『君の名前で僕を呼んで』『ビューティフル・ボーイ』で一躍人気となったティモシー・シャラメ主演。
『ホット・サマー・ナイツ』は、今注目を集めるティモシー・シャラメが主演を務めたドラマ作品です。
マサチューセッツ州のケープ・コッドへ夏を過ごしに来たティーンエイジャー・ダニエルと地元の不良・ハンターを中心に物語は進み、1991年アメリカの小さな町で起きる破滅をサスペンスタッチで描いた青春映画です。
当時まだ殆ど知られていなかった初々しいシャラメとイギリス人俳優アレックス・ロウが光ります。
映画『ホット・サマー・ナイツ』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
Hot Summer Nights
【監督】
イライジャ・バイナム
【キャスト】
ティモシー・シャラメ、アレックス・ロウ、マイカ・モンロー、マイア・ミッチェル、トーマス・ジェーン、ウィリアム・フィクナー
【作品概要】
本作はイライジャ・バイナムの初監督作品であり、脚本も執筆しています。ハリウッドで長く製作されなかった脚本ですが、関係者の間で話題に上り、遂に映画化に漕ぎ着けました。
映画『ホット・サマー・ナイツ』のあらすじとネタバレ
1991年6月。高校を卒業したダニエル・ミドルトンは、父親の死が乗り越えられず何もする気が起きません。心配した母親は、ダニエルを夏の間叔母の所へ預けることにします。
観光客で賑わうケープ・コッドへ来たダニエルは、ホームパーティーへ行きますが、地元の人間ではない為今一つ周りに馴染めません。
そんな中、パーティーでハンター・ストロベリーと出会います。町では有名な不良で観光客相手にマリファナを売っていました。
ある日、ダニエルが店番をしていると、ハンターが入店してきて袋に入ったマリファナを隠して欲しいと頼みます。
直ぐ後から警官が入って来たのを見たダニエルは、レジにマリファナを隠します。
ハンターはお礼にダニエルをパーティーへ連れて行きマリファナを吸わせます。喘息持ちでありながら好奇心に駆られたダニエルはマリファナを初体験。床に倒れてしまいます。
ダニエルとハンターは、それ以降一緒に行動するようになります。ドライブインシアターで『ターミネーター 2』を1人で観ていたダニエルの車に、ボーイフレンドと喧嘩したマッケイラが乗り込んできます。
家に送って欲しいと頼まれ、ダニエルは従います。マッケイラは地元の同世代に人気のある影のある女の子でした。
到着するとダニエルの自己紹介に応えず、マッケイラは名前を言わずに車を下りて行きます。
翌日、ダニエルは、ハンターに前夜出会った女の子に夢中だと話します。送った場所やマッケイラの特徴から、ハンターは自分の妹だと告げ、絶対に手を出すなと警告します。
ダニエルは了解します。そして、ハンターと一緒にマリファナビジネスに加わりたいと言い出します。警察に目を付けられていない余所者の自分の方が売りやすいと説得され、ハンターは受け入れます。
警官のカルフーンに一時停止を求められたダニエルは、カルフーンに名指しされ、ハンターと一緒に行動する内に顔が知られたことに気がつきます。
すっかり味を占めていたダニエルは、ハンターを口説き大口のサプライヤーからより多くのマリファナを手に入れることにします。
しかし、ダニエルは警戒され拳銃で脅されてしまいます。そこへハンターが駆けつけ、相手を暴行。返り血を浴びた2人は一先ず引き返します。
ケープ・コッドに組織の交渉役・ディグスが現れ2人を無理矢理ファミレスに連れてきます。
ディグスはサプライヤーを大怪我させたことを知り、逆に見込んで勧誘に来たのです。支払期日の厳守を条件に、大量のマリファナを流すと持ち掛けます。
おとり捜査の警察ではないかと疑うダニエルの頬をディグスはいきなり平手打ちし、警察ならこんな真似は出来ないと何食わぬ顔です。
2ポンドを2日で売るには時間が短すぎるとハンターは言いますが、ダニエルは5ポンド売ると身を乗り出します。
お手上げのハンターに対し、ダニエルは麻薬中毒で幅広いコネを持つ従兄を頼り、5ポンド全てさばくことに成功。
質が良く人気になったマリファナを更に大量に売って行き、唸るほどお金を儲けます。ダニエルは赤いスポーツカーを購入し、ハンター達とお酒に酔いマリファナを吸って日々を過ごします。
映画『ホット・サマー・ナイツ』の感想と評価
映画冒頭から中盤はひと夏の青春物語という様相で、羽目を外したいティーンエイジャーがお酒を飲みマリファナを吸いパーティーで楽しむ姿を描き予定調和で物語は展開して行きます。
嘘と駆け引きで始まった恋は長続きしないもの。内気なダニエルが避暑地で出会う不良青年の妹に失恋…そう想像させます。
しかし、事態は一変。『理由なき反抗』を彷彿とさせる繊細で傷つきやすい地元の不良ハンターが内気で世間知らずのティーンエイジャー・ダニエルに翻弄されて行くのです。
自己中心的で世間知らずなダニエルがあぶく銭に味を占めて暴走。組織に対するけじめの為ハンターが自己犠牲を払い、兄を信じ始めた妹にとって残酷な結末を迎えます。
ハンターの正義は誰にも知られることはなく、やるせなさがエンディングを包みます。
ハンター・ストロベリーを演じたアレックス・ロウの瑞々しさは、主人公のダニエル・ミドルトンに扮したティモシー・シャラメを圧倒するほど際立ち、危うさと脆さを巧みに混ぜ合わせながら刹那的な雰囲気漂う青年を演じています。
また、カルフーンにトーマス・ジェーン、そしてコカインの売人にウィリアム・フィクナーと小さな役に実力派俳優が出演。イライジャ・バイナムの脚本がそれだけ魅力的だったことを示しています。
ティモシー・シャラメはインタビューで、本作の脚本がブラックリスト(製作の予定が無いものの製作会社の間で高評価を得た脚本)に載っていたことを明かしています。
『アメリカン・ハッスル』(2014)や『ファミリー・ツリー』(2012)もブラックリストから映画化された作品です。
MVや短編映画も撮った経験がないバイナムが書いた脚本を彼に監督を任せ、ほぼ無名に近いシャラメを主演に起用した製作会社のリスクある選択は功を奏し、『ホット・サマー・ナイツ』は若年層の観客から大きな支持を集めました。
まとめ
海辺の町へやって来た内向的なティーンエイジャー・ダニエルは、町の問題児ハンターと出会いマリファナの売人になりたいと自ら志願します。
気だるそうで成熟した雰囲気のマッケイラに恋心を抱きますが、彼女はハンターが唯一大切にしていた妹。
ハンターは、ダニエルの嘘も不義理も許し、彼の危険な遊びさえ、自分の命で清算します。誰かにありのままを受け入れて欲しかっただけの孤独な青年は、夏の終わりを告げる台風と共に散って行きます。
『ホット・サマー・ナイツ』は、出会ったが為に人生の歯車が狂ってしまうダニエルとハンターのひと夏を描いた切ない物語です。