映画『バイオレンス・ボイジャー』は2019年5月24日(金)より全国ロードショー!
長編デビュー作『燃える仏像人間』(2013)により、独創性の高い強烈な世界観が国内外にて高く評価された宇治茶監督。
“アニメーション”と“劇画”を融合させた表現技法「ゲキメーション」を用いた作風で知られています。
2019年5月24日(金)から公開される監督の新作映画『バイオレンス・ボイジャー』の劇場公開に先立ち、宇治茶監督にインタビューを行いました。
『バイオレンス・ボイジャー』で声の出演を果たしたダウンタウンの松本人志さん・田口トモロヲさんらとのアフレコ収録の秘話から、宇治茶監督の映画制作に対する“こだわり”や創作活動への思いまで、様々なお話を伺いました。
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映画制作の経緯
──まず最初に、本作の制作経緯についてお聞きしたいのですが。
宇治茶監督(以下、宇治茶):最初の発端自体は正直思い出せないですね。「とにかく僕がやりたいものを今回はやってみよう」と、好き放題やらせていただきました。
特に、自分の好きなホラー映画や、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』、マイケル・クライトン監督の『ウエストワールド』のような「とある施設に入ったのをきっかけに、そこに潜んでいた恐怖に巻き込まれてゆく」という展開を、漠然と描きたかったんです。
そこから自分の中でどんどん発想を膨らませて、本作の世界観を形作っていきました。
豪華キャスト陣と臨んだ『バイオレンス・ボイジャー』
──本作は豪華なキャスト陣でも話題となっていますが、キャスティングはどのように進められたのですか?
宇治茶:声優さんのキャストについては、プロデューサーの安斎レオさんが決めてくれました。僕自身はあまりアニメ業界には詳しくないんです(笑)。
安斎さんは脚本のイメージを汲み取った上で、悠木碧さんや藤田咲さん、小野大輔さんを薦めて下さったんです。
──田中直樹さんと高橋茂雄さんは、監督ご自身が出演オファーをされたとお聞きしました。
宇治茶:田中さんは、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』や『ココリコミラクルタイプ』でお見かけした演技が凄かった記憶があって、「あんな感じで狂った演技やってもらったら面白そうやな」と思いお願いしました。
高橋さんは、僕が中学生の頃に観た『パペットTV』という深夜番組が最初のきっかけでしたね。吉本興業の芸人さんが複数出演されていて、出演者全員が動くパペットに声を当てて会話するという内容だったんですが、その中でも高橋さんの演技が非常に印象的だったんです。
その後『ズートピア』を観に行った時に、「めっちゃうまいな」と改めてびっくりさせられました。その人の“色”が出過ぎない、作品の“一部”になる演技をして下さるんですよね。
緊張した“先輩”とのアフレコ収録
──キャスト陣の中には、映画監督もされている松本人志さんと田口トモロヲさんもいらっしゃいますね。
宇治茶:そこはもう、あまり意識しないように(笑)。一俳優さんとして接するよう心がけていましたね。
松本さんは非常に御多忙ということもあり、30分程度しか収録時間を確保できなかったんです。
一回声を吹き込んだものの、尊敬から来る恐さもあって、僕からはもう「録り直し」とは言えませんでした(笑)。そして「これで良いと思います」とお伝えしたのですが、その時、松本さんは「もう一回録り直そう」と言って下さったんです。そのお言葉に甘えて、結局、何度か録り直しをさせていただきました。
やはり松本さんは映画監督をされているので、監督の目線から「これは、ちゃう」と思ってくださったのかもしれないですね。
田口さんには、僕が個人的に所有していたブロンソンズの書籍や塚本晋也監督の『鉄男』のDVDを持参した際に、田口さんの方から「両方にサインしてあげるよ」と言って下さったりと、とてもフランクに接して下さいました。
そもそも、『バイオレンス・ボイジャー』で田口さんに演じていただいた古池のキャラクター造形は、楳図かずおさん原作のホラー映画『神の左手悪魔の右手』で田口さんが演じられていた久保田という役を参考にしていたんです。
まさか、田口さんご本人に演じていただけるとは思ってもいませんでしたけどね(笑)。
大学時代に行き着いた「ゲキメーション」
──宇治茶監督は京都嵯峨芸術大時代には観光デザイン科に在籍していたそうですが、どのようなことを学ばれる学科なのですか?
宇治茶:実は、何を学べるのかもよく分からずに、その科に入ってしまった節があるんですよね。絵を描くのが好きだったため、「とりあえず芸大行っとこうかな」という軽い気持ちで、何も考えずに入ったんです。
その結果、デザイン科にいながらもデザインのことは殆どせず、絵ばかり描いていましたね。ただ、そうやって絵を描き続ける中で、オリジナルの様々なキャラクターなどを考え出すことができました。
一方で映画も大好きで、その後「映画を何か作れないかな」と悩んだ時、やっぱり自分の絵を生かした作品を作りたいと思い至ったんです。それが、「ゲキメーション」による映画制作の始まりでした。
──「ゲキメーション」はどのようにして学ばれたのですか?
