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『花まんま』映画化原作ネタバレあらすじ感想評価。キャストの有村架純と鈴木亮平がミステリアスな出来事からどんな兄妹愛を魅せるのか?

  • Writer :
  • 星野しげみ

朱川湊人の短編小説『花まんま』が映画になります!

2005年に第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集『花まんま』。表題の「花まんま」は、子どものままごと遊びで作る“花のお弁当”を意味しています。

大阪在住の加藤兄妹。妹は幼い頃に見知らぬ女性の名前や、行ったことのないはずの町の名を口にしました。そしてついに兄にその町へ連れて行ってほしいと言い出し、兄妹は不思議な体験をします。


(C)2025「花まんま」製作委員会

何とも不思議なお話の『花まんま』の映画化が決定。兄に鈴木亮平、妹には有村架純という素敵な兄妹のキャスティングで、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)や『そして、バトンは渡された』(2021)などの前田哲監督がとりまとめました。

映画『花まんま』は、2025年春に全国ロードショー!。映画公開に先駆けて、小説『花まんま』をネタバレありでご紹介します。

小説『花まんま』の主な登場人物

【加藤俊樹】
大阪に住む小学5年生

【加藤フミ子】
俊樹の妹。不思議な体験の持ち主

【重田喜代美】
彦根市に住むOL。ある事件で死亡する

【重田仁】
彦根市に住む男性。喜代美の父

小説『花まんま』のあらすじとネタバレ


朱川湊人『花まんま』(文春文庫)

加藤俊樹は、妹が生まれた日のことをしっかり覚えています。

トラック運転手の父と病院へ行き、生まれたばかりの妹を見て「かわいい」とは思わなかったこと。それなのに、父が「かわいいなあ。俺の娘や。こんなかわいいもんが、この世に他にあるかいな」ととても喜んだことなど、自分の人生でインパクトある出来事だったのです。

あいまいな幼児の記憶にも鮮明に残る喜び方で妹の誕生を喜んだ父だったのに、その2年後。長距離トラックの運転手だった父は、30ちょっとの若さで事故で亡くなりました。

それから、俊樹は大阪の下町で、母とフミ子と名付けられた妹と、3人で暮らしていました。

母の細腕一つでの生活は苦しかったのですが、親子3人で力を合わせての暮らしはそれなりに楽しいものでした。

しかし、フミ子が4歳になった冬の夜。眠っていたフミ子が起きて、母のお腹にいた時のことを話し終えると、突然嘔吐したので、母はすぐさま病院に連れていきました。

フミ子は、幸いただの風邪で3日ほどで退院できたのですが、その出来事を境にフミ子は薄暗い部屋でボンヤリしたり、ふさぎ込むようになってしまいます。

フミ子が小学校1年生になったある日、自分は「重田喜代美」という女性の生まれ変わりだと言い出しました。

最初は信じがたい話と思った俊樹ですが、フミ子の話は真実味を帯びています。俊樹も次第にフミ子は重田喜代美の生まれ変わりかも知れないと思うようになりました。

ですが、その反面、「誰かの生まれ変わりだろうがなんだろうが、今は俺の妹の加藤フミ子だ。重田喜代美という人間とは、何の関係もない」という気持ちは強くなりました。

俊樹は、母に何も言うなとフミ子に強く口留めをしました。

俊樹が小学校5年生、フミ子が小学校2年生になった時、フミ子は俊樹に自分の記憶にある彦根市に連れていって欲しいと懇願し、2人は母に内緒で出かけることにしました。

2人は電車に乗って彦根市のとある町に到着。「あぁ、やっぱり。この町、知ってるわ」と、フミ子は、小さな甘味屋であんみつを食べたこと、そこの文具屋にいる中年女性が同級生だと話して、懐かしがりました。

そんななか、近くでやせ細った白髪の老人を見つけたフミ子は「あの人、お父ちゃんや」と言いました。

そこで、俊樹は老人と言葉を交わしていたフミ子が同級生だという文具屋の女性に、「あの骸骨みたいに痩せたおじいさんは誰ですか?」と尋ねてみました。

女性によると、白髪の老人は10年近く前に不幸な事故で年頃の娘を亡くしたと言います。

当時、会社員だった老人は、娘が痛くて苦しんでいるときに、お昼ご飯を呑気に食べていたと言います。そんな自分を憎み、それ以来生きるために最低限の飲みものしか口にできなくなったそうなのです。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『花まんま』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『花まんま』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

フミ子は、重田喜代美として亡くなった時のことを覚えていました。

エレベーターガールとして働いていた喜代美は、ある日エレベーターの中で異常者の男に背中を刺され命を奪われていたのです。

そういえば、今のフミ子の背中には、ちょうど刺された場所である背中に水滴を上下に伸ばしたようなアザがありました。「天使の羽や」とお母ちゃんと俊樹は話していたのですが・・・・。

それから近くの公園で母が作った弁当を食べることにした俊樹とフミ子でしたが、フミ子は先ほどの痩せた老人の姿を思い出し、食がすすみません。

フミ子は、重田の家族を見るだけで接点を持たないと、俊樹と約束していたのであの家の誰かに話かけることもできません。

何ごとか思案していたフミ子ですが、空になった弁当箱に公園で咲いていたツツジの花をぎっしり詰めはじめました。ご飯の部分を白いツツジに見立て、真ん中には日の丸弁当のように赤いツツジが丸めて押し込まれています。

