アメリカ史上最悪の麻薬問題「オピオイド危機」を描いたサスペンス・スリラー!
ニコラス・ジャレッキーが脚本・製作・監督を務めた、2021年製作のアメリカのサスペンス・スリラー映画『クライシス』。
即効性のある強力な合成オピオイド「フェンタニル」の密輸を追うDEA(麻薬取締局)の潜入捜査官ジェイク、行方不明の息子を探す薬物依存から回復中の建築家クレア、製薬会社で雇用主に関する不測の事態と戦い、新しい「中毒性のない」鎮痛剤を市場に投入しようとする大学教授ブラウアー。
立場の異なる3人は、それぞれ必死の覚悟で蔓延する依存性の高い合成鎮痛剤「オピオイド」の実態に迫った、映画『クライシス』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『クライシス』の作品情報
【公開】
2021年(アメリカ映画)
【脚本・製作・監督】
ニコラス・ジャレッキー、カシアン・エルウィズ
【キャスト】
ゲイリー・オールドマン、アーミー・ハマー、エヴァンジェリン・リリー、インディラ・ヴァルマ、マーティン・ドノヴァン、ミア・カーシュナー、ニコラス・ジャレッキー、マイケル・アロノフ、エリック・ブルノー、エローラ・トーチア、アダム・ツェフマン、グレッグ・キニア、ミシェル・ロドリゲス、ルーク・エヴァンス、リリー=ローズ・デップ、ギィ・ナドン、ヴェロニカ・フェレ、スコット・メスカディ
【作品概要】
『キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け』(2013)のニコラス・ジャレッキーが脚本・製作・監督を務め、さらに自身も本作に登場するDEA捜査特別捜査官のスタンリー・フォスター役として出演するアメリカのサスペンス・スリラー作品。
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2018)のゲイリー・オールドマンや、『君の名前で僕を呼んで』(2018)のアーミー・ハマー、「アントマン」シリーズのエヴァンジェリン・リリーが本作の主演を務めています。
映画『クライシス』のあらすじとネタバレ
依存性の高い処方箋鎮痛剤「オピオイド」系の鎮痛剤のひとつであるオキシコドンと、現在流行しているヘロインの100倍の効力のある強力なオピオイド「フェンタニル」の密輸ルートを追うDEA(麻薬取締局)の捜査官ジェイク・ケリーは、カナダ・モントリオールの組織に潜入。
アメリカ・ロサンゼルスに拠点を置くストリートギャング「アルメニアン・パワー」と、カナダ・ケベック州のフェンタニルの違法販売業者マザー(本名はクロード・ヴェローシュ)に麻薬取引を持ちかけ、麻薬密売に関わる者の一斉検挙を狙います。
しかし、計画の途中で麻薬運び屋セドリック・ボーウィルが、アメリカとカナダの国境にてカナダ騎馬警察(RCMP)に逮捕され、モントリオールの拘置所に入れられてしいました。
その国境はRCMPの監視外なはずなのに、なぜセドリックが捕まったのか。それは誰かの密告があったに違いない。そう考えたジェイクとマザー、マザーの元で働いているナンバー2のギー・ブルザードは、セドリック逮捕の真相を調べることにします。
すると、汚職でクビになった刑事デイヴィソンが、今まで関わった多くの情報屋が200人以上載った重大犯罪のリストを持っており、さらにそれを売ろうとしているという噂を耳にしました。
マザーが彼と会う約束を取りつけ、ジェイクたちが彼に会いに行くも、デイヴィソンは何者かに殺されてしまいます。
大学教授であり、研究者でもあるタイロン・ブラウアー博士は、雇用主である大手製薬会社「ノースライト」の上級取締役ビル・サイモンズ博士から、依存性のない鎮痛剤「クララロン」の研究結果はまだかと急かされていました。
既に臨床試験の最終段階に入っているクララロンですが、10日間に及ぶマウスを使った受託試験の結果、依存性がないどころかオキシコドンの3倍もの依存性があり、10日で必ず死に至るほど有毒であることが判明。
2回行われたその実験は、2回とも同じ結果に…。ブラウアーは今後の研究室の研究費がなくなることを覚悟し、ノースライトにこのことを報告しました。
ところがノースライト側から、他の研究資金として78万ドルの助成金を出すと言われ、8年ぶりの秘密保持契約の更新を提案されたのです。
ですがその契約書の内容は、ブラウアーが重大なミスを犯したことを認めろというもの。しかもブラウアーの警告を無視して、このままアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を得て販売しようとしているのです。
