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Entry 2017/03/17
Update

映画『夜は短し歩けよ乙女』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

  • Writer :
  • リョータ

累計売上120万部を超える森見登美彦さんの同名原小説を待望のアニメーション映画化!

青春恋愛ファンタジー映画『夜は短し歩けよ乙女』をご紹介します。

映画『夜は短し歩けよ乙女』の作品情報

【公開】
2017年(日本)

【監督】
湯浅政明

【キャスト】
星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之、山路和弘、麦人

【作品概要】
『四畳半神話大系』や『有頂天家族』などで知られる人気作家・森見登美彦さんのベストセラー作品である『夜は短し歩けよ乙女』を待望のアニメーション映画化。

監督には映画『マインド・ゲーム』やテレビアニメ『四畳半神話大系』などの唯一無二の世界観を創り上げて来た湯浅政明さんを起用。

先輩役に大人気の星野源さん、乙女役に花澤香菜さん、パンツ総番長役に秋山竜次(ロバート)さん、他にも中井和哉さん、甲斐田裕子さん、吉野裕行さんら実力派声優らが集結。

映画『夜は短し歩けよ乙女』のキャスト一覧


(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

先輩 / 星野源

俳優であり、シンガーソングライターであり、文筆家であり、コントもこなすという超マルチな才能の持ち主、それが星野源さんです。

昨年大ヒットとなったTBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)の鮮烈なイメージが未だに頭の中に残っていますが、この作品では第6回コンフィデンスアワード・ドラマ賞 助演男優賞、エランドール賞・新人賞、第91回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞を獲得。

しかしそれ以前の時点で、映画『箱入り息子の恋』(2013)、『地獄でなぜ悪い』(2013)で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しており、俳優・星野源の名はすでに世間に認知されていました。

では声優ではどうかというと、こちらもアニメ『聖☆おにいさん』ですでに経験済み。(主演でしかも高い評価を得ている!)

そんな星野源さんが今回演じるのは、密かに“乙女”に思いを寄せる大学生の“先輩”。

なるべく彼女の命にとまるため「ナカメ作戦」を謎の行動を遂行中という先輩ですが、星野さんの雰囲気がピッタリと合っているようで、非常に期待が持てますね!

黒髪の乙女 / 花澤香菜

大人気若手声優の花澤香菜さんは、元々『やっぱりさんま大先生』やTBSドラマ『ガッコの先生』(2001)年に出演するなど、子役として芸能界デビューを果たしました。

14歳で声優へ初挑戦し、その後何年かのブランクを経てから高校3年生の時にテレビアニメ『ゼーガペイン』にヒロインのカミナギ・リョーコ役でレギュラー出演を果たし、本格的に声優の道へと転身することに決めたのだそう。

代表作には『To LOVEる -とらぶる-』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『デュラララ!!』などなど、ここでは挙げきれないほど人気アニメに出演しており、その高い人気ぶりが窺えますね。

今回『夜は短し歩けよ乙女』で花澤さんが演じるのは、先輩に恋される天然な女子大生“乙女”。

かなりの酒豪で好奇心旺盛がゆえ、様々なことに巻き込まれていくようですが、さあ一体どんな“乙女”像を花澤さんが表現しているのか…注目が集まっています!

学園祭事務局長 / 神谷浩史

言わずと知れた名声優、声優界でその名を知らぬものはいないのが神谷浩史さんでしょう。

『ONE PIECE』のトラファルガー・ロー役や、『進撃の巨人』のリヴァイ、『機動戦士ガンダム00』のティエリア・アーデなど、その美声は誰もが一度は聞いたことがあるはず。

どちらかというとキザな男前といった役柄のイメージが強い神谷さんは、今回『夜は短し歩けよ乙女』でもそんなイメージ通りの役柄、学園祭事務局長を演じています。

美形で女装癖があり、数々の男たちを無謀な恋路へと翻弄してきたという謎が多いキャラクターですが、神谷さんのあの声が本当にピッタリとハマっていて、これはもう楽しみしかありませんね!

