映画『孤狼の血 LEVEL2』は2021年8月20日(金)ロードショー。
役所広司主演の前作『孤狼の血』は第42回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞と最優秀助演男優賞を含む4部門を受賞するほど注目を集めました。
ちなみにこの2018年は是枝裕和監督の『万引き家族』もありました。その中で主演男優賞と助演男優賞をWで最優秀賞受賞ということはこの作品の評価がいかに高かったかが分かると思います。
本作は前作『孤狼の血』から3年後の設定で、映画オリジナルストーリー。主演が役所広司から松坂桃李にバトンタッチされました。
松坂桃李は髪を短くし、国立大学出身の優等生な刑事という前作のイメージを覆すワイルドな風貌で作品に挑んでいます。
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映画『孤狼の血 LEVEL2』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
柚月裕子「孤狼の血」シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
【監督】
白石和彌
【脚本】
池上純哉
【出演】
松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、斎藤工、中村梅雀、滝藤賢一、矢島健一、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、吉田鋼太郎
【作品概要】
前作『孤狼の血』に引き続き、監督は白石和彌、脚本は池上純哉。原作は柚月裕子の小説『孤狼の血』シリーズ三部作ですが、前作の3年後が舞台の完全オリジナルストーリーです。
主人公のマル暴刑事・日岡秀一を演じるのは松坂桃李。日岡の前に立ちはだかる上林組組長・上林成浩には鈴木亮平。日岡と上林との間でS(エス=スパイ) として揺れ動く近田幸太を村上虹郎、幸太の姉の「スタンド華」ママ・真緒を西野七瀬。
音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、斎藤エ、滝藤賢一、矢島健一、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、さらに中村梅雀、吉田鋼太郎など、前作からの続投組と初参戦組が脇を支えます。
映画『孤狼の血 LEVEL2』のあらすじ
3年前、マル暴の伝説的刑事・大上は暴力組織の抗争に巻き込まれ、命を落としました。
若き相棒だった刑事・日岡秀一(松坂桃李)は大上の跡を継ぎ、広島の裏社会の顔役として警察組織や暴力団双方から一目置かれるようになっていました。
そこに、上林(鈴木亮平)が刑務所から出所してきます。
上林は3年前の抗争で尾谷組の一ノ瀬に殺害された五十子を親と慕い、抗争の裏で暗躍した刑事に報復を誓うとともに、五十子会が属する広島仁正会の中でのし上がっていきました。
それによって日岡が保ってきた危うい秩序が崩れていき、やがて絶体絶命の窮地に追い込まれてしまいます。
映画『孤狼の血 LEVEL2』の感想と評価
※多少のネタバレがありますので、気になる方はご注意ください。
危険なスタントを自ら演じた松坂桃李
大上の時代より命を落とす人が少ないと語る日岡。自分は大上よりもスマートに裏社会を仕切っていると自負していたに違いありません。髪を短くし、ワイルドな風貌で本作の日岡に挑んだ松坂桃李からもそんな気負いを感じます。
しかし裏社会の安定も大上の睨みがまだ残っていたから。次第に日岡の思惑通りに物事は進まなくなってきます。特に理屈の通じない上林が登場したことで、日岡の影響力は弱くなっていきました。
それでも自分には何とかできると思ったのでしょう。スパイを使って情報を集め、自らの身体に起こった突発的な出来事も利用して調整を謀ろうとするのですが、頭を使っただけの方策は裏目に出るだけ。
話をつけて人を動かすことで秩序を保ち、自身が直接的に何かをし、泥を被ることをしてこなかった日岡はようやく自分の薄っぺらさに気がつくのです。
本作で日岡はビルの3階から飛び降ります。
スタントマンが吹き替えてもおかしくないシーンですが、松坂桃李自ら飛び降りました。ワイヤーをつけているとはいえ、窓に向かって走って、そのまま飛び降りるのはかなりの恐怖があるはず。しかも飛び降りた先はパトカーのボンネットで、パトランプが衝撃で破損します。
ここは飛び降りる日岡をカメラが追い、上から少し映したところでショットが割られ、次はパトランプにドンとぶつかってそのまま地面に転がるように降りる姿を映し出します。
