ベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が若くして妊娠した女性5人の少女を描く
『そして彼女たちは』は、若くして妊娠した女性を支援する施設で共に暮らす5人の少女の物語。
少女たちは、頼る人もなく、家族との関係や貧困など様々な問題を抱えています。愛を知らぬ少女たちは、孤独や不安、葛藤の果てに自分たちなりの「愛」の選択をします。
『ロゼッタ』(1999)、『ある子供』(2005)がカンヌ国際映画祭パルムドール大賞を受賞し、カンヌ映画祭だけにとどまらず世界中で100賞以上を獲得しているベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。
また、本作では、『CLOSE クロース』(2023)のルーカス・ドン監督が共同プロデューサーに名を連ねました。
映画『そして彼女たちは』の作品情報

(C)Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange- Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
【日本公開】
2026年(ベルギー・フランス映画)
【原題】
Jeunes mères
【監督・脚本】
ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
【製作】
ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ、デルフィーヌ・トムソン、ドゥニ・フロイド
【共同製作】
ミヒール・ドン、ルーカス・ドン
【キャスト】
バベット・ベルベーク、エルサ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、ルシー・ラリュエル、サミア・ヒルミ、ジェフ・ジェイコブス、ガンター・デュレ、クリステル・コルニル、インディア・ヘア、ジョエリー・ムブンドゥ、クレール・ボドソン、エバ・ジンガロ、アドリエンヌ・ダンナ、マチルド・ルグラン、エレーヌ・カトラン、セルマ・アラウイ
【作品概要】
キャリア38年、『ロゼッタ』(1999)、『ある子供』(2005)でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞するほか数多くの映画祭でノミネート、受賞してきたベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。
5人を主人公とする初の群像劇に挑んだ本作は、第78回カンヌ国際映画祭で『ロルナの祈り』(2008)に続き、2度目となる脚本賞、エキュメニカル審査員賞をW受賞しました。
5人の少女を演じた役者のうち、バベット・ヴェルベーク、ルシー・ラリュエル、サミア・ヒルミは本作が映画初出演となりました。
映画『そして彼女たちは』のあらすじとネタバレ

(C)Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange- Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
ジェシカ、ぺルラ、アリアンヌ、ジュリー、ナイマの5人の少女は、若い母親を支援する施設で共同生活を送っています。
もうすぐ予定日を迎えるジェシカは、児童施設で育ち母親を知りません。自分は子供を捨てず、きちんと育てるという気持ちを伝えたいと、支援施設を通じて母親と連絡をとり、会うことになります。
しかし、待ち合わせの場所に母親は現れませんでした。「どうして来ないの」と動揺するジェシカに、施設の職員は「何かトラブルがあったのかも」と宥めます。
ペルラは、恋人が出所し、子供と3人で新しい生活を送ろうと願っていますが、出所した恋人は以前と態度が代わり、ペルラが探してきた物件の内見にも気乗りしていない様子です。
「愛が冷めたの?セックスは無理だけど、触れてほしい」というペルラの気持ちにも応えてくれません。
「子供がいても別れてしまうことはある」と職員がペルラを落ち着かせますが、恋人との生活しか考えていなかったペルラは動揺し、倒れてしまいます。
アリアンヌは、アルコール依存症で暴力を振るうパートナーと別れられずにいる母親との関係に問題を抱えています。
母の言われるまま子供を産みましたが、自分は若く仕事に就いているわけでもありません。「酒はやめた」という母親も、結局酔って問題を起こし、警察沙汰になっています。
貧困から抜け出し、母と距離を置くためにも子供は養子に出そうと考えていますが、そのことを母に告げられずにいます。
ジュリーは、恋人と共に薬物依存から抜け出そうと足掻いていますが、戻ってしまいそうな不安から街中に出ることができません。
少しずつ外の世界で生活できるようリハビリをしていますが、ある日、どうしても抗えず薬物を過剰摂取してしまい、病院に運ばれます。
「全てが嘘のようだけれど、子供だけは本物で。この子と本物の生活をしたい」と泣くジュリーに恋人が「僕たちならできる」と力強く抱きしめます。
ナイマは、子供を養子に出そうと考えていましたが、施設の職員や共に暮らす仲間の支えによって子供と生きていく決意をします。そして、夢だった鉄道の仕事に受かったことを皆に報告します。
映画『そして彼女たちは』の感想と評価