パンツ総番長 / 秋山竜次(ロバート)

お笑い芸人ロバートの秋山さんのコントで披露される演技力の高さには以前から定評がありました。

最近では「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」が大人気で、また新たな境地を切り拓いたといった感じの秋山さんですが、声優としては一応ながら『劇場版ポケットモンスター』での出演経験があるようです。

しかし、秋山さんならどんなことでもやってのけそう…というより結構このタイプのアニメの声優が向いているんじゃないかとすら思いますよね。

そんな秋山さんが演じるのは、ある願いを叶えるまでパンツを履き替えないと願掛けをしている大学生、パンツ総番長。

設定からしてかなりぶっ飛んだ役柄のようなので秋山さんには持って来いといった感じでしょう!(ゴツい見た目も本人に近い!)

樋口師匠 / 中井和哉

元々は地方公務員として働いていたという声優の中井和哉さん。

デビューして間もなく、『機動新世紀ガンダムX』(1996)の主要キャラクターのウィッツ・スーを担当するなど、当初からその才能を認められていました。

そんな中井さんといえば、誰もが知っているのが『ONE PIECE』のロロノア・ゾロ役ですよね!

1999年から務めているゾロのあの声のイメージが非常に印象に残っている中井さんは、本作では「天狗」を自称する神出鬼没の男、樋口師匠を演じています。

常に浴衣を着こんで悠然と構えているという樋口師匠ですが、中井さんは一体どのような声で表現しているのか…注目です!

羽貫さん / 甲斐田裕子

アニメの世界では『一騎当千』(2003)の呂蒙子明役で高評価を得た甲斐田裕子さんですが、そもそもは洋画の吹き替え分野での豊富なキャリアを誇る声優さん。

『一騎当千』以降はアニメの方でも活躍し、『機動戦士ガンダムUC』のマリーダ・クルス役は記憶に新しいですね。

今回甲斐田さんが演じているのは、大酒飲みの美女・羽貫さん。樋口師匠とは親しい間柄ということで、甲斐田さんと中井さんの掛け合いが楽しみです!

古本市の神様 / 吉野裕行

『BLOOD+』や『機動戦士ガンダム00』、『ヤッターマン』などなど数々の名作アニメで活躍している声優の吉野裕行さん。

今回『夜は短し歩けよ乙女』で吉野さんは、古本市の神様を演じています。

あらゆる本の知識を有し、本の流れを司るというかなり謎多き神様で、しかも口と性格が悪いというのですから、一体吉野さんがどういう声に仕立て上げているのか…要注目ですね。

紀子さん / 新妻聖子

ミュージカル界のトップスター新妻聖子さんは、元々TBSの『王様のブランチ』のブランチレポーターとして芸能界デビューを飾ったんだとか。

最近ではNHK大河ドラマ『真田丸』への出演や、カラオケ番組でその類まれなる美声を披露したり、バラエティ番組でトークを繰り広げたりと舞台だけにとどまらない活躍ぶりが非常に目立ちますね。

声優としては、『とある飛空士への追憶』(2011)や映画『プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』(2016)ですでに経験済。

本作『夜は短し歩けよ乙女』では、パンツ総番長を支える演劇部の女子大生の紀子さんを演じています。

演劇部ということで、もしかしたら新妻さんの美声が披露される場面があるのかどうか…期待したいところですね!

映画『夜は短し歩けよ乙女』の監督紹介

映画『夜は短し歩けよ乙女』の監督を務めるのは湯浅政明さんです。

湯浅監督はテレビアニメ『ちびまる子ちゃん』(1990年放送開始)の本編の原画や、オープニング・エンディングの作画などを手掛けた後、『クレヨンしんちゃん』の作画監督として活躍し、アニメ界でその名を知らしめました。

大きな転機となったのは2004年でしょう。アニメーション映画『マインド・ゲーム』を発表し、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞や、モントリオール・ファンタジア国際映画祭など様々な賞レースを席巻することになったのです。

