凶悪な暴走族に妻子を奪われた、警官マックスの復讐劇
荒廃した近未来を舞台に、無法者たちとの激しい戦いを描いた「マッドマックス」シリーズ。
その1作目となる『マッドマックス』は、妻子を奪われ「処刑人」となったマックスと、暴力の限りを尽くす暴走族の激しい戦いを描いたバイオレンスアクションです。
2015年には『マッドマックス 怒りのデス・ロード』も話題になり、今もなお根強い人気を誇る「マッドマックス」シリーズ。
その原点とも言える『マッドマックス』は、1979年に製作された作品で、当時ほとんど知られていなかったオーストラリア製の映画を、世界に知らしめた作品です。
低予算で製作され、世界中で大ヒットしたことにより、かつては「製作費と興行収入の差が最も大きい映画」として、ギネスブックにも掲載されていた『マッドマックス』。
何故、ここまでの大ヒットを記録し、今もなお語り継がれているのでしょうか?
本作が持つ魅力を、考察していきます。
CONTENTS
映画『マッドマックス』の作品情報
【公開】
1979年公開(オーストラリア映画)
【原題】
Mad Max
【監督・脚本】
ジョージ・ミラー
【共同脚本】
ジェームズ・マッカウスランド
【キャスト】
メル・ギブソン、ジョアンヌ・サミュエル、ヒュー・キース=バーン、スティーブ・ビズレー、ティム・バーンズ、ロジャー・ウォード
【作品概要】『
荒廃した近未来を舞台に、警察官であるマックスの復讐劇を描いた、バイオレンスアクション。
主演のメル・ギブソンは『青春グラフィティ』(1977)で俳優デビュー後に『マッドマックス』で主人公のマックスを演じ、世界的スターとなりました。
監督は「マッドマックス」シリーズの他、『ハッピー フィート』(2006)の監督や『ベイブ』(1995)の製作と脚本を担当するなど、幅広い活躍を見せるジョージ・ミラー。
映画『マッドマックス』のあらすじとネタバレ
凶悪な犯罪が横行している、荒廃した近未来。
暴走族のナイトライダーは、暴走族追跡用のパトカー「インターセプター」を略奪し、逃走していました。
ナイトライダーを捕獲する為、警察官が追跡を開始し、カーチェイスが始まります。
ですが、ナイトライダーの危険な運転にかく乱され、追跡していたパトカーが次々に破壊されていきます。
そんな中、ナイトライダーの追跡を続ける一台のパトカーがありました。
ナイトライダーは、自分を追いかけている警察官の正体を知り、絶望します。
警察官はマックス。
所属する暴走族専門の特殊警察「M.F.P.迎撃担当官」の中でも優秀な警察官で、「M.F.P.」の隊長フィフィに一目置かれる存在でした。
ナイトライダーは、マックスから逃げ切ろうとしますが、追い詰められ事故死します。
とある寂れた街。
ここにトーカッター率いる暴走族の集団が現れます。
トーカッターは、仲間だったナイトライダーの死を悲しみ、敵を討つことを決意していました。
街中で暴れ回る暴走族を恐れ、カップルが車に乗って逃げ出します。
ですが、暴走族の標的は、逃げ出したカップルに定められます。
通報を受けたマックスは、相棒のグースと共に、現場に駆け付けます。
現場からは暴走族の姿は消えており、残っていたのは、暴走族に怯える女性と、薬でハイテンションになっていた暴走族のメンバー、ジョニーだけでした。
マックスとグースはジョニーを逮捕し、司法省内にある「M.F.P.」の本部に拘留します。
ですが、「M.F.P.」の本部に来た弁護士からジョニーを「無罪にして釈放する」ように要求されます。
突然の理不尽な要求に、グースの怒りが爆発します。
グースはジョニーに暴行を加えますが、ジョニーは「お前の顔は覚えた」と捨て台詞を残し、「M.F.P.」の本部から出て行きます。
その数日後、グースはトーカッターの罠にハマり、乗っていた車が大破します。
壊れた車の中から、降りることが出来ないグース。
トーカッターはジョニーに命じて、グースを車ごと爆破させます。
映画『マッドマックス』感想と評価
1979年に製作された『マッドマックス』は、37万5000ドルという低予算ながら、1億ドル以上の興行成績を記録した作品です。
メル・ギブソンの出世作として知られる本作ですが、当時はまだ無名の俳優でした。
他の出演俳優も無名で「『マッドマックス』には本物の暴走族が出演している」という噂も出る程でした。
それどころか、監督のジョージ・ミラーも含め、当時の製作スタッフも全員無名で、オーストラリア製の映画は、ほとんど世界的に知られていないという状況でした。
その中で世界的に大ヒットを記録した『マッドマックス』は、かなり異例の作品だったと言えます。
それでは『マッドマックス』は、何故現在も語り継がれる程の、名作となったのでしょうか?
