映画『ねことじいちゃん』ネコとキャストの名演
世界的に知られる動物写真家・岩合光昭が初めて監督を務め、ねこまき原作の大人気コミック「ねことじいちゃん」を落語家の立川志の輔主演で実写映画化したヒューマンドラマです。
動物写真家の岩合監督にしか撮れない猫たちの表情や島の美しい風景とともに、そこに暮らす人々をユーモラスかつ繊細に描き出しました。
CONTENTS
映画『ねことじいちゃん』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【原題】
ねことじいちゃん
【脚本・監督】
岩合光昭
【キャスト】
立川志の輔、柴咲コウ、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之、田根楽子、小林トシ江、片山友希、立石ケン、中村鴈治郎、田中裕子、小林薫
【作品概要】
主人公の大吉さんには岩合監督からの「志の輔さんしか考えられない」と熱烈オファーを受けた落語家・立川志の輔が熱演しています。
共演には柴咲コウをはじめ、小林薫、田中裕子、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之など人気・実力を兼ね備えた俳優陣が集結しました。
そしてもう一人の主人公の猫タマ役は、100匹以上のオーディションから抜擢されたベーコンです。丸々した体にふてぶてしい表情、志の輔師匠との息の合った動きなど、観る者の心を奪うアイドルのような(?)演技は必見です。
映画『ねことじいちゃん』のあらすじとネタバレ
カモメの鳴く声と何の音を聴きながら、青く広い空とともに島が大きく映し出されます。
港に、多くの猫が戯れる姿があり、防波堤を走る猫や桜の木を登る猫、そして水仙畑を駆けていく猫も見られます。
茶トラの猫が座っている赤いポストの道を通り過ぎると、木造平屋の一戸建ての田舎の家が建っています。
表札に「春山大吉」と書かれた表札の家の中、布団から目覚めたじいちゃんこと春吉は、掛け布団の上にキジトラの丸々とした猫が乗っていることを確かめます。
「タマや、おはよう」
大吉がテーブルに朝食のほうれん草のおひたしを置いていると、タマがそっと手を出します。
「すぐに散歩に行くから待って」と大吉はタマに話しかけ、亡くなった妻よしえの仏壇に手を合わします。
大吉が歩く後ろからタマが付いていきます。
通学路で子ども達に出会い「先生おはようございます」と声を掛けられる大吉は、地元の学校の校長先生を勤め上げ、今は悠々自適に暮らしていました。
港に行くと、たくさんの魚に猫たちが戯れて集まっています。
幼馴染の巌に「今日は釣れたんか?」と大吉が聞くと、巌は満足そうにクーラーボックスの中の魚を見せました。
通りかかった診療所の若先生が「魚は随分慣れたんですが、目が合うのが怖くて」と言いながら自転車で去っていきます。
新しい建物の工事が始まっている傍で「コンビニやったらいいのに」「建つわけないわ!」とトメとたみこがいつもの喧嘩をしています。
「もう喧嘩やめましょ」と仲裁に入るサチは、三毛猫のミーちゃんを抱いていました。
タマがポストの道を通り港を過ぎ、家の塀を歩き門の上を見上げると、そこにミーちゃんの姿が見え、ミーちゃんはタマが近付くとスッと逃げました。
ある日、あの建物がカフェとしてオープンしたと聞き、島の人たちがカフェの前で集まっていました。
「こんな老人たちばっかりの島でカフェなんて」と大吉たちが話していると、一人の女性「ぜひ入ってください」とが声を掛けました。
巌が「クリームソーダーあるか?」と恥ずかしそうに聞いて入りました。
大吉たちは海を見ながらクリームソーダーを味わっています。
窓際には、タマとミーちゃんの寛ぐ姿もありました。
東京から来た美しい美智子の人柄に惹かれ、大吉たちはそのお洒落なカフェに集うようになりました。
ある日、サチがたくさん採れたサヤエンドウをカフェに持ってきました。
「豆ご飯がいいですよね」と美智子の言った言葉で、大吉は家に持って帰りました。
大吉が何かをタンスの引き出しの中から探していると、何かと邪魔をするタマに「遊ぼうと思ったら逃げるくせに、大事な時に邪魔をする」と大吉が文句を言うと、タマはタンスの上に登りました。
その途端上から箱が落ちてきて、中からノートが出てきました。
亡き妻よしえの料理レシピで、1ページ目に豆ご飯がイラスト付きで書かれていました。
よしえが同じ季節に土鍋で豆ご飯を炊いてくれたことを思い出し、レシピに書かれてある通り「豆は、ご飯のだいたい5分の1で」と独り言を言いながら、よしえの味を再現しました。
カフェで大吉は友人たちによしえのレシピを見せ、「4ページで終わってるんだよね」と笑いながら話します。
