連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第91回
今回紹介するのは、ポレポレ東中野にて2025年10月11日(金)~24日(金)公開の『A KING with a cold smile 王様は笑わない』。
1000年の歴史があるとされるミャンマーの格闘技「ラウェイ」に挑戦した日本人選手たちに迫ると同時に、知られざる舞台裏と競技の神秘に迫ります。
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CONTENTS
映画『A KING with a cold smile 王様は笑わない』の作品情報

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【日本公開】
2025年(日本映画)
【プロデューサー・監督・音楽】
川端潤
【取材・撮影】
Marin Harue
【キャスト】
髙森拓也、西良典、Win Zin Oo、Lone Chaw Gyi、田村彰敏、山本武晴、寒川直喜、Tun Tun Min、西麟太郎
【作品概要】
1000年以上の歴史を持つミャンマーの格闘技「ラウェイ」を追ったドキュメンタリー。
ミャンマーの民族音楽を題材にしたドキュメンタリー『Beauty of Tradition ミャンマー民族音楽への旅』(2015)を手がけた川端潤が、日本やミャンマーの選手、関係者らにインタビューを敢行し、ラウェイの謎と神秘に迫ります。
映画『A KING with a cold smile 王様は笑わない』のあらすじ

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素手にバンテージを巻いただけで闘い、ルールはほとんどなくケンカをしているように見えながらも、礼節を秘めた格闘技・ラウェイ。
軍事政権下の2004年、世界ではあまり知られていないラウェイを日本に初めて紹介するため、日本人4人とミャンマー人との試合が開催されました。
本作は当時の試合映像を軸に、プロモーターの西良典、コーディネーターの髙森拓也、また田村彰敏、山本武晴、寒川直喜といった日本人選手らの証言を盛り込みつつ、激闘の経緯を克明に描きます。
世界一過激で危険な格闘技・ラウェイとは?

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1993年11月にアメリカで開催された格闘技大会「Ultimate Fighting Championship (UFC)」。目潰しと噛みつき以外の攻撃が許されるという、ポルトガル語で「何でもあり」の意を持つ「バーリトゥード」ルールを採用したこのトーナメント戦は、瞬く間に話題を呼びました。
しかしながら、その1920年代に生まれたとされるバーリトゥードよりも古い、1000年以上の歴史を持つ格闘技があったのをご存知でしょうか。
それはミャンマーの国技「ラウェイ(Lethwei)」。「太陽」を意味する「ラ」と「道」を意味する「ウェイ」が語源とされ、宗教行事として新年に行われたりもするそう。
3分5ラウンド制でインターバル2分。ファイトスタイルはムエタイがベースですが、異なるのは手にはグローブを着けずバンテージ(包帯)を巻くのみ。ほぼ素手状態で繰り出すパンチは相手にダメージを与える一方で自らの拳を痛める可能性もあり、加えて膝や肘、頭突きもOKなので、ケガは避けられない状況にあります。
さらに驚くべきは、たとえダウンしてもすぐにはKOとならず、ダウンしてから2分の間で目が覚めれば試合が続行されること。
まさに世界一過激で危険な格闘技。UFCや日本のDEEP、RIZINといった主要の総合格闘技団体が、回を重ねるごとに選手寿命を鑑み、安全性を高めたルールを取り入れてきたのとは対極に位置します。
勝者を決めるが敗者も生まない
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本作は、2004年のミャンマーでラウェイに臨んだ日本人選手や関係者たちにフォーカスします。
和術慧舟會の山本武晴が「失明するのではという怖さ、命を落とすかもしれないという怖さがあった」と未知の格闘技に潜む恐怖を述懐すれば、元修斗世界フェザー級王者の田村彰敏は、現地の通訳に「『目潰し、金的攻撃は一回ぐらいならしょうがない』と言われた」と、ルールのアバウトぶりを明かします。
闘っていたのは選手だけにあらず。プロデューサーの髙森拓也は、軍政下にあった当時のミャンマーで軍からの検閲をいかに回避するか、そして日本人が勝ったら暴動が起こりかねないという懸念を想定した上で、現地プロモーターとの試合交渉に及んだ経緯を振り返ります。
試合前には土着信仰の神を祀り、ヤイと呼ばれる踊りを舞い、楽団が闘いを鼓舞する。そうした厳かなセレモニーを経て始まる闘いは反則行為も黙認され、血も飛び出せば骨折もする。無傷でリングを降りれる者はほぼいないでしょう。
勝てばミャンマーでの平均月収の数十~数百倍にあたるとされるファイトマネーが手に入るとして、選手は報酬のため、生活のためにリングに上がります。その一方で、ラウェイには判定決着はありません。
フルラウンド闘った2選手はドローとなり、「KOもギブアップもしなかった者」として讃えられます。前述のルール「たとえダウンしてもすぐにはKOとならず、ダウンしてから2分の間に目が覚めれば試合が続行される」も、見方を変えれば「安易に敗者を生まない」とも解釈できます。
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1948年にイギリスから独立するも、軍事政権に反発する民主派との内戦が絶えないミャンマー。2021年2月の国軍クーデターで市民を武力弾圧して以降、それに乗じて中国系麻薬組織が暗躍するなど、常に不安定な状況にあります。
礼節は重んじるもリング上はほぼ無法地帯、勝者は決めるが敗者を生まないという多面性を持つラウェイは、ある意味では混迷化するミャンマーという国の合わせ鏡と言えるかもしれません。
ただし、人命を奪う銃器や爆撃で流れる血と、闘志をあらわに己の肉体をぶつけて流れる血。色は同じ赤でも、流れる意味は大きく異なります。
世界各国で繰り広げられる紛争は、すべてラウェイで決着すべき――これは決して暴論ではありません。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)

































