Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/02/05
Update

映画『ロード・オブ・カオス』あらすじ感想と考察解説。暴走する青年たちの物語から“ブラックメタルの真実”に迫る

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ロード・オブ・カオス』は2021年3月26日(金)より全国順次ロードショー!

悪魔主義を掲げるヘヴィ・メタル・ムーブメントの一つであるブラックメタルの真相を綴った映画『ロード・オブ・カオス』。

ブラックメタル黎明期の中核的存在であった、ノルウェーのバンド「メイヘム」をめぐるメンバーたちの青春を描いた本作。

ブラックメタルバンド「バソリー」の元ドラマーで、数々のミュージックビデオも手掛けてきたノルウェー出身のヨナス・アカーランド監督が演出を務め、ブラックメタルの真実に迫ります。

スポンサーリンク

映画『ロード・オブ・カオス』の作品情報


(C) 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

【日本公開】
2021年(イギリス・スウェーデン・ノルウェー合作映画)

【監督・脚本】
ヨナス・アカーランド

【音楽】
シガー・ロス

【原作】
マイケル・モイニハン&ディードリック・ソーデリンド「LORDS OF CHAOS(訳書邦題:ブラック・メタルの血塗られた歴史)」

【キャスト】
ロリー・カルキン、エモリー・コーエン、ジャック・キルマー、スカイ・フェレイラ、ヴォルター・スカルスガルド

【作品概要】
悪魔主義を貫き、過激なライブパフォーマンスでブラックメタルシーン黎明期に中心的な存在となったバンド「メイヘム」にまつわる狂乱の青春を描きます。

監督は、当時のブラックメタル・シーンを間近で経験したバンド「バソリー」の元ドラマーであり、ローリング・ストーンズ、マドンナ、ポール・マッカートニー、メタリカなどのMVも手掛けたヨナス・アカーランド。

主演をつとめたのは、マコーレー・カルキンの実弟、ロリー・カルキン。さらに物語のカギの一つとして衝撃的な姿を見せたボーカルのデッド役としてヴァル・キルマーの息子ジャック・キルマーが出演を果たしました。さらに音楽の担当としてポストロックバンドのシガー・ロスが製作に参加しています。

映画『ロード・オブ・カオス』のあらすじ


(C) 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

1987年、ノルウェー・オスロ。当時19歳のギタリスト、ユーロニモス(ロリー・カルキン)は“真のブラックメタル”を追求するバンド「メイヘム」の活動を展開していました。ユーロニモスがボーカルを兼任しトリオで活動していた「メイヘム」でしたが、ある日ボーカリストを募集すると、一通の応募封筒が彼らの元に届きます。

送り主の名はデッド(ジャック・キルマー)。手紙を開けると、そこにはネズミの死骸が。この応募は問題外と思いながらも同封されていたデモテープを聴くと、三人はそのボーカルの魅力に一気に引き付けられデッドを迎え入れることを決めます。

こうして四人となった「メイヘム」。デッドはライブ中に自身の体を切り刻んで観客にその血をふりかけたり、豚の頭を投げたりといった過激なパフォーマンスを繰り返し、バンドはブラックメタルシーンから熱烈な支持を受けていきます。

ところがある日、デッドはバンドが寝泊まりしていた家でショットガンにより自殺してしまいます。その死体を発見したユーロニモスは、大きな衝撃を受けながらも彼の悲惨な遺体の写真を撮り、頭蓋骨の欠片を友人らに送付し喧伝するという奇行に。ユーロニモスの思いはさらに積もり、親の出資の助けを受けて自身の根城となるレコードショップ「ヘルヴェテ(地獄)」を設立、彼らはシーンの中で一躍カリスマ的な存在として君臨していきます。

しかしこの台頭がきっかけでユーロニモスを中心とした悪魔崇拝の動きはエスカレートしていきます。メンバーたちを崇拝しのちに「メイヘム」のメンバーとなる青年ヴァーグ(エモリー・コーエン)は、その思いのあまりに教会放火事件を起こしてしまいます。この事件を契機に、彼らの暴走の火蓋は切って落とされたのだが…。

