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Entry 2019/02/02
Update

『マチルド、翼を広げ』ネタバレ感想レビュー。映画監督ルボフスキーが母親との絆を描く魅力とは

  • Writer :
  • 福山京子

フランスで90万人動員の実力派監督・女優ノエミ・ルボフスキーが母に捧げた色彩豊かでファンタジックな自伝的物語です。

フランス・パリで情緒が不安定な母とに見守る娘のユニークなエピソードに、ふと登場する妖精のようなフクロウと共にポップな色彩で表現力豊かに描かれています。

親子の絆を痛感させる切なくファンタジックな展開が、観る者に優しい余韻を残します。

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映画『マチルド、翼を広げ』の作品情報


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

【公開】
2019年(フランス映画)

【原題】
Demain et tous les autres jours

【脚本・監督】
ノエミ・ルボフスキー

【キャスト】
リュス・ロドリゲス、ノエミ・ルボフスキー、マチュー・アマルリック、アナイス・ドゥムースティエ、ミーシャ・レスコ

【作品概要】
ノエミ・ルボフスキーは前作『カミーユ、恋はふたたび』(2012)がフランスで90万人を動員する大ヒットを飛ばした人気監督であり、セザール賞に7度もノミネートされた名女優です。

本作では監督を務めながら、情緒不安定な母を熱演し、自らの子ども時代を詩的に表現しています。

マチルド役は初演技にして成熟した表現を見せた新星リュス・ロドリゲス、そしてマチルドを優しく見守る父役を監督・出演を務めた映画『バルバラ セーヌの黒いバラ』(2017)が話題のマチュー・アマルリックが愛情深く演じでいます。

映画『マチルド、翼を広げ』のあらすじとネタバレ


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

学校の校庭で、多くの子ども達がボール遊びや縄跳び、そして女子のグループで話し合っている中、壁にもたれノートに何かを描いている1人の少女が座っています。

グループのある女子がからかってそのノートを取りますが、その少女はすぐに取り返しました。

「ムキになりすぎ」と笑いながら、女子のグループは去っていきます。

学校の面談室で、その少女9歳のマチルドと母は、担任の先生と話しています。

「なぜ学校に来たのかを忘れたわ」と何度も話す母に、先生はマチルドに友達ができないことを心配して話そうとします。

母親は、先生の話をよそに窓から鳥の巣を見つけたとマチルドに知らせ、机の上にマチルドを乗せます。

ちぐはぐな会話に先生は面談を諦めた途端、「先生、私は悪い母親です」と言って母は去っていきました。

ある日マチルドが学校に行っている間に、母親はウェディングドレス売り場で試着をしていました。

少し歩いてみたいと言って、売り場から出て母親はデパートを歩き回ります。

母親はやっとお店に戻ってくると、結婚する相手のことをお客に聞かれ「人生と結婚するの」と答えます。

一方アパートで帰りが遅い母を1人待つマチルドは、テレビ電話で離婚した父親に相談しています。

「9時30分を過ぎたら(警察に)連絡するんだぞ、絶対」と父に言われ、マチルドは目覚まし時計の針を見つめています。

暗い外の道をウェディングドレス姿で歩く母の姿が見え、9時半に時計の針が差した途端、家のドアが開く音がしました。

「ごめんね。疲れてるから寝るわ」と言いながら、母は生気の無い表情で部屋に入りました。

マチルドは夢を見ているのか、という母親のために「グウェンドリーヌの呪い」という呪いを自らにかけ、水底に沈むという物語を語ります。

その薄暗い光景は、エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』の絵画の世界でした。

水底に沈んでいるのは、マチルドそのものでした。

ある日、母親はマチルドを呼びます。

居間にマチルドが行くと、テーブルの上に大きな包みがあり「プレゼントよ」という母親の前で、嬉しそうにマチルドは包み紙を開けました。

大きな鳥カゴに一羽のフクロウがはいっていました。

「飛んできたの」という母親に、少し戸惑いながらもマチルドは部屋に持っていきました。

その夜、マチルドが電気を消してベットに入ると「おやすみ」という声が聞こえました。

その声が聞こえる鳥カゴの方に行くと、フクロウが話していました。

マチルドは驚いて母親を呼ぼうとしますが、フクロウが「君にしか聞こえない」と教えてくれました。

マチルドとフクロウだけが会話できる2人の生活が始まりました。

以下、『マチルド、翼を広げ』ネタバレ・結末の記載がございます。『マチルド、翼を広げ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

