孤独な男の魂の旅を切なく美しく描く傑作
映画『パリ、テキサス』は、名匠ヴィム・ヴェンダース監督による切なく美しい傑作ロードムービー。1984年・第37回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールに輝きました。
テキサスの荒野を放浪する男の妻子との再会と別れを、ライ・クーダーの哀愁漂う音楽に乗せて描きます。
出演はハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー。
人のまったくいない砂漠をただ一人歩き続ける男。彼が追い求めたものとは何だったのでしょうか。パルム・ドールに輝いた傑作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『パリ、テキサス』の作品情報

(C)1984 Road Movies Filmproduktion – Argos Films Courtesy of Wim Wenders Stiftung – Argos Films
【公開】
1985年(西ドイツ・フランス合作映画)
【監督】
ヴィム・ヴェンダース
【脚本】
サム・シェパード、L・M・キット・カーソン
【編集】
ペーター・プルツィゴッダ
【キャスト】
ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー、ディーン・ストックウェル、オーロール・クレマン、ハンター・カーソン、ベルンハルト・ビッキ、トム・ファレル、ジョン・ルーリー
【作品概要】
『ベルリン・天使の詩』(1987)、『PERFECT DAYS』(2023)の巨匠ヴィム・ヴェンダース監督作品。
1984年の第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した傑作ロードムービーです。テキサスを放浪していた男が、妻子と再会し別れを迎えるまでを切なく描きます。
脚本は俳優サム・シェパードとL・M・キット・カーソン。主人公トラヴィスを『エイリアン』(1979)のハリー・ディーン・スタントン、妻を『テス』(1979)のナスターシャ・キンスキーが演じます。
映画『パリ、テキサス』のあらすじとネタバレ

(C)1984 Road Movies Filmproduktion – Argos Films Courtesy of Wim Wenders Stiftung – Argos Films
ひとりの男が荒野をひとりさまよっていました。彼はガソリンスタンドで氷をむさぼり食い、そのまま気絶して倒れます。
医者は記憶を失っている男の持ち物にあった名刺宛てに電話をしました。連絡を受けたウォルトは、男が4年前に失踪した兄トラヴィスだと確認します。
車で迎えに行ったウォルトとトラヴィスは再会しました。安モーテルに入りましたが、ウォルトが買物で留守の間にトラヴィスは姿をくらまします。ウォルターはすぐに車で追いついて兄をなだめ、車に乗せました。
ウォルターは、トラヴィスが置いていった息子のハンターを引き取って育てていることを話します。トラヴィスは黙りこくったままでした。
口をきかないトラヴィスに怒りをぶつけるウォルター。すると、突然トラヴィスはパリへ今から行こうと言います。それはフランスのパリではなく、トラヴィスがテキサス州の町パリに所有する土地のことでした。
トラヴィスが飛行機に乗るのを拒否したため、数日かけてロスの自宅まで車で帰ることとなりました。
帰宅後、ハンターと再会したトラヴィスは、徐々に記憶を取り戻します。ウォルターの妻のアンは、姿を消したトラヴィスの妻・ジェーンから毎月5日にハンターの口座に送金があることを教えました。
送金元がヒューストンの銀行であることを手がかりに、トラヴィスは中古車で幼い息子とともに妻を探す旅に出ます。
映画『パリ、テキサス』の感想と評価

