Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

【ネタバレ】スカーフェイス|あらすじ感想と結末の評価考察。キューバ難民から麻薬王へと昇りつめた男の栄枯盛衰をバイオレンスに描く【すべての映画はアクションから始まる42】

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第42回

日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。

第42回は、ブライアン・デ・パルマ監督✕アル・パチーノ主演で贈る1983年製作のアメリカ映画『スカーフェイス』

ハワード・ホークス監督作『暗黒街の顔役』(1932)をリメイクし、麻薬密売を通じて大物ギャングに成り上がっていくキューバ難民の栄枯盛衰を描いたバイオレンス巨編を、ネタバレ有りで解説致します。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『スカーフェイス』の作品情報

【日本公開】
1984年(アメリカ映画)

【原題】
Scarface

【監督】
ブライアン・デ・パルマ

【製作】
マーティン・ブレグマン

【脚本】
オリヴァー・ストーン

【撮影】
ジョン・A・アロンゾ

【音楽】
ジョルジオ・モロダー

【キャスト】
アル・パチーノ、ミシェル・ファイファー、F・マーレイ・エイブラハム、スティーブン・バウアー、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、ロバート・ロジア、ハリス・ユーリン

【作品概要】
1932年のハワード・ホークス監督作『暗黒街の顔役』を、ブライアン・デ・パルマがリメイク。「ゴッドファーザー」3部作(1972~90)の名優アル・パチーノを主演に、ハード・バイオレンス巨編に生まれ変わらせました。

『ミッドナイト・エクスプレス』(1978)でアカデミー脚色賞、後年『プラトーン』(1986)でアカデミー作品賞と監督賞を受賞したオリヴァー・ストーンが脚本を担当。

共演はミシェル・ファイファー、F・マーレイ・エイブラハム、スティーブン・バウアー、メアリー・エリザベス・マストラントニオ。

1984年の第41回ゴールデングローブ賞では、アル・パチーノ(ドラマ部門主演男優賞)、スティーブン・バウアー(ドラマ部門助演男優賞)、ジョルジオ・モロダー(作曲賞)がそれぞれノミネートされました。

映画『スカーフェイス』のあらすじとネタバレ

1980年5月、キューバは反カストロ主義者をアメリカに追放。その中には前科者のトニー・モンタナやマニー・リベラも含まれていました。

新天地を求めてフロリダ州マイアミへとやってきた2人でしたが、前科が仇となり永住権を認められず、高速道路下に設けられた移民用隔離施設に収容。

3ヶ月後、施設生活に飽きてきたトニーは、地元の麻薬王フランク・ロペスの依頼で元キューバ政府職員レベンガを殺害し、報酬としてグリーンカードを得ます。

飲食店の皿洗いの仕事に嫌気が差したトニーとマニーは、フランクの部下オマールの依頼でコカイン取引で金を横取りしようとしていたコロンビア人ディーラーを殺害。フランクの知己を得て彼の豪邸に招かれたトニーは、情婦のエルヴィラに惹かれます。

先に渡米していた母と妹ジーナを訪ねるトニー。ジーナは喜んで兄を迎え入れるも、母はヤクザ稼業をしている息子を拒絶し、ジーナと関わるなと言い放ちます。

数ヶ月後、フランクの代理としてボリビアの麻薬王ソーサとの面談に向かったトニーは、同行したオマールを無視して独断で高額取引に応じます。その大胆不敵さを買ったソーサは、裏で当局とつながっていたとしてオマールを亡き者にし、トニーに新たな取引を任せることに。

高級クラブのバビロン・クラブにジーナを連れてきていたトニーは、そこでフランクとつながっている悪徳刑事のバーンスタインに脅しをかけられ、苛立ちます。

ジーナをナンパしようとしていた客を叩きのめしたトニーでしたが、いつまでも自分を子ども扱いする兄に不満を感じるジーナを、マニーがなだめるのでした。

次第にトニーの存在を疎ましく思うようになっていたフランクは後日、バビロン・クラブにいた彼を暗殺しようと目論むも失敗。負傷しながらもトニーはマニーらと共にフランクのオフィスに乗り込み、その場にいたバーンスタインもろとも始末します。