今回主人公の“先輩”役を務める星野源さんは…

湯浅政明監督からある日、直筆の手紙が送られてきました。
お会いしたこともないのになぜ?と思いながら封を開けると「星野源さんに主人公を演じていただけたら、絶対に面白い作品になります」と直筆にてオファーの言葉がありました。
映画『マインド・ゲーム』を観た12年前のあの日から人知れず湯浅監督作品を敬愛していた私は、お断りする選択肢が浮かびませんでした。(後略)

…と公式サイトでコメントを残しているように、湯浅監督の『マインド・ゲーム』という作品がそれほど大きな影響を与えたのだということを良く表していますね。

その後、オリジナル作品の『ケモノヅメ』(2006)でテレビシリーズ初監督を務め、次作『カイバ』(2008)では文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞します。

さらに、本作『夜は短し歩けよ乙女』と同じ森見登美彦さん原作の『四畳半神話大系』(2010)を監督し、さらにその評価を高めることに。

2013年にはアニメスタジオのサイエンスSARUを立ち上げ、『ピンポン THE ANIMATION』(2014)を発表しTV部門グランプリを受賞するなど、アニメーション監督として確固たる地位を築き上げました。

そんな湯浅監督は…

森見登美彦先生の御長女『夜は短し歩けよ乙女』待望のアニメ映画化です!
『四畳半神話大系』のスタッフが再び集結して張り切って制作いたしました!映画はタイトル通り、乙女が一晩歩き続けながら進行します!
森見先生が構想しながら使わなかったアイデアも実現!以前読んだときは気付かなかった、思わぬキャラクターの関係も読み解きました!
先輩の声を、なんと星野源さんが担当という事も皆が張り切る理由に!!
面白いこと請け合いなので、ぜひ劇場でご覧になってください!!

…と、公式サイトでコメントを残しており、いかに気合が入っているかが良く伝わってきます。「面白いこと請け合い」とのことですから、期待せずにはいられませんね!

映画『夜は短し歩けよ乙女』のあらすじ


(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

クラブの後輩である“黒髪の乙女”…

その“乙女”に恋心を抱く“先輩”…

しかし、臆病で奥手な先輩にとっては、黒髪の乙女に気安く話し掛けるなんか到底出来ません。

そこで先輩はとある作戦を思い付きます。

それがナカメ作戦!!!

正式には「るべくノジョのにとまる」作戦です。

春の先斗町…夏の古本市…秋の学園祭…

偶然を装って常に黒髪の少女の視界に入り、何とかきっかけを得ようとしていました。

しかし、あまりに天然が過ぎる黒髪の乙女には先輩の想いなど一切伝わりません。

さらにそこへ個性が豊か過ぎる仲間たちが引き起こす事件に巻き込まれ、ただただ季節は過ぎていくばかり…。

果たして、先輩の黒髪の少女への想いは一体どこへ向かっていくのか?!

そして…この恋が実る季節はやって来るのでしょうか…?!

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『夜は短し歩けよ乙女』ネタバレ・結末の記載がございます。『夜は短し歩けよ乙女』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
「ワインはいかがですか?」という給仕の声に「ウーロン茶でいいです」「バヤリースお願いします」という返事が響きます。

ここは結婚式場。赤い服を着た女子学生、黒髪の乙女は、周りの状況を見つつ、この会場で酒を嗜むことをあきらめ、式後に思う存分、誰もいないところでゆっくり気兼ねなく味わうことにしようと決意していました。

その対角線上、遥かに離れたテーブルに先輩が座っていました。ちらりちらりと黒髪の乙女を盗み見る先輩。彼は彼女に恋をしており、この一年間、ひたすら「ナカメ作戦」を続けてきたのです。

「ナカメ作戦」とは? それは「なるべく彼女の目にとまる」を省略したものです。先輩は黒髪の乙女と出会うように行動し「奇遇だね」「偶然だね」などと声をかけ印象づけるという回りくどい作戦を実行していました。

同じテーブルの学園祭実行委員長、パンツ総番長からは「外堀を埋めるのが好きだねぇ。目の前にいるのになぜ単刀直入にいかないのか」と言われますが、「私には私の間(ま)がある」と先輩はあせりながら呟くのでした。

