世界30か国で販売された小説、「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」。この人気作が国際色豊かなキャストで映画化されました。
こうして誕生した作品が、『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』です。
クローゼットに始まる様々な移動手段で、世界を旅する主人公・アジャの姿を通して人生を、世界を描いたハッピーな物語が幕を開けます。
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映画『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス・ベルギー・インド合作映画)
【原題】
The Extraordinary Journey of the Fakir
【監督・脚本】
ケン・スコット
【キャスト】
ダヌーシュ、ベレニス・ベジョ、エリン・モリアーティ、バーカッド・アブディ、ジェラール・ジュニョ、ベン・ミラー
【作品概要】
インドで大道芸をして暮らしていた青年アジャ。一大決心をして憧れの街パリにやってきた彼は、ひょんな事からクローゼットに閉じ込められ、世界を旅する事になります。
パリ・ロンドン・スペイン・ローマ・リビアと、国境を越えて次々変わるロケ地に、15ヵ国の俳優が集結した豪華キャスト。とびきりハッピーなロードムービーが誕生しました。
映画『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』のあらすじとネタバレ
インドの都市、ムンバイの警察署に、3人の不良少年が捕えられます。このままでは4年間少年院に収監される彼らの前に、アジャ(ダヌーシュ)が現れます。
これからたっぷり時間をもてあます少年たちに、自らの体験したという物語を聞かせるアジャ。
ムンバイの貧民街に生まれたアジャ。彼は母と2人、そして家の前に守り神のよういる、牛のモヒニと共に暮らしていました。幼い彼にとって、周囲の狭い世界だけが全てでした。
体が小さく弱いアジャに、いつかパリに行くなら体が強くならないと、と働き者の母は口癖の様に言って、しっかり食べるよう注意していました。
父親はいない、と常に語っていた母。そして男の人を見るとあの人がパパかと、繰り返し母に尋ね困らせていたアジャ。
小学校に通い始めたアジャは、広い世界を知ると同時に、自分は貧しいと実感します。自分の境遇に不満を覚えた彼は、ある日通っていた病院で運命的な出会いをします。
それは雑誌に載っていた家具の写真でした。様々なブランドの、シリーズ化された美しい家具に魅かれた彼は、いつか自分が家具のデザイナーになる日を夢見ていました。
やがてアジャは2つの事を悟ります。1つは自分が貧乏である事。もう1つは、自分は貧乏から逃れたい事。芸を見せて稼ぐ男を見かけたアジャは、いとこと共に大道芸で金を稼ぐ事を覚えます。
空中浮遊にイリュージュン、心霊手術。様々な芸を身に付け、金を稼ぎながら成長するアジャたち。しかし手品の技はスリにも生かされ、犯罪まがいの行為までして稼ぐ様になったアジャ。
それでもアジャは金を貯め、母と共にパリに行く夢は諦めていません。しかしその夢がかなう前に、母の心臓は止まってしまいます。
母の遺品を整理していたアジャは、父が母に宛てた何百ものラブレターを目にします。父は大道芸人のフランス人で、母に愛情のこもったラブレターを送っていました。
母との結婚を約束していた父は、母にパリに来るよう願っていました。毎週日曜エッフェル塔で母を待つ、と書いた父。もし自分がいなければ、この手紙を紙飛行機にして飛ばせば、魔法の様に2人を引き合わせてくれるだろう、とラブレターに記されています。
アジャは何としてもパリに行く事を決意します。地元の裏社会を仕切る男ギリから金を借り、何とかパリに行く算段をつけたアジャ。しかしギリに目を付けられ、金を奪われます。
手元に残ったのは、パスポートと航空券、そして1枚の100ユーロの偽札のみ。それでも母の遺灰と彼女の残した新聞の切り抜きと共に、意気揚々とパリへ出発するアジャ。
こうしてパリに到着したアジャを、白タクの運転手グスタフ(ジェラール・ジュニョ)が車に乗せ案内します。グスタフは観光客相手にぼったくりを働いている、とアジャは見抜きますが、彼の話術に魅せられ悪い気はしません。
グスタフに100ユーロ札を渡したと見せかけ、巧みな手業で取り戻したアジャ。彼はパリで一番のお気に入りの場所である家具店に現れます。