フランクに代りマイアミの麻薬王となり、さらにエルヴィラを妻としたトニーは大邸宅に住むように。ジーナと親しくなっていたマニーに、トニーは妹との交際を禁じます。

当初は順調だったトニーでしたが、脱税を摘発されたことに焦り、マニーの意見にも耳を貸さず、コカイン摂取量も増やすように。何事も自分の独断で決めるようになっていったトニーに愛想をつかしたエルヴィラは出て行ってしまうのでした。

そんな中、麻薬ビジネスの実態を調査しているジャーナリストに手を焼いていたソーサが接触。脱税の揉み消しを手助けする代わりにジャーナリストの殺害を依頼します。

ソーサの派遣した暗殺者アルベルトと共に、ジャーナリストがいるニューヨークに向かったトニー。車に仕掛けた時限爆弾で殺害しようとするアルベルトでしたが、ジャーナリストの妻子を巻き添えにするのを嫌ったトニーは、爆弾スイッチを押そうとした彼の脳天を撃ち抜くのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『スカーフェイス』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

暗殺失敗に激怒したソーサがトニー抹殺を部下に命じた一方で、トニーはマニーと連絡を取ろうとするもつながらず。やむなくマイアミに戻りジーナの元を訪ねるも、家出して行方をくらましていると母に言われます。

母から「ジーナが不良になったのはお前のせいだ」と罵られたトニーは、取り急ぎマニーの家に。出迎えたマニーの背後にローブ姿のジーナを見て取ったトニーは、衝動的にマニーを射殺してしまいます。

前日にマニーと結婚してトニーを驚かせるつもりだったジーナは半狂乱に。トニーは無理やり彼女を自分の邸宅に連れ帰り、気分を落ち着かせるためにテーブルの上に盛った大量のコカインに顔を埋めます。

そこに我を失ったジーナが現われトニーを撃ち殺そうとするも、邸宅に押し寄せていたソーサの刺客にハチの巣にされます。敵討ちとばかりにトニーはグレネードランチャーを装着したM16マシンガンを携え、1人で刺客たちと対峙。全身に銃弾を浴びるも、コカインを吸って痛みを感じなくなったトニーは倒れません。

しかし、背後から忍び寄った黒サングラスの刺客にショットガンで撃たれ、階下の噴水に落下。トニーが好んだパン・アメリカン航空の宣伝コピー”The World is Yours”(世界はあなたのもの)を模した像が立つ噴水は、瞬く間に赤く染まるのでした――。

アメリカン・ドリームを求めたアウトローの栄華と転落

『スカーフェイス』(1983)冒頭のバイオレンスシーン

アル・パチーノ主演で『セルピコ』(1973)、『狼たちの午後』(1976)の2作を手がけたプロデューサーのマーティン・ブレグマンは、パチーノの中にある“脅威(メナス)”の側面を引き出す作品をもう1本作りたいと考えていました。

そんな折、深夜テレビで放映されていた『暗黒街の顔役』を観たブレグマンは、パチーノの新作にふさわしいとすぐにリメイク権を獲得。『ミッドナイト・エクスプレス』でアカデミー脚色賞を獲得して勢いづくオリヴァー・ストーンと脚本を練ります。

イタリアンギャングの抗争を描いたオリジナル版には思い入れがなかったと云うストーンは、主人公のトニー・カモンテをキューバ難民に変え、名前もストーンが大ファンだったアメリカンフットボール選手のジョー・モンタナにちなみ、トニー・モンタナと命名。

監督は『セルピコ』、『狼たちの午後』で組んだシドニー・ルメットにオファーするも、創造上の不一致により辞退。アメリカン・ドリームを実現しようと息巻き、栄華と転落を極めたアウトローのトニーをどうしても演じたかったパチーノは、友人のロバート・デ・ニーロからブライアン・デ・パルマを推薦されます。

