映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』は2019年10月4日(金)より全国ロードショー!
50歳を目前に、妻の一言で目覚めた作家・ヒキタクニオは、辛く長い妊活への道を、妻と歩む覚悟を決めます。
子づくりに向けた様々な現実と向き合いながら、時に反発しながらお互いの気持ちを知っていく夫婦と、二人をとりまく人々の姿を描いた『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』。
本作はイラストレーター、マルチメディアクリエーターとしても活躍している作家のヒキタクニオが執筆したエッセイが原作。
映画『ぱいかじ南海作戦』『オケ老人』を手掛けた細川徹が監督・脚本を務めた作品です。
キャストには意外にも映画初主演となる松重豊をはじめ、北川景子、濱田岳、山中崇、伊東四朗ら実力派、ベテランがしっかりと脇を固めます。
CONTENTS
映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【脚本・監督】
細川徹
【キャスト】
松重豊、北川景子、山中崇、濱田岳、伊東四朗
【作品概要】
舞台演出、脚本執筆などでも知られる細川徹監督が演出を務め、バイプレイヤーとして高い評価を誇る松重豊が映画初主演、その松重が演じる作家の、年の離れた妻役を北川景子が担当する笑いと涙のドラマ。50歳を目前にした一人の作家が妻の一言で子作りに奮起、妊活にいそしむ毎日の生活を通して結婚生活の実態やそこにうごめく様々な思いを描き出します。原作は作家・ヒキタクニオが著したエッセイ。また作品は「第9回北京国際映画祭」でワールドプレミア上映されました。
映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』のあらすじ
49歳の作家ヒキタクニオ(松重豊)は、OLで年下の妻サチ(北川景子)と生活のサイクルは違えど、仲睦まじい生活を送っていました。
ずっと夫婦二人で生きていこうと決めていたクニオでしたが、ある日の夜、二人での帰宅の途にサチから「ヒキタさんの子どもに会いたい」と告げられます。
こうして二人の妊活はスタート。生活のサイクルを合わせ、果敢にチャレンジする二人でしたが、サチは一向に妊娠する気配がありません。
心配になり、二人そろってクリニックで検査を受けると、クニオの精子に不妊の原因があることが判明。
ビールが大好きな一方でジムにも通っており、健康を自負してたクニオはショックを受けるも奮起し、生活改善にいそしむことに。
それでもなかなか実を結ばず、病院の専門医(山中崇)からは「次の段階への移行を考えられてみては」と人工授精などの先進手段を勧められることになります。
そんな中、ヒキタさんの仕事相手である出版社の編集者(濱田岳)はクニオに、その気もないはずなのに「また子供が生まれた」と報告、プレッシャーを浴びせます。
一方ではサチの父(伊東四朗)より子づくり、ひいては二人の結婚自体を否定され、二人は生活の中で次第に不安と苛立ちを見せ始めるます。
果たして、二人は子供を授かることができるのでしょうか?
映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』の感想と評価
テーマを作り上げるポイント選び
まずそのストーリーを見て感じられるのが、脚本の完成度の高さです。
原作はエッセイであり、そもそもストーリーものとしてその要点を組み直し、物語を作り上げるというのは、なかなかにハードルの高いものであるといえるでしょう。
子づくりというテーマから物語の要点をあげようとすると、子供自体が生まれるかどうか、あるいはメインキャスト以外の思い、二人を取り巻く様々な出来事など、いろんなポイントを取り込みがちになりますが、まとめにくい点もあったでしょう。
しかしそれを敢えて原作のエッセイからは、二人の思いという部分に重心があるととらえ、劇中のシーンの半分以上はクニオ、サチの二人の会話で成り立たせる格好のスタイルとしています。
二人で存在する画、そして二人の会話がこの作品の最重要なポイントであり、そこでこそこのストーリーが完成しているといっても過言ではありません。
その点においては、細川徹監督は舞台演出も多く手掛けているだけに、二人の会話家劇の組み立て方にもセンスを感じさせています。
物語の展開からエンディングへの流れもよく、人それぞれによる物語への共感の度合いを一層濃いものにしているようでもあります。
