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映画『狼たちの午後』あらすじネタバレと感想。アル・パチーノの若き35歳の迫真の演技力

  • Writer :
  • もりのちこ

この物語は実際に起きた事件に基づいたものです。

第48回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネート、フランク・ピアソンが脚本賞を受賞した話題作『狼たちの午後』。

ニューヨークを舞台にした社会派作品を得意とする、巨匠シドニー・ルメット監督が、実際に起こった銀行強盗事件をもとに作り上げた映画です。

なぜ犯人は銀行強盗を起こしたのか?その目的とは。簡単に終わる計画だった事件は、マスコミにあおられ思わぬ展開へと進みます。多くの観客が見守る中、迎えた結末とは。

若かりしアル・パチーノの哀愁漂う演技にも注目です。映画『狼たちの午後』を紹介します。

映画『狼たちの午後』の作品情報

【日本公開】
1976年(アメリカ映画)

【原作】
P・F・クルージ、トーマス・ムーア『Dog Day Afternoon』

【監督】
シドニー・ルメット

【キャスト】
アル・パチーノ、ジョン・カザール、クリス・サランドン、ジェームズ・ブロデリック、チャールズ・ダーニング、ランス・ヘンリクセン、ペネロープ・アレン、サリー・ボイヤー、ボーラ・ギャリック、キャロル・ケイン、サンドラ・カザン、マルシア・ジーン・カーツ、エイミー・レビット、ジョン・マリオット、エステル・オーメンズ、ゲイリー・スプリンガー、カーマイン・フォレスタ、フロイド・レビン、ディック・アンソニー・ウィリアムズ、ドミニク・チアニーズ、ジュディス・マリナ、スーザン・ペレッツ、ウィリアム・ボガート、ロン・カミンズジェイ・ガーバー、フィリップ・チャールズ・マッケンジー、チュ・チュ・マラーブ、ライオネル・ピナ

【作品概要】
1972年8月の猛暑のニューヨークで発生した銀行強盗事件を題材に映画化された作品『狼たちの午後』。

監督はシドニー・ルメット。主演のアル・パチーノとは、映画『セルピコ』に次ぐタッグとなりました。アル・パチーノは、事件の犯人と容姿が似ていると言われるほど、はまり役となりました。

映画『狼たちの午後』は、1975年に公開され、全米で約5000万ドルの興行収入を挙げる大ヒットとなっています。

映画『狼たちの午後』のあらすじとネタバレ

1972年8月。猛暑のニューヨークで事件は起きました。ブルックリンのチェイス・マンハッタン銀行に3人の強盗が押し入りました。

銀行強盗の犯人の名前は、ソニーとサル、そしてロビー。計画は順調かのようでしたが、ソニーの「動くな。強盗だ」の声に、怖気づいたのは仲間のロビーでした。

ロビーは「やっぱり出来ないよ」と、銀行を出て行ってしまいます。どこか間抜けな雰囲気に銀行内もざわつきます。

気を取り直し、金庫を開けさせるソニー。「金を入れろ」と凄んでみせるが、金庫にはお金がほとんど残っていませんでした。

呆気にとられるソニーとサルでしたが、窓口の金を回収したり奮闘します。そのうち、燃やした書類から煙が立ち込め、市民が異変に気付きました。

慌てるソニーとサルを横目に、銀行の所長・マルバニーは「タバコの煙だよ。大丈夫」と静かに事を納めます。従業員の女性たちを、部屋に閉じ込めようとするも「トイレに行きたい」などと文句を言われる始末です。

そこに銀行の電話が鳴ります。電話は、警察からでした。周りは完全に包囲されていました。

「いつバレたの?」やけに弱気で間抜けな銀行強盗たちに、人質のご婦人から「計画もなしに銀行強盗したの?」とお説教が飛びます。

またしても電話がなります。今度は従業員の女性ジェニーの夫からです。「いつ帰れるの?だって」。

年配の守衛さんが、喘息の発作を起こします。守衛が喘息って銀行は大丈夫なのか。このままでは、人を殺してしまうかもしれない。緊張が走ります。

ソニーは、元銀行員でした。従業員の事情にも詳しく、銃を持ちながらも手荒な手段を取る人物ではありません。もはや彼の望みは、相棒のサルと無事に脱出することでした。

しかし、事件は予想もしない方向へ進んでいました。外には何百人という警察官に、大勢のマスコミ、そしてFBIまで出動しています。

さっそく警察との交渉が始まりました。警察のモレッティは、人質全員の無事を確認。まずは一人の開放を迫ります。

ソニーはそれを承諾。喘息の守衛を外に出すことにします。もう一人の婦人を連れて入り口の扉を開けるソニー。

出て来た守衛を犯人と勘違いした警察は、彼を取り押さえてしまいます。

「彼は人質よ」と誤解を解いてくれたのは、婦人でした。「普通は女性から解放するだろう」犯人の謎の行動に戸惑うモレッティ。

「完全に包囲されている。信じられないのなら、出てきて見るといい」モレッティの言葉に、表に出るソニー。

ソニーは、警官を相手に演説を始めます。群衆の前で官憲の横暴を批判する姿は、まるでヒーローのようです。パフォーマンスはエスカレート。「アッティカ!アッティカ!」刑務所で起こった暴動を再現してみせます。