そのレシピの続きを大吉がしたらと皆に提案されて、大吉は嬉しそうにノートを捲ります。
海辺で高校生のカップルが座っています。真面目そうな幸生が「大学か、東京か」と横で、あすみは俯いています。
巌がサチを家まで送っています。
「嫁に行く前にも一度だけ送ってもらった。嫁に行く前にダンスホール連れて行ってくれるって行ってくれた」と話すサチを横に、巌は下を向いたまま歩いていました。
たみこの家の前で、トメとたみこが喧嘩をしていました。
若先生が、夫を亡くして引き込んでいるたみこのために子猫を持ってきました。
「猫は飼わないって言ってるでしょ!」と拒むたみこに、大吉が「なんで猫なの?」と聞くと若先生は「高齢者にアニマルセラピーがいいって」と口ごもります。
結局トメが抱き、カフェで育てることになりました。「みんなの猫だから」と美智子は笑顔で話します。
海辺に、あの高校生カップルの姿が見えます。
浅瀬に裸足で浸かっているあすみに、岩場に幸生が座りながら「俺、長男だから」と話します。
夏の青い空の下、よしえの三回忌を終えて、大吉と息子の剛が家に帰ってきます。
大吉はよしえのレシピにあった「稲荷ずし」を剛にふるまうと「ぼやけた味なんだけど、これがおふくろの味なんだよな」と嬉しそうに剛が頬張りました。
タマと大吉の様子を見て「一緒に東京で暮らそう、タマも」と剛が話した後、東京に戻って行きました。
紅葉が風に靡き、松ぼっくりに猫たちが戯れています。
積まれている蛸壺にすっぽり入って猫たちが休んでいます。
大吉たちがカフェで集まっている中、美智子が真剣にメモを見つめています。
何があったのかと大吉が聞くと、美智子は、郵便配達の聡君が、島の小学校の講堂で何かイベントをしたいって相談があった説明します。
巌が唐突に「ダンスホール!」と叫び、続けてサチが「ミラーボール借りられる?」と目を輝かせて尋ねます。
当日講堂では島民全員で準備した「秋のロマンティックダンスホール」が開かれました。
喧嘩をして暫く外に出ていなかったたみこもやってきて、トメと抱き合って喜びます。
巌は勇気を出して、サチにダンスを踊ろうと声を掛けルト、サチは嬉しくて笑顔で夢中に巌と踊りました。
講堂の外で美智子が座っていると、若先生がやってきました。
どうしてこの島に来たのかと、美智子が若先生に聞くと、「大きな病院にいたんですけど、診療所の先生の引き継ぎで。たくさんの人と触れ合えて、小さな変化が見つけられたらと思っています。魚はまだ苦手ですけどね」と答えました。
「私はポシャってしまって、ここに来てだいぶ膨らんできました」と美智子は微笑みました。
屋根にはタマとミーちゃんと星空、そして一瞬流れ星が見えました。
サチの告別式が終わりました。友人たちがミサの写真の前で話しています。
「若先生、ミサは苦しまないで逝ったのよね」とトメが話すと、「ミーちゃんは巌が預かればいい」と大吉が告げますが、巌は「猫は嫌いだ」と断ります。
巌の家で、大吉と巌が魚を食べています。猫たちが庭に寄ってくるので、巌が刺身を投げます。
あっという間に多くの猫が集まり、取り合いの喧嘩になったので、巌は刺身を全部庭に投げます。
「優しいな」と大吉が言うと、「後に残されたものが寂しくなる」と呟きます。
一方ミーちゃんは、サチの家の玄関で座っています。近くにタマが寄り添っています。
冬のある朝、いつものように掛け布団の上のタマに挨拶をして、大吉は起き上がろうとすると体がふらつき、水屋に肩をぶつけ倒れます。
よしえの「タマが閉じ込められるから、戸を開けといて」の言葉が頭によぎり、朦朧としながら戸を開けようとしたところに美智子が訪ねてきます。
「大吉さん!」と叫びながら美智子が家に上がってきます。
病室で横になっている大吉の姿があります。
若先生が息子の剛に大吉の「大きな病院で再検査された方が」と容体を説明しています。
ベットの横で、剛が大吉に「東京に一緒に住もう」と声を掛けます。
病院から家に戻り、大吉はすぐに寝込みました。タマは横で静かに寄り添っています。
明くる朝、タマの姿が消えていました。
映画『ねことじいちゃん』の感想と評価
映画冒頭の、あまりにも自然な港と魚と猫の映像は、日本の昭和の原風景となり、昭和を知らない世代さえをも郷愁に誘います。
そして何と言っても大吉じいちゃんの相棒、タマの登場に心が躍ります。
猫が大好きな人もそうでない人も、布団といえば猫。
しかも大抵布団の上で丸くなっていることに映画の中でも気づくでしょうが、大吉じいちゃんは重くて寝苦しいはずなのに、満面の笑顔で「タマ、おはよう」と挨拶を交わします。
このタマ、映画を辿っていくうちに観るものの心を鷲掴みにしていくシーンが満載です。
大吉と日課の散歩道は、いつも後をひょこひょこ付いて歩いていきます、猫なのに?
