小学生の少女と、探偵事務所を営む元ヤクザの男が、殺人事件に巻き込まれていく、犯罪エンターテインメント映画『アウト&アウト』
映画『藁の楯』の原作者としても知られる、きうちかずひろ監督が18年ぶりにメガホンを取った、本作をご紹介します。
映画『アウト&アウト』の作品情報
【公開】
2018年11月16日(日本映画)
【原作・監督・脚本】
きうちかずひろ
【共同脚本】
ハセベバクシンオー
【キャスト】
遠藤憲一、岩井拳士朗、白鳥玉季、小宮有紗、中西学、酒井伸泰、安藤一人、渡部龍平、渋川清彦、成瀬正孝、阿部進之介、竹中直人、高畑淳子、要潤
【作品概要】
漫画原作や小説家と知られ、1991年の『カルロス』で監督デビュー後、犯罪映画を数多く制作してきた、きうちかずひろ監督が自身の原作を映像化。
主演にテレビや映画などで、幅広い役柄をこなす遠藤憲一、共演に若手注目俳優の岩井拳士朗。
NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で注目された子役、白鳥玉季に加え、竹中直人、高畑淳子、要潤などの名優が脇を固める。
映画『アウト&アウト』あらすじ
立体駐車場でゴムマスク姿の、2人の男と銃の取引をする青年、池上数馬。
ゴムマスク姿の男達は、池上が素人だと分かると、態度を変えて銃を渡さずに、お金だけ奪おうとします。
池上は、ゴムマスク姿の男達に素手で応戦し、銃を奪ってその場から立ち去ります。
東京都内で、探偵事務所を開いている矢能政男。
矢能は、かつて日本最大の暴力団・菱口組最高幹部の側近でしたが、現在は足を洗っています。
矢能と暮らしている小学二年生の少女、栞。
探偵事務所を営みながらも、興味が無い依頼は平気で断る矢能に、栞は呆れながら、心配していました。
ある日、矢能の携帯電話に1本の電話が入ります。
それは「取引の現場に立ち会ってほしい」という依頼の電話でした。
矢能は不審に感じ断ろうとしますが、電話の男は矢能の元舎弟である、工藤からの紹介で電話をしており「頼りになる人だと聞いている」と食い下がります。
仕方なく矢能は、男に指定された茅場町のビルに向かいますが、事務所の中で依頼人の死体を発見します。
背後からゴムマスクを被った池上に襲われた矢能は、自分の指紋を池上殺害に使った拳銃に付着させられます。
池上は「この事を喋ったら、この拳銃を警察に渡す」と矢能を脅し、殺害現場から立ち去ります。
残された矢能は、依頼人のパスポートと携帯電話を押収、パスポートから依頼人の名前は「安田義行」という事が分かります。
矢能は、裏家業の掃除屋に現場を処理させて、安田の死体を保管させます。
安田の携帯電話から、矢能は安田の姉の番号を突き止め連絡しますが、姉からは「安田は3年前にカンボジアで死んだ」という情報を聞かされます。
矢能は知り合いの情報屋を使い、安田の情報を調べさせようとしますが、旧知の仲である情報屋は、矢能が厄介ごとに首を突っ込み、何かあった時の栞の事を心配します。
矢能は、ある事件で亡くなった探偵の跡を継いで、探偵事務所を営んでいました。
そして、母親に虐待されていた栞の保護を、その探偵に頼まれて、矢能は栞を預かっています。
矢能は栞の引き取り先を探した事もありますが、結局見つからず「栞には自分しかいない」事を誰よりも分かっていました。
次の日、矢能の事務所に安田の恋人だった女性が訪れます。
安田の失踪に疑問を感じた恋人は、矢能へ安田捜索の依頼をし、矢能も依頼を受けます。
矢能は、昔からの知り合いである、悪徳刑事の次三郎に連絡し、安田の携帯電話の通話記録を調べさせます。
工藤から「会わせたい人がいる」と連絡を受けた矢能は、工藤の事務所で待たされ、イラつきを隠せません。
遅れて来た工藤が現れ「トラブルが起きた」と報告します。
