21世紀の女の子の、女の子による、女の子のための、とびっきりの映画たち!
山戸結希監督が企画・プロデュース・共同監督を務めた本作。
1980年代後半~90年代生まれの新進女性映画監督15人が演出を務め上げた短編オムニバス映画『21世紀の女の子』をご紹介します。
映画『21世紀の女の子』の作品情報
【公開】
2019年公開(日本映画)
【監督】
山戸結希、井樫彩、枝優花、加藤綾佳、坂本ユカリ、首藤凜、竹内里紗、夏都愛未、東佳苗、ふくだももこ、松本花奈、安川有果、山中瑶子、金子由里奈
【キャスト】
「離ればなれの花々へ」唐田えりか、竹内ももこ、詩歩
「君のシーツ」三浦透子、清水くるみ、小柳友
「恋愛乾燥剤」山田杏奈、藤原隆介、ゆっきゅん、佐々木史帆、大河原恵、伊吹捺未
「粘膜」日南響子、久保陽香、川籠石駿平、細田善彦
「reborn」松井玲奈、平井亜門
「I wanna be your cat」木下あかり、武谷公雄
「Mirror」瀬内公美、朝倉あき、手島実優
「珊瑚礁」掘春菜、倉島颯良、福島珠理
「out of fashion」モトーラ世理奈、筒井のどか、田中一平、守屋光治、朝倉滉生
「セフレとセックスレス」黒川芽以、木口健太
「愛はどこにも消えない」橋本愛、南沙良、小野花梨、柳英里紗、須藤蓮
「ミューズ」石橋静河、村上淳、中村ゆり、小林涼子、本間淳志、
「回転てん子とどりーむ母ちゃん」北浦愛、南果歩、杉野希妃、宮本裕子、神尾てん子、Lee Yoko、古川琴音、松林うらら、大下ヒロト、いいぐちみほ
「projection」伊藤沙莉、土居志央梨、小川あん
【作品概要】
山戸結希監督が企画・プロデュースを手がけ、自身を含む1980年代後半~90年代生まれの新進女性映画監督15人が”自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間が映っていること”を共通のテーマ に、メガホンをとった短編オムニバス映画。
映画『21世紀の女の子』のあらすじ
「ミューズ」(安川有果)
彼女と出会ったのは5月半ば過ぎ。それから頻繁に会うようになった。彼女を被写体にして写真を撮る。そばにずっといたいと思った。彼女の夫は著名な小説家。彼はインタビューを受ければいつも妻のことを話題に出す。ある日、彼女は尋ねた。「私のことバカだと思ったでしょ?」「優しくて正直で頭が良く見えた」と答えると、彼女は急に涙を流し始める…。
「Mirror」(竹内里紗)
モデルと親密な雰囲気で写真を撮っている女性。そのスペースに入ってきた女性はカメラマンと昔付き合っていた。二人を映したポートレイトが話題になり、二人の関係が噂された。レズビアンという要素を武器にしてカメラマンは作品を発表しているが、元恋人は中身が何もないと批判する。「今はこれが受けるのよ」とカメラマンは応える。やがて二人は寄りを戻すかに見えたが…。
「out of fashion」(東佳苗)
文化服装学院に通う彼女は、読モをしながら、自分の服を手作りしている。卒業後は友人とブランドを立ち上げるという夢がある。憧れの先輩が来ているというので喜びいさんで飛んでいくと先輩は超つまらない社会人になっていた…。
「回転てん子とどりーむ母ちゃん」(山中遥子)
中華料理屋の円卓を囲み、食事をしながら、赤裸々な話を始める女たちと一人の女の子。
「恋愛乾燥剤」(枝優花)
剣道部の彼から交際を申し込まれ、OKした少女。でもデートしてみると何か思っていたのと違う。月経が始まり思わず飛び込んだ薬局で見つけたのは「コイサメル」という薬。相手のカバンに入れると効果があるという恋愛乾燥剤だった。早速彼のカバンに「コイサメル」を一袋入れてみるのだが…。
「projection」(金子由里奈)
