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【映画ネタバレ】平場の月|あらすじ結末感想と評価解説。つまらない?最後/ラストの意味は?“夢みたいな記憶”がある限り平場の人生は“さよならだけ”じゃない

  • Writer :
  • 河合のび

夢みたいなこと。だからこそ、忘れられないこと。

第32回山本周五郎賞受賞と第161回直木賞にノミネートされた朝倉かすみの同名小説を、『花束みたいな恋をした』(2021)の土井裕泰監督が堺雅人主演、井川遥共演で映画化した『平場の月』。

中学校以来、長い時を経て再会した50代の男女の細やかな心の機微を描いた、どうしようもなくリアルで、そして切ないラブストーリー映画です。

本記事では、映画『平場の月』のネタバレあらすじと共に、本作の魅力を紹介

アパートの窓辺から月を見上げていた須藤が想い続けていたであろう未来と過去の二つの《夢みたいなこと》、《人生の終わり》という別れの季節が近づく人々の恋愛を描いた『平場の月』の最大のテーマを考察・解説していきます。

映画『平場の月』の作品情報


(C)2025映画「平場の月」製作委員会

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
朝倉かすみ『平場の月』(光文社文庫)

【監督】
土井裕泰

【脚本】
向井康介

【音楽】
出羽良彰

【主題歌】
星野源『いきどまり』(スピードスターレコーズ)

【キャスト】
堺雅人、井川遥、坂元愛登、一色香澄、中村ゆり、でんでん、安藤玉恵、椿鬼奴、栁俊太郎、倉悠貴、吉瀬美智子、宇野祥平、吉岡睦雄、黒田大輔、松岡依都美、前野朋哉、成田凌、塩見三省、大森南朋

【作品概要】
第32回山本周五郎賞受賞と第161回直木賞にノミネートされた朝倉かすみの同名小説を、『花束みたいな恋をした』(2021)の土井裕泰監督が映画化。

脚本は『ある男』(2022)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した向井康介。

主人公・青砥健将役を堺雅人、青砥の中学生時代の想い人・須藤葉子役を井川遥が演じ、長い時を経て再会した50代の男女の細やかな心の機微を描いた、切ないラブストーリーを紡ぎます。

映画『平場の月』のあらすじとネタバレ


(C)2025映画「平場の月」製作委員会

親の介護のために、地元に戻った青砥健将。共に暮らしていた妻とも離婚し、現在は再就職先の印刷会社で勤務し、施設で暮らす認知症の母のもとに週1回通いながらも、実家で一人暮らす平穏な日々を送っていました。

ある時、生検での内視鏡検査で胃に腫瘍が存在することが判明した青砥。おそらく良性だが念のための再検査をするように医者に言われ、何とも言えない不安を感じる青砥でしたが、病院内の売店で偶然にも中学生時代の同級生・須藤葉子と久方ぶりに再会しました。

青砥と同じく数年前に地元に戻り、現在は売店でパート勤務を続ける須藤は、中学生時代に青砥が想いを寄せていたものの、結局振られてしまった相手でもありました。

勤務明けの公園で、青砥と他愛のない《小さな幸せ》の話を交わした須藤は、どちらかの気分が沈んだ時に会い、飲み食いをしながら日々に関する雑談をすることでお互いの心を支える《景気づけ合いっこ》をする関係にならないかと青砥に提案します。

さっそく居酒屋に誘った青砥は、須藤とお互いの近況や生活、どんなことでも話せる相手でなければ話す機会すらない話題について語り合います。

須藤は勤務していた商社で夫と出会い寿退社するも、夫に先立たれ、その後は諸事情から旧姓に戻りアパートで一人暮らしをしていました。また現在の経済環境が決して豊かではない須藤は、やがて自宅のアパートで呑まないかと青砥を誘いました。

「中学時代の同級生」という関係性ゆえに、当時と同じようにお互いを「青砥」「須藤」と名字で呼び合う二人。晩年が近づきつつある年齢ゆえの《告白欲》は、いつか誰かに話したいとずっと感じていたのかもしれない、お互いが人生で経験してきた《つまづき》の記憶も語らせます。

