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『ロボット・ドリームズ』あらすじ感想評価。おすすめアニメ映画は各国映画賞総なめで新しき監督パブロ・ヘルベル才能に注目!

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ロボット・ドリームズ』は2024年11月8日(金)より全国順次公開!

「一人」の犬と「一人」のロボットによる心のふれあいを描いた映画『ロボット・ドリームズ』

犬とロボットというキャラクターの出会い、そして別れを描いた本作。スペインのパブロ・ベルヘル監督が、アメリカの作家サラ・バロンによる同名グラフィックノベルを原作に物語を紡ぎました。

ベルヘル監督としては初挑戦のアニメーション作品でありますが、2024年の第96回アカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされるなどの高い評価を得ています。

映画『ロボット・ドリームズ』の作品情報


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

【日本公開】
2024年(スペイン・フランス合作映画)

【原題】
Robot Dreams

【原作】
サラ・バロン

【監督・脚本】
パブロ・ベルヘル

【作品概要】
犬やアライグマなどの動物たちで構成された1980年代のニューヨークで、犬とロボットがおりなす友情、愛をセリフやナレーションの言葉を使わずに描いた物語。

2013年に発表したモノクロ・サイレント『ブランカニエベス』で話題を呼んだスペインのパブロ・ベルヘル監督が、本作で長編アニメーション映画初挑戦をおこないました。

映画『ロボット・ドリームズ』のあらすじ


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

ニューヨーク、マンハッタンのとあるアパートに住む、一人の「ドッグ」は、いつも生活の中で深い孤独を抱えていました。

ある日彼はテレビのコマーシャルから「友人専用」の触れ込みで売られているロボットのことを知り、自分の友人にすべく購入、自宅でロボットを作りあげます。

新たな世界への目覚めに感動するロボットと、彼との友情をはぐくんでいく「ドッグ」。ところが夏になり海水浴へ出かけたロボットは、海水で錆びついて動けなくなってしまいます。

どうにかロボットを修理しようとする「ドッグ」でしたが、あまりの重さにロボットを一人で移動させることもできず、海水浴場はロボットを砂浜に置いたままの状態でシーズンオフとなり閉鎖、「ドッグ」と離ればなれになってしまいます。

ロボットを諦めきれない「ドッグ」は、再びのシーズン到来を待ちますが……。

映画『ロボット・ドリームズ』の感想と評価


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

アメリカのカートゥーン作品を彷彿する、シンプルな線で構成されたキャラクターたちが登場する本作。そのキャラクターが非常に生き生きした印象を放っている点は、本作の大きな魅力であります。

その秘密は、シンプルなデザインながら、コミカルさを醸しつつどこか哀愁味を帯びたキャラクターの背景、そしてその背景をうまく生かしたストーリーにあると言えるでしょう。

物語はニューヨーク、マンハッタン島で無気力に生きていく「一人の犬」が、一台のロボットとの出会いで大きく人生を変えていき、さらにその別れによって大きく心を乱される様子を描いていきます。

その端々に見られる、犬との再会を心待ちにするロボットの夢は、理想の美しさと現実の厳しさを如実に表しています、単純な線ながらその構成が素晴らしく、微視的に目で見える以上に緻密な世界観が感じられるものとなっています。

またこの世界観をさらに深いものとしている要因として、音楽が挙げられます。それはセリフの一切ない物語の中で数少なく言葉が発せられる、劇中に流れるアース、ウィンド&ファイアの「セプテンバー」。


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

78年に発表された不滅の大ヒットナンバーともいわれているこの曲は、9月という夏の日を懐かしむ感情を表したラブソングであり、主人公とロボットが出会い、それぞれの世界が色めきだった夏の日、そしてその時の思いをはせる二人の感情を表すのに非常によい選曲をしていると言えるでしょう。

本作の時代設定はほぼ歌がヒットした時期、すなわち携帯電話などなく音楽は「ラジカセ」から流れてくるもの、ロボットのデザインもなんとなくアナログな雰囲気を表したいわゆる「古きよき時代」に合わせたもの。インターネットを介さない直接的な意思疎通やふれあいが非常に心地よく感じられます。

ラストはどこか『シェルブールの雨傘』を彷彿するセンチメンタルな展開でありますが、アニメーションならではの特質を生かした演出、そして先述の「セプテンバー」をうまく生かした演出が施され、その展開の作り方にもうまさが冴え渡っています。

「犬とロボット」という、ある意味個性を排除したキャラクター設定の中で、美しいラブストーリーを描いたセンスは高く評価できるものであります。

まとめ


(C)2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

作品を手がけたパブロ・ベルヘルのデビュー作『Torremolinos 73』(2003)は、ある一組の夫婦の感情を奇想天外な物語でコメディタッチにより描いたもの。

2013年に発表した『ブランカニエベス』が童話『白雪姫』を大胆にアレンジしたものであることと比較すると、ベルヘル監督としてはラブストーリーに対するさまざまな試みが、映画作りに対する一つのテーマであると見ることもできるでしょう。

また『ブランカニエベス』はモノクロ・サイレントという現代ではわりに特殊な映像手法をとった作品で、第85回アカデミー賞のスペイン代表として出品、2012年のサン・セバスチャン国際映画祭、第27回ゴヤ賞などで多くの賞を受賞するなど大きな話題となりました。

監督のアニメーション初挑戦作品という点では気になる本作ですが、セリフのない作品としては前作と共通するチャレンジであり、ベルヘル監督ならではの作品に対する想像への意欲性と優れたセンスにあふれた作品であるともいえるでしょう。

映画『ロボット・ドリームズ』は2024年11月8日(金)より全国順次公開!





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