミーユは怒鳴ってばかりの叔母と一緒にいるより、施設の方がいいし、ズッキーニと出会えたことに喜びを抱いていました。

しばらくたったある時、カミーユの叔母が急に彼女を引き取ると言い出し、判事の判断に委ねることとなりました。

カミーユを助けようとした園の子供たちは、ズッキーニがレイモンと外泊する日に合わせて脱走させます。

そのことがきっかけになり、レイモンはズッキーニとカミーユの里親になることを決め、2人はフォンティーヌ園を出ることになりました。

3人は新しい生活を幸せに過ごします。そして、ズッキーニは親友となったシモンに手紙を書くのです。

「施設には誰からも愛されない人ばかりと言ったね。違うと思うよ。ぼくは君を忘れてないもの。他の仲間のことも」

映画『ぼくの名前はズッキーニ』の感想と評価

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

親にも“理想の親の姿”はありますが、理想に反するのが子育てです。大人はいつもこう言い訳しながら、子供を可愛がったり叱ったりしています。

「大人は自分勝手だ!」と、子供は言うでしょう。でも、どうでしょう? 無我夢中で向きあってくれる親もいれば、子供を放棄してしまう親もいるのですから、皆が自分勝手とは言えません。

誰にでも子供の時代があります。縁があって親になった時、ある意味、自分の両親が子育てのお手本であり基準になったりします。

ただし、両親がステキな人だったとしても、自分の結婚は相手によって理想と変わることもあるでしょう。

子供がさまざまな経験を経て大人になるように、大人が「親」になる時にも大きな変化があって、戸惑いや苦悩を抱えることもあります。

そして時には子供を巻き込んでしまうこともあるのです。

日本とフランスの虐待対策

『ぼくの名前はズッキーニ』の作中でカミーユが叔母との外泊を拒んだ時に、園の先生は「子供の意見を尊重して!」と毅然とした態度で叔母に話します。

日本の児童相談書は権限が限られていて、思いきった方法が取れない現実があり、幼い尊い命が失われる事件も多く起こっています。

フランスには児童相談書というシステムはなく、街をあげて虐待などのリスクのある子供の情報を、情報統括部へ直に通報できるシステムになっています。

そして、最悪な事態から子供を守れるよう、国民には発見や疑いがある場合は通報することを義務化していて、違反すると罰金も課せられてしまうのです。

フランスには警察に“児童保護班”という専門部隊があるようです。レイモンはその部署の警察官だったのでしょう。

まとめ

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

本作『ぼくの名前はズッキーニ』は、いろいろなタイプの事情に巻き込まれた子供が登場します。不運な子供たちですが、この子たちは理解してくれる大人の下で、たくましく生き抜こうとしていきます。

この作品はパペットによるストップモーションアニメですが、大人や子供にしっかりメッセージが伝わるよう、パペットに虐待でついた傷をつけたり、心の後遺症についても表現しています。

残酷なできごとは子供の目線で表現されていて、どの世代が見てもストレートに内容が伝わる工夫がされていました。

昨今、児童虐待というデリケートな内容を映画化した作品が、多数制作されています。その多くは問題点にスポットを当て、現実的に追求する手法が多くみられます。

問題を抱えた子供たちの心のよりどころとなるべき大人が、子供たちからどうしたら安心し信じてもらえるようになれるのか? 心身共に傷つき心を閉ざした子供とどう接すればいいのかと、それを教えてくれる『ぼくの名前はズッキーニ』は、その中の一つの作品と言えるのです。

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