TV中継を通してソニーは、たちまちヒーローのごとく祭り上げられていきます。

白熱する群衆。ソニーとサルは、ただ静かに逃げたいだけ。「うまく逃げるか、死ぬか。約束したよな。刑務所には戻りたくない」サルは不安に押しつぶされそうです。

ソニーは、飛行機での逃走を計画します。「みんな家族に連絡して。しばらく旅行に出るって」犯人と人質という立場はすでに崩壊していました。

要求を伝えるために、銀行から表に出るソニー。途端に野次馬たちから歓声が上がります。

ソニーの要求は「飛行機を用意しろ。食べ物を用意しろ。妻を呼べ」ということでした。

ソニーには妻と子供がいました。妻のアンジーは、TVに写る夫を見ても「銀行強盗なんて柄じゃない」と信じていないようです。

警察が妻をソニーの元に連れてきます。しかし、連れてきた相手はアンジーではなく、レオンという男でした。

以下、『狼たちの午後』ネタバレ・結末の記載がございます。『狼たちの午後』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

ソニーの妻として連れてこられたのは、レオンという男でした。ソニーは、レオンとも結婚していたのです。精神病棟にいたレオンは、ソニーに会うのを恐れています。

話をしたくないと言うレオンに、警察はソニーの説得を託します。

犯人はゲイだった。その事実はあっと言う間に世間の注目となりました。銀行の周りには「今こそゲイに人権を」と看板を掲げた男たちが集まっています。

いよいよFBIが乗り出しました。公証人がシェルドンに変わります。シェルドンは「サービスは終わりだ」と強硬手段に出ます。

ソニーに近づき「サルは危険だ。俺たちにまかせろ」とサルを危険人物扱いし、ソニーにサルを売るように迫ります。

銀行の中では電灯が切れ、冷房も壊れ、熱さもピークに達していました。人質の体力も限界にきています。

鳴り響く電話。レオンからの電話でした。「俺はもう死ぬ。お別れを言いに側に来てくれ。それか、一緒に飛行機で行こう」と誘うソニーに、レオンは「あなたは狂っている。あなたから逃げたのよ。もう別れたいの。警察が誤解しているから仲間じゃないって言って」と、愛情のない答えでした。

ソニーは、レオンの性転換手術費用の工面のため銀行強盗を犯していました。滑稽な理由もソニーにとっては真剣なものでした。

虚しさの中、ソニーはもうひとりの妻アンジーに電話をします。アンジーは、ソニーの話も聞かずしゃべり続けます。一方的にまくしたてるアンジーに怒鳴るソニー。

銀行の外には、ソニーの母親も駆け付けます。なぜかオシャレをしてきた母親の元へ、帰るように説得に出ます。「お母さんのせいなのね。もう逃げましょう」と、アンジー同様、一方的にしゃべり続ける母親。

どうして女性はこうなのだろう。ソニーの心の声が聞こえてきそうです。

それでも、それぞれに遺書を残すソニー。「愛するレオンへ。保険金の一部で性転換手術を受けてくれ。そして妻と子供たち。母さん、理解してもらえなかったけど愛してる」。

空港までのバスが到着します。人質を盾にバスに乗り込みます。

運転手はサルに話しかけます。「車が揺れると危ないから、銃は上に向けて置いてね」。言われた通りにするサル。サルは飛行機に乗るのも初めてです。

空港までの道すがら、興奮した市民が押し寄せます。一人づつ人質を解放していくソニー。

バスは空港に到着します。旅客機が待機しています。バスの中では、段取りが組まれていました。隠し拳銃を発砲する運転手。弾はサルの額を撃ち抜きます。

ソニーは捕らえられます。脇をサルの死体が運ばれていきます。人質は皆、事件から14時間後、無事に解放されました。

項垂れるソニー。何でこうなってしまったのか。どこから間違えたのか。初めから間違っていたとも気付かずに、ソニーは刑務所へと送られます。

映画『狼たちの午後』の感想と評価

1975年公開の名作『狼たちの午後』は、公開されると約5000万ドルの興行収入を挙げるほどのヒット作となりました。

アカデミー賞にも作品賞ほか6部門にノミネートされ、アル・パチーノの迫真の演技は広く賞賛されました。英国のアカデミー賞では主演男優賞を受賞しています。

また、映画の中でアル・パチーノのが群衆を前に叫ぶ「アッティカ!」は、アメリカ映画協会によって名台詞ベスト100の中に選出されています。

どこか間抜けな銀行強盗ソニーを演じたアル・パチーノ。情けないながらも、心の優しさが垣間見える犯人をリアルに演じています。

群衆を前に演説をするシーンは、圧巻です。見るものを惹き込み、なぜか応援したくなる男の哀愁が滲み出ています。アル・パチーノ、35歳の演技にも注目です。

犯人のソニーは、母親や妻の自分勝手な女性たちの犠牲者でもあります。同性との愛で、心の平穏を求めるも、愛されたがりな性格は強くなるばかり。

彼の優しさは空回りし、犯罪へと向かいます。

その後、ソニーは20年の刑で服役。銀行強盗は失敗したが、映画の収益の一部を供与され、そのお金でレオンは、性転換手術を受けたということです。

そして、レオンの続きの人生は、のちにHIVに感染、命を落としています。

まとめ

1975年公開の、アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネート、主演のアル・パチーノが英国のアカデミー賞で主演男優賞を受賞した名作『狼たちの午後』を紹介しました。

この物語は実際に起きた銀行強盗事件に基づき制作された映画です。

なぜこの事件が起こったのか。犯人の人柄や、事件の背景を知れば知るほど、起こらなくてもよかった犯罪に胸が痛みます。

望まずして時の人になってしまった男の不運な物語『狼たちの午後』。アル・パチーノ主演の名作をぜひお楽しみ下さい。

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