あなたは1975年にテレビ放映された『鋼鉄ジーグ』を知っていますか?毎週日曜日18時00分から全46話制作されたアニメーション。原作は永井豪と安田達矢、そしてダイナミック企画製作による、東映動画によるロボットアニメです。
今回ご紹介する『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』はイタリア映画ですが、アニメ『鋼鉄ジーグ』は海外でも人気!
イタリアから新たなヒーロー映画誕生しました。ハリウッド映画とは一味違ったSF映画に注目してみましょう⁉︎
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の作品情報
【公開】
2017年(イタリア映画)
【脚本・監督】
ガブリエーレ・マイネッティ
【キャスト】
クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ、ステファノ・アンブロジ、マウリツィオ・テゼイ、フランチェスコ・フォルミケッティ、ダニエーレ・トロンベッティ、アントニア・トルッポ、サルボ・エスポジト、ジャンルカ・ディ・ジェンナー
【作品概要】
1975年に日本で放送されテレビアニメ『鋼鉄ジーグ』。79年にはイタリアでも放送された永井豪原作のアニメ『鋼鉄ジーグ』は人気作品。
そのアニメをモチーフにしたイタリア映画が『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』。監督は今作が長編映画デビューのガブリエーレ・マイネッティ。主人公エンツォ役に『緑はよみがえる』に出演したクラウディオ・サンタマリア、敵のジンガロ役にルカ・マリネッリ。
2016年にダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最多7部門(主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、新人監督賞、プロデューサー賞、編集賞)で最優秀賞受賞。その他には、ナストロ・ダルジェント賞、ヴェネツィア国際映画祭など多数映画賞で受賞。2016年4月29日~5月5日に、東京有楽町朝日ホールで開催された「イタリア映画祭2016」上映されて話題になりました。
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のあらすじとネタバレ
イタリア・ローマ。暴力犯罪やテロの蔓延に、市民は抗議デモを起こす日々が続き、街はすっかり荒廃していました。郊外にあるトル・ベッラ・モナカもかつての活気はなく殺伐とした雰囲気に包まれていました。
その街の片隅のアパートには、うだつの上がらないエンツォは暮らしていました。盗品を売りさばくその日暮らしの彼には生活に孤独感に満ちていました。
他人と関わらない彼は友達もおらず、もちろん恋人もいない。唯一の楽しみといえば、薄暗い部屋に引きこもり、大好物のヨーグルトと成人映画の鑑賞。
ある日。いつものようにエンツォは盗みを働き、追い込まれたテヴェレ川の作業船に隠れます。その際に間一髪を川に潜って難を逃れたかのように見えましたが、水中に放置されていたドラム缶の中に落ちてしまいます。
その黄色いドラム缶は「放射性廃棄物」であり、エンツォは得体の知れない液体まみれになってしまいます。
体調も悪くなりエンツォは、バスを乗り継いでで何とか自宅アパートに帰宅。
観るからに体調の悪い彼は、これまでに経験したことのない悪寒に震えが止まらす、咳き込むと手に真っ黒に染まる液体が出てきます。
やがて、悪寒と体調の疲れに眠り込んでしますエンツォ。
あくる日、エンツォの体調は回復。唯一交流のあるセルジョの“オヤジ”に会いに街のゴロツキの集まる溜まり場に行きます。
しばらくすると、そこでゴロツキたちを従える冷酷な傍若無人なボスのジンガロを中心に、現金輸送車襲撃や薬物取引を企てていました。
エンツォはセルジョにある計画ので自宅に招かれ、愛娘アレッシアと出会います。彼女はエンツォに「あんなた?アマソの手先?」と聞かれます。
アレッシアはテレビアニメ『鋼鉄ジーグ』の熱狂的なファンで、携帯用のDVDプレーヤーを片時も離さず、話すことは『鋼鉄ジーグ』のことばかり。
彼女は『鋼鉄ジーグ』のアニメ世界と、現実が混同する妄想の中で生きている娘でした。
セルジョとビルの工事現場に忍び込んだエンツォだったが、計画は失敗。セルジョも命を亡くしてしまいます。
エンツォも銃で肩を撃ち抜かれてしまい、ビルの9階から落下して、大きな衝撃波とともに地面のアスファルトに叩きつけられてしましたい。
しかし、エンツォは何事もなかったかのように目を覚ますと、自宅のアパートに戻って行きます。
一方で取引相手の女ボスのヌンツィアは誕生日パーティーの最中。ジンガロの耳にも「セルジョ失踪」の知らせが舞い込みます。
エンツォはアパートの部屋にあった鏡に自分の姿を映して、銃弾の貫通した跡を確認するが、何とその部分は蘇生能力によって元の体に戻っていたのです。
驚いたエンツォでしたが、川に落ちた際にドラム缶の得体の知れない液体に触れたことで、ただならぬ超人に生まれ変わったことを確信します。