「四条木屋町界隈が私を待ち受けている」。黒髪の乙女は、ビルの何階かにあるバーのカウンターに座りカクテルを嗜んでいました。

彼女はカクテルが大好き。きれいな宝石を選んでいるようでとても豪奢な気持ちになるのです。

そんな乙女にアカプルコを奢ってくれる人物が。いつから座っていたのか、カウンターに陣取った男は藤堂という名前の中年男でした。

藤堂は黒髪の乙女を励ますような台詞をいいながら、回した腕をすこしずつ下にずらして胸にタッチしました。黒髪の乙女はすがさずパンチを繰り出し藤堂をノックアウトします。

床に倒れた藤堂が紙をばらばらと落としたので見るとそれは春画! 彼は春画のコレクターなのでした。

いつの間にか天狗を自称する樋口師匠と羽貫さんという美女が黒髪の乙女の側にいました。乙女は今のパンチは幼い頃、母から習った「お友だちパンチ」であると話し、羽貫さんは先斗町の渡り方を教えて上げると彼女を誘いました。

彼女たちが潜入したのは「詭弁論部」というサークルの送別会です。すかさずただ酒を飲む羽貫さん。部員たちは奇妙な詭弁踊りをはじめ、黒髪の乙女もそれに加わります。

次にやってきたのは赤いちゃんちゃんこを着た老人たちが集う還暦祝いの会です。次々と酒を飲む黒髪の乙女に「どれだけ飲むんだ」と老人たちが言うと「そこにお酒があるかぎり」と乙女は応えます。

そして詭弁踊りを始める乙女。それを見て「懐かしい」と踊り始める老人たち。盛り上がっていなかった会が一挙に賑やかになりました。乙女は赤玉ワインをなみなみと注がれるのでした。

その頃、先輩は黒ずくめの男たちにパンツをとられて身動きできなくなっていました。そんな彼を窓から見つけた男がいます。自分の店で飲み直していた藤堂でした。

店内はだるまでいっぱい。藤堂は錦鯉センターも営んでいるのですが、ある日竜巻にあい、鯉がみんな天に舞い上がっていったといいます。

借金を背負い、李白という高利貸しに睨まれることになった彼は今日、コレクションの春画で李白と交渉する段取りになっていました。

そこに、結婚式の二次会と還暦祝いの連中が酔っ払ってあがってきて、そのうちの一人が春画の上に思いっきり嘔吐してしまい、あら大変!

三階建ての巨大な電車のような自家用車に乗って李白がやってきます。汚れた春画を見て「話が違う」と怒り出す李白。

「どうやって落とし前をつけてくれるかね」という彼の問いに、黒髪の乙女が手をあげて飲み比べの勝負を持ちかけます。申し出を受けた李白は「私が勝てば借金は倍。容赦はしないよ」と言い放ちます。

早速飲み比べが始まりました。「人生を底の方から温めてくれるような芳醇の味」と黒髪の乙女は涙ぐみます。

「人生はむなしい」という李白に対して「豊かです」と応える黒髪の乙女。「人生は奪い合いだ」という李白に対して「与え合い」と応える黒髪の乙女。

「もう飲めん」と李白が降参し、黒髪の乙女の勝利となりました。借金は帳消しとなり、李白は自家用車に乗り去っていきました。先輩はようやくパンツをみつけました。これも李白一味の仕業だったのでしょうか?

気がつけば鴨川にいる黒髪の乙女。他にはカップルしかいません。等間隔で座っているのは何かの法則なのかと黒髪の乙女は悩むのでした。

毎年夏に行われている下鴨納涼古本まつりのチラシが目についた黒髪の乙女。彼女は幼少のころ読んだ絵本『ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語』という絵本のことを想いだし、その本に会いたくなりました。

