ロサンゼルスの街、シルバーレイクで発生した女性失踪事件を追う、1人の若者が直面する謎を描いた映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』。
都市伝説をテーマにした、本作をご紹介します。
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』の作品情報
【公開】
2018年10月13日(アメリカ映画)
【原題】
Under the Silver Lake
【監督】
デヴィッド・ロバート・ミッチェル
【キャスト】
アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、トファー・グレイス、ゾーシャ・マメット、キャリー・ヘルナンデス、パトリック・フィッシュラー、グレース・バン・パタン、ジミ・シンプソン
【作品概要】
2015年に超低予算ながらも、全米で大ヒットしたホラー映画『イット・フォローズ』を監督した奇才、デヴィッド・ロバート・ミッチェルがロサンゼルスの闇を描いた作品。
主演に「アメイジング・スパイダーマン」シリーズや『沈黙 サイレンス』『ハクソー・リッジ』などの、注目作への出演が続いている、アンドリュー・ガーフィールド。
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』あらすじとネタバレ
セレブやアーティストたちが暮らすロサンゼルスの街、シルバーレイク。
この街で暮らすサムは、ミュージシャンのカートコバーンに憧れ、女優を目指す年上の彼女と交際していますが、仕事をしておらず収入がありません。
家賃滞納による強制退去の危機を前にしても、サムは気にする様子が無く、昼間から隣人の女性を双眼鏡で覗いていました。
サムは同じ敷地内に住む金髪の美女、サラに一目ぼれします。
ある日、本屋に出かけたサムは、さまざまな都市伝説を紹介している同人誌「アンダー・ザ・シルバーレイク」を見つけます。
作者に興味を持ったサムは、本屋の店員に「アンダー・ザ・シルバーレイク」の作者を紹介してもらう約束をします。
自宅に戻ったサムは、サラの飼っている犬が外にいるのを目にし、犬に餌を与えていた事で、サムはサラに声をかけられます。
サラの自宅に招かれたサムは、2人の時間を過ごしますが、サラのルームメイトが帰宅した事で部屋から追い出されます。
「もう少し一緒にいたい」と望むサムに、サラは「明日の午後、また来てほしい」とお願いします。
サムはサラの家から出る際に、部屋の中に海賊の姿をした、怪しげな男がいるのを目撃します。
帰宅し、「アンダー・ザ・シルバーレイク」を読み始めるサム、本には最近街中で多発している「犬を殺す男」の都市伝説が書かれていました。
次の日、約束通りサラの家を訪ねたサムですが、部屋の中は空になっていました。
管理人から、サラ達が夜中に引っ越した事を伝えられたサム、「よくある話だ」と言われますが、サムは納得ができません。
サムは、サラが住んでいた空になった部屋に忍び込み、棚に置かれていたサラの写真を手に入れます。
すると、誰かが部屋の中に入って来た為、サムは素早く窓から脱出します。
部屋の中に入って来た女性はすぐに退室、中の状況を伺っていたサムは、扉の裏にひし形が2つの、奇妙なマークが描かれている事に気付きます。
サラの部屋から出て行った女性を尾行したサムは、女性が友人と合流し、海賊姿の男に袋を渡している所を目撃します。
そのまま女性が友人たちと入っていったホテルに、サムも潜入します。
ホテルの屋上では、パーティーが開催されており、人気バンドの「イエスとドラキュラの花嫁」がライブを開催し、体中にバルーンを付けた美女が踊っていました。
そこで、友人であるアレンと会ったサムは、行方不明になっている資産家、セブンスの娘であるミリセントが、パーティーに参加している事を伝えられます。
そこへ「イエスとドラキュラの花嫁」のメンバーから、ソロライブの告知を受けたサムは、チケットになるクッキーを渡されます。
ホテルのパーティーから帰る夜道、サムは「アンダー・ザ・シルバーレイク」の作者から連絡を受け、会って話をする約束をします。
電話を切った直後から、サムは背後に何者かの気配を感じるようになります。
帰宅したサムは、恋人に「アンダー・ザ・シルバーレイク」の新刊を読ませます。
フクロウの仮面を付けた全裸の女性が、男性を殺害する都市伝説が紹介されていますが、恋人は理解を示しません。
恋人の態度に怒りを感じたサムは、「この世の中は誰かに操られており、成功者に都合の良い世の中になっている」と持論を展開、恋人は呆れた様子で出て行きます。
次の日の朝、目を覚ましたサムは、あるニュース映像を目にします…。
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』感想と評価
多くのクリエイティブな若者やセレブが暮らす街、「シルバーレイク」を舞台にした本作は、かなり個性的で変わった作品です。
デビッド・ロバート・ミッチェル監督が、ロサンゼルスの丘に建っている屋敷の不可解さから着想を得て、作り上げられた本作は、都市伝説を主体にしながら、我々の生活の中にある隠された「何か」を、浮き彫りにしようとしています。
作中に登場する海賊姿の男や、フクロウの仮面を付けた全裸の女など、何気ない日常に隠された不可解さが表現されていて「とにかく、何かがおかしい」と観客に思わせる事で、作品全体から漂う「怪しさ」が強調されています。
また、登場人物を少し引いた目線で描いており、主人公のサムに関して、一切の背景が語られていません。
サムは何を目指していて、どうやって生活しているのかなど、分からない部分が多いのです。
物語の途中で、サムが「人生の失敗編を、生きている気がする」と語るシーンから、何かに挫折した事は分かりますが、その詳細も不明です。
また物語中盤まで、ほとんどサムの妄想で話が展開する為、物語の終着点にも不安を感じながら観賞しました。
しかし、これは「何者にもなれていない人」の物語なのです。
映画のラストの展開は、唐突に感じる人もいるかもしれませんが、現実に起きている可能性も否定できません。
それは、セレブにしか分からない事ですから。
デビッド・ロバート・ミッチェル監督は、ロサンゼルスに何年も住んだ経験から、成功したセレブが住むエリアと、生活に苦しむエリアの存在する「分断された街」であると感じたそうです。
この作品は、一般の目から見ると不可解に感じる、ロサンゼルスセレブの奇怪な面に、デビッド・ロバート・ミッチェル監督が出した1つの答えと言えます。
作品内で、謎に対する明確な結論は出されておらず、観賞する人によって違う「発見」や「答え」のある映画となっています。
まとめ
本作に出てくる都市伝説を理解すると、さらに世界観を楽しむことができます。
作中で冒頭から出てくる「犬殺し」の話は、アメリカでは有名な都市伝説で、サムがレコードに隠された暗号解く為に逆再生するのは、「リバース・スピーチ」と呼ばれる都市伝説です。
また、物語中盤に出てくる「全てのヒット曲を作ったソングライター」も元ネタがあり、短期間でギターの腕前が上達した、ロバート・ジョンソンが「クロスロードで悪魔と契約した」という話から、音楽業界を牛耳る男の都市伝説が生まれたと言われています。
本作は他にも、ヒッチコック作品などの古い映画へのオマージュや、テレビゲーム「ゼルダの伝説」が謎を解くヒントになっているなど、ポップカルチャーが多数登場し、詳しい人ほど陥る罠も作中に張られているようです。
とにかく奇妙な映画ではありますが、この独特の世界観を1度ぜひ体験してみてください。