教室では理科の授業で、骸骨の標本が飾られていて、子ども達は恐る恐る近寄るも、触って遊んだり、ふざけて扱う始末に先生が叱りました。

授業後、そっと骸骨に触れようとマチルドが近づきますが、職員の男性が運び出します。

マチルドはその男性の後を付け、保管した部屋の鍵を持って帰ります。

「骸骨が笑われ者になってるの。その骸骨の男性は楽しい時もあったはずなのに」とマチルドは、フクロウに相談します。

「助けるんだ!」とフクロウに言われ、マチルドは大きな袋に骸骨を入れて学校から持ち出しました。

更に林の中へ運び、骸骨を埋葬するために大きな穴を掘ります。

丁度いい大きさまで掘った後、マチルドは自分が横たわり軽く土を自分に被せて、暫く目を閉じました。

その後服を着せた骸骨をゆっくりと穴の中に置き、枕の上に頭を乗せ、骨の指に指輪もはめて祈りを捧げた後、土を被せました。

学校で歌の発表会の日、マチルドは会場にいる母を見つめ、嬉しそうに歌っています。

マチルドのソロパートが始まると、母親は舞台のマチルドが歌い終わるまで横に寄り添いました。

周りの友達や親が唖然とする中、マチルドはすぐに母親を連れて帰ります。

その後母は部屋に閉じこもり、食事も取らずにベットに寝ていました。

再びあのオフィーリアの水底に横たわるマチルドの姿が現れ、母親が沈んでるようにも見えます。

クリスマスの日、朝からマチルドはディナーの用意に大忙しです。

買ってきたホロホロ鳥に、いろんなスパイスを加えオーブンに入れ、テーブルに綺麗なグラスをセットし、クリスマスツリーを飾り、蝋燭に明かりを灯します。

準備を終え、母親を呼びに行くと部屋に母の姿がありませんでした。

目覚まし時計を見つめ、マチルドは夜母親の帰りを待ちます。

父親の約束通り、9時30分になるまでフクロウと静かに話をして待ちました。

電話が鳴りマチルドが話を聞くと、母親が電車で終点まで乗ったので、パリに1時に戻ると駅から連絡がありました。

マチルドはヤケになり、料理を窓から投げ落とし、部屋の飾りや準備したものを次から次へと投げました。

フクロウが、ホロホロ鳥のローストが丸焦げになっていることやカーテンに引火したことを告げます。

「バスローブを濡らすんだ!」とフクロウは、カーテンの火を消すために適切なアドバイスをして、マチルドは走り回ってボヤを消し止めました。

夜中帰宅した母親は、疲れ切ってクリスマスツリーの下で寝息を立てているマチルドの横に寝入りました。

ある日学校から帰ると、母親が引越しの用意をしていました。

「後1時間で引越ししないと、新しい住人が来るの」

フクロウは「風の流れに任そう」とマイルドに助言し、2人は新しい引越し先に向かいます。

母親が新しいアパートのインターフォンを押すと、住人の女性が出てきます。

「この書類に書かれているの、間違いないわ」と言いながら、母親は中に入って椅子に座ります。

住人の夫が警察を呼び、マチルドと母親は元に戻されます。

警察から連絡を受けた父親もやってきて、母親を休ませます。

父親が母の背中に手を置くと「その手が重いの」と母は泣き崩れます。

学校でマチルダが授業を受けている時、「お父さんが、お母さんを病院に連れて行く」とフクロウの声が聞こえてきます。フクロウは学校の廊下の手すりに止まっていました。

教室からマチルダは全速力で、家まで走って行きます。

施設の庭で、父親と母親が話しています。

「マチルドを頼むわ、家も売って」と穏やかに話す母親に、「戻るつもりはないのか?」と父親は聞きます。

「マチルドを産む前から、そう思っていたわ」と母親は優しく微笑みました。父親は、肩を落とし去っていきます。

成長したマチルダが施設に向かっています。マチルドを追うように、フクロウも飛んでいます。

庭に入ると、お花の世話をしている母親の姿がありました。

マチルドは一緒に花の世話をし、雨に濡れながらダンスをして母親を抱きしめます。

後ろの木の枝にフクロウが止まっています。

母親の部屋に入ると、2人は詩を作って過ごしました。

オフィーリアの水底から、沈んでいたマチルドが立ち上がる姿が映し出されます。

フクロウが鳴いて飛んでいきます。

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映画『マチルド、翼を広げ』の感想と評価


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

リュス・ロドリゲス演じるマチルドは一見どこにでも居る可愛らしい少女ですが、繊細な様子で警戒している眼差しが特徴的です。

マチルドは9歳。日本でいうと小学生3、4年生のあどけない好奇心一杯のギャングエイジの時代の筈なのですが、明らかに友達がいなくて、1人で休み時間を過ごしています。