「学園祭事務局」は「図書館警察」の役割も果たしており、未回収本の調査以外に、学生のあらゆる情報を集めている組織でした。

「違法ではないか!」と先輩が抗議すると「君は知りたくはないかね」と甘い囁きが聞こえ、先輩は思わず「知りたい」と答えるのでした。

さて、今宵は既に下鴨古本まつりが始まっていました。黒髪の乙女も早速やってきました。「ここはまるで本の海。深海魚になって回遊するつもりです」。

先輩もやってきましたが、小さな男の子が現れて股間にソフトクリームをつけられてしまいます。

男の子は「古本の神様」。古本から値札をとって、古本屋から追われていたのですが、「このお兄ちゃんがやれって言った。しないといたずらするって言われて」と嘘八百を並べます。周りの人々から顰蹙をかう先輩。

なんとかその場を逃れた先輩は藤堂さんにつかまり、李白主催の「闇の売り立て会」なるものに代わりに出席させられてしまいます。

煌々とストーブがついた部屋の奥には招き猫の頭のような大きな鍋が見えています。最期まで残ったものは、李白の希少本のコレクションから好きなものを持ち帰っていいとのこと。

なんとその中には、『ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語』があり、しかもそれは、黒髪の乙女が幼いころに持っていた本らしいのです!

彼女がその本を探しているという情報を既に知っていた先輩は、その燃えるような赤い鍋に果敢に挑戦し、燃え盛る辛さに多くの人間が倒れていく中、ついに勝ち残ります。

再び、古本まつりの会場。古本の神様が値札を抜いているところに出くわした黒髪の乙女は注意しますが、「これはいたずらじゃないんだ」と神様はいいます。

そして、ヴェルヌ→デュマ→黒岩涙香→山田風太郎というつながりから始まって、次々と関連のある作家の名前を挙げていき、「本というのはすべてつながっているのだ」と主張します。

「いたずらに高値をつけて、この流れを妨害するもの」に彼は腹をたてているのでした。そして、複雑に張り巡らせた白い糸をはじくと、李白の書架にあった希少本のコレクションが古本まつりの会場に飛んでいくのでした。しかるべき人の手に渡っていくようにと。

黒髪の乙女は学園祭にやってきました。射的で景品を撃ち落とし、巨大な緋鯉の縫いぐるみのようなパーカーをゲットしました。

それをつけて歩いていると、炬燵にはいった樋口さんを発見しました。「これは韋駄天炬燵だよ」と樋口さんは言いました。炬燵にはもうひとり男性がいます。パンツ総番長でした。

なにゆえにそのような名前がついているのでしょうか? 彼は去年の学園祭で、空からりんごが降ってくるという経験をしたそうです。

りんご飴を作ろうとした学生が箱をひっくり返したか何かでしょうが、階下にいたパンツ総番長と、バトンを持った美少女の頭に同時にりんごが落ちて弾んだのだとか。

その瞬間、総番長は恋に落ちました。どうしていいかわからず、彼女と別れてからも彼女のことがわからず、怪しい情報にも頼れず、会えるまでパンツを履き替えないことを誓ったといいます。

炬燵に入った樋口師匠とパンツ総番長と語っていた黒髪の乙女でしたが、いきなり、『偏屈王』というゲリラ劇が始まりました。

その演劇は大学の実際の話を取り入れたもので、特定の個人のことをネタにすることからも学園事務局に睨まれていました。

学園事務局長はこれまでに何度も主演女優を捕えてきましたが、そのたびに代役が立ち、ゲリラ演劇は行われ続けているのでした。

またもや主演女優が捕まえられたようです。そして、その場にいた黒髪の乙女に代役のオファーが来たのです。彼女は快諾し、一瞬で台詞を覚えてしまいました。

その姿を見た先輩は「なぜ君はいつも主役におどりでる?!」と驚嘆します。

「しかし妙です。作者の姿が見当たりません」。学園事務局はゲリラ演劇と韋駄天炬燵のからくりに気が付きました。韋駄天炬燵が現れたあとに、ゲリラ演劇が現れているのです。

作者はパンツ総番長だったのです。

黒髪の乙女は次の回でラブシーンがあることを知らされますが、女優としての自覚からラブシーンも辞さない覚悟のようです。

先輩の耳にもラブシーンのことがはいってきました。公衆の面前でそんなことはさせたくない、しかも相手がパンツ総番長だなんてありえない!

