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Entry 2019/02/08
Update

映画『コールドウォーCOLD WAR』ネタバレ感想。パヴェウ・パヴリコフスキが両親に捧げた作品

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

今回取り上げるのは世界的な絶賛を受けている『COLD WAR』。

第71回カンヌ国際映画祭ではパヴェウ・パヴリコフスキが監督賞を受賞しました。

第31回ヨーロッパ映画賞では作品賞含む5部門、ニューヨーク映画批評家協会賞では外国語映画賞を受賞や、第76回ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされ、米アカデミー賞でも注目の作品です。

美しい音楽と映像で綴られる繊細でパーソナルな芸術作品である『COLD WAR』の魅力をお伝えします。

映画『COLD WAR』の作品情報

【公開】
2018年 ポーランド、フランス、イギリス合作映画 (日本公開 : 2019年)

【原題】
Zimna wojna

【監督】
パヴェウ・パヴリコフスキ

【キャスト】
ヨアンナ・クーリグ、トマシュ・コット、ボリス・スジック、 アガタ・クレシャ、 ジャンヌ・バリバール、 セドリック・カーン、 アダム・ヴォロノヴィチ、 アダム・フェレンツィ、 アダム・シュズコウスキ

【作品概要】
『イーダ』(2014)でポーランド映画で初のアカデミー外国語映画賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキ監督。

主演を務めるのは『夜明けの祈り』(2017)のポーランド出身の女優ヨアンナ・クーリグと、『Destined for Blues (英題)』(2005)でデビューしてからヨーロッパを中心に活躍する、同じくポーランド出身で199センチの長身の持ち主トマシュ・コット。

第71回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールは逃したもののパヴェウ・パヴリコフスキが監督賞を受賞。

第31回ヨーロッパ映画賞では作品賞含む5部門を、ニューヨーク映画批評家協会賞では外国語映画賞を受賞、また第72回英国アカデミー賞や第76回ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートと快挙は止まることをしらず。

第91回アカデミー賞では、外国語映画賞のポーランド代表として出品されています。

映画『COLD WAR』のあらすじとネタバレ

1949年、ポーランド。

音楽家でプロデューサーのヴィクトルは、ポーランドの郷土音楽を広めるためにイレナと音楽学校マズルカを結成。

若い歌手やダンサーを集めて教育に取り組もうとしていました。

マズルカのオーディションにはたくさんの若者が集まりましたが、その中でもズラという少女の存在がヴィクトルの目に魅力的に映りました。

奔放で自信に満ち溢れたズラ。そんな彼女には虐待しようとした父親を刺して刑務所に入れられた過去があったと分かります。

それでも練習の日々を重ねるごとに惹かれ合い結ばれた二人。

マズルカは、音楽を純粋に表現する集団として設立されましたが、時代の流れにのまれ、政府にスターリンや農業改革称賛の歌を歌うよう圧力をかけられるようになりました。

反発したヴィクトルは政府から監視されるようになり、パリへと亡命することを決意。ズラと離れ離れになります。

ズラはその後もマズルカの花形として活躍し、ヴィクトルは細々と食いつなぐ生活。

1950年代に差し掛かり、マズルカのベルリン公演を訪れることができたヴィクトルはズラと共に西側へ亡命することを企てます。しかし待ち合わせの時間になっても彼女は現れませんでした。

以下、『COLD WAR あの歌、2つの心』ネタバレ・結末の記載がございます。『COLD WAR あの歌、2つの心』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
時が経ちズラは結婚をしましたが再びヴィクトルと再会、二人は共に暮らし始めます。