彼女の背景には情緒不安定すぎる母親の存在があり、しかし学校では何もないかのように日々過ごしています。

マチルドと母親の深く繋がっているのに壊れそうな母娘の絆が、本作のテーマです。

日本に限らず、世界の格差社会の中で、多くの問題を背景に核家族化や母子父子家庭が増加しています。

そういった時代背景の下、母と娘の絆をテーマにした映画が目立つようになりました。

参考映像:『レディ・バード』(2017)

『レディ・バード』は、まさに“母と娘”に真っ向から向き合っています。

高校3年生の娘は、失業した父親と家計を支える看護師の母親の元で暮らし、そんな家族に嫌気がさしています。

離れた場所の大学に通いたい娘は、地元の大学に行かせたいと願う母と大ゲンカして、車から飛び降り骨折してしまいます。

その後も母親との衝突を繰り返しますが、“思春期特有の痛い娘”は母親の本当の思いをだんだんと受け入れ、少女から大人へと成長いく姿に共感を呼びました。

参考映像:『悲しみにこんにちは』(2017)

母親を当時蔓延していたエイズで亡くした少女の思春期の葛藤を描いた『悲しみにこんにちは』で、6歳の少女フリダは、母はなぜ死んだのか、どうして自分は死の床に呼ばれなかったのか、母の話をするときなぜ祖母は声をひそめるのかと自問します。

モヤモヤを抱えたまま叔父夫妻に引き取られたフリダは、バルセロナからカタルーニャの田舎に移り住みます。

母親の喪失感を受け入れられず、叔母への順応と反発の間を激しく行き来する少女の葛藤を、共感させるエピソードの積み重ねで描きます。

映画のクライマックス、母の死の謎をめぐる会話を通し、フリダが叔母のマルガの娘になっていくシーンは、“母娘の絆”というテーマが凝縮された名場面です。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

上記の2作品では、母と娘の反発、親子間の葛藤のなかに見る“母娘の絆”が描かれていましたが本作では違った点から“母と娘”が描かれています。

まず、父親が母親と娘との関係性を手放しています

父親は、母親にも娘にも優しく穏やかに接していますが、どこか諦観した表情でマチルドとのテレビ電話に写っています。

そして「手が重い」と母親からも告げられています。

それまで多くの話し合いと時間が経過しており、端々に出てくる言葉から、自分が出てくる時は施設に連れて行くことだと父親は感じているようでした。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

また、マチルドは、学校で先生や友達に母親のことを一切話していません。しかし周りが母親のことを感じ取っていることは、痛いほどわかっています。

だからこそ必死に母親を守っています

つまり本作では、マチルドは母親を守り助けようと日々努力しています

この健気さ故に、いつ崩れるのか分からない、そして母親より先にマチルドが壊れてしまうのではないかと、彼女の動向に目が離せなくなっていきます。

マチルドは『ハムレット』の水底に横たわるオフィーリアの映像のように自らを闇に閉じ込め、母親を献身的に、自らが犠牲となって支え続けていました。

それが先の2作品と決定的に違う点です。

まとめ


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema
 
本作では“救世主”フクロウの存在も大きな意味を持ちました

フクロウのお陰で、マチルドは自分の描く世界に身を安心して身を置くことが出来ました。

毎日、部屋で目覚まし時計を見つめて母親の帰宅を待つ時間が、フクロウとの楽しい会話に変わりました。

それはもしかすると無意識に自分を客観的に見つめるもう1人の自分を、フクロウに重ねていたのかもしれませんが、その行為を本作はファンタジーとして描いています

観るものにとっても張り詰めていた心がホッとする時間で、落ち着いてマチルドを観る事が出来ます。

特に授業で扱った骸骨を助けるためにフクロウと相談し、大きな黒い袋を担いで骸骨を学校から救出し、林に埋葬するシーンは微笑ましくも切なくもある名場面です。

映画のクライマックスでは、成長したマチルドが施設の母親に会いに行くラスト・シーンでフクロウがマチルドの後を飛び、マチルドと母親との抱擁を、木に止まって見つめています。

そして鳴きながら、飛び立っていきます。もうフクロウは話さないし、役目を果たしたのでしょう。

マチルダと母親の本当の絆が繋がる瞬間に出会いにいきませんか。

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