児童買春をしていた、リュウという男を痛めつけ、リュウが持っていた顧客リストを押収しましたが、そこへ菱口組の厄介者で知られるヤクザ、手島が絡んで来たと説明します。
工藤のトラブルに興味が無い矢能は、自分を呼んだ要件を説明させます。
工藤は独自に探りを入れ、安田の知り合いを名乗る男を突き止め、事務所に呼んでいました。
ですが、男は何も知らず、情報量だけをせびるのが目的と、一瞬で見破った矢能は、男の手を殴り立ち去ります。
事務所には次三郎が来ており、安田の通話記録を矢能に渡します。
「聞いてほしい悩みがある」と言う次三郎を追い返し、矢能は通話記録にある番号に電話します。
連絡先は国会議員の、鶴丸清彦の連絡先でした。
矢能は機転を利かせて安田が生きていると、嘘の情報を与えて電話を切ります。
長年、悪党と関わってきた矢能は、安田が鶴丸を強請っていたと考えます。
映画『アウト&アウト』感想と評価
これまで、数々の犯罪映画を制作してきた、きうちかずひろ監督が、自身の原作を映画化した18年ぶりの新作となる『アウト&アウト』。
悪党が入り乱れる本作で主役を演じたのが遠藤憲一。
最近はテレビなどで、コミカルな役も多く演じていますが、過去にVシネマで、強面のアウトロー役を数多く演じてきました。
矢能は無口で不愛想ですが、心の優しい頼りになる男で遠藤憲一の雰囲気に合い、非常にハマっています。
本作に登場する人物は、大きく分けて「良心を持ち続けている人間」と「良心を失った悪党」の二種類となります。
「良心を持ち続けている人間」は、栞や池上数馬。
「良心を失った悪党」は、ヤクザの工藤や悪徳刑事の次三郎、そして保身の為に殺人を繰り返した鶴丸。
矢能は、この二種類の人間の中間に立っており、悪党には容赦がありませんが、良心を持った人間には優しく、救いの手を差し伸べようとします。
そして、「悪党か?良心のある人間か?」という本質的な部分を見抜く感覚を持っている事が、矢能というキャラクターの最大の魅力です。
また、「良心を持ち続けている人間」の、悲しいドラマを表現しているのが池上数馬。
彼は、母親の命を延命してくれた、堂島の恩義に報いる為に殺しを続け、堂島への恩返しが存在意義になっています。
それは「純粋すぎる良心」からの行動で、ある意味で危険な存在とも言えますが、その生き方しか知らない悲しさも含んでいます。
池上が花屋の女性店員と触れて、人間らしい心が芽生えるエピソードで、この悲しさはより際立って来ます。
しかし、池上は「自分が妄信していた鶴丸が、真の悪党と気付き、自分の無念を矢能に託します。
ここで、深くは追求せず「分かった、任せろ」とだけ、池上に伝える矢能は、とにかくカッコよく鳥肌が立つ名場面になっています。
そこから、政治家の鶴松という、本来なら太刀打ちできない相手に、頭脳のみで勝負する展開は見事で『ミッション インポッシブル | ローグ ネイション』などに通じる爽快感があります。
本作は、人間が持つべき良心の、必要さや危うさを問いながら、純粋に「犯罪エンターテインメント」としても楽しめます。
まとめ
悪党には容赦ない矢能ですが、一緒に暮らす小学二年生の栞には頭が上がらず、そこが本作の面白さの1つになっています。
探偵として仕事が無い矢能に呆れながら、仕事が入れば景気づけに鍋料理を作り、矢能にビールを出して勢いづける様子は、ほとんど夫婦です。
栞を演じた白鳥玉季さんが上手く、振り向きざまの表情だけで、気持ちを表現する自然な演技は本当に凄いです。
本作では、矢能が探偵になった過去や、栞を預かる事になった理由に関して触れられていませんが、原作小説はシリーズものとなっており、矢能が探偵と出会うエピソードもあるみたいですね。
遠藤さんの矢能がまた見たいので、他の作品も映画化してほしいです。