映画『みとりし』は2019年9月13日より、全国順次ロードショー
自宅で最期を迎える事を望む人に寄り添い、サポートする「看取り士」を題材に、2人の看取り士を通して、大切な人の旅立ちの瞬間に立ち会った、さまざまな家族の物語を描いた映画『みとりし』。
「命のバトン」をテーマにした、本作の魅力をご紹介します。
映画『みとりし』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
白羽弥仁
【原案】
柴田久美子
【キャスト】
榎木孝明、村上穂乃佳、高崎翔太、斉藤暁、大方斐紗子、堀田眞三、片桐夕子、石濱朗、仁科貴、みかん、西沢仁太、藤重政孝、杉本有美、松永渚、大地泰仁、白石糸、川下大洋、河合美智子、つみきみほ、金山一彦、宇梶剛士、櫻井淳子
【作品概要】
人生最後の瞬間を、最高の時間にして送り出す事を目的にした、実在する認定資格、看取り士を通して、さまざまな家族の物語を描くヒューマンドラマ。主人公、柴久生を「浅見光彦シリーズ」で知られる名優、榎木孝明が演じており、本作の企画にも携わっています。
柴久生の指導を受けながら、成長する新人看取り士の高村みのりを、1200名のオーディションから選ばれた、新人女優の村上穂乃佳が演じており、他に斉藤暁や宇梶剛士、櫻井淳子など、演技派俳優が多数出演しています。
本作の監督を、サンセバスチャン国際映画祭でも上映された『ママ、ごはんまだ?』(2016)や、『能登の花ヨメ』(2008)などの作品で知られる、白羽弥仁が務めています。
映画『みとりし』のあらすじ
定年間近のサラリーマン柴久生は、交通事故で娘を亡くして以降、家族とバラバラになり、喪失感を抱えていました。
自暴自棄になった柴は、電車に飛び込む寸前に何者かに止められ、天から「生きろ」という声が聞こえます。
出社した柴は、会社の同僚で切磋琢磨してきた友人である川島が亡くなった事を聞かされます。
しかし、会社の上司は、川島が亡くなった事を悲しむ様子を見せず、柴の転勤の話を進めようとする為、嫌気がさした柴は会社を早期退職します。
川島のお墓を訪ねた柴は、川島の最後を看取った女性と出会い、看取り士という仕事を知ります。
5年後、セカンドライフとして看取り士の道を進んだ柴の姿は、岡山県にありました。
柴はボランティアスタッフと共に、看取りステーション「あかね雲」を立ち上げ、地元で唯一の病院となる、浩原診療所の清原医師と連携し、患者の最後を温かく看取る為の、活動に力を入れています。
そこへ、新任の医師の早川奏太と、新人看取り士の高村みのりが着任。
みのりの指導をする柴は、みのりが9歳の時に母親を失っている事と、その経験が看取り士になるキッカケになった事を知ります。
新人の看取り士として、死の現場に立ち会い、最後を迎える覚悟をした人に寄り添い、経験を積んでいくみのりと、その様子を見守る柴。
ある日みのりは、3人の子供を持つ母親である、山本良子の最後を看取る事になりました。
みのりは、母親との別れを経験しなければならない子どもたちに、かつての自分を重ねます。
戸惑うみのりですが、柴は優しく温かく、みのりを支えていきます。
看取り士とは?
看取り士は「一般社団法人 日本看取り士会」の代表理事を務める、柴田久美子の提案から始まり、実際に作られている認定資格です。
看取り士は、医療行為はできませんが、看取られる本人とその家族、医療や介護と連携をしながら、最後の瞬間まで寄り添いサポートする存在で、現在、日本では約540人の看取り士が活躍していると言われています。
本作は、柴田久美子の著作『私は、看取り士。わがままな最後を支えます』を原案に製作された作品となっています。
家族を失った2人の看取り士
本作は、2人の看取り士を中心に物語が進行します。
1人は、セカンドライフとして看取りステーション「あかね雲」を立ち上げ、看取り士として活動している柴。
もう1人は「あかね雲」に着任した、新人看取り士みのり。
柴は、みのりを温かく見守るような指導を行い、みのりも柴の指導を受けながら、看取り士として成長していきます。
家族を失っているという、共通の辛い過去を抱える柴とみのり。
柴は娘を事故で失い、みのりは母親を病気で失っており、それぞれの過去が、看取り士という職業に向かうキッカケとなっています。
新人看取り士としてだけでなく、時には娘のように柴に接するみのりは、疑似家族のようになっていきます。
ですが、柴はある問題を抱えており、この事が、本作の持つ「命のバトン」というテーマを際立たせています。
大切な人との旅立ちを、どう送り出すか?
本作は、柴とみのり2人の看取り士を中心にした物語でもありますが、旅立つ人と家族の物語でもあり、さまざまな人間ドラマを描いてます。
病院に戻りたがらない母親を、自宅で看取る事を決めたが、妻の理解を得られない夫。
病院での生活に疲れ、自宅に戻る事を希望しているが、息子が東京で働いている為、独りで最後を迎えなければならない老人。
乳がんが再発し肺に転移したが、自宅で最後まで、家族と過ごす事を決めた母親。
そして、その母親を皆で送り出そうとする夫と子どもたち。
また、地元で唯一の病院に着任してきた、新任医師の早川は、人生の最後に立ち会う覚悟ができず、悩んでいます。
人生のなかで、大切な人との別れの瞬間は必ずやってきます。
その事から目を背けずに、どう向き合い、どのような形で「命のバトン」を受け取るか?
看取り士として、柴とみのりが受け持つ、さまざまな家族を描きながら、本作は「大切な人との別れの瞬間」について、残された者は、どう向き合うべきか?を問いかけます。
まとめ
「大事な人の最後を送る」看取り士を題材にした本作。
ただ悲しいだけの作品ではなく「命のバトン」を受け取った者が、どう生きるか?生きていくべきか?という、生きる事の大切さを描いた作品でもあります。
「命のバトン」は、その人が作り上げた事や、それに伴う責任も含まれていると思い、それを受け継いだ人が、次の世代に繋げる為に生きていく、その連続性で、今という時間が作られているんだと感じます。
本作の監督、白羽弥仁は看取り士の方と話をした際に「死を特別な事ではなく、明るく前向きに捉えている」と感じたそう。
そして「死を受け入れる迄の過程に、ドラマが生まれる」と考え、ストーリーを構築しています。
シンプルなストーリー構成で、優しく静かな雰囲気で展開される物語が、心地良い作品となっており、柴を演じた榎木孝明の温かさや、みのりを演じた村上穂乃佳の初々しさが、本作を「人間らしさの物語」に仕上げています。
大切な人との別れは悲しい事です。
できれば「そんな瞬間に立ち会いたくない」と考えるでしょう。
しかし、いつか訪れるその瞬間を「自分だったら」と考え、「命のバトン」を受け取る準備も必要なのかもしれません。
そして同時に、家族や友人、恋人という「大切な人」と過ごす、いつもの何気ない日常の大切さを噛みしめながら生きていく事こそが、大事なのだと考えさせられました。
映画『みとりし』は、2019年9月13日より、全国順次ロードショーとなっています。