Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

【佐野弘樹&宮田佳典インタビュー】映画『SUPER HAPPY FOREVER』という二人の代表作にして“かけがえのない宝物”が産み出されるまで

  • Writer :
  • 松野貴則

映画『SUPER HAPPY FOREVER』は2024年9月27日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国順次ロードショー!

伊豆にある海辺のリゾートホテルを舞台に、妻を亡くした男・佐野と幼馴染みの友人・宮田の最後の青春を描いた映画『SUPER HAPPY FOREVER』

『息を殺して』(2014)、『泳ぎすぎた夜』(2017/ダミアン・マニヴェルとの共同監督作)などを手がけた五十嵐耕平監督による本作は、第81回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門のオープニング作品として上映同部門で初めて日本映画がオープニングを飾るという快挙となりました。


(C)松野貴則/Cinemarche

このたびの日本での劇場公開を記念し、『SUPER HAPPY FOREVER』で主演を務めた佐野弘樹さんと宮田佳典さんにインタビュー

「待っていてはダメだ」と送った一通のメール、映画制作に至るまでの五十嵐監督との長き構想の日々、本作で味わった物語の濃度がより高まっていく感覚など、貴重なお話をお伺いしました。

待っているだけじゃ《代表作》は作れない


(C)2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

──本作は2018年に、お二人が五十嵐監督に送った「自分たちを主演で、映画を監督してほしい」というメールから始まったと伺いました。コロナ禍以前の時期から「俳優として自ら動く」と考えられた原動力は何だったのでしょうか。

佐野弘樹(以下、佐野):「俳優として待っているだけではいけない」と常々考えていたんです。1年365日、様々な俳優としての活動を続けていても、やっぱり空いている時間がメチャメチャあるわけで、「お金はないけど時間はある生活」をどうにか活用しないとダメだと感じていたんです。

他の俳優たちと同じように待っているだけではダメなんじゃないか。自分たちの方から、何か作品を産み出すべきじゃないか……始まりの始まりは「待っているだけなんて耐えられない」という焦燥感だけでした。

そんな現状を打破するために色々な人たちと話す中で、自分の感覚と行動の反応速度を現実的に一番共有できた相手が、僕にとって宮田君だったんです。

宮田佳典(以下、宮田):役者って、目標が立てづらいんです。オーディションは1年のうちにどれだけあるか分からないし、受かるかどうかももちろん分からない。俳優という仕事は作品ありきなので、自ら目標を立てて走り続けるには不確定要素が多過ぎるんですよね。

「売れていない」という時期には、主演オーディションのチャンスも中々来ないし、自分たちの代表作なんてできないじゃないですか。「こうなったら自分たち主導で、代表作と言える映画を作るしかない」と二人でよく話していました。

五十嵐耕平監督と熟成していった物語


(C)松野貴則/Cinemarche

──五十嵐監督へ初めてメールを送られた時点で、本作の原型となる構想や方向性はお二人の間であったのでしょうか。

佐野:いえ、実は何にもなかったんです。

メールの内容は要約すると「五十嵐監督の作品を観て感動しました。ぜひご一緒に映画作りをしたいです!」「できれば新宿武蔵野館など、色々な劇場で公開したいです」という具合で……当時送ったメールは今も残っていますが、よくこんなメール送れたなと読み返すたびに思います(笑)。

宮田:「何言ってんだコイツら」だよね(笑)。それでも五十嵐監督は僕たちと直接会う時間を作ってくれましたし、その後は三者で映画の企画アイデアを話す時間を設けてもらい、そこで出たアイデアを僕と佐野の二人で脚本化していくことにしました。


(C)松野貴則/Cinemarche

佐野:長編2本を書いては修正して、書いては修正して……そんな期間が2年ほど続きました。「最終的には五十嵐監督の中で、一つの物語が生まれるのではないか」という期待と予感もあって、その時が来るまで僕たちは書き続けるしかないと考えていました。

宮田:無名の僕らを主演で映画を撮るのは、そう簡単じゃない。予算が集まりづらいことも理解していましたし「現実的に行動へ移すことは、ものすごい時間と労力のかかることなんだ」という認識は当時からありました。だからこそ2年間、書き続けられたんだと思います。

そしてある時、佐野の予感の通り「ホンを書いてみるよ」と五十嵐監督から言ってもらえ、僕たちの方でも新たにアイデアを出しながらも、さらに2年間構想を固めていきました。

そのタイミングで脚本家の久保寺晃一も参加してくれ、やがてプロデューサーの大木真琴さん・江本優作さんも携わってくれるなど、映画制作の体制が本格的にできあがっていったんです。