3つの項目に分けて考察していきます。
「荒廃した近未来」と言う絶望的な世界観
「マッドマックス」シリーズと言えば「荒廃した近未来」というイメージが強いですね。
特に『マッドマックス2』以降の「戦争により文明が滅んだ世界」が舞台の印象が強い作品ですが、実は1作目も「荒廃した近未来」という設定は同じなんです。
とは言え、前述したように低予算で製作され、現在のようにCG技術も発達していなった為、本作は、何も無い荒野に存在する、巨大なハイウェイを中心に物語を展開させることで「荒廃した世界」を表現しています。
近未来では、暴走族が恐怖により人々を支配していますが、これは1970年代当時、オーストラリアで実際に、暴走族が社会問題になっていたことを反映させた設定で、子供のような無邪気さで、破壊行為を続ける暴走族を通して、倫理や規則が崩壊した世界を印象付けています。
さらに、マックスが所属する「M.F.P.」の本部「司法省ビル」も、廃墟のようになっており「正義が存在しない世界」を強調していますね。
実際に撮影では、勝手に道路を封鎖したり、老朽化した昔の水道局のビルを「司法省ビル」として使用したり、低予算ながらも、さまざまな手段やアイデアを用いて「荒廃した近未来」という世界観を作り出しています。
この悪夢のような「ディストピア」的な世界は、現在でも非常にインパクトがあり、この絶望的な世界観が間違いなく『マッドマックス』の魅力の1つになっています。
恐怖感を増大させる心理描写
『マッドマックス』は、マックスと暴走族の戦いを主軸として、物語が展開されます。
その為、バイオレンスアクションとしての印象が強いのですが、実は登場人物の心理描写も、魅力の1つとなっています。
まず、マックスが「M.F.P.」を退職する理由ですが、仲間を失っただけでなく、走ることに喜びを感じ、暴走族と変わらなくなっている自分に恐怖を感じた為で「このバッジが無ければ、俺も奴らも変わらない」という台詞が印象的です。
また暴走族側も、トーカッターのカリスマ性と恐怖で統率されていますが、それぞれが違う考え方を持っており、些細なことで全てが崩壊する、不安定な危うさを持っています。
特に、心理描写が効果的に使われているのが、マックスの妻ジェシーが、暴走族の影に覚える中盤の展開です。
トーカッターの股間を蹴り上げ、逃げ出したジェシーですが、遊びに行った森の中で、暴走族の存在を感じます。
ここで、暴走族は姿をハッキリ見せないのですが「確実に何かいる」という、嫌な予感を与える演出が続きます。
そして、森から無事に逃げ出し、マックスに暴走族の存在を伝え、小屋の中に避難し「ジェシーが助かった」と思わせた所で、暴走族は姿を現し、マックスとジェシーの子供を人質に取ります。
「暴走族が出て来そうで姿を見せない」という演出を続けた後に、一度「助かった」と安堵させたところで、絶望的な展開へと持っていっているのです。
バイオレンスアクションの要素だけでなく、心理描写を交えた巧みな演出も『マッドマックス』の素晴らしい部分です。
無法者同士の戦いが熱い!ラスト15分
「荒廃した近未来という世界観」「恐怖を煽る心理描写」と、これまで作品の持つ魅力を考察してきましたが、やっぱり『マッドマックス』最大の魅力は、迫力のあるアクションシーンです。
冒頭のナイトライダーとのカーチェイスも凄いですが、復讐に燃えるマックスが「V8インターセプター」に乗り込み、暴走族に戦いを挑む後半15分の展開は、文句なしのカッコよさで、本作に登場する「V8インターセプター」は、現在もレプリカが作成される程の人気です。
マックスは「M.F.P.」の警察官ではなく、完全に家族を襲われた1人の人間として暴走族と対峙し、法を無視して次々に処刑を行います。
無法者の暴走族に勝てるのは、同じ無法者と化した、マックスだけだったということです。
このラスト15分の展開で、これまで感じて来た「無秩序への不安」や「暴走族の恐怖」が一気にぶち壊される感覚を味わえて、かなり爽快です。
映画終了後は、爽快さとカッコ良さが癖になっている、これこそが『マッドマックス』最大の魅力ですね。
まとめ
異例の大ヒットを記録した『マッドマックス』は、実はいろいろな噂やエピソードも語り継がれている作品です。
ここでは、その1部をご紹介します。
スタントマンが撮影中に亡くなっている?
マックスが橋の上で、暴走族を「V8インターセプター」に乗って追い詰める場面で、1人危険な倒れ方をしているスタントマンがいます。
倒れた後に後頭部にバイクが直撃しており、この場面のインパクトが凄く『マッドマックス』を語る際には、必ず「死んだスタントマンがいるらしい」という話になります。
ですが、このスタントを担当したデイル・ベンチは生きており、2015年に日本で開催されたイベントにも姿を見せています。
本人もその際に「死んだと思われてもおかしくない転び方をしてしまった」と振り返っていますね。
ただ、撮影現場は常に危険な状態で、ケガ人は続出していたようです。
メル・ギブソンが主役に選ばれた理由
本作で世界的なスターとなったメル・ギブソン。
それまで、端役しか経験していなかったメル・ギブソンが、何故主役に抜擢されたのでしょうか?
オーディションに来たメル・ギブソンは、何故か怪我だらけの状態で、作品のイメージに合ったことと、その時のインパクトが強かったことで、オーディションに合格したというエピソードがあります。
メル・ギブソンが怪我していた理由は、前日に酒場で喧嘩したとか、ラグビーの試合を観に行って暴動に巻き込まれたとか、諸説あります。
ジョージ・ミラーは、自分の車を撮影で大破させた?
低予算で製作された『マッドマックス』ですが、最後は予算が尽きてしまったようです。
そこで、ジョージ・ミラーは撮影に自分の車を使用し、結果的に大破させてしまったというエピソードがあります。
これらの、エピソードの真意は不明ですが、間違いなく言えることは『マッドマックス』は、携わった俳優、スタントマン、製作スタッフの執念と情熱が込められた作品で、現在も映像を通して、その熱量は伝わってくるということです。
ジョージ・ミラーは、その後に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を、構想20年を費やして完成させたことを語っています。
『マッドマックス』という作品への、想いの強さが伝わりますね。