しかし、そんな超人的な身体を手に入れたエンツォでしたが、その力の使い道といえば、個人的な欲望を満たすようなことしかしないのです。
深夜に銀行にある時間外ATMを襲い破壊して強盗をすれば、自身の好きなヨーグルトと成人映画のDVDをたくさん買い込むだけでした。
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の感想と評価
この作品の感想や考察にふれる前に押さえておきたいのは、やはり!本家のテレビアニメ版の『鋼鉄ジーグ』。
1975年に放映されたテレビアニメ『鋼鉄ジーグ』の原作者は永井豪&安田達矢とダイナミック企画、製作の東映動画によるロボットアニメです。
【アニメ『鋼鉄ジーグ』の作品概要】
玩具メーカー「タカラ」は、当時の子どもに人気があった、「ロボット」と「磁石」を取り込んだ玩具のアイデアとして、磁石を使った合体ロボット「マグネモ」の企画します。講談社の児童向け雑誌『テレビマガジン』に持ち込み、編集部からダイナミック企画を紹介されます。
人気漫画家の永井豪と、そのアシスタント安田達矢でロボットをデザイン。安田のライオンをヒントにしたデザインのアイデアが採用され、その後、『テレビマガジン』に安田は連載デビュー。漫画連載やジーグの玩具ヒットしました。
また、2007年には、WOWOWで放送されたアニメ『鋼鉄神ジーグ』は漫画版の続編。
東映アニメーション創立60周年公式YouTubeチャンネル『鋼鉄ジーグ』
【アニメ『鋼鉄ジーグ』のあらすじ】
考古学者の司馬遷次郎は、古代日本を支配した邪悪な国家である「邪魔大王国(じゃまだいおうこく)」と独裁者「女王ヒミカ」の復活を察知したことを息子の宙に伝えようとします。
しかし、ヒミカの部下イキマの襲撃を受けた司馬遷次郎は死亡。しかし、科学者であった彼は生前に巨大コンピュータへ自らの意識と記憶を移行させいました。
一方、息子の宙は、カーレースで大事故を起こすが無傷。彼は既にサイボーグへと改造されていたことを父親に告げられます。宙が頭部に変身する巨大ロボット「鋼鉄ジーグ」は、日本の支配をもくろむ邪魔大王国に立ち向かう…。
ガブリエーレ監督は語る「イタリアでは良いスーパーヒーロー映画は生まれない⁉︎」
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の監督・製作・音楽を務めたガブリエーレ・マイネッティ監督。
監督は映画ファンに「イタリアでは良いスーパーヒーロー映画は生まれない、という先入観を打ち破れたと思っています」と述べています。
これまでイタリアの伝統や風習からは、スーパーヒーローを生み出すのに困難であったジャンルなのでしょう。このポイントは、作品の鑑賞に関わるので少し掘り下げてみましょう。
今回の鑑賞ポイントは2つ。1つ目は「マカロニ・ウエスタン」、2つ目は「ネオリアリズモ」です。この点を知って観ると今作が単なるB級なスーパーヒーロー映画ではないこと分かるかもしれません。
確かに“イタリア独自に拘れば、スーパーヒーロー映画や、そのキャラクターを育む土壌は厳しい状況にあるのかもしれません。
しかし、「スーパーヒーロー」ではなく、それを「ヒーロー」とすればイタリアには牽引してきた映画ジャンルはいくつもあります。
今作を観ながら思い起こしたのは、まずは「マカロニウエスタン(スパゲティ・ウエスタン)」。ガブリエーレ監督の今作は、“マカロニウエスタンのヒーローみたいなスーパーヒーロー誕生”と思うと楽しみは増すのではないでしょうか。
マカロニかスパゲッティか?イタリア製のウエスタン⁉︎
マカロニ・ウエスタンは、1960年から1970年代前半に制作されたイタリア製西部劇のことです。
海外ではこれらの西部劇をスパゲッティ・ウエスタンと呼びますが、日本ではセルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』が1965年に日本公開された際に、映画評論家の淀川長治が「スパゲッティでは細くて貧弱」ということで「マカロニ」と変更したそうです。
参考映画①:世界的大ヒットのマカロニウエスタン映画『荒野の用心棒』(1964)
マカロニ・ウエスタンの基本路線とは「アンチ・アメリカ西部劇」だと言われ、当時のアメリカ西部劇はジョン・フォード監督やハワード・ホークス監督などの西部劇に登場する主人公たちは実直で誠実。高潔なヒーローばかりでした。
それに対してマカロニ・ウェスタンの主人公は良心などは皆無に近く、褒められるような人物ではありません。さらにその主人公の周囲にいる登場人物がそれに輪をかけて極悪なタイプの人格なのも特徴的です。
このような主人公を演じたのが、アメリカのB級俳優だったクリント・イーストウッドやバート・レイノルズ、悪役俳優リー・ヴァン・クリーフ、イタリア人の俳優では、フランコ・ネロやジュリアーノ・ジェンマでした。
アメリカという、“新たな地”を開拓したフロンティア・スピリッツのある誇り高い西部劇とは、まるで正反対なのがマカロニ・ウェスタンの特徴といえ、リアリティの無い(ある種の説教じみた)ヒーロー像に飽き飽きしていた、当時の映画ファンを虜にしたのです。
