血筋か才能か。映画『国宝』で歌舞伎世界の掟を揺るがす人間ドラマが展開する
李相日監督が映像化した吉田修一の『国宝』は、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げた男の激動の人生ドラマを描いています。
生まれは任侠ながらも、類まれな‟芸の才能”を持っていた主人公・立花喜久雄は、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ。
半次郎の息子で同い年の俊介とともに、芸の道を突き進む2人ですが、芸の道を究めようとする喜久雄は徹底して我が道を歩み始めます。
喜久雄は歌舞伎によって何を犠牲にし、何を得たのか。彼の生き様に注目して、ラストシーンを解説します。
映画『国宝』の作品情報

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
【日本公開】
2025年公開(日本映画)
【原作】
吉田修一:『国宝』(朝日新聞出版 2018年出版)
【監督】
李相日
【脚本】
奥寺佐渡子
【編集】
今井剛
【撮影】
ソフィアン・エル・ファニ
【美術】
種田陽平
【音楽】
原摩利彦
【主題歌】
原摩利彦 井口理
【歌舞伎指導】
中村鴈治郎
【キャスト】
吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、中村鴈治郎、田中泯、渡辺謙、芹澤興人、瀧内公美
【作品概要】
吉田修一の小説『国宝』を、『流浪の月』(2022)の李相日監督が映像化しました。任侠の家に生まれながら、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げた男の激動の人生を描いた人間ドラマです。
主人公・喜久雄を吉沢亮、喜久雄の生涯のライバルとなる俊介を横浜流星が演じます。喜久雄を引き取る歌舞伎役者・半二郎は渡辺謙、半二郎の妻・幸子を寺島しのぶ、喜久雄の恋人・春江を高畑充希、当代一の女形で人間国宝の小野川万菊を田中泯が担当。
歌舞伎演目は『積恋雪関扉』『藤娘』『二人道成寺』『曽根崎心中』『鷺娘』。歌舞伎役者としても出演している四代目中村鴈治郎が、歌舞伎指導を行いました。2025年・第78回カンヌ国際映画祭の監督週間部門出品。
映画『国宝』のあらすじ

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
任侠の一門に生まれた喜久雄は15歳の時に敵対する組との抗争で父を亡くし、天涯孤独の身の上となりました。
喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎は彼を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の修業をすることになります。
半二郎には喜久雄と同い年の息子・俊介がいました。最初は、ぎこちない態度の2人でしたが、すぐにお互いに打ち解けます。
喜久雄はそのまま俊介と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高めあって、芸に青春を捧げていきます。
2人が一緒に踊る女形の演目は大評判となり、2人ともその名を馳せるようになりました。
そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名します。これは血筋を第一とする歌舞伎の世界では考えられないことでした。
大きな責任におののきながらも舞台を無事にやり遂げた喜久雄。喜久雄を称えながらも陰で涙を流し、その後家を出た俊介。
2人の運命は大きくうねり出します。
映画『国宝』の見どころ

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
約3時間という長編作の『国宝』は、一人の歌舞伎役者の人間ドラマでありながら、歌舞伎の舞台鑑賞もできるような素晴らしい出来栄えの作品です。
W主演となる美形のトップ俳優の吉沢亮と横浜流星という2人が、女形で歌舞伎の人気演目を披露します。彼らが1年以上練習したというその踊りは、艶やかで美しく観る者を魅了しました。
そして注目のラストシーン。山あり谷ありの人生を送った喜久雄は人間国宝となり、祝いの舞台で『鷺娘』を演じます。
歌舞伎の名門の血筋ではなく、類まれなる才能で歌舞伎の世界を究めた喜久雄。彼はここにくるまで、複数の女性や我が子の心を傷付けています。
また、恩人の半二郎の死やライバルであり幼馴染の俊介との確執など、それまで喜久雄を支えてきた大切なものを犠牲にしていました。
これまでに喜久雄が得たものと犠牲にしたものを比べると、犠牲にしたものの方が多いでしょう。それでも彼は歌舞伎を究めようとします。
鷺娘の真っ白な衣装を身に纏い、粉雪舞い散る中、自分が求める究極の場所を見つけようと、誠心誠意込めて踊っていました。
歌舞伎の世界において本当に必要なのは、世襲制という血筋なのでしょうか。それとも秀でた才能なのでしょうか。
喜久雄はその答えがわからなくても、踊りの美を追求する気持ちのまま突き進んできました。
映画『国宝』が、観客に感動を与えるのは、喜久雄の美しさを求める狂気が魅了するからに違いありません。

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
まとめ

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
華麗な歌舞伎の世界で活躍する立花喜久雄。波乱万丈な彼の人生を約3時間のドラマに詰め込んだ映画『国宝』の注目点のひとつをご紹介しました。
ラストシーンには、これまでの喜久雄が歌舞伎役者として歩んできた人生の思いが込められています。
目標を追求しようとする姿は美しい……。喜久雄も歌舞伎を追求しようと我武者羅に進んできました。その集大成がラストの『鷺娘』だったのです。
原作小説で描かれる喜久雄の人生は、もっと浮き沈みの激しいものでした。映画では、華やかな歌舞伎世界に重点をおいたので、その辺りはカットされています。
ですが、キャストの美しさと歌舞伎習得の努力の成果がみえ、とても見応えのある作品でした。


