ストーリーの感じ方は、観客によりそれぞれかもしれませんが、細川監督が伝えたいメッセージは、明確に描かれています。
物語の流れに見られる2つのキーパーツ
このストーリーでは、2つの印象的な場面が、物語の絶対的な状況を暗に示しているように感じられます。ひとつは、水中に漂う「クラゲ」の姿。
これはクニオたちが自宅のマンションで飼っているものとして登場しますが、その水の中をふわふわと漂う姿は、物事を進める覚悟が決められないなど、クニオ、サチそれぞれの定まらない思いを、そのまま象徴しているようでもあります。
そしてもうひとつが「桜の咲いた道」。
この背景は最初にサチがクニオに向けて、「子供がほしい」という旨を語るシーンで登場し、以後二人が辛い思いを分け合う場面、そして明るい気持ちを共有する場面と、わりと二人の思いが明確な場合に登場する印象もあります。
その意味ではこの「クラゲ」と「桜の咲いた道」のシーンは非常に対照的であり、それぞれの登場するバランス感がうまく出ることで「桜の咲いた道」が登場した際に、観衆はカタルシスのようなものを感じることでしょう。
このポイントは、エッセイなどからはなかなか拾うのは難しいアイテムであり、これを要所でうまく配置しているのも、ストーリーを魅力的に見せている大きな要因と考えられます。
映画初主演となった松重豊の存在感
そしてこの映画の最大の見どころは、なんといっても松重の存在感、主役としてのたたずまいにあるのではないでしょうか。
俳優としてはベテランの域にも達し、バイプレーヤーとして非常に高い評価を得ている松重ですが、意外にも映画としては本作が初主演作となります。
しかし一方で満を持して、という印象もあります。
ストーリー上で演じるヒキタクニオという役柄は、50歳を目前に妊活という一つの節目を迎えた男性であり、松重自身にも新たに映画での主演に挑戦するという意味では、何か通ずるものがあったのではないかと察します。
本作で松重は、役柄として何か特別な役作りをしたり、引き出しの多彩さを見せているようにも感じられず、ありのままの自分の姿で役柄に挑戦しているようでもあり、見方を変えれば自分自身と何らかの共通点を見出しているのでは?という思惑も浮かんできます。
またこれまで松重の主演作といえば、ドラマ『孤独のグルメ』シリーズ(テレビ東京系)が有名でありますが、この作品では大半のシーンがセリフは自身のナレーションのみ、ただひたすら料理を食べるというシーンで埋め尽くされておりました。
そういった技量もこの作品では十二分に発揮。妊活に向けて一人奮闘する場面ではこの演技が生かされています。
そしてサチをはじめとしさまざまな登場人物と行う会話劇では、バイプレーヤーとしての本領を発揮しています。
この会話劇も秀逸で、もちろん本の良さもあるかと思いますが、北川をはじめ濱田、山中、伊東とのセリフのやり取りで見られるテンポの良さは、松重が受けに立ってこそともいえます。
特に近年、コミカルなセリフのやり取りで定評のある濱田との会話部分は、どこまでが本通り、そしてどこまでがアドリブなのかと驚いてしまうほどに秀逸な出来となっています。
度々ドラマなどで共演もしている北川も「信頼関係が出来上がっている状態で演じられたのは本当に良かったと思います。クランクインしてすぐに、自然と夫婦になれたような気がしました」と、その存在感には大いに支えられた様子。
本作は松重にとってはまさに“満を持して”の初主演であったといえるでしょう。
まとめ
全体を俯瞰してみるとシンプルに、子づくりに奮闘する一組の夫婦を描いた物語でありますが、そこには単に愛情によってつながったカップルの話ではない、もっと現実的な世界が渦巻いています。
男女が愛によって引き合う、そしてその愛情で子供を授かり…といった表面的な愛情の話はここには皆無です。
何が何でも子供を授かることを願い、少しでも授精の確立を上げるための涙ぐましい努力など、おそらく通常のラブストーリーでは全く見られない視点がここでは取り上げられ、結婚という形の知られざる部分が垣間見られるようで、非常に新鮮な感覚も覚えることでしょう。
その一方で、この状況だからこそ見られる、というような夫婦の愛情的な雰囲気が、とてもリアルに見えてくるようでもあって、見る方によっては思わぬ方向から、気持ちを煽られるような感覚も覚えることでしょう。
映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』は2019年10月4日(金)より全国で公開されます!