宇治茶:独学ですね。楳図かずおさん原作のテレビアニメ『妖怪伝 猫目小僧』や、電気グルーヴの『モノノケダンス』MVを参考にしました。
そもそも、「ゲキメーション」を教えている人が誰もいないので(笑)。見様見真似で作ったのが最初でした。
“こだわり”を追求した映画制作
──本作では、闇や影の描写、光の描き分けなど、ライティングを非常にこだわられていましたね。
宇治茶:光の少ない暗い場面では、背景を描かずに誤魔化したりすることなどもできるため、それを利用したりしましたね。
また、カメラの被写界深度などを生かして、対象物がそれぞれ配置されている手前・奥にフォーカスを徐々に動かすことで“ボケ”の表現を行ったりもしました。
そもそも「ゲキメーション」はペープサート(平面の紙人形)を動かすのが基本なので、そういったテクニックによって映像にメリハリをつけないと、観客は飽きてしまいますからね。
光の描き分けについては、屋内と屋外では光の種類や当たり方も異なるので、観客がそれを区別できるように描くことは非常に意識しました。
──映画制作において、宇治茶監督が一番楽しいと感じるのはどのような時ですか?
宇治茶:絵を描いている時はもちろん楽しいですね。
それと、ペープサートを動かしたり、血を噴き出させたりする場面を撮影する際、場合によっては何百回も撮り直しているんですよ。そういう時に、求めていた画がバチーンと決まる瞬間は、やっぱり気持ちいいですね。
ただそれが決まるまでが、めっちゃイライラするんです(笑)。
宇治茶監督が本作の撮影のため制作したペープサート
約3〜5㎝サイズのペープサートが無数に(「宇治茶監督展」より)
──ここまで宇治茶監督の“こだわり”について触れてきましたが、監督が本作の制作において一番こだわった点は何でしょう。
宇治茶:「全部」と言いたいところなんですが、それだと面白くないので(笑)。
うーん…液体の描写についてはよく言われるんですけど、自分の中では“自然”に描いたと言いますか、そこまで強くこだわっているわけではないんですよね。
やっぱり、光や風の演出、カメラとレンズの選び方などを通して、映像の“奥行き”を表現すること、前作『燃える仏像人間』の時よりも綺麗な画を作ることに一番こだわりましたね。
映画の原体験と影響を受けた監督
──先ほどスピルバーグ監督の名前が挙がりましたが、宇治茶監督はどのような監督から影響を受けていますか?
宇治茶:スピルバーグ監督の作品は、誰でも楽しめるエンタメ性を作品の根幹に据えつつも、意外にも凄く残酷なものや悪趣味なものを描いていることが多いじゃないですか。特に『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』での、大量の昆虫の上を掻き分けるシーンや猿の脳みそを食べるシーン、『プライベート・ライアン』における“肉片”の描き方などは非常に印象的ですよね。
そういう点では非常にスピルバーグ監督の影響を受けていますし、デヴィッド・クローネンバーグ監督については「人体が変化していく様を克明に描く」という“気持ち悪さ”に凄く刺激を与えられましたね。
ほかにも1970〜80年代に活躍されていたホラー映画監督からの影響は強いと思います。ジョン・カーペンター監督やピーター・ジャクソン監督など、正直そこは挙げていったらキリがないですね。
宇治茶監督のスケッチブック(「宇治茶監督展」より)
──宇治茶監督が初めて観た映画は何ですか?
宇治茶:映画館で一番最初に観たのは、たしか大河原孝夫監督の『ゴジラVSモスラ』ですね。その後、洋画で初めて観たのが『ジュラシック・パーク』でした。
また、テレビで観たレイ・ハリーハウゼン監督の『シンドバッド』シリーズなども、恐い恐いと思いつつも凄く好きでしたね。ポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』や、いわゆるシュワちゃん映画などもテレビで観ました。
人がいっぱい死ぬヤツが好きで、そんなのばっかり観ていましたね。
──ハリーハウゼン監督の名前が挙がりましたが、その頃にはすでに「アニメーション」という表現技法を意識されていましたか?
宇治茶:いや、全然意識はしていなかったですね。「作り物」ではなく「こういうモノがいる」という感覚で観ていたので、あまり手法がどうとかは意識していませんでした。「なんて怖い動きをする生き物がいるんや」というか(笑)。
映画のスタッフロールなどでは、監督の名前がボンと大きく出るじゃないですか。だから『ジュラシック・パーク』についても、「スピルバーグっていう人が恐竜とかも全部作っているんや」と子どもの頃は思っていました。そういう思い込みが、一人で作り続けていることにもつながっているのかもしれないですね(笑)。
“遊び”から始まった創作
──絵はいつ頃から描かれていたんですか?
