シリーズ史上“試行錯誤”を最も感じられる第2作!
テレビドラマ『スパイ大作戦』を映画化した、トム・クルーズ主演の大人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第2作。
前作『ミッション・インポッシブル』では、裏切り者の濡れ衣を晴らすことに成功した凄腕スパイのイーサン・ハント。本作では強奪された殺人ウィルスとその治療薬の奪還に挑みます。
本記事では映画本編のネタバレ有りあらすじの紹介とともに、本作の内容を考察・解説。
第1作から強化されたアクション要素とロマンス要素、作中で登場する「キメラ」という言葉が本作を象徴している理由などを探っていきます。
CONTENTS
映画『ミッション:インポッシブル2』の作品情報
【日本公開】
2000年(アメリカ映画)
【監督】
ジョン・ウー
【製作】
トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー
【製作総指揮】
テレンス・チャン、ポール・ヒッチコック
【脚本】
ロバート・タウン
【キャスト】
トム・クルーズ、ダグレイ・スコット、タンディ・ニュートン、ヴィング・レイムス、リチャード・ロクスバーグ、ジョン・ポルソン、ブレンダン・グリーソン、ラデ・シェルベッジア、ウィリアム・メイポーザー、ドミニク・パーセル、マシュー・ウィルキンソン、アントニオ・バルガス、ダニエル・ロバーツ、アンソニー・ホプキンス
【作品概要】
テレビドラマ『スパイ大作戦』を映画化した大人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第2作。
アメリカ・CIAの特殊作戦部「IMF(Impossible Mission Force)」所属の凄腕スパイである主人公イーサン・ハントが、本作では元IMFエージェントに強奪された殺人ウィルスとその解毒剤の奪還に挑む。
脚本を前作に続き『チャイナタウン』のロバート・タウンを手がけた他、『狼たちの挽歌』(1986)をはじめ特徴的なアクション演出で香港映画界に「香港ノワール」の時代を築いたジョン・ウーが監督を務めた。
映画『ミッション:インポッシブル2』のあらすじとネタバレ
製薬会社「バイオサイト」の研究員であるネコルヴィッチは、同社で開発したという「キメラ」と「ベレロフォン」のシドニー〜アトランタ間の旅客機での輸送を計画。その輸送中の護衛をIMFに依頼しました。
IMFはイーサン・ハントに護衛任務を託そうとするも、タイミング悪くイーサンは行き先も告げずに休暇に出ていたため、イーサンの「替え玉」をよく任されるIMFエージェントのショーン・アンブローズが任務に就きました。
ところがアンブローズはIMFを裏切り、手下とともにネコルヴィッチが乗る旅客機を事故に見せかけて墜落させると、そのまま姿を消しました。
イーサンはIMFの上司スワンベックから、アンブローズが強奪したとされる「キメラ」と「ベレロフォン」を奪還する任務を与えられ、今回の任務成功には不可欠な人間だという世界指名手配中の泥棒ナイアと接触するよう指示されます。
イーサンは宝飾品を盗もうとしていたナイアに接触。最初は目的が読めずイーサンを拒んでいた彼女も、イーサンへの協力を了承したのち、二人は一夜をともにしました。
その後、スワンベックから任務の全容を聞かされるイーサン。実はナイアはアンブローズの元恋人であり、彼女をアンブローズのアジトへ潜入させ、キメラとベレロフォンの正体と強奪の目的を探らせることが今回の任務だったのです。
任務内容を知る前にナイアと恋仲になってしまったイーサンは、彼女を危険に晒すことをためらいますが、ナイアはあくまでも協力を了承しました。
アンブローズが盗聴していた警察無線に「ナイアが逮捕された」という嘘の情報を流し、その身を引き取らせることで、ナイアはシドニー内にあるアンブローズのアジトへの潜入に成功。
