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映画バッドランズ原作小説「勁草(けいそう)」ネタバレあらすじと結末感想。《BAD LANDS》で描かれる オレオレ詐欺の手配師と警察が繰り広げる“執念捜査”

  • Writer :
  • 星野しげみ

黒川博行の小説『勁草』が映画『BAD LANDS バッド・ランズ』として2023年9月29日(金)公開!

オレオレ詐欺の犯人たちと警察の追っかけを描いた、黒川博行の『勁草』。逃げ続ける犯人と執拗に犯人を追う刑事の姿を、コミカルな大阪弁の会話を交えて綴る予測不可能なクライムアクションです。

この小説を『検察側の罪人』(2018)や『燃えよ剣』(2020)、『ヘルドッグス』(2022)など、数々の話題作を手掛けてきた原田眞人監督が『BAD LANDS バッド・ランズ』として映画化しました。

主演に『怪物』(2023)や『ある男』(2023)『万引き家族』(2018)の安藤サクラ、その弟役に『燃えよ剣』(2020)にも出演した山田涼介を迎え、スピーディーな展開を見せるサスペンスエンタテインメントに仕上げました。

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』は、2023年9月29日(金)公開全国公開。映画公開に先駆けて、原作小説の『勁草』をネタバレありでご紹介します。

小説『勁草』の主な登場人物

【橋岡恒彦】オレオレ詐欺の被害者から金を受け取る「受け子」の指示役。

【矢代穣】「名簿屋」の高城に雇われ、ヤクザに借金を作る。

【高城政司】「名簿屋」。貧困ビジネスを行うNPO法人を運営。その裏で「受け子」を差配して詐欺グループの仲介を行う。

【佐竹正敏】特殊詐欺特別班の刑事。湯川の先輩。

【湯川優】特殊詐欺特別班の刑事。佐竹の相棒。

小説『勁草』のあらすじとネタバレ


黒川博行:『勁草』徳間書店

33歳の橋岡恒彦は、「名簿屋」の高城政司に雇われていました。

高城は、貧困ビジネスを生業とする「大阪ふれあい運動事業推進協議会」の代表者ですが、裏ではオレオレ詐欺の標的リストの名簿を作り、橋岡に受け子の手配をさせています。

高齢者から騙し取った金の大半は高城の懐に入ります。金庫や銀行口座には多額の金がプールされているようでした。

そんななか、詐欺ターゲットの事前調査を橋岡と一緒に行っていた矢代穣が、賭博に負けヤクザに借金をしてしまい、橋岡もその連帯保証人に勝手にされてしまいました。

金の返済に困った2人は高城に金の融通を頼みます。が、高城は金を貸すことを断り、激高した矢代は、固定電話で高城の首を絞め、その命を奪ってしまいました。

成り行きで殺人の共犯にされた橋岡。あろうことか、死体の遺棄まで手伝うはめになります。ですが、高城の死をうまく隠し通せば、通帳の金や株などの大金を山分けすることができると思い、怒りを抑えて手伝います。

その頃、一連のオレオレ詐欺の被害相談を受けた大阪府警特殊詐欺班の刑事・ 佐竹と湯川のコンビは、詐欺事件の捜査に動き出していました。

詐欺現場を見張り、怪しそうな人物の写真などから橋岡を割り出します。金銭受け取りが未遂に終わり、現場から逃走したタクシーの運転手からは、橋岡が払ったと思われる札を入手。指紋鑑定が決定打となり、橋岡を追うことになりました。

一方では、高城と連絡がとれないことを不審に思った詐欺関係者の道具屋・新井登茂子が、事務所に現れ、橋岡と矢代に彼の行方を尋ねました。

「どこへ行ったのかわからない」と言う2人。新井は2人の様子がおかしいと思い、詐欺グループのバックにいるヤクザの徳山に連絡しました。

その後、ヤクザの徳山が高城の事務所を訪れ、そこにいた橋岡と矢代に高城はどこへいったかと、問い詰めます。徳山は矢代を殴って脅しますが、矢代は決して口を割りませんでした。

一方、佐竹と湯川刑事が、橋岡たちを泳がせて次の現場で現行犯逮捕しようとしていたところ、別のグループの事件が起こりました。

2人は、地道な捜査を行い、そのグループの掛け子・小沼の足取りから、グループリーダー・青木亮を逮捕します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『勁草』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『勁草』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

橋岡と矢代はヤクザや警察から追われるなか、高城の通帳から金を引き出そうとしますが、暗証番号や本人確認書類など、犯罪予防の決まりが銀行に浸透し、なかなかうまくいきません。

暗証番号無しでは、ATMで一日10万ぐらいしか引き出せません。通帳と捜し出した銀行印はあるのに、大金を引き出せずに2人は困り果てます。矢代はついに印鑑紛失届を出すことを考え付きました。

橋岡と矢代は掛け子の平岡の話から、高城がオレ詐欺の頂点である金主(会長)であることを知りました。

徳山がいる亥誠組は、高城から「用心棒」とオレ詐欺の売上金をもらっていたため、彼を探しにきたのです。

その後、徳山は橋岡と矢代が証拠隠滅のため「名簿」を破棄しようとしているところを発見し、またしても高城の行き先を追及してきます。

橋岡が殴られるのを覚悟したとき、矢代が徳山の頭をゴルフクラブで殴り、命を奪ってしまいました。

橋岡と矢代は、徳山の遺体を高城を同じ場所に埋めます。やがて、徳山が居なくなったことを知った亥誠組の組員たちが、橋岡たちを訪ねて事務所にやってきました。

矢代は組員に拉致されますが、橋岡はなんとか逃げることができました。しかし、徐々に警察の手が橋岡に迫ります。

橋岡は、高城の銀行口座から1千万円を引き出し、沖縄へ逃走。これでとりあえずヤクザから離れることはできましたが、橋岡はまだ高城の預金が銀行にあるのが気になって仕方がありません。

