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Entry 2019/03/11
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韓国映画『アワ・ボディ』あらすじと感想レビュー。キャストのチェ・ヒソが全身で表現するヒロインの共感力|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録4

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第4回

毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で14回目となります。

2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間に渡ってアジア全域から寄りすぐった多彩な作品51作が上映されます。

今回はその中でコンペティション部門選出作品の韓国映画『アワ・ボディ』(2018)を取り上げます。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

映画『アワ・ボディ』とは

『アワ・ボディ』は、韓国国立映画アカデミー(Korean Academy of Film Arts)で映画制作を学んだハン・ガラム監督の長編映画デビュー作です。

韓国の若い世代が直面している社会問題を直視し、一人の女性が美しいランナーに惹かれて自身もランニングを始め、肉体の変化とともに、自身の生き方を見つめ直していく姿が描かれています。

第23回釜山国際映画祭(BIFF)では、女性監督の作品がいくつか話題となりましたが、本作もその一つで、主演のチェ・ヒソが「今年の俳優賞」を受賞しました。

チェ・ヒソは、『金子文子と朴烈(パクヨル)』(2017/イ・ジュンイク監督)で金子文子役に抜擢され、韓国で大ブレイク。卓越した語学力と演技力が評価されました。

『金子文子と朴烈(パクヨル)』は、OAFF2018のオープニング作品であり、現在、日本各地でロードショー公開され、大きな反響を呼んでいます。

チェ・ヒソは、本作でまた違った一面、演技を見せ、幅の広さと多才ぶりを遺憾なく発揮しています。

映画『アワ・ボディ』のあらすじ

31歳になる女性チャヨンは、今年も公務員試験合格を目指して必死で勉強を続けていました。

もう何年も試験に挑戦しているのですが、合格できず、ついに彼女は試験を受けないことを決意します。

ところがそれを口に出した途端、恋人は合鍵を置いて去ってしまい、試験を受けなかったことを知った母親は、チャヨンによそったご飯を流しに捨ててしまい、怒りを爆発させます。

ある夜、買い物帰りに長い急な階段を登っていたチャヨンは、くたびれ果て座り込んでしまいました。

その瞬間、缶ビールが袋から飛び出て、階段を一段、一段、転がり落ちていきました。

そこに一人の女性ランナーが通りかかります。彼女は缶ビールを拾うと、チャヨンに手渡して、軽快に階段を登っていきました。

チャヨンは、彼女に強烈に惹かれるものを感じ、自身も古いシューズを引っ張り出し、走り始めました。

何度か彼女とすれ違ったあと、チャヨンはゼーゼーと息をしながら彼女のあとを追い、彼女もチャヨンに気が付きます。

その女性はヒョンジュといい、彼女はチャヨンを自分のジョギング仲間の男性ふたりに紹介し、毎晩、一緒に走るようになりました。

チャヨンはヒョンジュと次第に親密になっていき、ヒョンジュが作ったという酒を一緒に飲み、彼女が小説を書いていることを知ります。

一方、生活費を稼ぐため、高校時代の友人の紹介で、大手企業でのアルバイトを始めたチャヨン。

そこでは熾烈な生存競争が日々行われており、チャヨンもインターンに出願するよう促されます。

母と妹に食事をご馳走するため、ホテルのレストランに来ていたチャヨンは、ロビーで誰かと会っているヒョンジュを見かけます。

相手が去って一人になったヒョンジュはなにかひどく打ちひしがれているように見えました。

その日からヒョンジュはたびたび姿を見せなくなり、ジョギング仲間を心配させます。

ある日、ヒョンジュの背中をみながら走っていたチャヨンは彼女が足をとめ、自分をじっと見ているのに気が付きました。

やがて彼女は走り出しますが、しばらくして車の急ブレーキと激しい音が鳴り響きます…。

彼女の突然の死に動揺するチャヨンでしたが、ヒョンジュのあとをなぞるように走り続けます…。

映画『アワ・ボディ』の感想と評価

映画の前半、チェ・ヒソ扮するチャヨンは、動く機会があるたび、息を切らして苦しそうにしています。

ある美しい女性が走る姿を観たことをきっかけにチャヨン自身も走り始めるのですが、始めはゼーゼーと息を荒げていたのに、やがてスムーズな息遣いへと変わっていきます。

運動することで、彼女の体は引き締まり、服装や佇まい、顔つきすら変わって行きます。その変化を全身で表現するチェ・ヒソが圧倒的です。

ランナーたちが走る夜のソウルの、光と影が交錯する、自然溢れる風景のなんと美しいことか。

早朝のソウルの街並みを俯瞰で捉えるショットの鮮やかさも忘れがたいものがあります。

それにともなって、彼女も人生を取り戻していくというハッピーエンドな展開を予想していたのですが、そのような展開を映画は拒否するかのように、さらに混沌としていきます。

ハートフルで前向きな作品に仕上げることは出来たでしょうが、ハン・ガラム監督は、それを拒絶し、主人公の心理をわかりやすく観客に委ねることもよしとしません。

時に、ヒロインの行動は理解し難く、“共感”というものが作品の良し悪しの判断となることが多い昨今、こうした映画のスタイルは、わかりやすさを求めがちな観客への挑戦のようにも感じられます。

彼女の取る行動に様々な疑問も湧き上がります。しかし、一切説明を加えず、客観的に彼女の行動を描写することによって、一人の人間が懸命に闘っている姿を描こうとするハン・ガラム監督の姿勢は徹底しています。

韓国では、大卒3人に1人は未就業者と言われるほど、厳しい現実があります。

韓国の若者の就職難に関しては、イ・チャンドン監督の『バーニング劇場版』(2018)でも言及されていました。

努力の末、立派な企業に入れたとしても、とめどない競争が続き、「代理」職の友人も、新婚ながら徹夜、徹夜の日々が続いています。

そんな中で“人間らしい生活”をしていくにはどうすれば良いのか? 

競争に乗ろうとしなければ「浮世離れしている」と嫌味を言われ、いくら努力をしても努力が一歩足りないと説教され続けてしまう…。

そんな韓国の若者を取り巻く生きづらさと共に、敷かれたレールに抗うヒロインの姿が鮮明に刻まれています。

まとめ

美しいランナー、ヒョンジュ(アン・ジヘ)へのチャヨンの思いとはどういうものだったのでしょうか? 

憧れ、羨望、一目惚れの恋にも似た感情がチャヨンを動かします。思いがけない彼女の死のあとも、彼女への想いがチャヨンを突き動かし続けます。

そんなチャヨンの変化をずっと見守っている人物がいました。それはチャヨンの年の離れた幼い妹です。

この姉妹の関係が実に素晴らしく、二人が絡むシーンは本作の中で、一番ほっとさせられる場面と言っていいでしょう。

ここでも妹は決して自分が抱いている想いを言葉では示しません。ですが、視線は正直で饒舌です。

誰かを見つめ、誰かに導かれる瞬間を映画は静かに活写するのです。

『アワ・ボディ』は、3月15日(金)の13:20より、ABCホールで上映されます。上映後は、ハン・ガラム監督とチェ・ヒソの舞台挨拶が予定されています。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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