濃密なひと時を喜ぶヴィクトルとズラですが、しかし彼にも愛人がおり、ズラはその感情的な性格からパーティーでも喧嘩腰になっていまいます。

ズラはヴィクトルのプロデュースで歌手としてレコードを発表しますが、彼女自身はこの曲を気に入っておらず、彼らは決裂してしまいます。

ズラはヴィクトルの元を去って行きました。

時は経ち、政治活動で捕まったヴィクトルを訪ねたズラ。「私が必ずここから出してあげるわ」。

そして再び時間は流れ、歌手として活躍するズラのコンサートに釈放されたヴィクトルがやってきます。

ズラは楽団のマネージャーだったカチュマレックとの間に子供も授かっていましたが、コンサートが終わるとヴィクトルに駆け寄り二人はその場を立ち去ります。

足を運ぶのは彼らが出会った地、ポーランド。二人だけで結婚式を挙げ、錠剤を共に飲み干します。

「あちら側へ行きましょうか」、ズラがそう言うと二人は道のベンチから立ち上がり消えていきます。彼らがいなくなった後、風が草むらを撫でるように吹きました。

「私の両親へ」監督の献辞が浮かび終焉。

映画『COLD WAR』の感想と評価

前作『イーダ』では戦後ポーランドを舞台にした少女の成長物語を鬱屈とした、しかし叙情的で瀟洒な映像で描いたパヴェウ・パヴリコフスキ監督。

本作では冷戦を背景とした男女の恋愛を優雅に、時にメランコリックに演出します。

シェイクスピアの『十二夜』に「音楽は愛」という一節がありますが、この恋物語の全編を占めるのは音楽。ポーランド伝統の音楽は変わり、ソ連賞賛歌やジャズまで。民族音楽をジャズへと変換して歌うシーンなどは、音楽は時も場所も超えて愛を運ぶ美しい手段なのだと実感させられます。

1949年から約10年間、故郷ポーランドからパリ、ベルリン、ユーゴスラビア等ヨーロッパ諸国を渡りながら展開されるヴィクトルとズラの恋愛。彼らは激動の時代で出会い時のうねりに飲み込まれてゆくのですが、当時の社会情勢は細かく説明されることはなく、また場所や時の移ろいも突発的です。

ヴィクトルとズラはその時代に生き左右されましたが、それでも彼らに亀裂が生じていったのは時代のせいだけではない。劇中で「彼女はファム・ファタールだ」とズラが言われるシーンがあります。

“魔性で男を破滅させる、運命の女”ズラはどんどん歌手として華のある道を歩んでゆくけれど、亡命したヴィクトルは最後捕まってしまう始末。だけれどもそれはヴィクトル自身が選んだ道でもあります。

離れ離れになり、一緒に過ごす日々を手に入れても互いを傷つけずにはいられなくなってしまう。遠く離れていることは辛いけれど、近くに寄っても一緒にい続けることはできない。どの場所にいようが、どの時を過ごそうが、それが彼らだけの激情の恋愛だったとパーソナルに描く本作は白黒の美しい映像もあり、どこか神話的な風格も感じさせます。

印象的な本作の映像描写は、作中人物たちを必ずと言っていいほど画面の下に配置することが特徴。

スターリンの顔が大きく頭上に掲げられる下で歌う楽団員たち、寒々しい風が吹く街並みの中を歩く人々。

そんな人が小さな存在に感じられる描写が多いからこそ、数少ないヴィクトルとズラだけの大写しのカットがより官能的で濃密なものとして浮かび上がります。

頭上には空が広がり鳥は飛んでゆき、音楽は時や場所が移ろっても流れ続けてゆくけれども、人は例え恋人たちであろうと地上を徘徊し続けるだけ、どこにも行けやしない。時代に翻弄され時には自分で首を絞め、もつれ合いながらも再会を果たした2人は必然的な結末を迎えます。

「あちら側へ行きましょうか」その言葉と共に画面から消え、風となって初めて自由に飛び去ってゆく。そんな静謐で完璧な最後のシーン、「私の両親へ」という言葉でハッと理解する、本作に宿る真実の重みに涙がこぼれます。

本作でズラ役を務めたヴィクトルを演じたヨアンナ・クーリグは、レア・セドゥにどこか面影が似ているアンニュイな雰囲気の持ち主。楽団で1人金髪の髪を持つズラは最初から異質で不思議な存在に映り、ヨアンナ・クーリグは時折狡猾な光を散らすような“ファム・ファタール”ズラを美しく繊細に魅せています。

ヴィクトルを演じるのはトマシュ・コット。すらりと抜群のプロポーションを持つ彼はスクリーンで存在感たっぷり、音楽を愛しながらもイデオロギーの波に押しやられる芸術家の姿を感傷的な魅力を携えて演じています。

まとめ

ある激動の時代を生きた男女の姿を優雅に、情熱的に、物悲しく、映画という表現手段を用いて神話のように歌い上げた『COLD WAR』。

本作の息をのむようなその結末はきっと静かに心に染み入り続けるでしょう。

今、アメリカのアカデミー賞でも注目の『COLD WAR』は、日本では2019年6月に公開予定です。

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