日常の中で醸成されていった《佐野と宮田》


(C)2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

──作品と向き合い続けた構想の期間を経た中で、実際の撮影現場ではどのように役を演じられていったのでしょうか。

佐野:やはり、普段の現場とは違いました。当然、これまで多くの時間を二人で重ねてきているので「初めまして、よろしくおねがいします!」とはならないですしね。

五十嵐監督の演出も、細かな動作などの指示をするような手法ではなかったので、演技と日常が地続きでつながっているような、かなりニュートラルな状態で臨めました。

「佐野」と「宮田」という役名も、とても大きかったです。自分たちの名前がそのまま役名になっているので、そういう意味では「演じ分けなくては」という考えもありませんでした。

宮田:構想や脚本を固めていく過程でも登場人物たちの人物像は考え続けていましたから、その時間の中でも自然と役作りをしていたのかもしれないです。

撮影に向けて、役について二人で改めて話し合うこともほぼなかったし、何も話さずとも本作における役同士の関係値が積み上がっていたんだと思います。映画でも描かれている、宮田と佐野の二人が並ぶことで滲み出る空気感や化学反応は、僕たちの日常の中で醸成されていたのかもしれません。

脚本から映画へ──物語がより濃くなる過程


(C)2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

──お二人は本作で「映画の構想の段階から作品に携わる」という今までと異なる作品との関わり方をされましたが、どのような気づきや発見がありましたか。

佐野:やっぱり映画になった作品を観てみると、脚本で読んだ時とは印象がガラッと変わるんです。

本作は脚本の段階では、歩いているシーンや心情を表すような風景描写が多く挿入されていましたが、編集の段階ではそうした画を多く削っているんです。

そこが個人的に意外性を感じられて面白かったと言いますか、脚本の段階でも面白かった物語が映画として編集されることで、物語としての濃度がより高まる感覚を味わえました。


(C)2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

宮田:それは僕も感じましたね。それと撮影現場で二人揃って感動したのは、凪役の山本奈衣瑠さんがクランクインした日ですね。

僕たちは今回キャスティングの会議にも参加していて、凪役を誰に演じてもらうかは結構迷ったんです。その頃に僕がたまたま山本さんと出会い、とてもいい俳優さんだと思ってお声がけし、五十嵐監督に提案させていただきました。

クランクインの日、遠くを歩いている山本さんを見た時に、脚本上の文字でのみしか知らなかった凪が、目の前の現実に立ち上がっていると感じられた。「凪がいる!」と二人でうれしくなってしまって……後にも先にも、こんな感動的な体験はできないんじゃないかと思っています。

かけがえのない宝物


(C)2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

──映画『SUPER HAPPY FOREVER』はお二人の俳優人生にとってターニングポイントになる、まさに「代表作」と言うべき一作だと感じています。

宮田:僕たちが五十嵐監督に送った一通のメールは「何とかして自分たちの代表作を作りたい」という、本当にそれだけの想いでした。そして僕たちの無茶苦茶なお願いに五十嵐監督や多くの人たちが関わってくれたおかげで、今こういう日を迎えられたと感じています。

どんな作品にこれから巡り合うのかは分かりませんが、間違いなく本作は「自分たちの代表作」といつまでも言い続けられる作品です。

また長い構想期間の中では、映画を完成させられなかったと周囲の人たちに言いたくなくて「どんな状況でも負けたくない」「絶対に成し遂げたい」とずっと考えていた一方で、憧れの五十嵐監督とともに自分たちの納得がいく作品を産み出そうとする過程は、すごく楽しかったですね。

佐野:それは、自分も同じ気持ちだね。

俳優として自分にやれることが目の前にある、撮影やオーディションがない時にも向き合える作品があることは、自分にとって大きな精神的支柱になっていました。だからこそ、色々なことがあったけれど、どの瞬間も苦ではなかったんでしょうね。

『SUPER HAPPY FOREVER』は、本当に宝物です。好きな人たちと好きな作品を、それも自分たちが主演で制作できるなんてことは、今後の人生でもう二度とないかもしれません。

もちろん、今ここからさらに、本作を超えられるような作品を産み出していきたいという想いもあります。それでも、俳優部だけではなく様々な立場で作品と関わることができた経験を含めて、かけがえのない作品であることは変わりません。

インタビュー・撮影/松野貴則
ヘアメイク/光岡真理奈
スタイリング(佐野弘樹)/淺井健登
スタイリング(宮田佳典)/川上淳也
衣装提供(宮田佳典)/SEVEN BY SEVEN

佐野弘樹×宮田佳典プロフィール


(C)松野貴則/Cinemarche

佐野弘樹(写真:左)プロフィール

1993年生まれ、山梨県出身。

Netflix配信ドラマ『FOLLOWERS』(2020)やNHK連続テレビ小説「舞い上がれ!」(2022)、夜ドラ『未来の私にブッかまされる!?』(2024)にへレギュラー出演。