青砥は、現在は落ち着いたものの、離婚後はアルコール依存症に等しい状態になり、仕事中もマスクで酒気を隠さなくてはならないほどに飲酒を続けていたことを。

また須藤は、亡くなった夫は酒乱で暴力を振るわれる場面もあったが、それでも惚れ込んでいたこと。しかし夫が亡くなった後には、近所に暮らしていた美容師の若い青年・蒲田に惚れ込んでしまい、老後の生活資金を失うほどに貢いでしまったことを明かしました。

後日、青砥の再検査は無事に終わり、例の腫瘍も良性ポリープと判明。年齢面から検診は定期的に受けるよう医者に勧められはしたものの、青砥は一安心します。

しかし、公園の喫煙所で出くわした須藤のパート先の同僚で同じく中学校時代の同級生・うみから「須藤とその夫は略奪婚だった」「夫のDVで悩んでいた前妻から相談を受けた後、別れるよう勧めた上で夫を奪い取った」と聞かされ、複雑な気分になりました。

一方、同じく生検を受けた須藤は、のちの精密検査で進行性の大腸がんと判明。腫瘍と共に大腸を大幅に切除する都合から、ストーマ(人工肛門)を造設することを決断。術後にも抗がん剤治療が続くことになるため、売店でのパート勤務も退職しようと考えていました。

「これ以上周りに迷惑はかけられない」と言う須藤に、中学校時代から変わらない《芯の太さ》を感じながらも、青砥は彼女のこれからの闘病生活を支えていきたいと決意しました。

手術日の前夜。須藤の自宅アパート前で、須藤の貢ぎ相手だった青年・鎌田と遭遇した青砥。須藤を苦労を負わせた張本人ながらも、鎌田のことを嫌いになれない青砥でしたが「須藤に少しでも金を返したい」と封筒を託そうとする鎌田に「こんなことしたら、須藤はあなたのことを嫌いになる」と答え、蒲田もその言葉を理解した上でアパートを去りました。

やがて、手術前の説明を聞き終えた須藤が、病院から帰ってきます。二人でいつものように、しかし手術前の最後の家呑みをする中で、須藤は自室を「遺された人が片付けやすい部屋」にしたこと、それは「私は死ぬまでここで生きていくんだ」と思ったからだと青砥に明かします。

堪えられなくなった青砥は、須藤を抱きしめ、キスをします。須藤は「もはやファンタジーだよ」「こういうことも、性欲も」と戸惑いますが、青砥は口づけをキスを続け、須藤もそれに応えて二人は体を重ねました。

須藤の手術は無事に終わり、青砥は病院へ見舞いに行きます。青砥はクリスマスプレゼント、そして12月20日の誕生日祝いにと月のネックレスを贈り、須藤も喜んでくれました。そんな二人の関係を、須藤の妹・道子も温かく見守っていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『平場の月』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『平場の月』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2025映画「平場の月」製作委員会

退院後、ストーマを用いた排泄、始まった抗がん剤治療の副作用による痛みなど、闘病と新しい習慣の日々に苦しみながらも慣れようとする須藤。青砥はそんな須藤を支え続けました。

年も越し、青砥の勧めで退職はせず休職していた売店のパート勤務も再開。術後の3ヶ月検診も問題なく終わった中で、青砥は再び訪れる須藤の誕生日には温泉旅行に行かないかと提案します。対して、現在の心と体の負担を考慮した須藤は「旅行は来年の誕生日にしよう」と約束しました。

須藤の6ヶ月検診があった日の晩、橋の上で仕事終わりの青砥を待っていた須藤は、かつての記憶を思い出します。

幼い頃に若い愛人と駆け落ちするも、愛人に捨てられた途端に戻ってきた母。そんな母の行動に激怒し、母を家から追い出す父。その光景を当時の青砥に見られ、様々な感情から居たたまれなくなり、その場から逃げ出した須藤と、彼女を追いかけていく青砥……中学校時代の須藤が一切の恋愛を拒絶していたのも、両親への嫌悪からでした。

昔の記憶を思い出した須藤は、自転車でやって来た青砥に、以前に彼に誘われるも「青春すぎる」と断ってしまった、二人乗りをしようと提案します。周りの目を気にすることなく、二人は子どものように笑い合いながら、須藤のアパートまでの道のりを楽しみました。