それは「花まんま」と呼ばれるおままごとで使用するお弁当でした。フミ子は、この弁当箱を老人に届けてほしいと俊樹に頼みました。

俊樹は怪訝に思いながらも、おままごとで作ったような弁当箱を喜代美の父である重田仁に渡しに行きました。

すると家には、喜代美の墓参りにきた兄弟や家族が勢ぞろいしており、彼らは俊樹がいたずらを仕掛けたと思って問い詰めました。

そんな中、弁当箱を開けた仁はぶるぶると震えながら、「箸箱に木の枝が二本、ちゃんと長さを揃えて入れてあるがな。これは喜代美がいつもやってたヤツやで」と言いました。

仁は箸を持ち、本当にご飯を食べるように白いツツジを持ち上げ、口に放り込む真似をしました。喜代美が子どもの頃、公園に一緒に行き、おままごとでお弁当を作り、仁がいつも食べる真似をしていたからです。

その様子を見た姉は、喜代美は天国で父さんにご飯を食べてほしいと心配しているから、この子に弁当箱を持たしたんだろうと言いました。

そして、仁が弁当箱を頼んだ人について尋ねようとした途端、俊樹はその場から逃げ出しました。公園で待っていた喜代美の元に戻った俊樹は、大阪に戻るためにバスに乗って駅に向かいました。

すると駅の改札には、先ほど会った重田仁とその家族が待ち伏せをするように立っていました。

仁がフミ子を見つけると「おまえ、喜代美やね?」と尋ねて肩をつかもうとしました。俊樹はとっさに、仁とフミ子の間に割り込みます。

「この子は、そんな名前やないっ!フミ子や。俺の妹や」と俊樹は叫び、力いっぱいフミ子を抱きしめました。

それから、俊樹とフミ子は住所も名前も教えることなく、重田の家族と改札口で別れました。

大阪の家へ無事帰った俊樹とフミ子はそれ以降、彦根で会った重田家のことは口にしませんでした。

時は経ち、フミ子は喜代美が亡くなった歳の21歳になりました。

あの一見以来、重田喜代美の話を一切しなくなったフミ子は、同い年の真面目な男性との結婚を控えています。

俊樹は、喜代美の知らない年齢になったフミ子にホッとすると同時に、これからも妹を守っていきたいと思っています。

小説『花まんま』の感想と評価

ホラーっぽい不思議とミステリアス、そしてどこか懐かしいノスタルジーに包まれた物語『花まんま』

大阪で生まれ育った小学生の俊樹とフミ子の兄妹が主人公です。フミ子は、まだ幼い頃、突然不思議なことを話すようになります。

それは俊樹でさえ知らない名前の女性と知らない町の話でした。あとでわかったのは、どうやらフミ子の夢や嘘ではなく、フミ子がその女性の生まれ変わりだろうということでした。

フミ子にせがまれて訪ねていったその町で目にした現実に、俊樹もフミ子が喜代美の生まれ変わりだということを信じざるを得ませんでした。

フミ子が重田喜代美として、その父のために作った「花まんま」は、父を想う優しい心の籠った贈り物だったのです。これを父に作るために、喜代美はフミ子の記憶に蘇ったのではないでしょうか。

俊樹はそんな様子を見ているだけで何もできません。でも心から叫びます。「この子の名前はフミ子や!俺の妹や!」と。

父を気遣って「花まんま」を作る娘の優しさと、妹を想う兄の強い愛情あふれるセリフに胸がいっぱいになります

‟お兄さん”っていいなと思える作品でした。

映画『花まんま』の見どころ

原作では小学生の兄妹だった2人を、映画では成人としています。

やんちゃ坊主のイメージの強い兄・俊樹は、思慮深く優しい風情の鈴木亮平。『孤狼の血 LEVEL2』(2021)で冷徹無情な裏社会の悪魔を熱演した彼が、今回は優しいお兄ちゃん役です。

また生まれ変わりという不思議な体験を持つ妹・フミ子には、『花束みたいな恋をした』(2021)などで人気を博した、護ってあげたくなる可憐な装いの有村架純が演じます。

小学生の頃の夢のような不思議話が、映画ではリアルな体験としてドラマチックに描かれるのに違いありません。

また、フミ子が‟重田喜代美”として父の健康を想って作る「花まんま」は必見と断言できます。

可愛い妹をいつまでも護ってあげたいと思っている兄の気持ちと、「花まんま」に込められた父への愛が満載。映画は終始、温かな優しい気持ちにさせてくれることでしょう。

大人の兄妹を主人公にして、原作のコンセプトがどこまで採用されているのかと注目です

映画『花まんま』の作品情報

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
朱川湊人『花まんま』(文春文庫)

【監督】
前田哲

【脚本】
北敬太

【キャスト】
鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ、酒向芳、六角精児、キムラ緑子

まとめ

朱川湊人の短編小説『花まんま』をネタバレ有りでご紹介しました。

前世の記憶を持つ妹が前世の父を気遣う優しさ、そんな妹をとても愛おしく思っている兄。二重三重に用意されている家族愛にホロリとさせられます

2025年春にこの心温まる不思議な物語が映画化決定となりました。映画『花まんま』は2025年春、全国ロードショー

大人の年代の兄妹で演じる『花まんま』。鈴木亮平と有村架純がどんな‟兄妹愛”を魅せてくれるのか、楽しみです。



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