(C)Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange- Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
ベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が、若くして妊娠した女性5人の少女を描く映画『そして彼女たちは』。
淡々と描く中で突きつけられるのは、彼女たちの若さと、男性不在の歪さです。
施設で育ったジェシカは母を知らず、自分は母のように子供を捨てたりしないと思っていても1人で育てる不安に押しつぶされそうになり、支えてくれる“誰か”を求めてしまいます。
家族を知らないジェシカにとって、感情をぶつける相手も相談に乗ってくれる相手もいないのです。
子供の父親となるべき存在は、普通の家庭で育ち、両親は「施設生まれだからと同情したのに」「アフターピルを飲まなかった」と息子は被害者のような口ぶりでジェシカを責め、「なぜ産むの?」とまで。
ジェシカが産むと決意した背景にはそのような決めつけに対し「私はきちんと子供を育てられる」という意地や当てつけもあるかもしれません。
出所した恋人に別れを告げられても、認められず、子供の面倒を見ることを放棄してしまうペルラの姿も、あまりにも幼く未熟です。
しかし、それの何が悪いのでしょうか。10代の彼女たちは幼くて当たり前です、母親になることから逃げたくなったり、不安に押しつぶされそうになったり、それは当然の姿なのです。
彼女たちの幼さは決して彼女たちの欠点ではありません。
彼女たちは幼く、経済力もありません。だからこそ支援が必要なのです。
愛も家族も分からない彼女たちは、子供を産むことで家族を得ようともがきます。
しかし、子供は恋人を繋ぎ止める道具ではなく、その小さな命を守る重圧は生半可なものではありません。
養子に出し、赤ちゃんに家族を与えてあげたいと思うアリアンヌの気持ちを正しい、間違っている、と他者が言うことができるでしょうか。
彼女たちの若さと歪なまでに排除された“父”の存在。
それは、現実の社会においても変わらない、母にばかり押し付けられている、逃れることが出来ないという現実なのです。
淡々とそこに生きる人々を見つめ、映し出してきたダルデンヌ兄弟。
本作においても過剰な演出はなく、淡々と5人が抱える問題、葛藤する等身大の姿を映し出します。
5人の少女それぞれの選択の先に希望はあっても、確かな救いはありません。それが彼女たちが直面している現実なのです。
まとめ

(C)Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange- Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
若くして母になる5人の少女の姿を描いた『そして彼女たちは』。
5人の少女の中で唯一、パートナーとの新生活を始めようとする登場人物がジュリーです。
ジュリーは薬物依存症から克服し、パートナーと子供と新たな生活を始めようとしています。
しかし、家を借りられなかったら……また薬物を始めてしまったら……と、ジュリーたちは一歩進んだとしてもまた新たな課題が目の前に現れるでしょう。
それはジュリーだけに限りません。生きていくとは、全てが順調なわけではなく、一歩進んではまた振り出しに戻る、そんなことの繰り返しでしょう。
その中で、孤独で頼れる人を持たぬ人が、必要な支援を受けられるか。それが現代社会の課題ともいえます。
ダルデンヌ兄弟は、そのような支援の網からこぼれ落ち落ちそうな、瀬戸際で必死に生きている人々を淡々と見つめ映し出してきました。
社会的なテーマという意識というより、ただ現実を映し出したい……。
そのようなダルデンヌ兄弟の眼差しは、観客にとって現実であり誰かにとっては救いでもあるのかもしれません。


