たどり着いたアパートで食事の支度をしながら、来年は温泉旅行とした上で、今年分の須藤の誕生日祝いについて「レストランでの食事以外にも、またアクセサリーを贈りたい」と話す青砥に「たった1個でいいんだ」と返す須藤。

それに対して。青砥は「じゃあ、指輪は?」と尋ねました。

「一緒にならないか?」「俺は、お前と一緒に生きていきたいんだ」……青砥のプロポーズの言葉に、須藤は「それ、言っちゃあかんやつ」と答えました。

誰よりも軽蔑し嫌っていたのは、両親ではなく、自分自身だった。そんな自分のせいで、青砥や妹・道子に、これ以上迷惑をかけたくない……そう語った須藤は、突然「青砥とは、もう一生会わない」と告げました。

自らを軽蔑したくなる過去は誰にでもあると、過去の過ち……元妻との交際中に二股をしていたことを明かした上で、青砥は「お前がお前を嫌っても、俺はお前が大事なんだ」と伝えます。

それでも頑なに「会わない」と譲らない須藤に、青砥は「須藤が『約束を守る人間』ならば、すでに交わした来年の温泉旅行の約束も守れ」と、1年間は須藤の言葉通りに会わない代わりに、来年の須藤の誕生日・12月20日に再会するように告げました。

……1年後。約束の12月20日まであと1週間を切りましたが、送り続けているLINEのメッセージにも既読は付かず、旅行先の予約通知だけが届くばかりでした。

そんな時、青砥は久しぶりに再会したうみから「須藤は先月、亡くなった」と聞かされます。

自転車で一目散に須藤のアパートに向かうと、そこには姉の遺品整理をする道子の姿がありました。そして道子から、須藤の《その後》について聞かされました。

6ヶ月検診の際にがん再発が発覚した須藤は、青砥に迷惑をかけたくないという思いから、例の別れの言葉を告げました。また再手術の甲斐も虚しく、急速に容態が悪化する中で「青砥を呼ぶか?」と道子に提案されるも、須藤は「会わせる顔がない」と断りました。

そして、「青砥、検査行ったかな」を最期の言葉に、須藤は息を引き取りました。

……両親の姿を見られた須藤が逃げ出し、それを青砥が追いかけた日の夜。警察官の補導を逃れ、二人で逃避行を続けるうちに、当時の須藤と青砥は河川敷に辿り着きました。

月の光の下で、打ち捨てられていた自転車をいじりながら「須藤はどんな大人になりたい?」と尋ねる青砥。須藤から逆に尋ねられ「普通の大人にはなりたくない」と冗談まじりに答える青砥に、須藤は「私、いつも青砥を見てたよ」「でもね、一人で生きてくって決めてるの」と告白しました。そして二人並んで、空に浮かぶ月を見つめました。

……そんな記憶を思い出しながら、職場の後輩の昇進祝いのため、久しぶりに須藤とよく通っていた居酒屋に訪れた青砥。須藤と並んで座っていた《いつもの席》で、かつて店内で二人で聴いた薬師丸ひろこ『メイン・テーマ』が再び流れるうちに、青砥は咽び泣いていました。

……あの時、二人並んで月を見た夜は、すでに明けつつありました。中学校時代の在りし日の青砥と須藤は、河川敷で見つけた自転車で二人乗りをします。

数十年後に再会するなど夢にも思っていない記憶の中の二人は、いつまでも、しかしいつか終わりの来る、夢のような時間を過ごすのでした。

映画『平場の月』の感想と評価


(C)2025映画「平場の月」製作委員会

《平場》の人生でも、忘れられない記憶

百貨店業界における、ブランドに関係なく商品を陳列する売り場コーナー。お笑い芸人業界における、ネタ以外のフリートークやアドリブを求められる場面。競馬業界における、特別競走以外の一般レース……本作のタイトルに冠された「平場」は、様々な業界の用語として用いられています。

フリートークやアドリブを求められる場面。それは、日々を生きる人々全員が毎日遭遇する場面であり、ある意味では毎日が《平場》なのかもしれません。

そして『平場の月』で象徴的に描かれている月も、そんな《平場》の日々で夜空を見上げるたびに目にする、次の日には忘れ去られてしまうような他愛もない記憶の一部といえます。