口座の1つは信用金庫のため、沖縄にはありませんので、すぐに大阪へ戻ってお金を降ろすことにしました。

大阪に戻りお金を降ろしに行きますが、1日違いで矢代が提出した印鑑紛失届が受理されたため、以前の銀行印で通帳からお金は引き出せないとわかりました。

再び途方にくれた橋岡は、安いツアーで石垣島へ行くことにしました。

刑事たちは橋岡の偽名から沖縄のホテルに滞在していることを突き止めましたが、そこでタッチの差で橋岡に大阪へ逃げられてしまっています。

この苦い体験から今度こそ捕まえようと、橋岡の足取りを追って、彼が石垣島へ行ったことを突き止めます。

橋岡は、石垣島のホテルに潜伏していました。しかし、窓から刑事が乗ったミニバンがこちらに向かってくるところを見つけました。

橋岡はすぐに金の入ったバッグを持って、バルコニーから飛び降り、岸壁に身を潜めました。ですが、刑事の佐竹と湯川は、岸壁で橋岡が吸うたばこの火の明かりに気づき、彼に声をかけます。

橋本は「もはや、これまで」と判断し、崖を登ろうとしますが、足をかけた窪みが崩れて空中へ投げ出されてしまいました。

小説『勁草』の感想と評価

本作のタイトルは、「勁草」と書いて「けいそう」と読みます。その意味は、「風雪に耐える強い草」であり、思想・節操の堅固なたとえでもあります。

オレオレ詐欺をする犯罪グループ内の巧妙な役割分担と詳細な手口に加え、卑劣な犯罪を追う大阪府警特殊詐欺捜査班の刑事たちの地を這う捜査が描き出されます。

詐欺の「受け子」を手配する手配師の橋岡と矢代が、賭博に負けてヤクザから借金をします。金の工面の話がもつれて自分たちのボスを殺害し死体遺棄をします。

緻密な作戦で犯罪を繰り返す詐欺グループ。捜査上に浮上した橋岡たちを、大阪府警特殊詐欺捜査班の刑事の佐竹と湯川が追いかけます。ヤクザと警察から追われ、次第に追い詰められる橋岡と矢代はどうなるのでしょう。

詐欺に手を染めてしまう橋岡たちサイドから事件のあらましが描かれる一方、犯罪を追って地道な捜査をする刑事の佐竹たち目線からも描かれ、交互に展開するスリリングな物語に息つく間もありません。

タイトルの「勁草」とは、悪事を働きながらも必死に生き延びようと逃げる橋岡たちを指すのでしょうか、それとも細かい情報を拾い集めてオレオレ詐欺の犯人を探し求める佐竹刑事たちの執念を指すのでしょうか

物語を追っていくと、両者とも見事なカタブツと言えます。どちら側からみても、そこにあるのはやはり「風雪に耐える強い草」の根性なのです。

土壇場に追い込まれながらもとことん逃げようとする橋岡の図太い精神力と、鋭い観察力と細かい情報から犯人を捜し出す刑事たちの凄まじい執念が、物語を極上のサスペンスに仕上げています

緊迫したスリルを感じ、貧困ビジネスがもたらす社会の悪と闘う刑事たちの姿に爽快感すら覚える作品です。

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』の見どころ

大阪でおこるオレオレ詐欺の犯人グループとそれを追う刑事の物語『勁草』。主役は犯罪者の橋岡と矢吹の若者たちです。

原作を読んで映画化を志した原田眞人監督は、頭の中で登場人物を描いていたときに、橋岡を女性にしたらどうだろうと思ったそうです。

そして誕生したのが、主人公の橋岡煉梨(ネリ)。橋岡に犯罪の片棒を押し付ける矢代穣ですが、その役も橋岡の弟という設定で映像化に挑んでいます。

橋岡煉梨(ネリ)には、『怪物』(2023)や『ある男』(2023)『万引き家族』(2018)などの話題作に出演している安藤サクラ。弟の矢代穣には、原田監督が手がけた『燃えよ剣』(2020)にも出演した山田涼介が演じます。

原作では血の気の多い矢代をあきれながらも見捨てられずにいる橋岡という関係が描かれています。これが映画においては、姉弟になります。金銭の奪い合いや人殺しの罪の擦り付け合いなど、きな臭い争いの中できょうだい愛も描かれるのかと、興味がわきます。

感情のままの伸びやかな演技に定評のある安藤サクラが怪演する、女性オレオレ詐欺犯が見ものです。

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』の作品情報


(C)2023『BAD LANDS』製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
黒川博行:『勁草』徳間書店 (2015/6/9)

【監督・脚本・プロデュース】
原田眞人

【キャスト】
安藤サクラ、山田涼介

まとめ

黒川博行の『勁草』をご紹介しました。本作は、『検察側の罪人』(2018)や『燃えよ剣』(2020)、『ヘルドッグス』(2022)などを手がけた原田眞人監督が、安藤サクラと山田涼介を姉弟役に抜擢して、映画化しました。

逃げる者と追う者。原作のタイトル『勁草』は、思想や節操の堅固なたとえですが、しぶとい生き様のことでもあります

一方の映画のタイトルは『BAD LANDS バッド・ランズ』となっています。これは「悪地地形」のことで、荒れ果てた荒野が想像できます

映画では主人公姉弟のどん底の‟生き方”や半生を描き、原作以上に社会の裏で喘ぐ人々の姿を炙り出す問題作となるのではないでしょうか

人が犯罪を犯すにはそれなりの理由があり、この映画でどのように描き出されているのか注目です。

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』は、2023年9月29日(金)公開全国公開






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