映画の主な出演作に、主演を務めた櫛田有耶監督『焼け石と雨粒』(2022)のほか、石井裕也監督『町田くんの世界』(2019)、タナダユキ監督『浜の朝日の嘘つきどもと』(2021)、鎌田義孝監督『TOCKA[タスカー]』(2022)、石井裕也監督『愛にイナズマ』(2023)、『本心』(2024)など多数。

宮田佳典(写真:右)プロフィール

1986年生まれ、大阪府出身。

2017年、劇団「柿喰う客」に入団。舞台へ出演する傍ら、岸善幸監督『あゝ、荒野 後編』をはじめとした映画や、ドラマ『宮本から君へ』(2018)、NHK連続ドラマ小説「まんぷく」(2018)など活動の幅を拡げていく。

近年の出演作に、主演を務めた藤本楓監督『サボテンと海底』(2022)、WOWOWオリジナルドラマ『TOKYO VICE Season2』(2023)、濱口竜介監督『悪は存在しない』(2023)、池田健太監督『STRANGERS』(2024年11月2日公開)など。

映画『SUPER HAPPY FOREVER』の作品情報

【日本公開】
2024年(日本映画)

【監督】
五十嵐耕平

【脚本】
五十嵐耕平、久保寺晃一

【キャスト】
佐野弘樹、宮田佳典、山本奈衣瑠、ホアン・ヌ・クイン

【作品概要】
妻を亡くした男・佐野が幼馴染みの友人・宮田とともに、妻との想い出が詰まった地を巡るヒューマンドラマ映画。監督は、第67回ロカルノ国際映画祭・新鋭監督コンペティション部門に正式出品されるなど高い評価を得た『息を殺して』(2014)の五十嵐耕平。

本作は第81回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門にてオープニング上映され、現地でスタンディングオーベーションで絶賛されるなど、さらなる注目を浴び続けている。

キャストには話題作で経験を重ねる佐野弘樹と宮田佳典が主演を務める他、独特な存在感で演技が光る山本奈衣瑠、本作が初めての映画出演となるホアン・ヌ・クインなど、初々しくも実力と存在感を兼ね備えた俳優陣が揃った。

映画『SUPER HAPPY FOREVER』のあらすじ


(C)2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。

数年前まで賑わっていたホテルも、今は閑古鳥が鳴いている。じき閉館するこのホテルでは、アンをはじめとしたベトナム人の従業員たちが、ひと足早く退職日を迎えようとしていた。

観光地に来ていながら、佐野と宮田の間には暗いムードが漂う。佐野は、5年前にここで出会い恋に落ちた妻・凪を最近亡くしたばかりだった。

妻との思い出に固執し自暴自棄になる姿を見かねて、宮田は友人として助言をするものの、あるセミナーに傾倒している宮田の言葉は佐野には届かない。

二人は少ない言葉を交わしながら、閉店してしまった思い出のレストランや遊覧船を巡り、かつて失くした赤い帽子を探し始める。

翌朝、眠れないまま部屋へ戻ってきた佐野の耳に、懐かしいメロディが聴こえてきて……。




関連記事

インタビュー特集

映画『旅愁』呉沁遥(ゴ・シンヨウ)監督インタビュー|自分自身が持つ悩みを広げて描いた世界観

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて呉沁遥監督作品『旅愁』が7月14日に上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典「SKIPシティ国際Dシネマ映画 …

インタビュー特集

【三澤拓哉監督インタビュー】映画『ある殺人、落葉のころに』湘南・大磯を舞台に社会と個人の悲劇的な日常を問う

第15回OAFF《JAPAN CUTS Award》受賞作『ある殺人、落葉のころに』は2021年2月20日(土)を皮切りに、4月23日(金)/京都みなみ会館、4月24日(土)/大阪シネ・ヌーヴォ、以降 …

インタビュー特集

『あらののはて』長谷川朋史監督インタビュー|しゅはまはるみ達とのルネシネマ結成×映画制作の“本当”の理由を語る

映画『あらののはて』は2021年8月21日(土)より池袋シネマ・ロサ他にて全国順次公開中! 『カメラを止めるな!』の女優・しゅはまはるみ、『イソップの思うツボ』の俳優・藤田健彦、舞台演出やアニメ作品制 …

インタビュー特集

【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは

映画『太陽の家』は2020年1月17日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開! 優しく寛容である男の信念と苦悩を、人々との繋がりを通して描きあげた長渕剛主演の『太陽の家』。 一本気で気立て …

インタビュー特集

【河内彰監督インタビュー】映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』都市という心象風景×美しき現世の風景を映し出し自己の存在を手放す

映画『フィア・オブ・ミッシング・アウト』は2021年7月31日(土)より、池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開! 2022年1月14日(金)より京都みなみ会館、1月15日(土)よりシネ・ヌーヴォXにて …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学