「スタジオジブリ」の志を受け継ぐアニメーションスタジオ「スタジオポノック」による待望の第1回長編作品。
『借りぐらしのアリエッティ』と『思い出のマーニー』を手掛けた米林宏昌監督による『メアリと魔女の花』をご紹介します。
以下、あらすじやネタバレが含まれる記事となりますので、まずは『メアリと魔女の花』映画作品情報をどうぞ!
1.映画『メアリと魔女の花』作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【スタッフ】
原作:メアリー・スチュアート、脚本:坂口理子、監督:米林宏昌、音楽:村松崇継、プロデューサー:西村義明、作画監督:稲村武志、作画監督補:井上鋭、作画監督補:山下明彦、動画検査:大谷久美子、色彩設計:沼畑富美子、美術監督:久保友孝、美術デザイン:今井伴也、CG監督:軽部優、撮影監督:福士享、映像演出:奥井敦、アフレコ演出:木村絵理子、音響演出:笠松広司、主題歌:SEKAI NO OWARI「RAIN」
【キャスト】
メアリ:杉咲花、ピーター:神木隆之介、マダム・マンブルチューク:天海祐希、ドクター・デイ:小日向文世、赤毛の魔女:満島ひかり、フラナガン:佐藤二朗、ゼベディ:遠藤憲一、バンクス:渡辺えり、シャーロット:大竹しのぶ
【作品概要】
米林監督の最新作に、ジブリ卒業生とアニメーション内外の新たな才能が集まった。スタジオジブリの志を受け継ぐべく歴代のジブリ作品で活躍した才能たちが集結した新生「スタジオポノック」の作品。
2.スタジオポノックとは?
昨日、初日舞台挨拶を終えて、関係者の前で挨拶をする米林監督👓。良い顔しています。夜間飛行をイメージした青い花💠を杉咲花さん、神木隆之介さんからいただきました。
初日ってやはり映画にとっては特別なものですね。#メアリと魔女の花 #米林宏昌 pic.twitter.com/poefVQ16Bt— スタジオポノック (@StudioPonoc) 2017年7月9日
2015年4月15日設立。アニメーション制作会社。 2014年末にスタジオジブリを退社した後、プロデューサー西村義明が立ち上げたアニメーションスタジオ。
「ポノック」とはクロアチア語で「深夜0時」を意味する(ponoć) に由来し、新たな一日のはじまりの意味を込めた。
現在は、映画『メアリと魔女の花』の制作にスタジオジブリで活躍してきた卒業生であるクリエイターやスタッフが多数参加、名を連ねる。
映画『メアリと魔女の花』は、スタジオポノック制作として初の長編映画となる。
代表も務める西村義明が、プロデューサーとして『思い出のマーニー』に続き米林監督と二度目のタッグ。
脚本は『かぐや姫の物語』の坂口理子。映画音楽は『思い出のマーニー』以来、米林作品二度目の参加となる村松崇継が奏でる。
また、ジブリ作品の多くを手掛けてきた作画監督の稲村武志、井上鋭、山下明彦を中心に、日本最高峰のアニメーターたちが集結。
色彩設計は、“ジブリの色職人”故・保田道世の教え子である沼畑富美子。
映像演出にスタジオジブリ宮崎駿監督作のすべてを手掛けた奥井敦が担当。
そして、美術デザインは、名立たるミュージシャンのPV美術を担当し、一昨年はマドンナのプロモーションビデオも手掛けたプロダクションデザイナーの今井伴也。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』全作を手掛けた福士享が撮影監督を務め、“ジブリ”と“エヴァンゲリオン”の邂逅で、さらなる進化を遂げる。
高畑勲、宮崎駿両監督から学んだスタジオジブリ卒業生と、新たな才能たちの出会い。本作品に覚悟と決意を注ぎ込み、最高の長編アニメーションに挑んでいます。
3.映画『メアリと魔女の花』あらすじとネタバレ
赤い館村に引っ越してきた主人公メアリは、森で7年に1度しか咲かない不思議な花《夜間飛行》を見つける。
それはかつて、魔女の国から盗み出された禁断の“魔女の花”だった。
一夜限りの不思議な力を手に入れたメアリは、雲海にそびえ立つ魔法世界の最高学府“エンドア大学”への入学を許可されるが、メアリがついた、たったひとつの嘘が、やがて大切な人を巻き込んだ大事件を引き起こしていく。
魔女の花を追い求める、校長マダム・マンブルチューク。奇妙な実験を続ける、魔法科学者ドクター・デイ。謎多き赤毛の魔女と、少年ピーターとの出会い、そして・・・。
メアリは、魔女の国から逃れるため「呪文の神髄」を手に入れて、すべての魔法を終わらせようとする。しかしそのとき、メアリはすべての力を失ってしまう――。
しだいに明らかになる“魔女の花”の正体。メアリに残されたのは一本のホウキと、小さな約束。魔法渦巻く世界で、ひとりの無力な人間・メアリが、暗闇の先に見出した希望とは何だったのか。
メアリは出会う。驚きと歓び、過ちと運命、そして小さな勇気に。あらゆる世代の心を揺さぶる、まったく新しい魔女映画が誕生する。
4.『メアリと魔女の花』の感想と評価
スタジオジブリ在籍時代に『借りぐらしのアリエッティ』と『思い出のマーニー』を制作し、アニメファンからも高い評価を受けた米林監督の最新作がついに公開されました。
2014年8月にスタジオジブリはアニメ映画制作部門の休止を発表。
そのため、これからのジブリを担う存在として期待されていた米林監督は、西村プロデューサーが新たに立ち上げたスタジオポノックで今作を生み出しました。
