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【ネタバレ】終末の探偵|あらすじ結末の感想と評価考察。伝統的ハードボイルドの色味を現代の視点で描いたおすすめサスペンス

  • Writer :
  • 桂伸也

ハードボイルドの原点を現代によみがえらせた傑作「探偵」物語

北村有起哉が破天荒な探偵役に挑戦した、映画 『終末の探偵』

東京・新宿を舞台に、裏社会で発生し複雑に絡み合ったさまざまな事件を、一人の探偵が解決に導くさまを描いたハードボイルド・ストーリー。

主演の北村を中心に松角洋平、古山憲太郎、川瀬陽太らベテランや武イリヤ、青木柚、高石あかりらフレッシュなメンツが出そろいました。

映画『終末の探偵』の作品情報


(C)2022「終末の探偵」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
井川広太郎

【脚本】
中野太、木田紀生

【キャスト】
北村有起哉、松角洋平、武イリヤ、青木柚、高石あかり、水石亜飛夢、佐藤五郎、茨城ヲデル、松沢蓮、牛丸亮、諏訪太朗、古山憲太郎、川瀬陽太、高川裕也、麿赤兒

【作品概要】
裏社会に生きる型破りな私立探偵が、その闇の世界で入り組んだように発生したさまざまな事件の解決に挑む物語。

作品を手掛けたのは、『東京失格』(2006)『キミサラズ』(2017)の井川広太郎監督。

主人公・新次郎役を北村有起哉が担当。キャストには他に『燃えよ剣』(2021)などの松角洋平、俳優・モデルの武イリヤ、『うみべの女の子』(2021)などの青木柚らが名を連ねています。

映画『終末の探偵』のあらすじとネタバレ


(C)2022「終末の探偵」製作委員会

とある寂れた街。この町にある喫茶店を根城としてゴキブリのように生きる探偵の連城新次郎(北村有起哉)は、ある日ヤミの賭博場で起こしたトラブルをきっかけに、ヤクザ・笠原組の幹部で、知り合いである阿見恭一(松角洋平)より面倒な仕事を押しつけられてしまいます。

それはそのころ発生した放火事件の調査。その事件には、笠原組が敵対する中国系マフィア・バレットの関与が疑われていました。

一方で事務所には一人の女性依頼人ミチコ(武イリヤ)が現れます。

フィリピン人の両親が強制送還させられた過去を持つミチコより、新次郎は謎の失踪を遂げたクルド人の親友女性・メヒアの捜索を依頼されてしまいます。

こうして彼は、2つの事件に翻弄されていきますが……。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『終末の探偵』ネタバレ・結末の記載がございます。『終末の探偵』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

新次郎が新宿・歌舞伎町でバレットの幹部であるチェン・ショウコウ(古山憲太郎)の素性を聞き込み回る中、いよいよチェンと接触の機会を得ることになります。

明らかに違法な薬を楽しむ客がいる、怪しいバーの中で新次郎と対面するチェンは、あくまで放火の疑いを否定するとともに、笠原組自体の存在を「オワコン」と一言、一蹴します。

そのことを告げに恭一の事務所を訪れる新次郎。

ことの進展を理解できず、新次郎は恭一が自分とバレットの間でもめ事を起こさせることで警察を動かし、問題の一挙解決を図ろうとしているのではないかと疑いをかけます。

そんな新次郎に、自身も組の存続に悩んでいることを明かす恭一。彼はそれよりこの新宿こそが自分の居場所であることを強く主張します。

そしてあるとき、新次郎は道端でミチコと偶然対面します。

新次郎は、両親がかつて日本を強制退去させられたフィリピン人であり、彼女は一人日本に残された少女ガルシア・ミチコだったと、テレビのニュースで報じられていたことを思い出したと、打ち明けます。

それを聞いたミチコは、その事実を認めるとともに、一人日本に生きる自分の今があるのは、同じように虐げられてきたメヒアが親友としていてくれたからだと明かします。

そして別の日、新次郎はミチコとともにかつてメヒアが務めていたという廃品回収業者のもとへ訪れ、そこでメヒアと同日に仕事を辞めたという、小倉幹彦(水石亜飛夢)という男性がいることを突き止めます。

さらに新次郎は、彼がとある外国人クラブに仕事をあっせんしていたことを聞き出しクラブに足を向けますが、既に彼女は退店したことを聞き、足取りは途絶えてしまいます。

しかし次の日、新次郎はネットのニュースで恭一が突然何者かによってボウガンで撃たれ負傷してしまったことを知り、入院した恭一のもとを訪れます。そこで新次郎は意外な事実として、疑いをかけていたバレットも放火の被害を受けたことを聞かされます。

新次郎は決心し、ボウガンの犯人を探し出すことと引き換えにメヒアの足取りを調べてもらうことを恭一に要求します。

ところが、恭一の部下はバレットの一味が恭一を負傷させたと誤解し、その報復としてチェンの部下を襲ってしまいます。

笠原組とバレットの戦争勃発が危惧される中、新次郎はチェンのもとに出向き、戦争をやめさせるよう説得を試みますが、チェンは彼の言葉を聞き入れようとしません。

放火にボウガン事件と不可解な事件が続く中、今度は新次郎自身がボウガンで狙われることに。幸い浅い傷で済み、新次郎は犯人を追いかけます。

すると犯人は、新次郎がかつて大きな世話になっていた新宿の長老(麿赤児)のもとで、ボランティアとして働いていた大学生の佐藤翔(青木柚)であることが判明します。

しかも現場に置かれた写真からは、ミチコも彼に狙われていることを突き止めます。間一髪でミチコを救った新次郎は、佐藤が全くの主観で人を「世の役に立たない人間」と決めつけ、それを処理するドブさらいとして行動を起こしていたという告白を聞いて怒りをあらわにし、鉄拳制裁を加えるとともに警察に突き出し問題解決を図ります。