朝ごはんのテーブル席にちょこんと座っています、猫ですよね?
三毛猫のミーちゃんに恋い焦がれ何度も会いに行き、挙げ句の果てにはミーちゃんの悲しみにそっと寄り添い、見守っています、猫ですよ。
この映画は、タマ無くしてありえない。
一体タマ扮するこの猫は、何者なのでしょうか。
天才猫「タマ」とは
岩合監督の希望で、大吉さんのストーリーと並行して脚本にはタマと猫たちの物語も盛り込まれました。
脚本家の坪田文の脚本は、このストーリーを成立させることができる猫に出会えるかどうかにかかっていました。
いくつもの動物プロダクションを回り、100匹以上の猫からオーディションに残ったのが6匹でした。
大吉さんとの相性が大切ということで、立川志の輔と散歩のリハーサルを試しました。
急に走っていく猫や何かを見つける猫、座り込んで寝てしまう猫がほとんどの中、ベーコンという猫だけが、立川志の輔のスピードに合わせて歩き、何度も顔を見上げました。
岩合監督が「タマだ!」と思わず叫びました。
この瞬間ベーコン扮するタマの誕生となりました。
そして、本作には途切れることのなく必ずと行っていいほど、猫がスクリーンに映し出されます。
島猫たちの魅力
この猫たちも「島猫たち」に扮している猫たちです。
大吉とタマ然り、猫が嫌いと言っている巌に群がる猫やカフェで美智子と過ごす猫。
若先生が、引きこもりがちのたみこを心配して子猫を持ってきて喧嘩になるシーンや、初恋のサチの葬儀の後大吉と食事をしている巌が、群がる猫に刺身をやるシーン。
どのシーンにも必ず猫が関わり、四季折々の物語に深く切ない余韻を残しています。
高校生のカップルが、海辺で春の旅立ちをしているシーンにも、必ず足元にひょっと寄り添っています。
そして最愛のサチを失った三毛猫ミーちゃんは、サチの家の玄関でいつも静かに眠っています。
その横にはタマの姿も映ります。
その猫たちとまるで本当に生活をしてきたような俳優さんたちの演技も見どころの一つです。
猫たちと息がぴったりの人気・実力のある俳優陣
“大吉さんには志の輔さんしか考えられない”と岩合監督の熱いオファーを受けて、『ねことじいちゃん』の主人公を見事演じきった立川志の輔は、大御所の落語家でありながら、映画俳優としての仕事もされてきました。
今回タマとの奇跡的な相性ぴったりの演技をこなし、元校長先生という知的な雰囲気と島民の一人というのどかでおおらかな優しさを兼ね備えたキャラクターそのものでした。
そして東京からやってきてカフェを開いた美しい女性美智子役に柴咲コウ。
東京の生活で疲れ果ててやってきたと美智子が語るシーンでは、少し翳りを匂わせながらも島民たちに精一杯の愛情を注ぎ、光り輝く女性を等身大に演じていました。
大吉の亡き妻として、回顧シーンに出てくるよしえを演じる田中裕子。
温かいオーラが広がって、特に豆ご飯を土鍋で作るシーンは、無性に心が痛みます。
布団でよしえが事切れる寸前に、寄っていくタマに向ける優しい眼差しは、息を呑みます。
そしてガッチリと脇を固めるのはやはりこの人、巌扮する小林薫です。
猫が嫌いと言いつつも一番猫が近寄ってくる人物で、サチに送る視線が切ないほどのチラ見です。
(生き)のこるものが寂しいという巌の言葉が、名言です。
まとめ
何度も息子の剛が「東京で一緒に住もう、タマも」と大吉に話をします。
剛の本当に父親の体を心配し、母のいないこれから父と猫だけの生活のことを考えて話してくれていることを重々分かっている大吉ですが、なかなか踏ん切れない姿が目に焼き付きます。
本作では、今の高齢者社会の日本のどこにでもある風景を映し出していますが、観るものにもきっと大吉の立場や剛の立場が自分と重なることがあるでしょう。
自分の人生を最終的に決めるのは、自分自身だということを大吉という主人公を借りて、メッセージを送ってくれています。
身近な友を失い、自分の命も限りがあることを実感した大吉ですが、相棒のタマがいなくなった途端全てを失ったかのように探し回る姿を、自分に重ねてしまった人もいるかもしれません。
大吉は一人と一匹で、島の人々と島の猫たちと共に生きていくことを選びました。
レシピノート2冊目が、春にスタートしました。
ぜひこの春に猫たちと島の人々に会い、新しい自分のノート2冊目をスタートさせませんか。