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『平場の月』映画化原作ネタバレあらすじ感想と評価解説。50歳過ぎた男女の関係とその生き方

  • Writer :
  • 星野しげみ

朝倉かすみの小説『平場の月』が映画化決定!

男女の心の機微を繊細に描いて各紙書評にて絶賛され、第32回山本周五郎賞受賞と第161回直木賞にノミネートされた、朝倉かすみの小説『平場の月』。

35年振りに再会した中学時代の同級生同士がこれまでの月日を埋めて心を通わせていく物語が、このたび映画化されることになりました。


(C)2025 映画『平場の月』製作委員会

映画の監督を務めるのは、『花束みたいな恋をした』(2021)の土井裕泰。脚本は『ある男』(2022)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した向井康介です。

キャストには、主人公・青砥健将に堺雅人、青砥が中学生時代に想いを寄せ、35年振りに再会する須藤葉子には井川遥。ベテランの2人が、50代の男女の細やかな心の動きを描き出した切ないラブストーリーを演じます。

映画『平場の月』は、2025年秋に全国東宝系ロードショー。映画公開に先駆けて、小説『平場の月』をネタバレありでご紹介します。

小説『平場の月』の主な登場人物

【青砥健将】
離婚して地元に戻り印刷会社に再就職した男性

【須藤葉子】
青砥の中学校の同級生。病院の売店勤務

小説『平場の月』のあらすじとネタバレ

50歳になる青砥健将は、都内の製本会社で勤務していました。

妻と二人の子どもの四人暮らしでしたが、6年前に父を亡くしたことを機に、一人残された母の近くで暮らそうと、地元の埼玉に中古マンションを購入。仕事も地元の印刷会社に転職します。

ですが、その後、妻への不満が爆発して離婚。2人の子供はそれぞれ独立していたので、マンションも売却します。

青砥はそのまま、3年前に脳卒中で倒れ施設で暮らす母親の面倒を見ながら、実家で一人暮らしをしていました。

ある日、青砥は体の不調を感じて病院へ検査を受けに行きました。そして、訪れた病院の売店で働く、中学時代の同級生・須藤葉子と再会します。

中学生のときから、どこかどっしりと構えていた須藤に、青砥はかつて告白してフラれた過去がありました。

少々照れくさい過去があるのですが、久しぶりに会った2人は、その夜呑みに行き、お互いの近況を話します。それから2人は呑み友だちに……。

青砥は、須藤が地元にかえって一人暮らしをする前に、親友の夫と結婚、離婚を経験し、若い男に貢いこともあるなどと、波乱万丈の人生を歩んできたことを聞かされました。

お互いに50歳過ぎていますが、2人は元中学の同級生というだけあって、「青砥」「須藤」と名字で呼び合い、おどけた感じのままの会話は弾みます。

2人が?むのは、お金に余裕がないこともあり、どちらかの狭いアパートの家呑み。つまみはスーパーのお惣菜。それでもその方がいいと須藤は言い、青砥も家?みを楽しみにしていました。

周囲になんとなく気づかれながらも、徐々に距離を縮めていく2人。そんな頃、須藤も体の不調を感じ、病院で精密検査を受けました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『平場の月』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『平場の月』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