本作が初のメジャースタジオ作品となったデ・パルマは、前監督作『ミッドナイトクロス』(1981)が興行的に振るわなかったこともあり、名誉挽回の意で撮影を敢行。お得意のロングショット撮影を多用し、主要アクションシーンのバビロン・クラブとクライマックスのモンタナ邸での銃撃戦では、複数のカメラを用いたワンテイク撮りに加えて、周囲を明るくカラフルにすることでバイオレンス描写を際立たせました

さまざまなカルチャーのアイコンに

『スカーフェイス』(1983)のクライマックスでの銃撃戦

一方、トニー役のパチーノはキューバ訛りの英語をマスターし、撮影の合間もキューバ訛りで会話するまでになり、前半でのチェーンソーでの拷問シーンではアドリブも披露。相棒マニーへの同性愛的感情と妹ジーナへの近親相姦的な執着という二面性を持つ、Fワードを連発する強烈なキャラクター像を構築しました。

拷問シーンを筆頭とするバイオレンス描写が問題となり、初号試写ではMPAA(アメリカ映画協会)からレイティング「X」指定を受けるも、4度の再編集を経てようやく「R」指定に。

「ホークス、パチーノ、そして私に対する先入観があったら全て忘れてくれ!この映画は説明不可能な肉体的かつ心理的なエネルギーを持ち合わせている」(「キネマ旬報」1984年4月下旬号)

劇場公開時のインタビューで力強く答えていたデ・パルマの思惑どおり、本作の持つエネルギーはさまざまなカルチャーに影響を与えることに。歌手のプリンスが「The Flow」で劇中のセリフを引用すれば、モトリー・クルーは「ドクター・フィールグッド」で本作をオマージュしたPVを制作。

とりわけヒップホップ業界のフォロワーは多く、スヌープ・ドッグが「毎月欠かさず観る作品」と語り、「スカーフェイス」名義のラッパーも登場。ほかにも韓国のBTSのメンバーSUGAがAgust Dのソロ名義で「トニー・モンタナ」という曲を発表するなど、挙げればキリがないほど。

テレビゲーム版も作られればTシャツなどのアパレル展開も続いており、続編・リメイク企画の噂も立っては消えるを繰り返すなど、公開から40年経った今もなお話題を振りまく本作『スカーフェイス』は、血塗られたアメリカン・ドリームを描いたマスターピースです。

次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219

関連記事

連載コラム

平成仮面ライダーを演じたイケメン俳優③『龍騎』『カブト』『剣ブレイド』その魅力を紹介|邦画特撮大全14

連載コラム「邦画特撮大全」第14章 前々回の第12章では仮面ライダーを演じたイケメン俳優の出自、次の第13章は彼らイケメン俳優の具体的な魅力にについて紹介してきました。 今回も仮面ライダーを演じたイケ …

連載コラム

トリフォー監督代表作『アデルの恋の物語』実話考察。愛は私の宗教と自縄自縛、悲劇の女性の物語|偏愛洋画劇場5

連載コラム「偏愛洋画劇場」第5幕 映画には愛によって身を滅ぼしていく人々がたくさん登場しますが、今回は「愛は私の宗教」とまで言い切ったヒロインが登場する作品をご紹介します。 『大人は判ってくれない』( …

連載コラム

映画『2067』ネタバレ感想解説と結末考察のあらすじ。おすすめSFアドベンチャーは妻を救うために未来へ旅する男を描く|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー40

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第40回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

韓国映画『三姉妹』あらすじと感想評価レビュー。トップモデルから俳優としての可能性を高めたチャン・ユンジュ|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録1

第16回大阪アジアン映画祭上映作品『三姉妹』 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で16回目。2021年3月05日(金)から3月14日(日)までの10日間にわたってアジア全域から寄りすぐった多 …

連載コラム

カメオ出演最多のスタン・リー死去。アメコミからアニメまでを愛し続けた作家の軌跡|最強アメコミ番付評14

こんにちは、野洲川亮です。 2018年11月12日、『スパイダーマン』、『X-メン』などの作品を手掛けたアメコミ原作者、スタン・リーさん(95歳)が逝去されました。(以下、敬称略) マーベル・コミック …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学