「私と映画を撮ってください」という看板を掲げて街頭に立つ女性。カメラマンの女性が彼女に声をかける。「私が撮ります」。カメラを向けられて緊張していた女性は、次第に笑顔を見せ始める…。
「I wanna be your cat」(首藤凜)
旅館で浴衣姿で向かいあっている男女。男性は彼女に「早く書いてよ」という。女性は脚本を書くことが出来ず、生みの苦しみを味わっている真っ最中…。
「珊瑚礁」(夏都愛未)
水をはっていないプールでボール遊びをしている少女二人と座り込んでそれを見ている少女。その少女は胸をさらしで巻いている。3人の複雜な関係が顕になっていく。
「愛はどこにも消えない」(松本花奈)
私は自分が一番好き。そんな私を好きでいてくれるあなたが好き。二人でいるときの私は輝いていた。それなのに彼は突然いなくなってしまう。また会いたいと思った私は、手がかりを求めてタイムカプセルに入った手紙を探しに行くが…。
「君のシーツ」(井樫彩)
鼻歌、白いパーカー、白いシーツ、赤いトマト。彼氏と幸せな生活を送っている私が、無精髭をはやして、彼女と白いシーツにくるまり愛し合う…。
「セフレとセックスレス」(ふくだももこ)
ことりとケンタはセフレの関係だ。でも最近、ことりはまったく感じなくなってしまった。お茶を点てたり、とりとめもない話をしていると、ケンタがポツリと言う。「最近彼女と別れたんだよね」。思わず「それってずるい」とことりは口走る。
「reborn」(坂本ユカリ)
心の半分はここじゃないところにある。半分だけで生きている。半分は海にある。ひどいことしたら泣いてくれる?壊れてくれる? ちゃんと壊れる、ちゃんと傷つく。いっしょにいて壊れてしまうならそれでいい。傘。命がけで2人で生きよ?
「粘膜」(加藤綾佳)
信号待ちをしていたら男性がタバコの火を貸してくれというので、咥えていたタバコをそのまま近づけた。そんなことがきっかけで今、彼の部屋で体を重ねている。女友だちは、恋人の足の指の毛の数を知っているという。自分も数えてみようとしたけれどやめた。「また会いたくなったらどうすれば良い?」と男は尋ね、私は「その時は私から連絡する」と応えて部屋を出る。
「離れ離れの花々へ」(山戸結希)
お花畑に3人の少女がいる。彼女たちはもうすぐ生まれようとしている。美しい花々、眩しい光の中で彼女たちは叫ぶ。「いざ孤独な世界へ行こう」「スクリーンへと」「たった一人の女の子へ届けよう」彼女たちは声を揃える。「女の子だけが本当の映画を撮れる」
「エンドロールアニメーション」(玉川桜)
少女のめくるめく冒険の世界
映画『21世紀の女の子』の感想と評価
エモーショナルな高まりを描かせれば山戸結希監督の右に出るものはないのではないか!? このオムニバス映画の14番目を飾る山戸監督作品「離れ離れの花々へ」を見た時、そう確信しました。
唐田えりか、竹内ももこ、詩歩の三人が演劇調に激しくアジテーションする8分の作品に最初から最後まで圧倒されっぱなし。後半になるに従い、フィルムに刻まれる感情は高ぶり、最高潮へと達します。
恐れるな、出でよ、歴史を作り道を開くのだ、「女の子だけが本当の映画を撮れる」と少女たちは高らかに謳い上げ、『21世紀の女の子』という短編オムニバス映画をしめくくってみせます。
『あの娘が海辺で踊ってる』しかり、『おとぎ話みたい』しかり、『溺れるナイフ』しかり、山戸監督は常に自作で”女の子よ、世に出よ。自分の才能を思う存分延ばすのだ“と主張し続けてきました。
圧倒的な男性社会である映画界。とりわけ監督となると女性の数は極端に少ないと言わざるをえません
しかし山戸監督は知っています。才能豊かな若き女性監督が大勢いることを。彼女たちがインディペンデントの分野で着々と力をつけていることを。
このオムニバス映画は、いわば、若き女性監督の才能を一同に集めたアンソロジーのようなものといっていいでしょう。