先輩はパンツ総番長を蹴り倒し、舞台の上で黒髪の乙女に「たまたま通りかかったものだから」とまたもやナカメ作戦を実行しています。

「奇遇ですね」と乙女。「もはやこれは運命。さぁ、キスをば」。その瞬間、舞台の底が抜けて先輩は奈落の底へ。

パンツ総番長はこのゲリラ演劇を通じて、「りんごのあなた」を探していたのです。その時、あのバトンを持った女性が現れました。しかし、それは一年前の学園祭でアイドルに扮していた学園事務局長だったのです。

「私じゃだめですか!?」と女の子が歌い出しました。それはずっとゲリラ演劇を後ろから支えてきた紀子さんという女子学生でした。

しかし、パンツ総番長は紀子さんに謝り、自分は同時にりんごがはねたあの瞬間に運命づけられたのだ、たとえ相手が男でもと告げます。

その時、天から錦鯉が落ちてきて、パンツ総番長と紀子さんの頭に落ち同時に跳ねました。それは藤堂の錦鯉センターの、竜巻に巻き込まれた鯉たちでした。

気がつけば先輩は風邪をひいていました。何気なくSNSで呟いてみても誰からもなんの反応もありません。

実は先輩だけでなく、パンツ総番長と紀子さんも、学園事務局長も、藤堂も、樋口さんもみんな風邪で寝込んでいたのです。

一人元気な黒髪の乙女は皆を見舞って、たまご酒を作って回っていました。その時、先輩のことを聞かされます。「君はどんどん進んでいくから追いつけない。何度も逢うなんておかしいと思わない?」

街中に風邪が蔓延しているのは李白が風邪をひき、それが撒き散らされているからなのです。黒髪の乙女は風邪の大嵐の中、李白の家に向かいました。建物自体が咳をしています。

寝込んで弱気になっている李白を黒髪の乙女は励ますのでした。「李白さんの風邪はみんなにうつって、李白さんの奪ったものは、巡り巡ってみんなとつながっています。李白さんは孤独ではありません」。

そのころ、李白以上に孤独をこじらせている若者がおりました。勿論、先輩です。

彼の頭の中では、出来ることをコツコツとやるという利点をもっていた自分が、永久外堀埋め立て機関に墜落したのは何故なのかという議題の討論会が行われていました。

その時、黒髪の乙女がこちらにやってくるという情報が入ってきました。先輩の心は激しく乱れ、先輩の自意識の分身のような集団や、ジョニーのカウボーイたちの群れが激しく交錯します。

やってきた黒髪の乙女のスカートが広がり、飛び上がった彼女をカウボーイたちが撃ち、乙女は落下していきます。ひきあげようとする先輩…。京都の上空を飛んでいる二人は腕を取り合っています。

先輩が目覚めると、黒髪の乙女が枕元に座っていました。先輩にも卵酒を作っています。

『ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語』を先輩は指差します。「たまたま手にはいったから」。

黒髪の乙女が手にとると、それは昔自分が持っていたものであることがわかりました。彼女は嬉しそうに私の名前が書いてありますと先輩に指差します。

「面白い古本屋があるんだ。今度一緒に行きましょう」という先輩の誘いに「喜んで」と応じる黒髪の乙女。

すっかり風邪も治り、先輩は今出川通りにある喫茶店「進々堂」にやってきました。古本屋に行く前に喫茶店で珈琲をと約束したのです。

私は彼女に聞きたいことがある。まるで一年のような一日を彼女はどんなふうに過ごしたのか。黒髪の乙女もまた同じことを考えていました。

黒髪の乙女が「進々堂」にはいると、今出川通りに面した明るい席に座った先輩が笑顔で手を挙げました。

映画『夜は短し歩けよ乙女』感想と評価


(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

テレビアニメ『四畳半神話大系』のスタッフが6年ぶりに集結。再び、森見登美彦のベストセラー小説に挑みました。

監督・湯浅政明、脚本・上田誠(ヨーロッパ企画)、キャラクター原案 – 中村佑介、キャラクターデザイン・総作画監督 – 伊東伸高、音楽・大島ミチル、主題歌ASIAN KUNG-FU GENERATIONといったおなじみの顔ぶれです。