ブラウアーの上司ジェフ・タルボット学部長はこのことを知った上で、ノースライトに盾ついて大学の名誉を傷つけないために、職を失いたくなければ研究データを公表するなと彼に圧力をかけます。
建築家のクレア・ライマンは、16歳の息子デイヴィッドのためにオキシコドン依存から抜け出し真っ当な人間になろうと奮闘していました。
しかし、そのデイヴィッドが、夕食のお使いのためスーパーに立ち寄って以降、行方不明。姉のスーザンと一緒に彼を探しに行くと、オキシコドンの過剰摂取による事故で亡くなったと、デトロイト市警の警察官から連絡がきました。
ですが、デイヴィッドの検死結果で、彼の肺にオキシコドンを吸引した形跡はなく、死因は後頭部にあった酷い打撲だと判明。デイヴィッドの死の真相を調べることにしたクレアは、サイモン・ギルクレストという息子に電話をかけてきた男に会いに行きます。
サイモン曰く、サイモンの友達のセドリックとデイヴィッドがホッケー合宿で知り合い、3人で何度か遊んだ程度の仲であること。セドリックに頼まれて彼を探していたこと。自分もセドリックも麻薬の運び屋だというのです。
デリックとセドリックについて、クレアがデイヴィッドのSNSで調べた結果、デリックはモントリオールのホッケー選手デリック・ミルブランのことだと判明。クレアは、すぐに荷物をまとめ、デリックがいるモントリオールへ。デリックを尾行・監視した結果、ある男の存在が浮上します。
その男はギーでした。彼の車の識別番号を調べてもらった私立探偵のダグラスから、クレアはマザーと彼の情報、それから追跡不可能な銃を入手します。
映画『クライシス』の感想と評価
DEAの潜入捜査官のジェイク、行方不明の末に謎の死を遂げた息子を探す建築家のクレア、蔓延するオキシコドンよりも依存性が高い有毒な薬が市場に出回らないように大学と大手製薬会社を相手に戦う大学教授のブラウアー。
3人は立場も違えば、知り合いでもありません。ただ彼らはこれ以上麻薬によって人の命が奪われないようにと強く願い、その麻薬を売買するものや、有毒であると知っていながらも市場に投入しようとしている悪い奴らと、自分の身の危険を顧みずたった1人で戦い続けているのが本当に凄いなと感心します。
ジェイクたちの物語は物語の後半まで、交わることなく同時進行していきました。それが物語の後半、クレアがマザーに辿り着いた時、ジェイクと彼女の物語は交わり、2人で黒幕であるマザーを倒したのです。
ただ彼らの戦いの裏には、オピオイド依存の回復のために施設に入っていたジェイクの妹エミーが、オピオイド依存から抜け出せず施設から抜け出したり、それを聞きつけたジェイクが彼女を家に連れ戻し兄妹喧嘩をする場面が描かれています。
しかもそのエミーが最後、兄への謝罪と愛を伝えながらドラッグに手を出す姿が描かれていました。ですが、ジェイクがそれに気づくのか否か、またエミーのその後はどうなったのかは描かれていません。
なのでジェイクが妹のためにも必死に麻薬密売人の一斉検挙を頑張っていたというのに、相棒のスタンリーだけでなく、妹まで失ったら…と考えるととても悲しいです。
また、物語の中盤まで謎だったクレアの息子デイヴィッドの死。それが、何も知らずに麻薬の運び屋のセドリックたちと一緒に取引現場に行き、彼の鞄に麻薬が入っていたというだけで、マザーに殺されてしまったというのは何という悲劇でしょう。
それに、ブラウアーは自分の地位も名誉も捨てる覚悟で、人命を優先しクララロンが有毒であると訴え続けたというのに、同じ真実を追い求める研究者でもあるメグが信じられない発言をしたのはとても衝撃的でした。
まとめ
アメリカ国内に蔓延する合成鎮痛剤オピオイド系のオキシコドンとフェンタニル。立場は異なるもののそれに関係する立場にある3人が、それを売って莫大な利益を得ようとする麻薬密売人や大手製薬会社に立ち向かっていくこの物語は、事実から着想を得たものです。
エンドロール前には、次のようなテロップが流れています。
「オピオイド系の薬は毎年、新たに発売されている」「死亡者は毎年10万人を超え、年々20%増加。アメリカでの過去2年の死者数は、ベトナム戦争の死者数を上回った」と。
劇中、オピオイド系のオキシコドンの依存度の高さ、オキシコドンの過剰摂取による悲しい死が描かれていました。1人じゃ抱えきれない苦痛や悲しみがあったとしても、一度ドラッグに手を出せばさらなる苦痛と地獄が待っているのだと画面越しからひしひしと伝わってきます。
1990年代後半から現在に至るまで続くアメリカ史上最大の麻薬問題「オピオイド危機」。アメリカ経済や産業にまで営業が及んでいる社会問題でもあるそれが早く解決することを、心から強く願うと共に、麻薬やオピオイド系の処方箋鎮痛剤、ダメ、絶対。