真利子哲也監督×西島秀俊×グイ・ルンメイによる夫婦の秘密を描いたサスペンス
ニューヨークで暮らす日本人の賢治(西島秀俊)と中華系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)は、仕事や育児に追われ余裕のない日々を送っていました。
ある日、幼い息子・カイが何者かに誘拐されてしまいます。想像もつかない大きな出来事に見舞われた夫婦は、今まで目を背けていた、封印していた思いを相手にぶつけてしまいます。
一家は、思い描いていた家族、そして事件が起きる前の家族に戻ることができるのでしょうか。
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)『宮本から君へ』(2019)の真利子哲也が、オリジナル脚本・全編ニューヨーク撮影で挑んだヒューマンサスペンス。
夫婦役を演じたのは『ドライブ・マイ・カー』(2021)の西島秀俊と、『薄氷の殺人』(2015)のグイ・ルンメイです。
CONTENTS
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』の作品情報

(C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
【日本公開】
2025年(日本、台湾、アメリカ合作映画)
【英題】
Dear Stranger
【監督・脚本】
真利子哲也
【キャスト】
西島秀俊、グイ・ルンメイ
【作品概要】
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)『宮本から君へ』(2019)の真利子哲也が監督を務めた、日本・台湾・アメリカ合作のヒューマンサスペンス。全編ニューヨークでロケ撮影が行われました。
夫婦役を演じたのは『ドライブ・マイ・カー』(2021)の西島秀俊と、『薄氷の殺人』(2015)のグイ・ルンメイ。
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』のあらすじとネタバレ

(C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
ニューヨークで「廃墟」の研究をしている助教授の賢治。
その妻で中国系アメリカ人のジェーンは、人形師の仕事へ復帰したいものの、息子であるカイの育児との両立に頭を悩ませています。またジェーンの父親は介護が必要であり、両親が経営する店の店番も手伝っていました。
ある日、ジェーンがカイと共に店番をしていると、強盗がやってきます。ジェーンは慌ててカイに駆け寄り、身を挺してカイを守ります。店に強盗が入るのは2度目であり、ジェーンは父親が闇市場で手に入れたという銃を賢治の車に預けます。
ヘルパーが見つからないという両親を助けるため、ジェーンは実家に身を寄せます。
カイの面倒を見ながらも仕事をしているジェーンに、母は「私がアメリカにやってきた時は全てを犠牲にして子どもの面倒をみた」「カイは母親ともっとコミュニケーションをとりたいと思っている」と言います。
「仕事も子育てもちゃんとやっている」とジェーンは言い、自分にとって仕事も大切なものだと訴えます。
「賢治にもっと頼んだほうがいい」という母にジェーンは頼めないと答え、母と衝突したジェーンは怒ってカイと共に家に帰ります。
ジェーンは賢治に連絡をし、彼は帰ってきたものの突然呼び出されたため、不機嫌そうな態度をしています。そんな賢治とジェーンは、仕事や子育てを巡って言い争いになってしまいます。
深夜になって、ジェーンは仕事をしに出かけていきます。そのまま翌日も人形劇の公演に向け、人形の調整やパフォーマンスの確認をします。
そこに賢治から、動揺した様子の電話がかかってきます。「職場の大学に連れて行ったら、カイがいなくなった」と言うのです。
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』の感想と評価

(C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
真利子哲也監督がオリジナル脚本で、ニューヨークを舞台に夫婦の胸に秘めた感情が溢れ出し、すれ違う姿を描いたヒューマンサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』。
前半、賢治とジェーンは、子育てと仕事の両立に追われ余裕がなくなっているが故にすれ違い、ぶつかり合ってしまう様子が描かれます。
それだけでなく、ジェーンの父は介護を必要とし、ジェーンは両親が営む雑貨店の手伝いもしなくてはなりません。息子・カイの面倒を両親に頼むこともできません。
ジェーンの母は、母親は自分の時間を犠牲にしてでも子供のために身を捧げるべき、自分はそうしてきたという考えでいます。しかし、ジェーンは人形師の仕事に復帰したいという強い思いを持っています。
仕事も子育ても頑張っているというジェーンでしたが、母にはカイとの時間を作れていないと言われてしまいます。母と口論した夜、賢治ともぶつかってしまうジェーン。
そんな時に、カイが誘拐されるという事件が起きてしまいます。事件を機に夫婦の関係は大きく変わってしまいます。
中心にあるのは、誘拐事件にもつながる「ある男」の存在です。カイの実の父親は賢治ではなく、誘拐をした男でした。ジェーンとその男はかつて交際しており、その男は妊娠を知って逃げたといいます。
しかし、「自分の子だ」と言った賢治を信じ、ジェーンは賢治と一緒になることを選んだのでしょう。ジェーンは「自分が死ねばよかった」という賢治に「逃げられない、どこに行っても地獄だ」と突きつけます。
その言葉には、2人で抱えて生きていこうという覚悟の表れでもあります。誘拐事件が起きるまでは感情を殺して賢治にぶつけないよう努めてきたことを明かしています。
そんなジェーンが誘拐事件を機に自分が感じていたであろう後ろめたさや、いつかカイにも話さなくてはならないということを重荷に感じている部分はあったのでしょう。
そんなジェーンでしたが、事件を機に互いの感情をぶつけ合った先に、それでも複雑な感情、秘密や暗い事件、全てを抱えて生きていこうと覚悟を決めたのです。
一方で、賢治は向き合いきれずにいました。賢治の心が揺らいだのは、男の存在がきっかけであり、自分の感情を抑えられず衝動的な行動をします。その重さに向き合いきれないのです。
それは、男も同じだったのではないでしょうか。衝動で誘拐してしまった、その原因となったのは賢治の存在でした。
妊娠を知って逃げたはずなのに、賢治と家族を築いているジェーンとカイを見て、そこにいるのは自分だったはずなのにという思いに駆られてしまいます。
賢治にも、男にも見えていないのは、ジェーンやカイの気持ちに他なりません。暴力は解決策ではなく、自分の優位性を示したいがためのエゴスティックな衝動です。
そんな衝動を抑えられない賢治と、感情をぶつけ合って互いに進んでいこうとするジェーン。2人がともに生きていく未来を観客は見出せるでしょうか。
夫婦といっても他人です。完全に理解し合えるわけではありません。それでも何度でも人はやり直せるはずです、きちんと向き合うことができれば……。
まとめ

(C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
真利子哲也監督×西島秀俊×グイ・ルンメイによる夫婦の秘密を描いたサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』。
全編をニューヨークで撮影し、劇中のセリフは9割が英語という本作は、邦画とも洋画とも違う独特の味わいがあると言えます。
また、廃墟を研究しているという賢治は、廃墟に興味を持ったきっかけが、震災を体験したことだと劇中で述べています。また、日本の廃墟の概念と西洋の概念の違いなど賢治の研究テーマと、賢治自身のキャラクターがマッチしていることがわかります。
壊れたものに美を見出し、どこか破滅願望すら感じさせる賢治は、動的というよりかは静的な人物と言えます。
一方で、ジェーンは人形という無機質なものに、声や動きで命を吹き込む、賢治と比べて動的な人物であることがわかります。そのような2人のキャラクターの違いも2人の関係性において興味深いものになっています。
2人の抱える秘密は普遍的なものではないですが、仕事と育児の両立や、それによってすれ違う夫婦像というのは、現代社会において普遍的な問題と言えるのではないでしょうか。
夫婦の問題を紐解いていくとパーソナルな部分に突き当たる、そんなとき自分ならどうするか、どこまで他者に曝け出すことができるでしょうか。



