スポンサーリンク

映画『ロード・オブ・カオス』の感想と評価


(C) 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
ヘヴィ・メタルという音楽は、その誕生から「悪魔」という存在と切り離せないというステレオタイプが付きまといました。

80年代にイギリスで発生し、その後MTVの波に乗ってアメリカへ、そして世界へと広がったヘヴィ・メタル音楽は、社会に悪影響を及ぼし、子供たちに危険思想を植え付ける面があるとして、忌み嫌う人間が一部に存在しており、ヘヴィ・メタルのアーティスト、ファンたちは「この音楽はそういったものではない」と否定し自分たちの「音楽を楽しむ」という権利を主張していました。

本作からはこの動き正反対、つまりネガティブな印象を肯定している印象を受けるかもしれません。実際、本作で取り上げられるブラックメタルは、ある意味「悪魔主義」を肯定しているとみられる特殊なジャンルでもあります。

しかし物語よりその真意を探ると、「なぜ彼らは悪魔主義に身を投じたように見えたのか」と言及している、という違った観点も発見できます。それは「悪魔」=悪しきものという定義は絶対的な認識としてある一方で、果たして世で言われる善、正義といったものは本当に正しいものなのか、と疑問を投げかけているようでもあります。

例えば2021年1月、コロナ禍が収まらない現状においてバチカンのサンピエトロ大聖堂では、キリスト生誕を祝う東方三博士の参拝を記念する「公現祭」の礼拝がおこなわれ、約100人の参列者が集まり多くがマスク姿により臨む中で、ローマ教皇フランシスコはマスクをせずに1時間半ほどの礼拝を執り行ったといわれており、この行動に多くの批判の声も上がっています。

その批判の大きな要因として、フランシスコがマスクをしなかったことについて「マスクをして礼拝をおこなうのは、神への冒涜だ」としたことにあります。この例は極端なものですが、このように戒律に矛盾があると疑問視されることも時にあります。またあまりにも戒律に従えと厳しく正されることに抵抗を覚える心理は、人間としては時に否定できないものでもあります。

こう考えると、ある意味「悪魔」という「神」とは真逆の存在がこの世に現れたその経緯には、人から求められた合理性も存在するのではないかという仮定も生み出されます。

この物語はいかに登場人物たちがこの音楽に魅せられるとともに、その音楽世界に没入していったのか、という点に言及されています。本作に取り上げられているブラックメタル・ムーブメント、そしてメイヘムというバンドの経緯は、原作書『ブラック・メタルの血塗られた歴史(Lords of Chaos)』をもとにしたものですが、同じく2008年のドキュメンタリー映画『ライト・テイクス・アス ~ブラックメタル暗黒史』でも触れられています。

一方、これらの映像や書籍はあくまでドキュメンタリー的視点であり、かつムーブメントを俯瞰で見るような客観的視点で描かれたもので、本作はこれに対し出来事をドラマとして表現することで当事者の心理を主観的に描いています。

物語の冒頭にはまだユーロニモスがこの世界に没頭する前、デッドの自殺や「ヘヴェルテ」の設立より前の姿が描かれています。そこには主人公ユーロニモスが単に音楽を楽しみ、家族である妹と談笑し、といったごく平凡な姿が描かれており、彼がもともと特殊な状況にあったという境遇は存在しません。

また劇中で見られるユーロニモスをはじめその登場人物の表情には、「悪魔」という存在に完全に染まった者というよりは、どこかに迷いを抱えた人間らしさが強く感じられます。

そして物語はユーロニモスの視点を中心に展開していきますが、そこではドキュメンタリーだけでは描き切れない心理を描き、なぜ彼らは暴走に向かっていったのかという真相に対して一人一人の複雑な気持ちを表すとともに検証しています。