けれども、それでも人生には、決して忘れることのできない《平場の月》が在る。他人にとっては普段と変わりのない月でも、自分にとっては、隣に並び立つ大切な人に「月が綺麗ですね」と思わず言いそうになるけれど、その言葉は胸に仕舞っておかなくてはならない月が……。

それこそが、中学校時代の青砥と須藤が河川敷で共に見た月であり、数十年後に青砥と再会した須藤が《夢みたいなこと》を想いながらアパートの窓辺から見上げていた月でもあるのです。

月を見ながら思い出す《夢みたいな記憶》


(C)2025映画「平場の月」製作委員会

前述の通り、アパートの窓辺から月を見上げる姿を目にした青砥に「お前、あのとき何考えてたの?」と尋ねられた須藤は「夢みたいなことだよ」と答えました。

須藤が考えていた《夢みたいなこと》とは何だったのか……その問いに、映画をご覧になられた方の多くは「再会できた初恋の相手・青砥と共に生きる未来」と答えるはずです。

しかしながら、須藤との約束を健気にも守り続けてしまったがゆえに、最期のその時まで彼女のそばにいることができなかった……彼女と共に生きることができなかった青砥は、その問いに答えられるのでしょうか。

須藤が願った《夢みたいなこと》は叶わず、《夢》のままで終わってしまった。たとえ病というどうしようもない理由だったとしても「せめて最期の時まで、共に生き続ける」という形で、彼女の夢は叶えられたのではないか。その後悔の記憶は、「共に生き続ける未来」が青砥自身も願った夢であったからこそ、彼のこれからも続く《平場》の人生に一生涯残り続けるでしょう。

しかしながら、同じく離婚を経て独居中の青砥の同僚・八十島が、須藤との恋愛を躊躇する青砥に語った「俺だったら何度だって傷つきたい」という言葉通り、何があったとしても青砥と須藤は「お互いに恋し、愛し、傷つく」という選択を捨てられかったはずであり、それはあの日に河川敷で見た《平場の月》の記憶が、青砥と須藤それぞれの心に残っていたからに他ありません。

須藤がアパートの窓辺で月を見上げていた時、青砥との未来だけでなく『あの日の夜に青砥と見た月』という《夢みたいな記憶》も思い出していたのではないか?」……そんな想像が生まれてしまった時点で、どうしても思わざるを得ないのです。

まとめ/「さよなら」だけで、人生を片づけたくない


(C)2025映画「平場の月」製作委員会

さよならだけが人生ならば

めぐり会う日はなんだろう

やさしいやさしい夕焼けと

ふたりの愛はなんだろう


(寺山修司「幸福が遠すぎたら」より抜粋)

井伏鱒二が于武陵の漢詩「勧酒」の一節を訳した「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」に、「さよならだけが 人生ならば/人生なんか いりません」と返歌をした寺山修司の詩「幸福が遠すぎたら」の一節を、映画『平場の月』を観終えた後に思い出した方もいるのではないでしょうか。

自己嫌悪を続け、大切な人々にほど迷惑をかけたくないと考え続けていた須藤が、死期を肌に感じたがゆえにたどり着いたのも「さよならだけが人生だ」の境地なのかもしれません。

しかし一方で須藤は、最期まで青砥のことを想い続けていたように、「たとえ『さよなら』という別れの悲しみに満ちたものであったとしても、人生は『さよなら』だけではない」とも感じていたはずです。

そうでなければ、かつて想い合っていた青砥と須藤が再びめぐり会った日も、「やさしいやさしい夕焼け」と例えたくなるような二人だけには特別な記憶も、互いを想い合うがゆえに悲しい別れを迎えてしまった二人の愛も、「さよならだけが人生だ」の一言で片づけられてしまう。

それは、あまりにも、寂しい。

「さよなら」だけの人生なら、そんなものはいらない。人生には「さよなら」以外もあるからこそ、人は何度傷ついたとしても、人に恋する、人を愛する……それこそが、《人生の結末》にさしかかった人々の恋と愛を描き出した映画『平場の月』の最大のテーマなのでしょう。




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