現在ではハリウッド映画でも、クエンティン・タランティーノ監督などの登場によって、そのような西部劇は制作されるようになりましたね。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のクラウディオ・サンタマリアが演じた主人公エンツォの人物像や行動、その周囲にいる人物たちの癖の強いキャラクターが、通常のスーパーヒーローものと異なっていたのには、そのようなイタリアの伝統的な背景が読み取れます。
簡単にすると、アメリカの現実離れした大富豪スーパーヒーローの『アイアマン』『バットマン』と、イタリアの貧困生活のお金無し友達も無しの『鋼鉄ジーグ』といえばもっと分かりやすいかもしれません。
ガブリエーレ・マイネッティ監督は、映画を観る観客とスーパーヒーローの主人公エンツォを近い存在に描きました。それは誰しもが抱える弱さや脆さ見せたかったからです。
そのようにすることで、スーパーヒーローの存在を単純な絵空事には見えないようにしました。もうひとつイタリアならではのヒーロー像がそこに見てとれるのは「ネオリアリズモ」の風味を持ち合わせているからです。
現実の失意の中でも立ち上がるネオレアリズモ
世界的に影響を及ぼしたイタリア映画のネオレアリズモという運動がありました。1940年から1950年代にかけて、イタリアの映画と文学で盛んな文化で知られています。
当時のイタリアは、内戦による恐怖や破壊された経験の中でも未来に向かって生きようと苦悩する人物の姿を、現実を題材しながらを映画制作を行いました。
主なネオリアリズモの映画監督には『無防備都市』のロベルト・ロッセリーニ監督、『自転車泥棒』のヴィットリオ・デ・シーカ監督、『揺れる大地』のルキノ・ヴィスコンティ監督がいます。
少し大げさかもしれませんが、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は、このような流れもしっかりを踏まえた上で制作された映画だと鑑賞しながら思いました。
映画の冒頭から“定番的なスーパーヒーロー映画”には不必要なディテールを執拗なまでに丁寧に盛り込みます。
例えば、暴力犯罪や市民抗議デモを描き、映画の後半はネットでの犯罪予告とスタジアムの時限爆弾はテロ犯罪を彷彿シークエンスを見せました。
他にも、世界的に有名なバンクシーという、社会風刺的なグラフィカルで知られるストリートアーティストで正体不明な覆面芸術家を彷彿させる場面もありました。主人公エンツォが反資本主義や反権力など意識したメタファーなのでしょう。
このようにイタリア社会の背景がどうであれ、貧しくて苦しくに埋もれていくのではなく、どうあることが真のヒーローという人の行為であるか示したのかもしれません。
また、誰しもスーパーヒーローという存在になりうるのだと、ガブリエーレ・マイネッティ監督はこの作品の主人公エンツォがシバヒロシを名乗ることで勇気付けたのではないでしょうか。
まとめ
最後に『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』に登場する人物たちのセリフご紹介します。
【主人公エンツォ(ヒロイン似とってはヒロ)】
「今は生きていて楽しい お前がいるから。」
「シバヒロシ!」(これあえて言っちゃいますね、笑)
【鋼鉄ジーグ好きな女性アレッシア】
「お父さんや皆を救わなきゃ。皆のためなの、ヒロ。」
【セルジョ(アレッシアの父)】
「娘が失礼したな。母親が死んですっかり変わっちまった。」
【極悪自意識過剰のジンガロ】
「今こそ想像を越えた 超ド級の一発の出番だ。」
【リッカ】
「この際行っておく、ボスはお前じゃなえ。」
【スペルマ】
「ジンガロ、64ギガだぞ。白は嫌いか?」
【タッツィーナ】
「ATMって、何キロあるんだ?」
【ヴィンチェンツォ】
「俺たちは崩壊寸前の国の救世主だ。」
【アントニオ】
「これは戦争なんだよ。」
【ナポリの女ボスヌンツィア】
「マジで燃やすよ。」(お気に入り必死ですよ!笑)
また、本作を鑑賞した漫画家で『鋼鉄ジーグ』の原作者の1人である永井豪は、「犯罪と汚濁まみれのローマの下町で、アニメヒーロー『鋼鉄ジーグ』に憧れる女性の為、正義の戦いに立ち上がる“男の純情”が美しい!!『ガンバレ、君は鋼鉄ジーグだ!!』」と応援コメントを寄せています。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は、5月20日公開!東京ではヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、神奈川はシネマ・ジャック&ベティ、大阪はシネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋。その他、全国順次公開。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』にチャンネル・セット!! ぜひ、劇場でご覧ください!