イーサンは最も信頼できる相手であり優秀なハッカーのルーサー、IMFエージェントでありヘリなどの操縦も担当するビリーと作戦チームを編成し、潜入中のナイアとアンブローズの監視を開始しました。
映画『ミッション:インポッシブル2』の感想と評価
第1作から強化されたアクション×ロマンス
シリーズ第1作『ミッション・インポッシブル』はアクション以上に、裏切りや真実に気づいた上で相手と腹を探り合う“情報戦”というスパイ物らしい要素が前面に描かれていました。
しかしながら次作の『ミッション:インポッシブル2』では、ガンアクションにバイク/カーアクション、そして最後には格闘戦とアクション要素がより強化。
情報戦という要素も、イーサン・ナイア・アンブローズの三角関係を通じて描く“恋愛が生み出す騙し合い”という要素と入れ替わり、ある意味ではスパイ物と親和性が高いロマンス物としての側面が強められていました。
シリーズ第1作のブライアン・デ・パルマに代わって本作を監督したのは、「香港ノワール」の旗手にして多くのアクション映画に影響を与えた“バイオレンスの詩人”ジョン・ウー。
「二丁拳銃での銃撃戦」「戦闘の始まりを告げるかのごとく飛び立つ白い鳩」というジョン・ウー作品恒例のアクション演出は、本作でも健在です。
怪物キメラと「想像をはるかに超える女性」
また前作における旧約聖書『ヨブ記』からの引用とは異なり、『ミッション:インポッシブル2』では「キメラ」「ベレロフォン」とギリシャ神話からの引用が描かれています。
現実においてもゲノム組み換えが生じているウイルスを「ゲノムウイルス」と呼称するのですが、本作に登場する殺人ウイルス「キメラ」は作中でも言及されている通り、ギリシャ神話に登場し英雄ベレロフォンに退治された怪物キメラの名に由来しています。
獅子の頭に山羊の胴体、蛇(または竜)の尾を持つ姿で知られる怪物キメラ。
12世紀の詩人マルボートは、様々な生物の性質を併せ持つキメラを「男性を誘惑する女性」を象徴するものと評しています。中にはキメラは「恋愛」そのものを象徴する存在であり、獅子は「恋愛の衝動」山羊は「恋愛の成就」蛇は「恋愛が原因の失望や悔恨」をそれぞれ意味しているという説もあります。
「時には『怪物』とまで評されるほどに、男性の想像力などをはるかに凌駕する数々の性質を併せ持つ女性」……そこからは、「愛する者の窮地を救うべく、殺人ウイルスを自らに打ち込む」というイーサンが想像だにしなかった決断に至ったナイアの姿と重なります。
また「恋愛」の象徴する存在という怪物キメラの側面も、前作以上にロマンス要素が強められた本作そのものを象徴しているといえます。
まとめ/シリーズの“試行錯誤”を味わえる第2作
アクション以上に“情報戦”を前面に描くことで、謎を解き明かしていくことに最大の醍醐味がある探偵物・刑事物とは一線を画す「スパイ物」であることを強調したシリーズ第1作『ミッション・インポッシブル』。
しかし同作は公開当時「プロットが複雑過ぎる」「伏線が細か過ぎるがゆえに分かりづらい」という評価もあったことからも、次作『ミッション:インポッシブル2』ではアクションをより一層強化し、ストーリー展開は明快にし、ロマンス要素も足すという“テコ入れ”が行われたことは、ジョン・ウーの監督起用からも窺えます。
しかしそのテコ入れは、「スパイ物」としての『ミッション・インポッシブル』の続編を期待していた人々にとっては、かえって前作とのギャップと戸惑いを感じてしまう判断だったのかもしれません。
人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの“試行錯誤”が最も感じられる第2作『ミッション:インポッシブル2』。
ある意味では「長寿シリーズ作品ならではの醍醐味」を最も味わえる本作は、「ミッション:インポッシブル」シリーズを愛する方にとっては必見の作品ともいえます。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。