宇治茶:本当に子どもの頃からですね。それこそ4・5歳の頃には、ロボットを箱で作ったり、落書き程度ですけど絵を描いたりしていましたね。
──その頃から、本作に登場するような“機械と人間の融合体”のキャラクターは描かれていたんですか?
宇治茶:そういうものも描いていましたね。ただそれよりも、もっと残酷なものを描いていましたね。
紙を二枚重ねて、上の紙にカエルの絵を、下の紙にその内臓の絵を描くんです。その後、内臓が描かれている部分以外に糊を塗って貼り付けて、カエルが描かれている上の紙を切る。そうするとカエルのお腹がパカッと開いて、カエルの解剖ができるというオモチャを作ったりしていました。
それは小学校3・4年の頃の話なんですが、当時は誰も見向きもしなかったですね。そもそも“創作活動”と言えるかどうか(笑)。
ただ、やはり“遊び”を通して創作をしていましたね。本作に登場するようなキャラクターも、高校時代、休み時間が来るたびに、教室の後ろにあった黒板に何十人何十体もダーッと描いたりしていました。
宇治茶監督直筆のラフ画(「宇治茶監督展」より)
──その“遊び”を忘れずに、現在まで映画制作を続けてきたわけですね。
宇治茶:そうですね。やっぱりふざけるというか、「こんなんやったら怒られそうやな」というところをドンドン攻めていきたいなと思っています(笑)。
「こんなんがホンマに劇場で流れるんかなぁ」と思ったりしつつ、悪だくみしながら、ニヤニヤしながら作っていますね。
今後の映画制作は
──今後の映画制作については、どのようにお考えですか?
宇治茶:自分がどこまで映画を撮り続けていけるのかは分からないんですが、「ゲキメーション」による三作目の長編は絶対完成させたいなとは考えています。
その作品のテーマ自体は、まだ定まり切ってはいません。ただ、これまでの作品のようにホラー的な要素は必ず描くでしょうし、意味不明なものというよりは、今回よりもさらに楽しんでもらえる、エンタメ性の強い作品を作りたいですね。
インタビュー/河合のび
写真・構成/出町光識
宇治茶監督プロフィール
1986年生まれ、京都府宇治市出身。2009年京都嵯峨芸術大学観光デザイン学科卒業。
大学の卒業制作展にて、自身初となるゲキメーション作品『RETNEPRAC 2』を発表。2010年にはゲキメーション作品の第二作『宇宙妖怪戦争』を制作し、京都一条妖怪ストリートにて公開。
上記のゲキメーション作品二作をきっかけに、2011年より『燃える仏像人間』の制作を開始。2013年にはゆうばり国際ファンタスティック映画祭をはじめ、ドイツ・韓国・オランダなど、国内外の数々の映画祭に招待されたのちに全国公開。さらに2013年度第17回文化庁メディア芸術祭では、エンターテインメント部門にて優秀賞を受賞を獲得しました。
そして、2019年5月24日に公開される『バイオレンス・ボイジャー』は、監督にとって、初めて全編ゲキメーションのみで制作した長編アニメーション映画にあたります。
すでに20以上の国内外の映画祭に正式出品され、アルゼンチンのブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭では審査員特別賞を、カナダのファンタジア映画祭ではアニメ部門にて観客賞・銅賞をW受賞しています。
映画『バイオレンス・ボイジャー』の作品情報
【公開】
2019年5月24日(金)(日本映画)
【脚本・監督】
宇治茶
【キャスト】
悠木碧、田中直樹、藤田咲、高橋茂雄、小野大輔、田口トモロヲ、松本人志
【作品概要】
長編デビュー作『燃える仏像人間』にてその独自の世界観が国内外にて高く評価された宇治茶監督が、監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・作画・撮影を1人で担当し、全編を“アニメーション”と“劇画”を融合させた表現技法「ゲキメーション」によって描き切った長編アニメーション映画。
キャストには『魔法少女まどか☆マギカ』『幼女戦記』で知られる人気声優の悠木碧をはじめ、人気お笑いコンビ「ココリコ」の田中直樹と「サバンナ」の高橋茂雄、俳優の田口トモロヲ、悠木と同じく人気声優の藤田咲と小野大輔らが出演。また本作のナレーションを、自身も映画監督として活躍する松本人志が務めました。
映画『バイオレンス・ボイジャー』あらすじ
日本の山奥の村で両親と共に暮らしているアメリカ人の少年ボビー(悠木碧)は、山向こうの土地へ引っ越したかつての友人に会いに行くために、親友のあっくん(高橋茂雄)や猫のデレクと共に出かけました。
その道中で、二人は寂れた娯楽施設「バイオレンス・ボイジャー」を見つけ、興味本位で中へと入ることにします。手持ちのお金は足りなかったものの、施設の運営者である古池(田口トモロヲ)の厚意によって無料で遊ばせてもらえることになりました。
手作り感満載のアトラクションに最初はガッカリする二人でしたが、次第に夢中になってゆきます。しかし、施設内で倒れていた少女を発見したことで、事態は急変します…。