さらに、登場するキャラクターも、『四畳半』のメインキャラクターである樋口や羽貫さんが出てきますし、「古本の神様」の顔はあの小津そっくりで、主人公の「先輩」を困らせます。

ジョニーなる主人公の性欲の分身(?)とも呼べるカウボーイも登場してきます。

『四畳半』で森見登美彦の世界を完璧に映像化したスタッフは、このように、その世界観をまず引き継いでみせます。

その上で、『夜は短し歩けよ乙女』では、『四畳半』とはまったく違った展開を見せます。

『四畳半』では、平行世界が描かれ、主人公は様々なサークルにはいって、様々なバリエーションを経て何度も同じ過ちを繰り返すのですが、『夜は短し歩けよ乙女』は、原作のエピソードを忠実に取り入れながら、それらをたった一日の物語として描くという荒業をやってのけます。

どうみても、数ヶ月はあるだろうという物語を強引に一日の話にまとめる無謀さ! 映画そのものが酔っ払っているんじゃないかと思わせるようなパワーが漲っています。

「ナカメ作戦」でこまめに動き回り、外堀を埋めて埋めて埋め尽くしている先輩の内面が赤裸々に描かれるシーンは、まさに混沌、カオス!

しかし、人は恋の成就を望みながら、成就することを恐れ、逃走しようとしがちなもの。先輩の粒子とも呼ぶべき黒い小さな先輩とジョニーのカウボーイたちが乱れ、争い、交錯する様子は、自意識の葛藤の見事な映像化(戦争アクションのような!)といってもよいのではないでしょうか。

濃すぎる人間たちが、これでもかとシュールではちゃめちゃ、破天荒で、やり過ぎ!な行動をとる中で、どこまでも一人でずんずんと好奇心の赴くままに歩いて行く黒髪の乙女は魅力的です。

もしかすると、この長い長い何ヶ月にも思える一日とは、彼女が自分の活動に必要だと願った時間なのではないでしょうか? 一日が24時間でなく、36時間くらいあればいいのになんてことを一度は思ったことがありませんか? 黒髪の乙女も同じように願ったのです。おそらく。桁が少し(いや、かなり)違っていたようですが。

ところで、正直なところ、彼女にとって恋愛というのはそれほど重要なものではないのでは?と思えてなりません。ただ、面白い古本屋に誘ってくれて、由緒ある喫茶店「進々堂」でお茶を飲める相手とならば別。

二人が本当の恋人同士になるのか、それとも、趣味の合うお友達でいつづけるのかは、わかりませんが、原作ファンなら、進々堂でのシーンがきちんと映像化されているのはたまらないのではないでしょうか。

勿論、進々堂だけでなく、木屋町界隈や先斗町、鴨川、叡山電鉄出町柳駅、加茂大橋、糺(ただす)の森などの京都の風景が見事な映画的空間として立ち現れていて、感動的です。

一番笑ったのはゲリラ演劇で「総長カレー」が出てきたところです。(実際に存在する知る人ぞ知る京大のカレー。おみやげにどうぞ)。こんな小ネタが他にもいっぱい散りばめられているかもしれません。

本作は単体で観ても十分楽しめますが、原作本や、テレビアニメ『四畳半神話大系』を観ると一層楽しくなるのは間違いありません。

まとめ

累計売上120万分超のベストセラー小説『夜は短し歩けよ乙女』は第20回山本周五郎賞を受賞したり、2007年本屋大賞2位を獲得するなど、批評家からも高い評価を得ている作品です。

著者の森見登美彦先生にの作品群の中で最もファンが多いと言われている作品なだけに、映像化に際してはかなり高いハードルが掲げられていると思われます。

しかし、『四畳半神話大系』ですでに成功を収めている湯浅監督率いる最高の制作陣の手に掛かれば、そんなハードルなど蹴り飛ばしてしまうに違いありません!

注目の劇場公開は2017年4月7日(金)から始まります!ぜひ劇場で先輩の恋の行方を確かめましょう!

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