「最悪」というキャッチコピーに強烈な牙をむいたポスタービジュアルが話題になっていますが、意外にも映倫審査ではPG12。
それもそのはず、本作『ヴェノム』は、ヴィランが残虐に大暴れする映画ではなく、悪そうに見える怪物が主人公とツンデレ漫才を繰り返しながら悪を倒すというストーリー。はっきり言えばファミリー向け映画です。
また日本人には馴染みの深い『寄生獣』と非常に似た話になっており、そこに注目しながら映画『ヴェノム』の本当の魅力を解説していきます。
映画『ヴェノム』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
Venom
【監督】
ルーベン・フライシャー
【キャスト】
トム・ハーディ、ミシェル・ウィリアムズ、リズ・アーメッド、スコット・ヘイズ、リード・スコット
【作品概要】
スパイダーマンシリーズの人気ヴィラン『ヴェノム』の初の単独映画化。
主人公エディ・ブロックとヴェノムの声両方演じるのは『マッドマックス怒りのデスロード』『ダンケルク』など毎年話題作に出続ける人気実力ともにTOPクラスの個性派トム・ハーディ。
メガホンを撮ったのは『ゾンビランド』で残酷描写をしっかりやりながら愉快でさわやかなコメデイを成り立たせる手腕を見せたルーベン・フライシャー。
映画『ヴェノム』のあらすじ
アメリカの科学振興組織ライフ財団は、とある彗星で発見したアメーバ状の謎の生命体「シンビオート」の研究を秘密裏で進めていました。
彗星を発見した際にロケットが墜落して、一匹のシンビオートがどこかに逃げ出してしまいます。
体当たりの取材が売りだったテレビリポーターのエディ・ブロックは、ライフ財団の悪巧みの噂を聞いて、代表のカールトン・ドレイクに取材に行きます。
そこであまりに核心に迫った質問をしてしまったため、ドレイクとエディを雇っているテレビ局の社長を怒らせてしまい、彼は解雇されてしまいます。
エディは婚約者のアンにも愛想を尽かされ、半年間貧しい生活を過ごします。
そんな折、ライフ財団のやり方に疑問を持っていた研究者の一人、ドラ・スカースがエディのもとにやってきます。
彼女の話によるとドレイクは、人類滅亡の危機を回避するために強靭な未知の生命体「シンビオート」を研究していたのです。
しかし「シンビオート」が生命体に寄生して、宿主の身体能力を強化させる特性があることが分かると、ドレイクはホームレスを拉致して人体実験を始めた事実を告げます。
シンビオートはなかなか人体と適合せず、被験者は次々と死亡していました。その悪行を告発するために、エディに協力して欲しいというのです。
仕事がなく崖っぷちのエディは、その話に乗り、ドラの案内でライフ財団の研究室に侵入します。
映画『ヴェノム』の感想と評価
バディムービーとして楽しむ
本作はダークヒーロー映画と銘打たれていますが、この作品を見た観客の印象は「バディ映画じゃん」と感じた方が多いのではないでしょうか。
エディは寄生されてからずっとヴェノムと会話をして、いわば彼のツッコミ役をしている存在です。
別にヴェノムのせいでダークサイドに取り込まれたりすることもなく、やり方は雑ながらテレビレポーター時代と同じく悪を弾劾する立場を貫いています。
彼はヴェノムの存在に戸惑いながらも人間らしく生き、自らの正義を持ってヴェノムと一緒に世のために戦う存在です。
日本人でそれなりにサブカルに詳しい人なら国民的人気を誇る『寄生獣』との類似性を感じます。岩明均の名作コミックで2014年に実写映画化もされました。
人気コミック『寄生獣』との類似性
参考映像:『寄生獣』(2014)
ヴェノムのキャラは言葉遣いなどは粗暴ながらもミギーにとても近いのではないでしょうか。
主人公新一に寄生した生物ミギーは、彼が死ぬと自分も死んでしまうため、新一にアドバイスをして絆を深め一緒に強くなっていきます。
ミギーは他の寄生生物から異端扱いされますが、新一と生きる道を選び、新一もミギーから得た超人的な力を正義のために使うことを決意します。
ほとんど『ヴェノム』と一緒。そしてミギーに対抗して後藤という最強の寄生獣が出てきたように、主人公たちと対になるようなライオット&ドレイクという圧倒的な強さの極悪キャラクターが出てきます。
スパイダーマンに登場した時を振り返る
サム・ライミ版『スパイダーマン3』(2007)に登場したときは、スパイダーマン=ピーター・パーカーという圧倒的な正義キャラクターがいたため、ヴェノムとエディは彼に嫉妬する存在でした。
ヴェノムが擬態したブラックスパイダーマンは通常のスパイダーマンと対比的な考えを持っており、スパイダーマンが一歩間違えればこうなっていたかもしれないという力を持つヒーローの負の側面を描いていました。
しかし、今回はいろいろな権利問題もあり、スパイダーマンが出てこないのでヴェノムがヒーローの役割を担っています。
ルーベン・フライシャー監督は、「スパイダーマン」シリーズやヴェノムのキャラクターの肝をしっかりと抑えて、主人公と対になる存在の悪役をちゃんと作り上げています。
地球人類のためと言いながらシンビオートの力に飲み込まれてしまうドレイクと、同じ状況でも正義のために力を使うエディ。
“エリート対落ちこぼれ”=“巨大財団代表のエリート科学者VS失業中の自称ジャーナリスト”という設定にもなっており、2人のバトルはかなりぐっときます。
その上でヴェノムを題材にしながら、きっちりとファミリーで見に来られるように残虐描写は抑え目になっています。
その点が生ぬるいと言われ一部のファンから叩かれる要因ともなっていますが、それでも劇中のヴェノムは憎めないキャラクターとして生き生きしています。
はっきり言って、割といい奴です。エディとの掛け合いが非常に楽しく、だんだんとヴェノムが可愛く見えてくるのも本作の妙味です。
原作コミックでは、もっと人をバリバリ食べたり凶悪で残虐なヴェノムですが、映画化された主人公の“エディと同じく負け犬である”という設定が加わっています。
無職で人生崖っぷちなエディがヴェノムと組んで正義の心と誇りを取り戻し、最良のパートナーになっていくストーリーは、なかなか感動的になっています。
コミックのファンは、原作に忠実な映画化を観ることは諦め、『48時間』(1983)や『リーサル・ウェポン』(1987)のような愉快なバディムービーとして見るのが正解なのではないでしょうか。
まとめ
当初の映画ファンの予想と異なり、ファミリー向けバディヒーロー映画となった『ヴェノム』。
本作がヒットすればもっと原作に近いエゲツないヴェノムが見られるかもしれないので、しっかり劇場に足を運びましょう。
そして本作ラストでは、あのウディ・ハレルソンが原作でも人気の悪役クレタス・カサディ=“カーネージ”として登場します。
凶悪なシンビオートのカーネージは、原作ではヴェノムの宿敵の存在です。
次回作では彼と戦うことによって『ヴェノム』ならではの、毒をもって毒を制すヒーローという設定が活かされた映画になるかもしれないので、今から期待できますね!