精密検査の結果は、青砥は何ともありませんでしたが、須藤は大腸がんが見つかります。

須藤ががんの手術のために入院するという前日、2人は結ばれました。

須藤の手術は無事に終わりました。9月に退院し、自分のアパートで治療を続ける須藤の生活を心配する須藤の妹が、須藤に妹宅に来るように言います。

1人で生活するつもりだった須藤の健康を案じ、青砥も「俺のところに来るか?」と言いました。

須藤は迷いなく、「青砥のところへ行く」と言い、須藤の元へやって来ました。

須藤の抗がん剤治療は、2週間自宅で飲み薬を服用し、1週間休薬して1クール。それを8クール続けます。薬の副作用もあるようですが、須藤は耐えていました。

2月に抗がん剤の点滴を受けて少し良くなってきた須藤は、4月に自分のアパートに戻りました。

須藤が青砥のアパートにいた3カ月あまりがあまりに濃密でした。以来、青砥は週に3日は、須藤のアパートを訪れました。

抗がん剤治療終了後、3カ月おきの定期健診を受けている須藤。6月のその日も須藤は検診でした。

青砥は、その日に機は熟したとばかりに、「 一緒にならないか」とプロポーズします。

しかし検診の結果が思わしくなく、自分の命が長くないと知っていた須藤は、「 それ言っちゃ、あかんやつ」と答え、プロポーズを断り、「もう会わない」と言いました。

何も知らない青砥は、食い下がり「1年はお前の言う通り会わないが、1年後に前から約束した温泉旅行に行こう」と提案します。

自分が亡くなることを知っていて青砥に頼るのは卑怯だと考えた須藤は、以来青砥との連絡を絶ちました。

何も知らない青砥は、1年後の復縁を期待して、カレンダーを何度も見たり、LINEにメッセージを入れたりして、時がたつのを待ちました。

でも、須藤からの連絡はないまま一年が経過します。6月のある日、彼女が5月3日にすでに死んでいたということを、元同級生から聞かされました。

小説『平場の月』の感想と評価

タイトルの‟平場”とは、普通の立場にいる人やその場所のことを指します。

タイトルのように、普通のオジサン、オバサンのキラキラしないけれどもリアル感のある胸に刺さる恋愛物語でした。

地元を離れて仕事をし、家庭の事情で地元へ帰って来た青砥は、ある日偶然に、中学時代の同級生の須藤と再会します。

過去に須藤に告ってフラれた経験のある青砥ですが、お互いにもう50歳過ぎ。分別のある大人となった2人は、呑み友だちとして付き合うようになりました。

あの頃のように、「青砥」「須藤」と名字を呼び捨てにしたふざけた感じの会話で、2人の距離は急速に縮まります。

ですが、友だちから恋人と呼べるにようになっても、どこかお互いに遠慮がある2人。青砥は須藤にプロポーズがなかなか言えず、須藤は発覚した病気で自分の余命のことが言えません。

結局須藤は自分がいなくなった後の青砥のことを想って、何も打ち明けずに音信を絶ち、そのまま亡くなりました。

青砥は、須藤との最後の約束と楽しかった思い出を、胸に刻み付けます。

恋人が余命宣告を受けたなら、打ち明けて相談するのではないかと思うのですが、それを語らなかった須藤と深く追求しなかった青砥は、あまりに大人過ぎたのではないでしょうか。

大人だから周囲の人の気持ちを考えてしまう、大人だから相手の迷惑になるのではとまず気にしてしまう……。

こんなことが度重なって、青砥と須藤の切ない恋は終わりを告げたのでしょう。分別をわきまえた大人たちの恋が招いた悲劇かもしれません。

このように、『平場の月』では、50歳代のリアルな暮らしぶりや恋愛感情が見事に反映されています。

淡い初恋の思い出と大人の恋の切ない余韻が、キラキラ・ドキドキする恋愛とは違った感傷を抱かせてくれました

映画『平場の月』の見どころ

小説『平場の月』の映画化にあたって監督を務めるのは、『花束みたいな恋をした』(2021)の土井裕泰です。

原作では2人の共通の思い出として、ほんの少しの回想で描かれていた中学時代の初恋を、映画ではさらに掘り下げながら、35年越しのラブストーリーを繊細に描くと言います。

キャストに抜擢されたのは堺雅人と井川遥。地味な生活を過ごす中年男性・青砥をおそらく堺雅人は地のままで演じてくれることでしょう。

美魔女の井川遥が、そのオーラを隠してどこまでフツーのオバサンになり切れるかが、見どころの一つと言えます。

原作では、朝霞市、新座市、志木市など埼玉県内の実在の地名や店舗が多数登場します。映画でも、同市内を中心にロケーションを敢行したので、お馴染みの町がスクリーンに映し出されるかもしれません。

映画の背景を楽しむとともに、ベテラン俳優たちが演じる熟年男女の恋の行く末を見届けてください。

映画『平場の月』の作品情報

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
『平場の月』(著者・朝倉かすみ/光文社刊)

【監督】
土井裕泰

【脚本】
向井康介

【キャスト】
堺雅人、井川遥

まとめ

中学校の同級生同士が35年の時を経て再会。これまでの半生を語りお互いを知るうちに、徐々に心が触れ合い、距離が縮まる2人。切ない大人のラブストーリーを描いた小説『平場の月』。

このたび、『花束みたいな恋をした』(2021)で若者の出会いと恋愛から別れまでを丁寧に表現した土井監督が映画にしました。

映画『平場の月』は、2025年秋に全国東宝系ロードショー

映画では、原作よりも深く15歳の初恋に重きをおき、50代になってからの大人のリアルな恋愛が描かれます。

恋しい気持ちと相手を思いやる気持ちに揺れる大人の男女を、堺雅人、井川遥というベテランの2人が見事に演じてくれることでしょう。

『花恋』で等身大の若者の出会い、恋愛から別れまでを丁寧に表現した土井監督が描く、15歳の瑞々しい初恋と大人のリアルな恋愛物語に、乞うご期待!


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