連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第11回
今年で14回目の開催となる大阪アジアン映画祭。2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間、アジア圏から集まった全51作品が上映されます。
今回は3月14日にABCホールで上映された「Special Focus on Hong Kong 2019」選出作品の香港映画『ハッピーパッポー』を取りあげます。
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CONTENTS
映画『ハッピーパッポー』の作品情報
【公開】
2019年(香港映画)
【監督】
パン・ホーチョン
【キャスト】
イザベル・チャン、ダダ・チャン、ジジ・リョン、ジューン・ラム、チョイ・ティンヤウ
【作品概要】
香港のヒットメーカーが放つ痛快コメディ作品。『低俗喜劇』(2012)のダダ・チャン、「恋の紫煙」シリーズのイザベル・チャン、ジジ・リョンなど香港スター俳優が豪華共演。
映画『ハッピーパッポー』のあらすじ
“ハッピーパッポー”な男女8人。
元は仲良しグループでも、最近は集まることがなくなっていました。
そんなある日、仕事でミスをした冴えないジェーンが人生最大の危機に直面。
仲間の窮地を救うべく、8人は再集結。
彼らに課せられたミッションは、夕方までに“母乳”を手に入れること。
果たしてパッポーたちは、この奇想天外なミッションを無事にクリア出来るのでしょうか…。
映画『ハッピーパッポー』の感想と評価
炸裂するパン・ホーチョン節
すでに香港映画界のヒットメーカーとしての地位を確立しているパン・ホーチョン監督は、サスペンス、スプラッター、コメディから恋愛映画や文芸映画まで、どんなジャンルを作らせてもクォリティにまったくブレがありません。
特に卑猥なことをやらせたら天下一品の手際の良さをみせるのですが、そうしたパン監督の感性が存分に発揮されている本作では香港映画の醍醐味とも言える“猥雑さ”を堪能することが出来ます。
『セックス・アンド・ザ・シティ』さながらのウーマンたち(ゲイのカップルも含む!)が香港の街を自由に闊歩する姿はあまりに清々しく、エロ要素満載のコメディは艶笑を誘います。
俳優の持ち味を存分に引き出すパン監督の洗練された演出力がここでも功を奏しているのです。
さらに、カンジタ持ちの「カンちゃん」を自ら演じ、憧れのジジ・リョンの彼氏役をちゃっかり務めるあたりも憎めません。
パン・ホーチョン監督プロフィール
参考映像:『ビヨンド・アワ・ケン 公主復仇記』(2004)
1973年にイギリス領香港生まれ。14歳から映画制作を始めます。
24歳の時に執筆した長編小説「全職殺手」がベストセラーとなり、『フルタイム・キラー』(2001)として映画化されます。
長編監督デビュー作『ユー・シュート、アイ・シュート』(2001)が香港国内の映画賞で最優秀脚本賞を受賞。
続く監督2作目『大丈夫』(2003)では香港電影金像奨最優秀新人監督賞を受賞します。
その後もコンスタントに作品を発表し、ヒットメーカーっぷりによって“香港のタランティーノ”と称されます。
東京国際映画祭では度々特集上映が組まれ、日本でも根強いファンを獲得しています。
参考映像:『ドリーム・ホーム 維多利亞壹號』(2010)
これが旧正月映画!?
タイトルにある「パッポー」(八婆)は広東語で「ビッチ」を指し、全体で「愉快なビッチたち」くらいの意味になります。
広東語のスラングを好むパン監督らしいネーミングセンスではありますが、しかしこの作品は「旧正月」に公開された作品なのです。
旧正月映画(賀歳片)は本来、家族向けの興行です。
いくら香港の才人パン・ホーチョンとはいえ、R15指定の付くような映画をこの時期にもってくるというのは斬新すぎるでしょう。
しかし、出演人の豪華な顔ぶれは旧正月の祝祭ムードに相応しく、香港映画界の名バイプレーヤーであるラム・シューのサプライズ登場などはやはり見逃せません。
舞台挨拶リポート
上映後の舞台挨拶には、主演のイザベル・チャンさんと撮影監督のジャム・ヤウさんが登壇。
パン監督の冗談ばかり飛び交う現場は「とにかく楽しかった」と話すイザベルさん。
現実でも“パッポー・グループ”というグループ・チャットを作って交流していると続け、会場を和ませます。
大阪在住のジャムさんは流暢な日本語を披露。
早撮りで有名なパン監督の撮影現場については、「あまりリハーサルもなくスムースに撮影が進み、14日間で撮り切った」と回想し、実際に使用したカメラはiPhoneサイズの小型カメラだったと言います。
さらに横暴な店主を演じたラム・シューの出演シーンなどは即興的に作っていったそうです。
香港映画ファンにはたまらない内容でした。
まとめ
いつでも面白い映画を提供してくれるパン・ホーチョン監督。
現在の香港映画界を取り巻く社会状況などおくびにもだしませんが、8人のパッポーたちが駆け回る街角の表情を抜かりなく捉えているあたりは、やはり毅然とした香港の作家の仕事でしょう。
軽妙な芸道は確かな経験と直感に裏打ちされたものなのです。
どうぞこの機会に、香港のヒットメーカーが繰り出すフレキシブルな世界観を堪能してみてはいかがでしょうか。
『ハッピーパッポー』は映画祭最終日の3月17日10:00からシネ・リーブル梅田で上映があります。