Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

オークション~盗まれたエゴン・シーレ|あらすじ感想と解説レビュー。有名画家の実話をめぐる”高額品名画”による駆け引き

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』は2025年1月10日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー

『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』は、ナチス・ドイツが略奪したエゴン・シーレの「ひまわり」を巡る実話にインスパイアされたフランス映画です。

監督は『華麗なるアリバイ』(2008)のパスカル・ボニゼール。

辛辣な皮肉を込めてリアルに描き出されたアート・ビジネスの世界と、綿密な取材に基づくオークションの臨場感が見どころです。

思いがけずエゴン・シーレの作品を見つけた競売人のアンドレですが、オークションにかけるまでに様々な壁にぶち当たります。

映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』が2025年1月10日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー

スリリングな展開から目が離せない、本作の魅力をご紹介します。

映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』の作品情報


(C)2023-SBS PRODUCTIONS

【日本公開】
2025年(フランス映画)

【監督・脚本】
パスカル・ボニゼール

【編集】
モニカ・コールマン

【キャスト】
アレックス・ルッツ、レア・ドリュッケール、ノラ・ハムザウィ、ルイーズ・シュヴィヨット、アルカディ・ラデフ

【作品概要】
ナチス・ドイツが略奪したエゴン・シーレの「ひまわり」を巡る歴史的事実に基づき、美術オークションの世界の駆け引きをスリリングかつ鮮やかに描いた作品。

監督はフランス・ヌーヴェルヴァーグの中心的存在のひとりだったジャック・リヴェットの脚本を数多く手がけたパスカル・ボニゼール。ミステリーの女王アガサ・クリスティ原作の「ホロー荘の殺人」を映画化した『華麗なるアリバイ』(2008)等、監督としてもその手腕を発揮しています。

天才的ともいえる巧みさで的確に細部にわたって書き込まれたキャラクターとシャープでエレガントなダイアローグで紡がれる物語が、複雑な人間関係を軽妙にあぶりだします。

今回は美術品のオークションの世界を舞台に、その業界の内部構造、富裕層と労働者階級の世界を見事に対峙させ、わずか数行の台詞で特権階級の残酷さを鮮やかに描き出します。

一流の衣服を身にまとい、高級車を乗り回す一見スノッブで鼻持ちならない人物ながら、実は自己抑制の効いた熱血漢である競売人(オークショニア)アンドレを演じるのは、小説家・映画監督としても活躍し、お笑いタレントとしても絶大な人気を誇るアレックス・リュッツ。

アンドレの元妻で頼もしい仕事の相棒、いつも恋を求めているベルティナは2017年にフランスで大ヒットした『ジュリアン』でセザール賞主演女優賞を受賞、近年演技派女優の地位を不動のものにしているレア・ドリュッケールが演じます。

アンドレの部下となる研修生オロールに扮したのはフィリップ・ガレルやポール・ヴァーホーヴェンなどの監督作で着実にキャリアを重ねるルイーズ・シュヴィヨット。エゴン・シーレの絵を発見する、思慮深く謙虚で高潔な工場労働者マルタンには、新人アルカディ・ラデフが大抜擢されました。

映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』のあらすじ


(C)2023-SBS PRODUCTIONS

パリのオークション・ハウスで働く有能な競売人のアンドレ・マッソンは、エゴン・シーレと思われる絵画の鑑定依頼を受けました。

シーレほどの著名な作家の絵画はここ30年程、市場に出ていないため、アンドレは当初は贋作ではないかと疑います。

しかし念のため、元妻で相棒のベルティナと共に、絵が見つかったフランス東部の工業都市ミュルーズを訪れました。

絵があるのは、化学工場で夜勤労働者として働く青年マルタンの家でした。父を亡くした後、彼は母親と2人で暮らしていました。

現物を見た2人は驚き、思わず顔を見合わせて笑い出します。それは間違いなくシーレの傑作でした。

思いがけなく見つかったエゴン・シーレの絵画を巡って、さまざまな思惑を秘めたドラマが動き出し……。

映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』の感想と評価


(C)2023-SBS PRODUCTIONS

ナチス・ドイツが略奪したエゴン・シーレの名画「ひまわり」を巡る実話をもとに、発想を広げて生み出された華麗でスリリングなドラマです。

主人公の競売人アンドレは、エゴン・シーレの作品に思いがけず出会います。絵があったのは、真面目な労働青年マルタンの家でした。

その絵が本物だと気づいたアンドレは、元妻で美術の目利きである相棒ベルティナと力を合わせてオークションに出品するために奔走します。

思いがけない障害に遭いながらも、目的に向かって突き進むアンドレから目が離せません

また、アンドレを取り巻く魅力あふれる個性的な女性キャストにも注目です。

ひと癖も二癖もあり、周囲を翻弄し続けるアンドレの部下オロール、10年前にアンドレと離婚しながらも、今も良い相棒で有続ける有能なベルティナ、マイペースなマルタンの弁護士エゲルマン。

アンドレは、超個性的な彼女たちを頼り、時になだめながら、前に進んでいきます。

絵があることを知らせた青年マルタンの純朴さにも胸打たれます。彼がこれほど正直で、良心的な青年であったからこそ、このドラマは始まったといえるでしょう。

本作は、スリリングな展開と共に、魅力的な登場人物達が織りなす人間模様に心温まる秀作です。

まとめ


(C)2023-SBS PRODUCTIONS

行方知れずの名画を巡る実話から生まれたサスペンスフルなヒューマンドラマ『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』

魅力あふれる登場人物の心の揺らぎと共に、印象的な赤の使い方など、作品の色彩の美しさにも目を奪われます。

名画を世に送り出すために、純粋に情熱を燃やすアンドレを応援したくなるに違いありません。

映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』は2025年1月10日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開です。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『サムライせんせい』あらすじネタバレと感想。人気漫画を市原隼人で実写化

幕末150周年記念作品として製作された映画『サムライせんせい』は、黒江S介の同名コミックス「サムライせんせい」(リブレ刊)の原作を映画化しました。 幕末を奔走した土佐藩の“熱き志士”武市半平太が平成の …

ヒューマンドラマ映画

映画『食べる女』あらすじとキャスト。原作の筒井ともみは女優と料理にこだわりを見せる

映画『食べる女』は9月21日(金)よりロードショー。 70年代から数々の映画やドラマ、アニメの脚本を手掛けてきた超ベテラン脚本家・筒井ともみの短編小説『食べる女』『続・食べる女』を映画化。 原作者であ …

ヒューマンドラマ映画

映画『僕たちのラストステージ』あらすじネタバレ感想。ローレル&ハーディ互いを1番だと認め合ったコメディアン

映画『僕たちのラストステージ』は、2019年4月19日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。 『僕たちのラストステージ』は、1930年代に人気を博した実在のコメディアン・デュオ「ローレル&ハー …

ヒューマンドラマ映画

映画『ネクタイを締めた百姓一揆』あらすじと感想レビュー。ロケ地である岩手花巻の“まちづくりの精神”

来るのかな?新幹線!花巻に!? 映画『ネクタイを締めた百姓一揆~新花巻駅設置を巡る14年間の物語』は、東北新幹線の新花巻駅設置を巡り、奮闘した花巻市民たちの14年間に渡る活動を描いた作品です。 当時の …

ヒューマンドラマ映画

『熱のあとに』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。実話を基に愛という狂気を山本英監督が突きつける

愛する人を殺そうとした女性の“愛し方”の結末とは—— 2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされた鮮烈な愛の物語。 『ここは退屈迎えに来て』(2018)の橋本愛が主演を務め、『生きちゃ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学