つまり飛び降りる部分とパトランプにぶつかる部分は別撮り。飛び降りる恐怖だけでなく、低い位置からではあるもののパトランプにぶつかって受ける衝撃の痛みも経験したわけです。松坂桃李の座長としての覚悟が伝わってきました。
残酷極まりない上林を体現した鈴木亮平
前作で大上が対峙したのは腐れ切った社会。それは裏社会だけでなく、警察組織も含んでいました。しかし、本作で日岡が対峙するのは鈴木亮平が演じる上林です。
上林は前作では登場しません。3年前は刑務所の中にいたようです。本作の冒頭で出所します。自分がいなかった間に五十子会長が殺され、組の雰囲気はすっかり変わっていました。
上林には幹部たちが腑抜けに見えたのでしょう。冒頭から何の躊躇いもなく、残酷極まりない方法で人を殺していきます。
「白石監督から『日本映画史に残る悪役にしてほしい』と言われた」と鈴木亮平本人もコメントしていますが、悪の権化そのもの。その狂気は研ぎ澄まされ、息をのむほど。有無を言わさず、組の中でのし上がっていきます。
鈴木亮平は役作りで半端ない体重の増減をすることで有名です。本作では特にそのことを取り上げられていませんが、上林の登場シーンは背中一面に彫られた刺青を下から煽るように映しています。その圧倒感に体作りをしていたであろうことが伝わってきました。
残虐な行為を続ける上林ですが、ただのバケモノではありません。心身ともに傷つけられ、生きていくのが精一杯だった幼い頃、人から愛され、大切にされる思いを経験していないのです。
そんな生い立ちを描くことで上林の心の奥の闇を浮かび上がらせました。そして鈴木亮平がふっと見せる仕草や表情が、自分でさえその闇を持て余していることを感じさせます。
技術スタッフの注目点
白石監督の現場には毎回、ほぼ同じスタッフが集まります。特に今回は続編ということで、前作のスタッフがそのまま起用されました。その中で唯一、カメラマンだけは加藤航平を新たに抜擢。
撮影部は一般的にカメラマンがいて、その下に撮影チーフ・セカンド・サード・フォースというポジションがあり、加藤航平は前作の撮影チーフ。本作で長編カメラマンデビューとなりました。助演だった松坂桃李が主演になったのと同じですね。
本作の技術的な見どころは雨降らしとカーチェイスを含むアクション。雨のシーンは特機と呼ばれる撮影用の特別機材で降らせるのですが、これは熟練の技が必要なのです。
しかも雨粒をスクリーンで見せるには、雨逆といって後ろから照明を当てなくてはいけません。今回は白石監督が前作以上にコントラストのある画にこだわっていたので、照明の塩梅は難しかったでしょう。はっきりと見える雨粒にスタッフそれぞれの技術を感じます。
カーチェイスを含む日岡と上林の死闘が本作のクライマックス。撮影車にカメラを3つ乗せて、壮烈な追いかけっこをする2台の車をとらえます。
さらに接近して激しく競り合う様子は公道ではなく、倉庫にブルーシートを立てて撮影し、運転席にいながら銃を打ち合う日岡と上林を松坂桃李と鈴木亮平が自ら演じました。そこに背景を合成。迫力満点です。
カーチェイスの最後に一方の車が横転するのですが、カースタントの永田崇明が見事な仕事ぶりを披露。そこから始まる日岡と上林の取っ組み合いは加藤航平が手持ちのカメラで迫ります。
しかも芝居を大事にする白石監督の意向を汲んだのでしょう、なるべくカットを割らず、光を当て過ぎずにコントラストを大事に撮っているのがわかります。撮影部、照明部、アクション部などのチームワークのよさをたっぷり堪能できるシーンです。
白石監督は音にこだわる方なのですが、それを支えているのが日本の音響効果の第一人者ともいえる柴崎憲治。
今回もさまざまな音を作り上げ、作品に奥行きと深みを加えました。特に本作の最初と最後の殺人はいちばん悲惨なところを直接的には映さず、音だけで表現。頭の中にその場面を思い描いてしまうので、かえって怖さを感じます。
まとめ
前作の最後に大上の跡を継ぎ、ダーティな警察官となった日岡。本作では我が世の春かの如くベンツを乗り回し、女を囲っていましたが、裏社会の安定が綻び始め、日岡の薄っぺらさが露呈します。
そうなって初めて自分が何をすべきだったのかに気づき、勝算がないまま上林に立ち向かっていくことで日岡が本当のタフさを身につけていく物語ともいえるでしょう。
ラストで底辺まで落ちた日岡が登場しますが、机の上には刑法などのテキストが見えました。昇進試験を受けるつもりで勉強をしているに違いありません。
近い将来、本当の意味で大上の跡を継いだ日岡の姿が見られるのではないでしょうか。
映画『孤狼の血 LEVEL2』は2021年8月20日(金)ロードショー。