(C)1984 Road Movies Filmproduktion – Argos Films Courtesy of Wim Wenders Stiftung – Argos Films
胸の奥深くに余韻を残す珠玉の一作
巨匠ヴィム・ヴェンダース監督による、公開から長い時を経ても尚、愛され続ける傑作です。一人の男が壮絶な孤独の中から立ち上がり、数年前に別れたきりだった息子と妻と新たな絆を築くまでを描きます。
冒頭に映し出される、荒野を彷徨う男の表情に圧倒されることでしょう。まるで野生動物のように空っぽな無の表情。彼が何もかもを失った男であることが、瞬時に伝わってきます。
彼が歩いていたのはテキサスの砂漠でした。人気作家・高村薫は、『パリ、テキサス』が心象風景として重要な役割を果たす小説を書いています。この寂寞とした風景と主人公の心理の見事なリンクが、作家の胸の内を強く揺さぶったことは想像に難くありません。
保護されたトラヴィスを迎えに来たのは、心やさしい弟ウォルターでした。トラヴィスのこれまでの苦しみを知るウォルターは、辛抱強く兄を説き伏せて自宅に連れ帰り、息子ハンターと再会させます。
ウォルターとその妻・アンの温かさに心打たれずにはいられません。トラヴィスと妻のジェーンが去った後、ハンターを親代わりに育てたのも、ウォルター夫妻でした。
弟夫妻と愛する息子に助けられ、トラヴィスは次第に人間らしさを取り戻していきます。ハンターのかわいさに魅了されずにいられません。
やんちゃ坊主が見せる、叔母アンの気持ちを思いやるやさしさにぐっと胸をつかまれることでしょう。トラヴィスとすぐに打ち解ける姿からは、親子の絆を感じさせます。
トラヴィスは妻と息子への深い愛情を自覚しながらも、どんなに望んだとしても自分が彼らと暮らすことは無理であることを理解します。それはどこまでも深い悲しみです。しかし、ジェーンとハンターを自分が結びつけたのだという事実が、彼の心に希望を生涯灯し続けることでしょう。
ナスターシャ・キンスキーの圧倒的存在感

(C)1984 Road Movies Filmproduktion – Argos Films Courtesy of Wim Wenders Stiftung – Argos Films
本作を愛する人々のほとんどは、『パリ、テキサス』はナスターシャ・キンスキーの映画だと答えることでしょう。ミラーの向こうに現れたジェーンの美しさは圧倒的で、どのシーンよりも印象的です。
砂漠の天使かのような彼女の美は、非現実的に感じるほどで、再会したトラヴィスの受けた衝撃が理解できます。
10代でトラヴィスと出会って恋に落ち、ハンターを産んだジェーン。若い妻を愛するあまり、嫉妬に苦しめられたトラヴィス。若すぎたジェーンはそれらのすべてを受け止めきれず、息子を置いて姿を消します。燃えるような恋だったからこその悲劇でした。
長い年月を経て、鏡越しに再会した二人は、これまでの心の内を吐露し合います。大切なことを話すときには、揃って後ろ向きに座ってしまうトラヴィスとジェーン。恐れと戦いながら、自分をさらけ出そうと努力する姿が切なく映し出されます。
ジェーンはハンターを守る力を持つ大人に成長していました。再会した息子を強く抱きしめた彼女からは、もう決して息子を話さないという強い決意が感じられます。
しかし、年かさのトラヴィスは彼女のように変化できるはずもなく、回復力もありませんでした。自分の心の傷はそう簡単に癒えないことを自覚した彼は、愛する二人を結びつけてから去って行きます。本当に愛しているからこそ、一緒には生きられない。そんな関係もあることを教えられます。
まとめ

(C)1984 Road Movies Filmproduktion – Argos Films Courtesy of Wim Wenders Stiftung – Argos Films
小津安二郎監督を敬愛することで知られる巨匠ヴィム・ヴェンダース監督の傑作『パリ、テキサス』。主人公トラヴィスの喪失感に満ちた冒頭の表情から、息子ハンターと楽しく会話する生き生きとした姿、そして愛する妻ジェーンを慈しむ瞳が繰り返し思い出され、胸を切なく締め付けられることでしょう。
人が生きていくことの過酷さや苦しみと共に、人生がいかに美しい素晴らしいものに囲まれているかに気づかされます。愛する人と一緒に暮らすことがかなわなくても、共に生きていくことは可能なのかもしれないと思え、勇気をもらえる一作です。



