ヨナス・アカーランド監督はブラックメタルのムーブメントを生で経験した一人でもあり、多くの取材と合わせ、経験として持ち合わせた当事者としての心理をリアルに投影し、ブラックメタルという音楽や世界が彼らを引き付けた意味、そして彼らが暴走に向かった意味を見る側が感じられるレベルにまで持ち上げています。


(C) 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

「メイヘム」の活動が活発化しユーロニモスたちの行動が過激となっていく様を、本作ではかなり生々しく衝撃的なシーンで描いていますが、それはまさしく当事者たちの心理をダイレクトに示しているようでもあり、その心理的な衝撃は映像の直感的な刺激よりも深く重々しい印象を見る側に植え付けてきます。

1988年に公開されたドキュメンタリー映画『The Decline of Western Civilization Part II: The Metal Years』では、当時頂点に立ったヘヴィ・メタルのアーティストやファンの表情を描くとともに、この音楽が決して反社会勢力的な印象があるものではないという訴えを、ストレートな言葉で投げかけています。

この物語はそれに対してむしろこのムーブメントが生まれた点、その音楽に没入する理由について言及し人間の本質を問うことを主題としつつ、あくまでその思想と彼らの暴走のような奇行が必ずしも関連性を持ったものではないことを述べています。

一見『The Decline of Western Civilization Part II: The Metal Years』とはまったく異なったアプローチでありますが、その目的としてある意味同様の意味を持ったメッセージを投げかけているようでもあります。

まとめ


(C) 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
本作のエンディングは実際の事件の経過に従って悲劇的な結末を迎えますが、この作品の演出は、1998年に公開されたデンゼル・ワシントン主演の映画『悪魔を憐れむ歌(原題:Fallen)』のエンディングの影を感じるような、沈みっぱなしでは終わらず視聴者に問いを投げかける展開を作っています。

映画作品としては物語を悲劇的なエンディングのまま終わらせることもできたかもしれませんが、本作が敢えてこのようなエンディングされていることには、作品を単に実話を脚色したドラマでは終わらせない、ブラックメタルという芸術、文化、そして楽しみを守りたいと願う作者側の意思も見えてきます。

映画では実際の出来事を辿ったり、物語を丁寧に紡いでいくことも作品作りでは重要なことでありますが、それを踏まえた上で強いメッセージ性が込められた作品は、映画という存在の意味を強く感じさせてもらえます。本作はそんなことを改めて考えさせてくれるような作品でもあります。

映画『ロード・オブ・カオス』は2021年3月26日(金)より全国順次ロードショーされます!


関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ドヴラートフ』あらすじと感想レビュー。 “表現の制約”を現代の人々に問うレニングラードの作家たち

映画『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』は2020年6月20日(土)よりユーロスペースほかでロードショー公開。 ブレジネフ体制下の1971年のレニングラード。多くの作家、詩人たちは抑圧され、それ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ビューティフル・デイ』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

カンヌ国際映画祭、男優賞&脚本賞受賞!! 監督・脚本:リン・ラムジー×主演:ホアキン・フェニックス。 “21世紀版タクシードライバー”と評される傑作ノワール、『ビューティフル・デイ』をご紹介します。 …

ヒューマンドラマ映画

映画『僕に、会いたかった』感想と評価レビュー。女優松坂慶子がTAKAHIROを包み込む

大きな愛が失った時を蘇らせる 2019年5月10日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショーの映画『僕に、会いたかった』。 EXILEのTAKAHIROが初めて映画作品で単独主演を飾ったこと …

ヒューマンドラマ映画

ザ・ディフェンダーズ シーズン1|あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のレンタルと、『アントマン&ワスプ』(2018)の劇場公開が始まり、活気が収まることのないマーベルヒーローの世界。 実はNetflixで公開中のマ …

ヒューマンドラマ映画

ホン・サンス映画『それから』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

韓国のホン・サンス監督の『それから』が、6月9日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次ロードショーされています。 ホン・サンスが女優キム・ミニと組んだ三 …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学