このことで新次郎は、恭一よりメヒアに関する調査結果を受け取ります。恭一は笠原組の組長(川瀬陽太)が組員たちに内緒で新宿の再開発を手掛ける実業家・辻原正義(高川裕也)と手を組んでおり、組を解散に追いやるとともに再開発の甘い汁を吸おうとしていることを突き止めており、メヒアはその辻村の別邸にかくまわれているということでした。

こうしてメヒアの救出に成功した新次郎ですが、残念ながらメヒアとその家族は、どこかの心無い人間の告発により収容所に収監されることに。

怒りをあらわにするミチコの話をしっかりと聞きつつ「またな」と一言声をかけて別れた新次郎。彼は今日もまた、この薄汚れた町・新宿の片隅で、変わらぬ自分のまま生きていくのでした。


映画『終末の探偵』の感想と評価


(C)2022「終末の探偵」製作委員会

伝統的な「探偵像」を踏襲

松田優作の『探偵物語』、萩原健一の『傷だらけの天使』などといったハードボイルドストーリーで描かれてきた、いわゆる個性的な「探偵像」

どこかさえない人間だけど、自身の芯がブレない感覚、ここぞというときで何かに屈することはなく、弱者には優しいヒーロー像。

時代設定としては現在に合わせた色味も見えますが、北村有起哉の描く探偵像は、この伝統をしっかりと踏襲したスタイルであります。

作中でもっともそのキャラクターを表しているのが、実は彼の乱闘シーンに表れているといえるでしょう。

彼の乱闘シーンは、どこかコミカルながら、複数の敵が襲ってきてもまず誰か一人にターゲットを絞り「噛みついたら離さない」といった戦い方を見せてきます。

この乱闘部分はどこまでが段取りでつくり上げられた戦い方かはわからないものの、全体的にアドリブっぽい中で北村は一途な「新次郎らしさ」をしっかりと織り込んでいると見ることができるでしょう。

この役作りはまさしく本作のカラーの大半を担っているものといえます。

純潔の中の醜さ、薄汚れた中の美しさ


(C)2022「終末の探偵」製作委員会

本作を現代風にアレンジしていると見える傾向の中で目立つのは、近年の社会問題の取り上げ方にあるといっていいでしょう。

中国マフィアの台頭、これに拮抗する暴力団集団の衰退。一方で根強く残る人種差別問題、これに付随する「いじめ」の問題。

前者は、いわゆる「ヤクザ」と呼ばれる集団の衰退と海外勢力の侵攻、街の再開発、浄化という勢力との対立抗争を描いています。

この構図の中では再開発事業の闇の部分、つまり一見美しいものながら裏に見える闇の部分にスポットを当てています。

一方の反社会勢力に関しては、暴力的な表現の中で「純粋な思い」を前面に出した、どちらかというと「美しい」景色を表現しており、藤井道也監督の『ヤクザと家族』を彷彿する部分でもあります。

もっとも印象的に見えるのが、クライマックス間近に見られる笠原組幹部・阿見恭一とバレット幹部・チェン・ショウコウのタイマン勝負の場面になります。

何もかもかなぐり捨て、素手による対決で見せる2人の表情はどこかすがすがしくもあります

一方、差別問題に関してはどちらかというと「闇」の部分がクローズアップされているといってもいいでしょう。

青木柚演じる大学生・佐藤翔は、一見まじめでボランティアにも積極的に参加する優しい人間です。

しかしその裏ではヤクザ、移民などといった人間を「社会に役に立たない人間」として、影でさまざまな悪行を繰り返します。

彼をこの行動に駆り立てているのは、ある意味保守的な思想に基づく過激行動といえ、デンマークのウラー・サリム監督作品『デンマークの息子』(2019)のような物語を想起させるものでもあります。

このようなそれぞれ描かれた社会的問題に対する「純潔の中の醜さ、薄汚れた中の美しさ」のコントラストも、本作の魅力の一つといえるでしょう。


まとめ


(C)2022「終末の探偵」製作委員会
タイトルに付く「終末」という語彙は非常に印象的なポイントです。

物語の中心となる歌舞伎町ですが、旧コマ劇場跡の周辺は近年、大規模の再開発が進みすっかり様変わりしました。

かつては堅気の人間が訪れるにはちょっと足をのばしにくいといわれた場所でしたが、新しく綺麗なビルが立ち並ぶ一方で、あらゆる意味で「新宿」を思わせる景観は、徐々に減ってきているような傾向もあります。

一方、麿赤児が自治会長役を務める団地の舞台は、おそらく新宿の戸山ハイツと思われます。ここは多摩ニュータウンなどのように、かつては都内における集合住宅の先駆けのような存在で、多くの家族が身を寄せていた場所でした。

しかし近年は単身者増加、および住人の高齢化とともに建物の老朽化に歯止めがかけられないことから、「都会の限界集落」と呼ばれる都心にぽっかり空いたエアポケットのような場所であるといわれています。

物語は大きくこの二つの場所それぞれに対する視点より、巧みな構成づくりでとある街の「終末」的な景観における、メッセージ性のあるテーマを描いています

北村演じる一人の探偵の姿は、そんな「終末」的な景観の中で、揺るがない視点により新たな街づくりへの批判的な意見を唱えているようでもあり、ハードボイルドの原点にある、やさぐれた雰囲気の探偵が何故ヒーローなのかを改めて考えさせてくれます。





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