ジブリの方は結果として、引退宣言をしていた宮崎駿が新作長編アニメーションの制作を始動させ、今年の5月に新たなスタッフの募集を開始することとなりました。
日本が世界に誇る大天才が今の時代に向けてどのような作品を作り上げるのか非常に興味深いところではあります。
話は戻って、米林監督、通称マロさんは非常に難しい立場にあるわけです。
今作はあのジブリのようなクオリティーの作品を全観客から求められ、同時にヒットもさせなければならないわけですから。宮崎駿の息子・宮崎吾朗がかつて『ゲド戦記』で世間から酷評されたように、宮崎駿と高畑勲の存在は大きすぎるのです。
しかし、米林監督は真っ向からその呪縛に対して立ち向かいました。
というかこのあたりはプロデューサーである西村さんの狙いなのかもしれません。なにせあの名プロデューサーである鈴木敏夫から太鼓判をもらった人物ですからね。
そして、企画実現までとんでもない歳月がかかったあの大傑作『かぐや姫の物語』で、高畑勲とやり合ってきた経験もあります。
今作の「魔女、ふたたび。」というキャッチコピーが表すようにどう考えたってジブリの名作『魔女の宅急便』を意識した作りになっています。
この『魔女の宅急便』は当時のジブリにとっても大きな転換点となった一作です。
公開当時『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』などアニメファンの間では大きな話題になっていましたが、世間一般の耳にはまだまだジブリの名前は届いていなかったようです。
鈴木プロデューサーがヒットさせようと初めて宣伝に本腰を入れた『魔女の宅急便』は21億円を超える成績(当時は配給収入)を記録し、大衆にもジブリと宮崎駿の名前が知れ渡りました。
その後はヒット作を連発し、ジブリという確固たるブランドを築き上げました。
スタジオポノックの本当に大切な1作目にこの『メアリと魔女の花』を持ってきた強い意気込みが伺えます。
お話もまさに米林監督自身の立場に重ね合わさるようで、とても大きなメッセージを感じました。
主人公のメアリは“夜間飛行”という花の力を使って魔法を駆使し、周りから天才だとチヤホヤされます。
これはそのままジブリというブランド力によってデビュー作から大ヒットを記録した米林監督の立場にも当てはまります。
ラストの魔法なんてもう必要ないと花を投げるシーンも、ジブリを辞めて自らの足で西村プロデューサーと共に本作を作り上げた姿にやはり重なります。
ネット上で感想などを調べると、ジブリのパクリといういささか的外れな表現が出廻っているようです。
絵のタッチや美術にカットなどの雰囲気が似るのは、元ジブリのスタッフが多く参加しているのですから当たり前でしょう。
それに米林監督はジブリが好きだからこそあそこで作品を作っていたわけで、辞めたからといってその精神をリスペクトするのを途端に止めなければいけないわけではないはずです。
確かに今作は、ジブリ作品を愛してきた人々を刺激するようなオマージュに満ちていると思います。その数も多いと思います。でも、ジブリで実際に作品を作ってきた経験のある米林監督ですから別にそれぐらいはいいのでは…。
しかし、最後にメアリが宣言したようにこれでもうこの魔法、ジブリという名の呪縛を断ち切りますよということです。私はそのように受け止めました。
個人的には『思い出のマーニー』を観て、この二人のタッグは信頼出来ると確信しています。
全体的なお話の起伏の物足りなさやキャラクターの描き込みが足りないせいで、心情の変化が読み取りづらい部分はあります。
俳優を多く起用したキャストにおいて少し気になる組み合わせも確かにあります。
時間をかけて作り込む高畑作品は別ですが、宮崎作品にもそういう部分は多々ありました。
それでも有無を言わさず感動させてしまうのは、圧倒的な画力ががあってこそです。
メアリの魔力は一時的なものだったかもしれませんが、髪の色はやはり天才の印である赤なわけで、大叔母さんが魔女だったメアリの血にも少しは魔女の血が流れているわけです。
大天才に立ち向かうには地道な努力と強い意志と少しの素質が必要です。
米林監督の人柄的にそんな大それたことを口にするタイプではないと思いますが、西村プロデューサーと共にジブリに対抗できるような素晴らしい作品作りを続けていってほしい限りです。
このレベルの作品が現段階で厳しい評価に晒されているわけですから、日本のアニメ映画の未来は明るいはずです。
4.まとめ
米林監督と西村プロデューサー頑張れ!
稚拙な言い回しですが、本当に心からそう思います。
宮崎駿と高畑勲に限らず、この国のアニメーション映画には天才がいっぱいいます。
夭折の天才・今敏。
ジブリとの因縁も深い(庵野監督もそうですね)ヒットメーカー・細田守。
圧倒的な表現力で独自の世界観を構築する湯浅政明。
昨年の映画界を席巻した二つのアニメ映画『君の名は。』の新海誠と『この世界の片隅に』の片渕須直。
さらに今年は『まどかマギカ』シリーズの成功で一躍名を世間に知らしめた新房昭之の新作『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(もちろん当サイトでも取り上げますのでお楽しみに!)が公開を控えています。
アニメに対して詳しくないというか普段アニメは全く見ない私ですらこんなに挙がるので、詳しい方はもっとたくさんご存知のことでしょう。
批判するのは簡単です。一観客としてポノックの次回作を楽しみに待ちましょう!