夢にまでみたデザイナー家具が並ぶ店内で、アジャは1人の女性に気付きます。その女性マリー(エリン・モリアーティ)に一目惚れしたアジャ。
警察署で彼の話に夢中になった不良少年たちに、アジャは特殊な磁場の影響で、パリの恋は他の場所の10倍燃え上がるのだと説明します。
アジャは家具を試すふりをしてマリーに声をかけます。最初は不審に感じたマリーも、彼に魅かれ始めます。アジャは彼女にインドの魅力を語り、アメリカからパリに移り住んだマリーは、自分の境遇を話します。
明日の夜7時に、エッフェル塔で再会しようと約束する2人。アジャは再会の約束の証として、マリーに新聞の切り抜きを渡し、代わりに彼女のペンを預かります。
この出会いにアジャは、遂に自分に運が向いてきたのだと確信します。しかし宿泊する場所はありません。そこで家具店の中で、一晩過ごすと決めたアジャ。
母の遺灰を家具店の壺に入れ、クローゼットの中に潜んだアジャは、安心したのかすぐ寝込んでしまいます。ところがアジャの隠れたクローゼットが、よりにもよって配送用に選ばれ、運び出されてしまいます。
トラックに乗せられ輸送されるクローゼット。周りの気配に気づき目覚めたアジャは、クローゼットから外に出ます。そこはトレーラーの中で、周囲にはフランスからイギリスを目指す、ソマリア難民の密航者がいました。
難民のリーダー格の男、ウィラージ(バーカッド・アブディ)に自分は難民ではなく、観光客だと説明するアジャ。彼はウィラージからソマリアからの、苦難に満ちた旅路を聞かされます。
突然トラックが停止します。イギリスの検問に遭遇したと悟ったアジャと難民は、トレーラーから出て逃げ出します。しかし彼らをイギリスの警官たちが追ってきます。
パリから思わぬ形でロンドンに到着したアジャ。こうして彼の奇想天外な旅が始まります。果たしてアジャは、マリーと再会出来るのでしょうか。
映画『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』の感想と評価
想像力が生む物語の素晴らしさ
ロードムービーであり、同時にハートフルなヒューマンコメディでもある本作品。しかし同時に、物語を生む想像力とその力を讃えた作品になっています。
映画はおとぎ話風であり、主人公のアジャが語り聞かせる形式をとっていますが、これは原作と異なり、『人生、ブラボー!』の監督ケン・スコットが、映画の為に選んだ形式です。
脚本には原作者ロマン・プエルトラスが参加し、ケン・スコットらとともに執筆。原作者公認の映画版の物語として完成しました。
なおロマン・プエルトラスは本作にカメオ出演しています。けっこう大きなオイシイ役なのに、クレジットされていない人物ですが、お判りでしょうか。
原作小説が映画化、映像化するに当たり、理想的な形と完成度を示した作品の1つです。
豪華キャストで描く多国籍映画
主人公のアジャを演じるのはボリウッドスター、ダヌーシュ。あのインドの“スーパースター”ラジニカーントの娘婿としても有名ですが、監督・歌手・プロデューサーとしても活躍しています。
女優ネリーを演じるのは『アーティスト』のベレニス・ベジョ、ソマリアからの移民ウィラージを、『キャプテン・フィリップス』でデビューしたバーカッド・アブディが演じています。
意外な所では『ジョニー・イングリッシュ』シリーズで、ローワン・アトキンソンの相棒を務めたベン・ミラーが、ボリウッドスターに歌と踊りを強要、という爆笑シーンもあります。
世界各地を飛び回る映画ですが、ムンバイ、ローマ、そして何と言ってもパリの描き方は最高です。美しき観光地映画としても楽しめる作品です。
まとめ
ファンタジー、ハートフル要素の強い、ヒューマンコメディ映画である『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』。しかし一番注目すべき点は「物語る事を描いた物語」である事です。
人間の一番の力はイマジネーション(想像力)、それが人を貧困からも、不公平からも救う姿が、この作品の大きなテーマとなっています。
同時に映画ファンには、映画はイマジネーションから生み出される、という原点を再確認させてくれる作品でもあります。
「重要な部分だけは」本当の話というこの映画。どこまでが現実で、どこまでが想像力が生んだ物語なのかは、見る者に委ねられています。あなたにこの映画の何が「重要な部分」でしょうか。
この素晴らしい物語を前に、「IKEA」の名前が使えなかったのは大人の事情かなとか、それにしては家具店の制服が「IKEA」っぽいとか、そんな事を気にするのは、些細な事に過ぎませんね。