『Dressing Up』の安川有果、『みちていく』の竹内里沙、『あみこ』の山中遥子、『少女邂逅』の枝優花、『なっちゃんはまだ新宿』の首藤凜、『浜辺のゲーム』の夏都愛未、『脱脱脱脱17』の松本花奈、『真っ赤な星』の井樫彩、『おんなのこきらい』の加藤綾佳をはじめ、今一番新作を観たいと思わせる映画監督たちが名を連ねているのです。
“自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間が映っていること”を共通テーマに、彼女たちが生み出した作品は、テーマを見事に掬いあげたもの、テーマ的には変化球のものなど様々ですが、いずれも8分という短い時間に自身がやりたいことを目一杯詰め込んだ意欲作ばかりです。
その短さゆえに”超短編集“と呼びたくなりますが、そこには何かを伝えたい・表現したいという思い、これまでの常識を破る可能性、覚悟を決めた勇気、赤裸々な開放感など、様々な要素が描出しています。
彼女たちがここから羽ばたいて、さらなる作品を産み落とし、この映画を見た新しい才能が後に続けば良い―。『21世紀の女の子』を観終えた今、益々彼女たちの作品を望む気持ちが増加しています。
まとめ
安川有果監督作品「ミューズ」は、作家である夫からミューズと崇められている元モデルの女性が登場します。
彼女はいつもと違う自分の評価を耳にして解放されたように涙を流します。その時初めて彼女が心に抱えていたものがスクリーンに出現し、テーマも明らかになります。
理想の枠組みにはめられ、自身の内面と自身が背負って生きるイメージのギャップに生きづらさを感じること。この感情は誰もが多かれ少なかれ感じているものではないでしょうか。
そうした心の揺れをすくい取り、”憧れ”や”好意“といった感情をフィルムに乗せ、さらに女優を輝かせる、トップバッターを飾るのに相応しいインパクトのある作品となっています。
続いて、芸術と商業と愛の感情を巧みに絡めて表現した竹内里紗監督の「Mirror」や、「縷縷夢兎」デザイナーでもある東佳苗監督の、ファッションデザイナー希望の女の子が周りの現実主義に落ち込む「out of fashion」といった秀逸な作品が続きます。
女たちの井戸端会議映画「回転てん子とどりーむ母ちゃん」の得体のしれないパワフルさも魅力的です。
ただ、”自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間が映っていること”というテーマと格闘した作品が十数篇を超えるとなると、少々、食傷気味になってしまう点があるのは否めません。
主人公も皆、女性であり、男性キャラクターにはあまり内面が要求されません。女性による女性のための女性だけの作品が持つ“意義”の中に、息苦しさはないでしょうか?
以前、「桃まつり」という、一年に一度、女性監督がひとつのテーマで競作するという映画祭がありました(2008~2013 ※2011年は不開催)。
瀬田なつき、小森はるか、天野千尋、そして前述の安川有果なども参加していた映画祭です。
テーマは「うそ」(2010)、「すき」(2012)、「なみだ」(2013)といった簡潔なもので、女性を主人公にするというしばりもなく、作風も時間も様々でした。
これくらいの大雑把なテーマと自由度がある方が、力が発揮できた作家もいるのではないでしょうか。
そういう意味では、”自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間“という与えられたテーマを、グラスを満たすピンクの液体というものに凝縮させ、あとは好きなことを好きなように描いてみせた枝優花の「恋愛乾燥剤」の自由な強かさは特筆に値するでしょう。